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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第37話 潜入!軍閥貴族屋敷

 軍閥貴族であるボヤージュ家の屋敷は、以前にオレが潜入したゲビリッシュ子爵より高位の貴族だった事もあり、予想していた通りかなり厳重な警備網が敷かれていた。


 これだけ警備が厳重と言う事は、かなり後ろ暗い事に手を出してる証左だとも言えるが、今回の貴族は侯爵と言われるだけあって門番を始めそれなりの手練を配置しているのは評価される点だと言える。


 辺りが暗くなってから、これまで昼番だった者たちと入れ替わりの夜番の者たちが各持ち場へと到着する。勤務交代の時間も外部からの侵入者から見れば大きなスキになるので、まだ明るいこの時間に交代してから朝までが次の当番時間となるのが一般的だ。


 ま、どれだけ厳重な警備でもオレには関係ないけどな。


 この異世界にも盗賊を生業にしてる者はそれなりに居るが、彼らの持つ”恩恵”と比べればオレたち異世界からやって来た者たちが持つ”祝福”が破格の性能を有しているのが判る。


 その証拠にいくら厳重な警備がなされていたとしても、オレが持つ気配遮断や消音などの隠密系スキルさえ発動してしまえば余程のアクシデントでも発生しない限りこちらが見つかる事は無いし、昔の仲間たちから受け継いだ能力も併せると存在そのものを隠す事も可能だ。


 それと今回はこの屋敷の当主を暗殺するのではなく、ここにある極秘資料を盗み出すのが目的なので前回よりイージーな任務だと言える。

 それでも気を抜いて失敗してしまっては目も当てられないので、ここは慎重に見回りの者たちの裏をかきながら進んで行く。


 そして誰にも見つかる事なく敷地内を横切ってから、建物の1階にある窓から忍び込んで地下室へのルートを探す。


 この貴族屋敷には緊急時の脱出経路が隠されていて、それが当主の寝室と執務室から数件離れた別の建物へと繋がっているのは事前調査で判っている。

 オレとしてはそこから侵入しても良かったのだが、途中にあるいくつかの扉が物理的に建物1階側からしか解錠出来ない仕組みになっていたので、それを外部から解錠してしまっては感知される可能性があり、今回は屋敷内部から直接侵入する事に決めていた。


 長い廊下には左右から魔力をレーザー状に放出しそれを横切る事で侵入者を検知するものや、床に落とし穴を開く為の踏み込み式のボタンが設置してあるが、優れた盗賊であれば罠検知スキルによってそれらの位置を探る事が出来る。


 魔王討伐前の頃であれば、オレはこれらの感知センサーや仕掛けを掻い潜りながら目的の場所へと行かなければならなかったのだが、賢者の魔法を受け継いだ今のオレなら天井ギリギリを浮遊して進むだけでこれらの罠をいとも簡単に回避する事が出来るようになっていた。


 これはこの屋敷に限った事では無いが、大抵の罠は地面の上を歩くか飛び越えて来る者を想定して設計されているので、こちらの異世界で一般的ではない浮遊魔術やレーザー感知をミラー式結界で反射し無効化するなど、これらの罠に対して造詣が深ければ対処方法などいくらでも考え出せる。


 そして魔法鍵による封印魔法が施された扉を発見してその前に立ち、ここから前方約2メートル先へと転移魔法によって侵入を試みる。

 普通なら一度訪れた場所で無ければ転移魔術は使用出来ないとされているが、今のオレなら極めて短距離であれば自分の座標を元に方向と距離を指定して移動する事も可能だ。


 転移する前から気配を遮断してあるので、侵入した瞬間に感知される事はないはず。


 こうして侵入さえしてしまえば、後は検索魔法によって必要な書類や証拠を手に入れてから訓練場へ戻るだけの簡単なお仕事だ。


 検索ワードは「西方騎士団・第8小隊・リョハン大王国・国境紛争」くらいでいいだろう。


 検索魔法を発動させると書棚に収められたフォルダーと書類の中から青い光に包まれた書類がオレの手元までゆっくりと浮かんで来る。


 それらの書類を見てみると、アイシャが所属していた第8小隊を敵補給部隊の奇襲に当てると書かれた命令書と、リョハン大王国宛てに味方であるはずの小隊を迎撃する依頼内容が書かれていて、それらに必要な経費などに関する記録もあった。


 やはりこの軍閥貴族は自分の息子がアイシャにこっ酷く振られた事をまだ根に持って、あれからずっと彼女の生命を狙っていたんだろうな。

 それで彼女が捕虜となった場合は戦争奴隷として手に入れる交渉まで済ませているとは、手際の良い事だ。

 それでもアイシャが片手を失ったとは言え無事生還してしまったので、今度は彼女の実家である騎士爵家に圧力を掛けて彼女を妾として囲い込む計画に変更したのは、両手を無くしたアイシャなら力ずくでどうにでも出来ると考えていたんだろう。


 そんな時、腹心の一人として使っていた子飼いの子爵が突然服毒死して、そいつが保管しているはずの証拠の品々を処分する事が優先事項になり、そこでアイシャへの嫌がらせを中断せざるをえなかったと言うのが実情みたいだ。


 貴族とは、これほどまでメンツに拘って生きなければならないのだろうか? それとも子息の片思いが拗れてしまい、何が何でもアイシャを手に入れようと考えていたのだとしたら、彼女の上司としてこの貴族の魔の手からアイシャを守ってやらなければならない。


