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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第35話 異世界ファミレスにて

「いらっしゃいませ! 3名様でしょうか? では、お席はこちらになります」


 このチェーン店方式のカフェは勇者と賢者とオレの3人が、聖女の誕生日を祝うために王都で立ち上げたカフェ&レストランで、価格はやや高めになってしまうが現代世界のメニューと味、そして雰囲気を再現する為にかなり力を入れて作った自信作のお店だった。


 そして聖女に喜んで貰えた後で魔王城へと旅立つ予定があったので、その後の経営を当時の大公妃であるカティア王女たちのお母さんに任せる事になったのだが、彼女は名うてのヤリ手ババァだったみたいで今では王国内に複数の店舗を展開しており、このまま行けば異世界初のフランチャイズ企業へ成長すると見込んでいる。


「あら、そこに居るのはハルトくんじゃない? こんな朝っぱらからカフェに来るなんて珍しいわね。ちゃんとご飯は食べてる?」


 オレは部下たちに先にメニューを選んでおくように言ってから、ちょっと所用を足しに行こうと席を立ったのだが、そこで予想もしていなかった人物と出会った。いや出会ってしまったと言うべきか。


「お、王妃殿下。どうしてここに?」


「どうしてって、ここは今では私のお店だから居てもおかしくないでしょ。それとここではオーナーって呼んでちょうだい。それとも義母上でも宜しくてよ?」


「で、ではオーナー。オレはちゃんと毎日ご飯を食べて訓練を頑張ってます。それでは! ぐふっ」


 足早に走り去ろうとしたオレの裏襟をむんずと掴んで引き止められた。


(おい、ウソだろ?! このオレを腕力だけで止めた、だと?!)


「それでカティとは上手く行ってるのですか? 最近ウチに遊びに来なくなったから義母は心配なのですよ」


「まだ義母じゃないですから!」


 カティア王女のお母さんであるこの人はマリアテレーゼ王妃殿下であり、オレが先代国王と契約を交わす時に夫である現国王の反対を封殺して後押しした人だ。

 ただ、その契約約款にはオレが王族の女性と結婚して、異世界人の血をこの王国に遺すと書かれた一文があったのだが、オレと年齢が近い女性が誰も居なかったので安心していた。


 だが、まだ当時10歳だったカティア王女をオレの嫁候補として勝手に決めてしまい、それが元で今も現国王から見たオレへの印象が最悪なモノとなってしまったのは、主にこの人に原因がある。


 さすがに父親として、娘と15歳も歳の離れたオッサンに大切な愛娘を嫁がせようとか思わないよな。オレもそう思う。


 夫が反対したので今度はマリアテレーゼ王妃が夫と離婚してオレと婚約するなんて言い出したから、オレとウィリアム王が二人がかりでそれを押し留める事となった経緯がある。


(今思い返せば、あれがオレとウィリアム国王の最初で最後の邂逅だった)


 マリアテレーゼ王妃は彼女の祖母がエルフ王国から嫁いで来たので、姿形こそ完全な人族だがクォーターエルフでもある。


 なので既に3人の母親にも関わらずその容姿はまだ20代後半くらいにしか見えず、今では完全にオレより年下に見えるし、エルフの血が混じってるにしてはその、何と言うか、出るところが出っ張ってて、引っ込む所は引っ込んでる感じだ。

 まぁ、敢えて表現するなら、エルフ似の美貌とボン、キュッ、ボンのダイナマイトボディを持った20代後半のエロエロ美人だと言えば判って貰えるだろうか?


 そんな男の夢が具現化したような美人を、平然と自分の奥さんに出来るような同性と仲良く出来るほどオレは人間が出来てはいないし、ウィリアム王も例え冗談だったとしても自分の愛する妻が、自分と別れてオレと結婚するなんて言ったのが元で、今もオレと現国王の仲は最悪なモノになってしまったと考えている。


 話が逸れたが、今はオレの膀胱がエネルギー充填率80%を越えて危険水域に達しようとしていたので、ここで何とか話を切り上げようと考えていたら増援部隊が到着してくれた。


