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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第8話 亜人討伐戦の頃

 あのリチャード国王との邂逅で終わっていれば最高の物語になったと思うのだが、現実はそう甘くなかった。


 いくらオレが先代国王に召喚された勇者パーティの一人だったとしても、魔王を討伐し終えた今の身分はただの盗賊で、魔王城から戻り各地で味方の騎士たちを率いて最後まで戦ったのはマスクで顔の傷を隠した勇者と言う事になっていた。


 兄のリチャード国王から細かい話を聞かされていなかったのか、それとも(オレが望んだ訳ではないが)自分の愛娘を将来オレに捧げる契約を嫌ったのか、新しく即位したウィリアム国王がその後もオレを重用する事は無かった。


 やる気だけはムダにフル充電されているのに、その力を使用する機会すら与えられないままオレのバッテリーは自然放電を繰り返すのみ。このままだと発火しても知らないけど良いのか? と、オレの右手に宿る隠された力がそう語りかけてくる。


 他人より強力な力だけがあっても、文化の違いからなのか他人とのコミュニケーションが上手く行かない。


(誤解するなよ。これはオレがコミュ障なのではなくて、こっちの異世界へ来るまでロクに他人と接して来なかった経験不足によるもので、オレが話下手とか空気が読めないとか決してそんなんじゃ無いからな)


 そんなオレについたあだ名は”王家に取り入った盗賊”、略して”王ドロボー”だってさ。別に気にしないけど本当にセンス無いよな。


 やがて魔王軍との戦いが終わり、それまで魔族領で手を出せなかった土地が手に入ると聞いた地方貴族どもが、すぐさま自領に居る私兵どもを召集し挙って進軍して行った。

 最初のうちは人族の王国と魔族領の近くに国を構えてた亜人たちと協議する場が設けられていたのだが、それが魔族領の奥地へと進むにつれて本国からのコントロールが十分に機能しなくなっていく。


 それはカメリア帝国やシナジア教国などの超大国になるほど顕著で、隣国のリョハン大王国や普段は保守的で比較的大人しいとされる南のランシール王国までが魔族領での領土争いに熱中し始めた。


 そうなるとここヒュベリオン王国の中でも黙って指を咥えて見てるだけではダメだと言う意見が増え始めて、ウィリアム国王が議会で貴族どもの意見を聞き入れ辺境伯や騎士団に魔族領への侵攻を認めた。


 この頃からヒュベリオン王国にあった騎士団を分割して、それぞれが別の騎士団として大きくなって行くのだが、これまで通り王城内にある騎士団の敷地だけでは到底収まりきらない規模となり、急遽王国の東西南北にあった砦を改修してそれぞれの防衛拠点とした。


 魔族領はヒュベリオン王国から見て北東から東側に広がってる樹海の先にあるのだが、この樹海の対岸側にあるカメリア帝国が既に魔族領へ騎士団を派遣しているのを口実に、東方騎士団が先陣を切って樹海を越え、そのまま魔族領へと進軍を開始した。


 国の北側を守る北方騎士団を魔族領へ向けてしまうと、北の大国であるローダン帝国からの侵攻を阻むための戦力が減少してしまう。

 今はまだ他国の目が魔族領内へと向けられているので大きな問題が起きてはいないが、その先の展開を警戒するウィリアム王が北方騎士団の派遣をなかなか承諾しなかったので、自分の私兵のみを率いてでも所領を増やそうと影で画策する貴族どもが居た。


 国の南側にあるランシール王国については、もう亡くなってしまったが先代国王の王妃がこの国から嫁いで来た時に結ばれた同盟関係は今もそのまま残っており、この国から急に攻められる事はないだろう。 


 最後に西側だが、ここにはリョウハン大王国とそれを三方から囲むようにシナジア教国があり、西の砦を拠点にした騎士団はこれらの国々との国境問題に忙殺されるようになっていた。