 それと今回の主目的ではないが、エミリアが例の子爵の捜査に関わっていたせいで暗殺ギルドに襲撃依頼を出されていた件だが、その依頼を出した男というのがこの貴族の寄り子の子爵家の騎士だった事も判っている。


 それならエミリアに関する資料もあるのではないかと考え、再び検索魔法を発動させようと思い立ち、検索ワードを「エミリア・拉致・殺害」あと念の為、エミリアのファミリーネームである「ガートランド伯爵家」を追加してみる。


 するとエミリアの拉致に関する命令書は確かにあった。


 但し、寄り子貴族への命令では西方騎士団から魔術師団に応援依頼を出してエミリアをリョハン大王国との国境紛争へ出撃させて、現地で行方不明にすると言ったマンネリな内容だったが、実際に王都に居る彼女を襲撃したのが暗殺ギルドから依頼された三流暗殺者たちだったのは何か別の理由があったと考えるべきか?


 もしかして、アイシャの時とは状況が異なっているのかも知れないから、後日その辺りの情報も調べておきたい。


 あと余り当てにはしていなかったが、ガートランド夫妻についての情報が記されている記録も見つける事が出来た。


 その書類には魔王大戦末期に魔王軍残党との戦いに終わりが見えて来た頃、既に次の時代を見据えて王国内の貴族どもが次の覇権争いを秘密裏に進めていたようで、その時にこの軍閥貴族の門下に加わらなかったガートランド伯爵家を邪魔だと考えたようだ。


 既に出撃命令が出されていた多くの魔術師たちを守るため、その当時に団長を務めていたエミリアの両親を戦場まで引っ張り出し、彼らの魔力が枯渇するほどの連戦を強いて戦死させた事が判った。


 そして、この戦いには当時のオレもマスク勇者として参加していたのだが、王国と国境を接する諸外国と多くのイザコザを抱えていた時期で、到底オレ一人だけで全ての戦場を支える事が出来なくなっていた頃の記憶を思い返すと、今でも少し胃が痛くなる。


 そう言えばこの時も国力で勝っているはずのリョハン大王国との戦いでは、味方である王国軍が優勢だと聞いていたから実際に現地に到着して、多くの魔術師を含む味方の騎士たちがほぼ全滅しかかっていたので驚いた事があった。


 今思えばあの無数に力尽きた味方たちの中には、当時まだ子供だったエミリアがずっと帰りを待っていた彼女の両親の姿もあったのだろう。

 もしオレがあの時に騎士団からの情報を鵜呑みにせず、もっと早くあの場所へ駆けつけていれば彼女の両親を含む、その他多くの味方を助ける事が出来たかも知れないが……既に過去の事だ。


 そう言えば以前にファミレスで朝食を食べていた時に、エミリアがマスク勇者に興味があって色々調べていたと聞いたのだが、もしかしたらその正体を調べて復讐したいとでも考えているのだろうか?


 もしオレが勇者パーティの仲間たちを見殺しにした者が居たと後で知ったらそいつを許す事が出来るだろうか?

 もしオレが救えたはずの仲間たちの生命を、みすみす見殺しにしなければいけない状況へ追い込んだヤツが居たと後で知ったらオレはそいつを許す事が出来るだろうか?


 これだけは判る。


 オレはそいつを絶対に許しはしないし、オレの手で切り刻んでやらなければ気がすまないはずだ。そして絶対に簡単には殺してやらない。

 そいつの手足を切り刻みながら治癒魔法を掛けて殺さないように注意し、痛みと苦しみが永遠に続く方法を考え出す自信さえある。

 そしてもっと言えば、そいつの家族、両親、友人、恋人に至るまで、その全ての関係者をそいつの目の前でこの異世界から消してやろうと考えるかも知れないくらいには、オレの心はもう壊れてしまっている。


 もしエミリアがこの事実を知れば確実に軍閥貴族へ憎しみを向けるに違いないが、それは無限に続く怨嗟の連鎖へ彼女を進ませてしまう事に他ならない。


 そして当時の戦況を一変させるほどの力を持っていたあのマスク勇者の正体がオレだと知られた時、彼女の心の中にある憎悪の感情がオレに向けられる事も覚悟しておかなければならないだろう。

 もしかしたらもう全てが手遅れで、エミリアの心の中ではマスク姿の勇者が既に復讐を果たすべき相手だと考えているとしたら、オレはこれから彼女とどう接していけば良いのか判らなくなる。


 もしエミリアがオレの生命を差し出せと望めばどうすれば良いだろう? オレはまだリチャード王との約束が残っているし、カティア王女を破滅の未来から救うと誓っているので今はまだ死ぬ訳にはいかない。

 それでも未来が視えるはずのカティア王女が、わざわざオレのところへエミリアを連れて来たのは、きっと何か理由があるはずだ。


 オレは当初の潜入目的である軍閥貴族の悪事の証拠を手に入れた事よりも、ここで偶然に知ってしまったエミリアの過去に対して、背中に冷たい汗が流れるのを感じずには居られなかった。


 だが知ってしまった以上、このままずっと隠し通す事は出来ないが、それでもオレは自分が当時のマスク勇者だった過去を今は明かす事は出来ない。


 とりあえずこれらの書類をカティア王女に持ち帰るため調査を切り上げて帰路についた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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