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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第33話 二人目の部下

 あれから傭兵ギルドを後にして、アイシャが御す馬車に揺られて訓練場へと戻る途中なう。古いなこの表現……。


 この馬車にはオレとエミリアの二人しか居ないのだが、先ほどから彼女の視線が痛い。


 本来ならオレは今夜エミリアを拉致される運命から救った功労者のはずなのだが、少し前に傭兵ギルドでの一幕でアホのキースが色々と余計な事を口走ったおかげで、オレがこれまで築いてきた社会的信用そんなのはないに修復不可能なヒビが入ってしまったようだ。


「ハルトさんってやっぱりアレだったんですかぁ?」


「アレって何だよ、アレって。オレは今も昔も健全な盗賊だろ?」


「ハルトさん、ご自分の返答が疑問形になってますけど気づいてます? 普通の盗賊は暗殺者を返り討ちにはしませんし、真っ向から傭兵ギルドにケンカなんて吹っかけたりはしません」


「あの不審者どもを倒したのはアイシャだし、キースのヤツは昔色々と教えてやった仲なんだよ」


「そこですよ、そこ。立派な暗殺者を頑なに不審者呼ばわりして、まるで自分は普通の盗賊なんですって態度がおかしいと気づきませんか? それにアイシャさんの手柄だと言っても彼女はハルトさんの部下ですよね? あと罠に掛かった者たちですが、あれは一方的に狩ったと言うんです! ご自分の手すら使わずにです!」


 オレは普通の盗賊なのに、異世界のやつらがそれを認めてくれないのは、もしかして、これが現代世界との文化の違いと言うやつだろうか?


 オレが昔読んだマンガやラノベでも、普通の高校生が異世界へ行って色々とやらかすお話が多かったのだが、それらの作品において主人公やその友人たちが異世界でカルチャーショックを受けた事が赤裸々に書かれていた。

 あれらの内容は「もしかしたら実際に異世界から戻って来た作者が書いた自伝だったのでは?」と思う事がしばしばあった。


「それでエミリア、このまま王城ではなくオレたちの訓練場まで送って欲しいって、あそこで何かあるのか?」


「今、露骨に話題を変更しましたね? まぁいいです。実はなのですが、ハルトさんが襲撃者を撃退して戻って来る時に、私も一緒に同行するようにと王女殿下から命じられていたのです」


「カティア王女が言ったのなら何かあるんだろうな」


 オレはただ公用馬車を借りてるから、この馬車の御者が待ってるはずの訓練場へ向かってるだけなんだけどな。でも【未来視】の恩寵を持つカティア王女がエミリアにそう言ったのなら、そこに何か意味があるはずだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「隊長、到着しました」


「ありがとう、アイシャ」


 訓練場の前に着いて馬車を停めたアイシャが扉を開けてくれると、訓練場で待っていたこの馬車の御者が近づいて来た。


「皆様、あちらで王女殿下がお待ちです」


 王女がこんな時間に王城の外を出歩いても大丈夫なのか? 以前にカティア王女が「王城の外を見てみたい」と言ったので、「寂しい王城から王女を盗むのは盗賊の仕事だ」と言ってやったら思いの他喜んでくれたので、まだ通りに人が居て賑わってる王都を見せてやろうと彼女を連れ出してあげた事がある。


 そう言えばオレが王宮騎士たちに睨まれるようになったのは、あの事が始まりだったっけ?


 中でも近衛騎士どもが挙って「王女殿下を取り戻せー!!」とか言いながら、団員を総動員して追いかけて来たので、街中に仕掛けてあったギミックの多くを使ってしまい、後で復旧するのが大変だった。


 それでもオレに拐われたと思われていたカティア王女本人だが、声を上げて喜んでくれたので達成感はあったな。


 オレとエミリアとアイシャの3人が訓練場の奥にある建物へと案内されると、1階にある応接室でカティア王女が待っていた。


「皆様ご機嫌うるわしゅうです」


「こんな時間にやって来て大丈夫なのか?」


「はい、今夜は誰にも邪魔されずにこの場所へ来られる事は視えてましたから」


 そう言えばいつもカティア王女を警護してる近衛騎士がたった二人しかおらず、その彼女たちも同じ室内に居るとは言え、王女から離れた壁際に控えている。

 オレは過去の因縁があるため近衛騎士の二人が臨戦態勢になっていない事を確認しながらカティア王女の話を聞く事にした。


「それでハルト兄様、例の貴族のシッポは掴めたのでしょうか?」


「ああ、バッチリだ。ほれこの通り…」


 オレは暗殺ギルドから受け取って来た複数枚の書類をカティア王女に手渡す。


「ふむふむ、やはりこうなってたのですね。なかなか証拠が押さえられず王家としても手こずっておりましたが、ナタリーが見つけた極秘の作戦司令書と合わせて考えれば自ずと答えが見えてきます。ですが、これでもあの大貴族を断罪するには少し弱いですね」


「あと一押しが必要なら、やっぱりオレの出番だな」


「そうですね、正攻法ではこれが限界だと思います」


 オレとカティア王女が思った以上に親しげに話しているのを見て、エミリアとアイシャが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「質問をしても宜しいでしょうか?」とはエミリアの言。


