第31話 エミリア拉致事件【3】
SIDE:オレ
アイシャが淹れてくれたお茶を、急な客人である女性魔術師と屋外で楽しむ。アイシャにも同席を勧めたが、彼女は遠慮して少し離れた位置でオレたち二人を護衛する場所に立っている。
事前に連絡せず急な客人を連れて来たので少し気を使わせたのかも知れない。
またエミリアが話す今日の予定と言うか、今日辿る運命だった彼女の結末はオレがカティア王女から予め聞かされていた内容と一緒だった。当たり前か。
王女が話してくれた未来であればオレとエミリアは今頃なら王都の図書館に居たはずで、そこからの帰り道に彼女が襲撃されて拉致される運命だった。
もう既にオレが一緒に行動する事でその未来は変わっているし、居場所もここ訓練場へと変更されてはいるが、この二つの要因だけで暗殺者どもが諦めてくれる確率は低い。
もし本当にエミリアを襲撃する者どもが手練だとするなら、王城でもこんなに端に位置する訓練場の警備など問題無く侵入して来るはずだ。
普通であれば、これから10人もの賊に襲撃されると予め知っているなら、それを部下にも教えておいて万全の体勢で迎撃するのが常道だろう。
だが、オレの部下は基礎と常識の範囲内での応用訓練は出来ていたが、そこから更に身体能力をアップさせているし、最近では精神的にも安定してきているので暗殺者の10人や20人くらいであれば問題にはならないレベルまで鍛えてある。
なので今回のエミリア襲撃は、アイシャにとってまたとない対人戦の訓練になると考えており、更に言えばキレイ過ぎる彼女の剣術に対して敢えて汚い剣、それも勝てば何をしても良いと言った泥臭い暗殺者どもの剣と戦わせて、彼女の育成に役立って貰うつもりだ。
アイシャが淹れ直してくれたお茶は相変わらず旨く、エミリアとの会話も世間話から王城内での他愛ない話、それとお互いから見たカティア王女の話など、気が付けば夕方となり太陽の日差しが傾いて来たのが見える。
「アイシャ、そろそろ次の客が来る。そいつらは暗殺ギルドの依頼でここに居るエミリア嬢を拉致するのが目的だが任せて良いか?」
「了解しました! ぜひ私にお任せ下さい!!」
「あと出来れば一人だけ生きたまま捕縛して欲しいのだが、それも頼めるか?」
「はい! もちろんです!」
アイシャが練習用の木剣をブンブン振って身体の動きを確かめていると、それを見たエミリアがやや不安な様子で語りかけてきた。
「もしかしてですが、あの木の剣で迎え撃つつもりなのですか?」
「ああ、そうだけど何か問題が?」
「問題しか無いじゃない……」
『相手はプロの暗殺者なのですよ!』って言いたそうにしているが、暗殺者の武器は大抵がナイフか短剣と相場が決まっている。
これは移動する際に長物では邪魔になると言う理由もあるが、大抵の暗殺者はその身一つで任務を遂行するため格闘術を極めているから、騎士剣のような重さがある武器で複数の暗殺者と対峙するのは不利だと考えられている。
「まぁ、見てて下さい。彼女なら大丈夫ですから」
「はぁ……」
するとまだ日が沈みきっていないこのタイミングで複数の侵入者が現れて、オレたちが居る訓練場の周囲を取り囲んでいるのを感知する。
それと同時にアイシャが訓練場の入口方向へと歩き出したのは、彼女も普段は感じられない不審者の存在を知ったからだろう。
まだ付近に人が居る状況で襲撃を開始したのは、この訓練場なら多少の音を立てても周囲が不審に思わない環境が整っていると判断しての事で、訓練場の外周部に最低限の人数だけ残しておいて、それでも10人もの不審者が中へ入って来た事を考えるなら、オレとエミリアの行動が変化した結果、相手も人数を増員してきたと考えるべきか。
訓練場の中へ入って来た男たちは黒装束ではなく普通の冒険者みたいな格好で、厚手の革に部分的に金属プレートが縫い付けられた軽装鎧を身に纏い、ナイフや短剣などの刃物を抜刀した状態でゆっくりと歩いて来た。
「いちおう聞いておこう。貴様らは何者だ? そして誰の許可を得てここに入って来たのだ?」
「お嬢さん、俺たちが何者でもお前には関係ないんだよ。黙ってあそこに居る魔術師の女をこっちへ渡せ。そうすれば男は殺すが、お前みたいにキレイで若い女なら生かしてやっても良いぞ?」
暗殺者なら会話なんかしてるヒマがあるなら相手の首を斬らないとダメだろ。
もうこの時点であの賊どもが一定レベル以下のザコだと判明して何かやるせない気持ちになる。王女の話だと暗殺ギルドの手練れだと聞いていたから、これならアイシャの練習相手にピッタリだと思っていたのに当てが外れてガッカリした気分だ。
「何!? 隊長を殺すだと!?」
不審者、そう不審者だ。あれは決して暗殺者なんてモノを名乗って良いレベルの賊ではない。その不審者がオレを殺すと言った瞬間、アイシャの怒りの感情がプレッシャーとなって周囲に放たれる。