「隊長、どうかされたのですかって……もしかしてお知り合いの方ですか? それとも彼女さんとか?!」


「アイシャ、余り大きな声を出すんじゃない。それとこの方、いや、この人はオレが昔からお世話になってる貴族家の方だ」

「りょ、了解しました」


「あら可愛い娘さんね、もしかしてハルトのコレから?」

「コレって何ですか……彼女は自分の部下です!」 


「あら、そうなの。つまんないわね」


「それよりアイシャ、どうしてここに?」

「いえ、あの、その、私も、ちょっと……」


「ハルトは今もニブいのね、彼女はレディースルームへ行きたいのよ。気づいておあげなさい」

「れでぃーするーむ?」


「そそ、貴方たちの世界ではウォータークローゼットとも呼ばれてるわね。WCよWC」


「す、す、す、すまんアイシャ。この人の事は良いから先に行ってくれ」

「はぃ……」


 オレはまた取り返しのつかないミスをしてしまったのか。


 オレは過去に勇者パーティに居た時も、森で聖女がモゾモゾしていたので身体の具合でも悪いのかと思い、ずっと見守っていた事があった。

 聖女のやつもそうならそうと言ってくれれば良かったのに、そうと知らなかったオレは最後に顔を真っ赤にした聖女様から鉄拳制裁を頂くハメとなった過去があった。


「ハルトほら見て、あの子の耳。真っ赤にしちゃって可愛いわね」

「マリアさん、そうやってオレをからかうの止めて頂けませんか?」


「あら、ハルトくん。もしかして、あの娘にご執心なワケ?」

「そんなワケ無いじゃないですか。彼女はオレの大切な部下です」


「ふ~ん、そうなんだ。ならそ~言うコトにしといてあげるわ」


 実を言うと、オレはこの人が苦手だ。何と言うか、外見だけ見れば超絶美女の一人だと思うのだが、その言動がオープン過ぎて現代世界から来たオレの常識と合わなさ過ぎるから。

 そのうえ相手の言う事を聞いているのかいないのか、会話は一方通行となる事もしばしばで、そのDNAは彼女の娘たち、取り分け次女カティアと三女のエスティナに色濃く受け継がれている。


「オーナー、こちらをお願いします」


 オレが困っていると厨房の奥からコックの人がオーナーを呼ぶ声がして助かった気がした。


(なんか、あの人を見てると先代国王のリチャードと雰囲気が被ってくるんだよな)


 魔族に対峙して一歩も引かなかったオレだが、この王妃様を相手に会話をしていると、どこで切り上げたら良いのか判らず防戦一方みたいな感じとなる事が多い。


 オレはエネルギー充填率が更にアップしてきたので、そちらの所用をササっと済ませてから、部下たちが待つ座席へと戻った。


「隊長、先ほどの女性の方は……」

「すごい美人でしたねぇ」


 オレは王妃様の正体を伏せたまま、あの人がこの店のオーナーで古くからの知り合いだと説明しておいた。

 ま、知り合いなのは事実だし、今から10年以上も前からと言うのも本当だからな。


「隊長は何を注文されますか?」

「私たちはもう先に頼んだから、後はハルトさんだけだよ」


「ならモーニングセットをレティで頼む」


「隊長、その”レティ”って何ですか?」


 オレがこの店でなら受け付けて貰える注文に決めて店員さんの姿を探すが、まだパントリーに居るみたいで近くには見当たらなかった。


「隊長、私が注文してきます!」


 オレが手で制するより早くアイシャが席を立ってしまい、店員さんを探して店の奥まで行ってしまった。

 この子は本当に動きが早くて正確だ。

 これなら凄腕の盗賊になれるかも知れないと思った。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そう言えばエミリアとは以前にこの店へ一緒に来た事があったが、アイシャと来るのは初めてだった。


 アイシャもオレと同じで、住む場所は違っても同じ様な公営宿舎に寝泊まりしている。


 アイシャはいつもオレと一緒に朝から晩まで訓練ばかりしているが私生活、それも食事とかはどうしているのだろう。毎晩遅くになってから帰宅する途中で買い物なんか出来るような所はあったかな?


 オレは男だから飯なんて適当にその辺の居酒屋で済ませてはいるが、まだ若いアイシャとかエミリアには栄養バランスが取れたちゃんとした食事が必要だ。

 だから、せめて居酒屋ではなく、ここみたいなレストランが開いてる時間に帰るように言っておかないと、エミリアはともかくアイシャは最後まで訓練に付き合うと言い出しかねない。


 アイシャは朝からガッツリ系で、エミリアは野菜を中心とした軽食メニューを先に頼んでいたのに、後から注文したオレのモーニングセットの方が早く運ばれて来たのは、予め準備してあるものを温めて提供しているからだろう。


