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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第30話 エミリア拉致事件【2】

 王都でも有名なレストラン『ロイヤルガスト』は、今から約18年前にこの世界へ召喚された勇者たちが”故郷の味”を懐かしんで復刻させた異世界レストランで、特に聖女様がお好きだったスィーツを始めとした異世界料理を再現しているので有名なお店。


 勇者たちの故郷では誰でも行ける”大衆食堂”だって言ってたみたいだけど、王侯貴族の食卓と比べても遜色が無いどころか、それ以上のサービスを提供するお店が一般人向けだと知った私は驚かされたのを覚えている。


 王宮で働いていてもおかしくないクオリティのメイド服を着た女性給仕さんが私とハルトさんを席に案内してくれて、メニューを残してパントリーへと戻って行く。


「ハルトさん、何を食べられます?」


「オレは日替わりでいいや、それとアフターで”レティ”でも頼んでおこうかな」


 ハルトさんの返答から、また一つ彼が私の探しているターゲットかも知れないヒントを得た。


 『レティ』とは『レモンティ』の略で、私たちのような王都の人族は普段使わない。

 でも『レティ』と言う言葉を勇者たちが使っていた過去と、彼らが自分たちの為に作ったこの店なら、他店では通用しない『レティ』で注文が通るのは、ある程度この店に通った事がある人なら知っていてもおかしく無い事実。

 だけどその場合は”頑張って”この店の雰囲気に合わせようとした”ニワカ感”と言うか違和感が残るので、生粋の『ロガイスト』以外は敬遠して使わない。


 以前の話になるけど、仕事の途中でこの店へ一緒に来た先輩魔術師が格好をつけたかったのか、ミルクティを『ミティ』と注文して店員さんから生温かい目で見られていたのを思い出すのは今では良い思い出よね。

 だって『レティ』は良く聞くけど『ミティ』なんて聞いた事が無いもの。


「ハルトさん、いつもは何をされているのですか?」


「いつも訓練ばかりしてるよ、どうして?」


 多分だけど、ハルトさんはまだ王女殿下から私が彼の部隊へ転属するかも知れない事を聞いていないみたい。だって私が断ったら糠喜びさせてしまうと王女殿下は考えているでしょうからね。


 でも私の中で今回のお話しをお受けするのはほぼ確定かな? これまでコソコソ調べるしかなかった調査対象の間近で行動を監視する事が出来るし、もし彼が勇者で無かったとしても何らかの関係者であるのは間違い無いと思ってるから。


 そして、この店を出てから図書館へ寄って、そこで夕方まで時間を潰してから大通りを外れた裏道を歩けば、私は暗殺者の一団に襲われて抗戦するも拉致されてしまうらしい。

 でもハルトさんが護衛してくれれば無事に戻れると王女殿下から聞いてるから、彼には悪いけど暗殺者たちを利用してハルトさんの力を見極めるのは良いアイデアだと思った。


 もしハルトさんが私の護衛を失敗して、私が拐われたり命を落とす事になるのは嫌だけどそれでも私は彼の正体が知りたい。

 そして、もし彼が【勇者】だったら? それを知った私がどうしたいのか知りたい。ただそれだけ。


 王女殿下からのアドバイスだとこの後で図書館へ行かなきゃいけないんだけど、私には行きたい所があった。いや、出来たと言うべきかな? それはハルトさんがいつも訓練してる場所で、もしかしたらこれから私がお世話になるかも知れないところ。

 これまでナイショで何度か近くまで行った事はあったけど、正式にお伺いした事は一度も無かったから。


 それをハルトさんに言ってみたら「そんな場所へ行きたいのか? 何も面白いモンなんて無いんだけどな」と不思議がられた。


「でも、勇者パーティの方たちが旅立った場所なんですよねぇ?」


「そう言えば、勇者たちのお話ではそうなってたかな?」


 ハルトさんがいつも使ってる訓練場はその昔、この国まだ一つしか騎士団が無かった当時に団本部があった場所で、今は東西南北の四つに別れてしまった後も事務局として残されてはいるけど、今は王家の直轄部署となり用が無い者は立入る事が制限されている。


「ハルトさんが居なきゃ行けない場所だから、自分の目で一度ちゃんと見ておきないかな? って」


 騎士団発祥の地だとされている訓練場もそうなんだけど、今日の夕方頃に私が襲撃されるのが本当なら、少しでも街に被害が少なくなる場所の方が良かったのと、ハルトさんがいつも訓練で使ってる場所なら敵を迎撃しやすいかなって思ったの。