「お、お前! 何者だ!!」
アイシャの覇気に当てられた不審者どもが急にビビリ出したのか、それまでただ持っているだけだったそれぞれの獲物を構えて一歩後ずさる。
「それは私が聞いてるんだ!」
この時点で逃げ出していれば後ろの3人ならギリで逃げられたかも知れなかったが、アイシャが動き出した今となってはもう遅い。
それまで黒檀色をしていた木剣が今は何故か真っ黒に染まっていて、それが振られる度に不審者どもの手足が身体から斬り離されて行く。
何人かは運良く短剣などの武器で受けたのだが、アイシャが振った木剣は中に重りが仕込んであるせいか、その衝撃を殺せず粉々に破壊されていた。
「アイシャ、剣に込める魔力が荒い。お前の実力なら相手が持つ武器を壊さず斬れるはずだ」
「はい! 申し訳ありません!」
上司であるオレを殺すと宣言した時に感情が高ぶってしまい、強化魔法の制御が疎かになっていたからそれを指摘してやったのだが、まだ戦闘中にも関わらず相手の不審者どもから一斉に『何言ってんだコイツは?』みたいな目で睨まれたので、ちょっと気分を害した。
それと戦ってる最中にアイシャから目を反らすなんて結構余裕あるな。
なんて考えていると10人も居たはずの不審者どものうち、まともに立っているのは後ろに居た3人だけとなっていた。
「こうなったら残りの全員で魔術師を殺れ!!」
暗殺者……もとい、不審者どもが屋外テーブルで優雅にカフェしてるオレとエミリア目掛けて向かって走り出すが、彼らがここに辿り着く事は無かった。
「うげぇええ!!!」
「あひぃいいい!?」
「ぐわぁぁぁぁ!!」
何でエミリアを襲うのに、いちいち口で指示してるんだよ……。それ見た事か、アイシャに背中を向けた途端に後ろから斬りかかられて、3人全員が訓練場の地べたへと倒れ込む。
ま、走ってる最中に両足か片足が突然無くなったくらいでコケるとは、やっぱりアマチュアだ。それとまだ切断面が荒いな。
オレはイスから立ち上がって倒れている不審者のリーダーっぽい男に近寄ると、止血のため彼の脹脛に手を当てて治癒魔法ではなく生活魔法レベルの炎で焦がしてやる。
「あぁぁぁぁぁぁ!! ぐふっ!!」
仮にもオレたちを殺しに来た相手に、例え止血に必要だとしても治癒魔法なんか使用してやる訳なんて無いだろ? 叫び声で誰かが来たら説明が面倒だと思い、延髄部分に手刀をくらわせて静かにさせる。
「こ、ここまでやる必要はあるのですか?」
余りこういった荒事には慣れていないのか、エミリアがオレたちの行為を過剰だと感じているのか声を掛けてきた。
「王国の貴重な美人魔術師を拉致してナニしようとしていた輩相手に、手加減なんて必要ないだろ?」
オレがそう言うとエミリアも納得してくれたようだが、リーダーの男以外は必要無いのでこの場で処分すると言ったら反対しそうなので、彼女がここを去るまで何処かに閉じ込めておいて、後で処分した方が良いだろう。
ここは以前に騎士団本部として使用されていた建物があるので、その地下には捕縛者を閉じ込めておくための立派な牢屋があるからな。
オレはアイシャに命じてそこらで倒れている9人の不審者を牢屋に入れていくように命じてから、訓練場の外で見張りをしているヤツラも回収するように言っておく。
「仲間が捕まったと知れば、外のやつらに逃げられるわよ?」
「いや、もう捕まえてあるから大丈夫だ」
訓練場の外周を走る道路(と言うか、この王都の至る所)には様々な罠が設置してあり、罠の種類も殺傷を目的としたものから捕縛のためのモノまで、それなりに種類を取り揃えてありオレが今ここでスキルを使えば即座に発動させる事が出来る。
「それじゃ、行こうか?」
「行くって何処へ?」
「自分が狙われた理由を知りたくないか?」
「ぜひ知りたいわ!」
アイシャに牢屋の鍵を必ず掛けておくように念を押してから、オレはそこで気を失ってる男を蹴り飛ばして起こしてから、ズルスルと引きずって行こうとしていたら、戻って来たアイシャに革紐を渡された。
「ありがとう、よく気がつくな」
嬉しそうに微笑むアイシャの頭を撫でてやってから、不審者の身体を革紐で縛り引きずれる様にしたが、男の体重だけならまだしも時々だが地面の凸凹に引っ掛かるので、その度に革紐を強く引っ張って取っ掛かり躱すのは面倒だとい思っていると、訓練場の出口に馬車が到着した。
頼んだ覚えが無いので不審に思っていると、その馬車から御者が降りてきて「王女殿下から」だと教えられる。 まったくあの王女様にはどこまで見えているのやら。
アイシャが御者席に座り、オレとエミリアが席について不審者の男を床に転がしてやる。
「隊長、どちらへ向かわれますか?」
「傭兵ギルドへ頼む」
「了解しました!」
「え、え、どうして傭兵ギルドになんか行くの?」
「行けば判るから」