「はい、なんでしょう?」とカティア王女が彼女の発言を許す。


「王女殿下におかれましては、こちらのハルト氏と特別な関係と申しますか、その……兄様って、ハルト氏は王族に連なる方なのでしょうか?」


「いいえ、それは違います。ですが、ハルト兄様は私たち王家の者……と言っても、これほど親しくさせて頂いてるのは私と妹のエスティナと母上の三人だけですが、余人を交えずにお話する場合はもっと砕けた話し方をしています。これでいいかしら?」


「はい、良く判ったような、判らなかったような……」


 普通であれば王女殿下相手にオレみたいな話し方をすれば、あそこに居る近衛騎士たちが黙ってはいない。だがオレと王家の間で取り交わされた契約の話をエミリアに打ち明けるには条件がある。


「エミリアさん、もし貴女がこれ以上知りたいと思うのなら、貴女に決断をして頂く必要がありますが、お心は決まりましたか?」


「もしかして移籍のお話でしょうか?」


 ただ、この時のエミリアはカティア王女が打診した移籍について、ほぼ承諾する方向で意思が固まっていたようで、今この時を持って彼女はオレの部下となる。……はずだったが、それにはカティア王女が提示する条件を、契約魔法によって合意する必要があるとエミリアに説明した。


 その内容は、オレの部隊へ所属するに当たり魔術師団とは完全に離れる誓約が含まれており、これはエミリアが古巣からのスパイとして新組織の内情を外へ漏らさない為の措置も含まれていた。そして少し考える様子を見せたエミリアだが、契約にサインした。


「これで話せる事が増えましたわ」


 そう言ってカティア王女はオレと先代国王との関係を簡潔に説明し、オレが王家と繋がりがある者だと彼女に納得させてから、エミリアが今も心の中に秘めているであろう自分の両親が亡くなった経緯についても、彼女がオレと行動を共にすれば明らかになると言った上で、更に「マスクの勇者を探すのはお止しなさい。その真相を知った時、貴女に不幸が訪れます」と言った。


 オレは何故、あの時の勇者の正体がオレだと知ったエミリアが不幸になるのかは判らなかったが、その真実は墓場まで持って行かなくてはいけないと思った。


「それとアイシャさん、私が紹介したハルト兄様は如何でしたでしょうか? 貴女の願いは叶いそうですか?」


「はい! その節はありがとうございました。おかげ様ですこうして毎日暮らしています」


「そう、それは良かったです」


 オレが暗殺ギルドから持ち帰った書類なら後で届けても良かったのだが、カティア王女がわざわざ訓練場までやって来たのは窮屈な王宮の応接室では周りに多くの騎士たちが詰めかけて来るので話しにくかったのと、たまには夜の街へ出てみたいと言った年相応のものだった。


「帰りは送らなくても大丈夫なのか?」


「はい、今夜は行きも帰りも大丈夫です。それとも15歳の乙女と夜のデートをご所望ですか?」


 心做しか、壁際に立ってる近衛騎士の二人から滲み出る威圧感が一気に増えた気がするのは、きっと気のせいだろう。


「また盗まれたいなら考えてやるが今夜はもう帰って寝ろ。それとオレみたいな大人の男を誘惑するには色々と足りないぞ?」


「もうハルト兄様ったら、私のようなリッパなレディに向かって何という事を言うのですか。そんなだからそのお歳になってもボッチのままで彼女の一人も出来ないのです」


 バカめ。以前のオレならともかく、もうこちらの異世界で35歳と言う年齢が結婚リタイア組だという事実を知ったオレに死角は無い。


 オレはこのまま実らなかった初恋を胸に、残りの人生を一人で生きると決めたんだ……。


 いや、それでも微粒子レベルの可能性は残っているのか? こんな未練たらしい事を考えてるなんて、カティア王女に知られたら格好の攻撃目標にされてしまうから、オレは努めて平静に大人のオトコを演じる必要がある。


(どっかに落ちていないのか? オレのセカンド・ラブは……)


 それからカティア王女が「兄様は少し席を外して下さい。後は女子だけで話しておく事がありますので……」と言われて、一方的に部屋から追い出された。


 扉の前に居たら盗み聞きしてると勘違いされても面倒なので、オレは一人で屋外へ出ていつものように素振りを始める。


 「ヒュン、ヒュン」と木剣が風を斬る音が身体に響くのが心地よい。


 オレはこの後、とある貴族の屋敷へ忍び込んで「あと一押し」分の手がかりと言うか、何かの証拠となるモノを手に入れて戻って来るつもりだが、カティア王女と部下二人の話が長くなるようであれば明日に先送りしても良い。


 それよりオレの新しい部下となったエミリアだが、彼女が移籍する新しい組織が「王立盗賊団」だと知っているのだろうか? カティア王女の事だからまだ話していない可能性が高い。

 果たして魔術師団では期待の若手だと言われるエミリアに、それが例え王立組織だとしても盗賊団に入団した認識はあるのか、それが最初の心配事だ。


 そう言えばアイシャの時もそうだったが、彼女も自分が新しい騎士団に移籍したと思っていたらしく、それが盗賊団だと知った時の顔は今でも忘れられない。

 オレはアイシャの力無い笑顔を見た時、彼女ほどの美少女でもポカンと口を開けたまま脱力する時があるのだと知ったのは新しい発見だった。


 だがオレは過去に彼女に比肩する美女の、もっとだらしな~い姿を知っていたので、アイシャに対する評価が下がる事は無かった。


 そしてエミリアがその事実を知った時、彼女は一体どんな顔を見せるのだろうか? 今から楽しみだ。

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