 それから少し遅れて運ばれて来た朝食を二人が食べてるのを見ていると、エミリアから女性が食事してる姿をジト見すのはNGだと言われたので、これからは気をつけようと思った。


 二人がほぼ食べ終わる頃になると会話が始まり、この部隊へ来る事になった経緯とか、これまでの事、それとこれからどのようにして過ごして行くかなど、だんだん仕事の話の比率が多くなる。

 そんな中、二人が勇者の事を話すようになり、最初はこの異世界で一般的に売られている本のお話だったのだが、それから魔王討伐後にたった一人だけ生き残った勇者の話になっていく。


 オレ的にこの話は少しマズイと思ったのだが、ここで二人の会話に割って入るのも不自然だと感じ、そのまま冷めかけた紅茶に口を付けながら勇者の話に耳を傾ける。


 アイシャも勇者の話には子供の頃から強い憧れを抱いていて、その中でも聖騎士がたった一人で魔王軍四天王を迎え撃ち、仲間たちを守って力尽きてしまうのを悔しがっていた。

 もし聖騎士が生きていたら同じ騎士であるアイシャの良き先輩になったかも知れないが、あいつに彼女を預けるのは危険だからダメだ。


 聖騎士はとても仲間思いの兄貴分的な性格をしており、イケメンで頼もしいヤツではあるのだが下半身に大きな問題を抱えている。

 ただ、何も彼だけが問題児だと言いたいのではなくオレを含む、彼以外の男性メンバーも皆が若かったので女性に対する興味はそれぞれあったのだが聖騎士だけは事情が違った。


 真面目で女性に対して誠実であろうとする勇者と、女性に興味津津だが面と向かって話をするのが苦手な賢者とオレ。

 オレよりムッツリ度を拗らせていた賢者はともかく、リアルイケメンであっちの方も凄かった聖騎士は話のレベルが違うのだ。


 仲間内ではそんな彼の事を”性騎士”と呼んでいたが、本来なら蔑称と考えられるその呼び名に何故かプライドを持っていた聖騎士が、魔王城へと向かう途中にある街や村にそれぞれ嫁が居たので、今後もしそれらの場所に長身イケメンで聖騎士の”恩恵”を持つ10代の若者が居たとしたら、高確率で彼の子供に違いないと考えらるくらいには信用している。


 そんな性騎士にオレの大切な部下を任せるなんて出来る訳ないだろう? あいつの下半身は当時の魔王以上に危険な存在で、目を合わせただけで妊娠させるとまで言われていたくらいなんだぞ?


 そしてエミリアの話だが、彼女の話を聞いてる限り勇者に対してアイシャほどの思い入れは無いみたい……と言うより、勇者に対して常に一歩引いて客観的に評価している感じだろうか。

 アイシャが思う勇者とは違ってエミリアの考える勇者とは、大きな力を女神から託された普通の苦労人と言った解釈が近い。

 それは、いくら強大な戦力であってもその力を行使しているのは一人の人族で、たった一人で頑張っていたのは彼女も知ってるが、もし王国の人々とちゃんと手を取り合い、もっと効率よく戦っていれば被害を減らせたのではないかと考えているようだ。


 それは全く持ってその通りで、当時のオレがそんな事を面と向かって言われたら相手をKILLする自信があるが、今のオレならエミリアの言う事も正しいと理解は出来る。

 だが、そうであっても当時も今も貴族どもの中にはどうしようも無い輩が多く居る事実は変わりなく、意見の一つとして聞くくらいはするが、それでもオレはやっぱり一人で戦う道を選んだと思う。


 いくら正しい事を主張したとしても、多数で協議した場合には必ずしもその意見が取り入れられるとは限らないし、大抵の場合は多数派の利益を重視した方針が取られるのをこれまで何度も見てきたからな。


 だからエミリアが思い描く”本来ならこうすべき”と考える勇者など存在しないと考えているが、それを彼女と議論するつもりは無い。

 正義とは人それぞれの心の中にあるもので、それをお互いが言い合ってどちらが正しいかなんて決める類の話では無いと考えているからだ。


 なのでオレとエミリアの立ち位置は永久に平行線を辿ると思う。


 だが、それでもエミリアがオレの部下で居る以上は彼女の思いを尊重し、その悩みを一緒に考えたり、その重責を一緒に背負ってやりたいと思うのは、オレがまだ35歳の甘ちゃんだからなのだろう。


 オレはまだ当時のマスク勇者だった過去を明かせないまま、彼女たちの上司を続ける事になる。

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