 だって訓練場ならヘンな遮蔽物なんて無いだろうし、それにある程度の広さがある場所で戦った方が私たち魔術師には有利だからね。

 だからハルトさんが敵の何人かを足止めしてくれるなら、私も魔法で援護出来そうだし。


 それに王家が直轄してる場所なら警備もそれなりに厳重だと思うけど、王女殿下の説明だとそれくらいの障害なら楽々超えて来るくらいの手練れがやって来るらしい。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 私がハルトさんに連れられて訓練場へ行ったのは、あれから少ししてからだった。


「へぇ~、ここが噂の訓練場なんですね」


「う、噂って、何の噂だよ?」


「ハルトさん知ってますかぁ? この場所で王女殿下による新しい部隊が発足されるそうですよ?」


 私は王女殿下から聞いた話を、さも知人から知った風を装ってハルトさんに話しかける。但し、私がその部隊への移籍を打診されている事を除いて。


 これはこの話を断る事になった場合を考えて予防線を張る的な感じなんだけど、ほぼ移籍する事を決めている私にとっては余り意味が無かったかも知れない。


「隊長、帰隊お疲れ様です!」


「アイシャ、もう戻っていたのか。ただいま、今帰ったよ」


 私がハルトさんの後に続いて訓練場の中へ入ると、彼の部下らしい、とても元気な女性騎士さんが出迎えてくれた。


 その方は王国騎士団から支給されるトレーニングウェアに何故か右腕部分だけ白銀色のガントレットを付けていて、後ろ手に黒っぽい木剣を持っていた。


(この子、歳は私より下かな?)


 髪がシルバーブロンドで目の色が青って事は王国北部の出身かしら、それと騎士にしては余り日焼けしてないのも北部出身者に多い特徴だしね。


 私がその女性騎士に目が止まったのは、彼女の容姿がとても騎士なんて荒事をする感じでは無く、どちらかと言えば騎士に守られる姫君のような印象だったにも関わらず、同性の私から見ても可愛い……と言うより、凛とした意思の強さを持った美しい、そう美しい大人の女性と言うにはまだ早く、かと言って少女と呼ぶには少し大人びて儚げな彼女から、まるで歴戦の騎士とでも言うような強者の覇気を感じたから。


「アイシャンティと申します、今お茶を準備致しますので、あちらでお待ち下さい」


 その女性騎士が手招きした先には屋外カフェ用のテーブルとイスのセットが置かれていて、天気が良い日ならサンシェードを広げればここでランチにするのも良いかも知れない。


 この訓練場はそれなりに広くて奥の方に庁舎として使用する建物があるけど、今は私たちしか人の気配がしない。これはさっき探知魔法で調べたから間違いないわ。


 私が暗殺者の集団に狙われているのはハルトさんも知ってるはずなのに、まだその時間では無いとお互いに考えているせいか彼から戦いを前にしたプレッシャーみたいな緊張感は漂って来ない。


(もしかして、私が図書館へ行かなかったから今日の襲撃は無くなったのかしら?)


「お待たせ致しました」


 つい先ほどお茶を淹れに向かったばかりなのに、先ほどの女性騎士さんがティーセットをトレーに乗せて戻って来た。もしかしたら上司であるハルトさんが戻って来るのを見計らって、お湯を沸かして待っていたのかしら?

 でも私がここに来たいと言ったのはレストランでの事だから、本来なら図書館へ向かうはずの時間だったのに、まさかね?


 その女性騎士は騎士として長年の訓練を積んで来たと思われるのに、何故かお茶を淹れる仕草も様になっていて、これでメイド服を着せたら本職が騎士だなんて誰も思わないでしょう。


「アイシャありがとう、今日もとても美味しいよ」


「あ、ありがと、ございまふ!」


 上司のハルトさんがお礼を言ってるのに、それをお礼で返すなんて……でもその仕草も可愛く見えてしまうのだから美少女って本当に恵まれてるわよね。

 でもその女性騎士の話し方の中に、普通の上下関係では考えられない親愛の情と言うか、家族の信頼とはまた別の親しみを感じたのは気のせいかな?

 いくらハルトさんが上司で女性騎士が恩を感じる何かがあったとしても、彼女の態度に忠義の騎士や忠実な侍従のそれとは明らかに違う恋慕の情みたいなものを感じたのは、私が彼女と同じ女だったからかも知れない。


 こんなに広い訓練場でたった二人っきりなんて、もしハルトさんの年齢がもっと若ければ城内でヘンな噂が立ってもおかしくはない……と言うか、もしこれが王国貴族のご子息であれば彼女の美貌を自分のモノにしようとして何か問題でも起こしているはずよね。


 それならこれはまだ社会経験の少ないうら若き女性が上司に抱く幻想のようなものだと思えるけど、ハルトさんは社交界で持て囃されるような貴公子では無いし、その上で彼女が慕ってるとすれば私が知らない何か別の要因があるかも知れないわね。興味深いわ。

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