 そして僅かに生き残った魔族軍の残党たちが何処かへ身を潜めてしまうと、人族の騎士団は戦う相手を失ってしまいその存在意義を探し始めた。


 最初はちょっとした意見のすれ違いだったのだろう。


 でもそれが元で人族の騎士団はこれまで共に魔族と戦ってくれたエルフやドワーフなどの種族と対立し始めるが、その状況を待っていたかのように『人族こそが女神に祝福された唯一の存在』だと説く者たちが各地に現れる。


 最初はそんな冗談みたいな経典が人々に受け入れられるなど考えてもいなかった王たちの思惑を余所に、魔族領でも人族と亜人族が争う場所には何故か必ずこの手の教えを広めようとする宣教師たちが出没していた。


 彼らは決して強力な癒やしの力を持っていなかったが、それでも小さなケガを治して貰った兵士たちからは信仰を捧げるようになり、彼らの組織が『世界唯一教』だと声明で明らかになるまではその正体を隠して行動をしていた。

 『世界唯一教』とはシナジア教国の国教で、彼らはこの混乱期に乗じて他国に居る自分たちと繋がりを持つ組織に次々と渡りを付けていった。


 そう言えばこの頃からじゃなかったか? ”亜人”なんてそれまで全く使われていなかった言葉が普通に使われ始めたのは。


 それまではちゃんとエルフはエルフ、ドワーフはドワーフ、それに獣人族はそれぞれ虎人族とか兎人族とかちゃんとその部族ごとに名前がついていたと思うのだが、いつからかみんなまとめて”亜人族”なんて呼ぶのが一般的になっていった。


 そんな”亜人族”と言う言葉が今では蔑称みたいな意味を含むようになったのは、彼らの国が人族に蹂躙されて自治権を失い、占領した国から奴隷扱いされても何も言えなくなっていたから。

 これは宗主国の人族が法を無視して”奴隷狩り”を行っても、現地でそれを取り締まる組織が事実上存在しない状況だった。


 もちろんそんな事をすればこの先何年か何十年後かは判らないが、いつか奴隷にされた者たちが手を取り合って宗主国に牙を向けるのは元世界の歴史で学んだ記憶があった。


 それはオレが先代のリチャード王から後を託されたと思ってるヒュベリオン王国においても、他国に遅れを取るまいと先を争って樹海の先へ進軍して行った貴族どもが同様の行いをしていたし、これには議会の直轄組織である四つに別れた各騎士団の中でもこれに同調したいと考える者が出始めており、事前に何の根回しもせず人道的理由のみでこの動きを阻止する事は出来ない状況だった。


 確かに現在の世界状況を鑑みれば、今は確かに列強時代と呼んでも良いくらい世界中で戦争が勃発しており、自国の領土を守っているだけではいずれ周囲の国を併呑してより大きくなった大国に蹂躙される未来が誰の目にも見えていた。


 自分が死んで大切な家族や友人それに知人が殺されたり尊厳が踏みにじられるのを良しとするか、それとも自らも進んで”悪”となり他国を蹂躙するか、この究極の二つの未来しか選べなかったなら、ほぼ全ての者は後者を選ぶだろう。


 いつからか街で亜人の奴隷の姿を多く見かけるようになってきた。


 元から人族の奴隷が全く居なかった訳では無いが、亜人奴隷の数が多すぎて紛れてしまっていたのだろう。

 それに亜人族にはエルフなどのように人族奴隷には無い価値があったので、一部では率先して彼らを狩る事を奨励している国もある。


 こうして人族の国々が亜人狩りで我欲を満たしている間に、着々と他国に根を下ろして行くシナジア教国のやり方は、覇権国を目指す各国の王たちに気付かれないまま拡大を続けていく。


 そして更に『人族でなければ人じゃない』なんて言う下衆びた言葉が、魔族領での亜人討伐に消極的だったヒュベリオン王国の街中でも囁かれるようになると、今度は亜人族をほぼ制圧し終えた人族の国同士が争う本格的な世界戦争の時代が幕を開けるのだった。

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