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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第29話 エミリア拉致事件【1】

 オレが今回あの屋敷へ行ったのはカティア王女から依頼をされたから。


 何でも、オレが毒殺した貴族の屋敷には王国内に蔓延ってる軍閥貴族どもの機密書類が保管されているらしく、国王の勅命以外に私用で騎士団を動かしたり、裏で軍需物資を横流しして不正に得た利益の一部を、あの貴族が代理で管理していると考えられていた。


 いくら国王と言ってもこの国の貴族どもが結託して派閥毎に力を持っており、確たる証拠も示さずに貴族屋敷を捜査する事なんて出来ないとされていた。なので、今回のように貴族家当主が自殺してくれたのは予期しなかった好機で、王家としてはこのチャンスに軍閥貴族どもの力を少しでも削いでおきたいと考えているようだった。


 現場に派遣された捜査班のうち主導権を握ってるのは王宮騎士団で、これは王都全体を守る警察権を彼らが持っているから、そこに貴族が構えた屋敷なら捜査する事が出来る。

 それと今回は服毒死と言う事だったので、鑑識として王宮魔術師団からも人員が派遣されており、それが今回の護衛対象となった女性で名前はエミリアと紹介されている。


 今回の捜査でエミリアが狙われるのは、彼女が鑑識で毒死に関する正確な情報を掴んでおり、その内容を元に今回の事件の全貌を知りたいと考えている軍閥貴族が居るから。

 もっと正確に言うなら貴族の服毒死が他殺だと考えてる誰かが、その毒の種類と死亡予想時刻や状況を元に独自に犯人探しを目論んでいる。


 魔術師のエミリアがたった一人で帰城する途中に複数の賊(……と言ってもこの場合は貴族どもから依頼を受けた暗殺ギルドらしいが……)に拉致されると言うのがカティア王女が教えてくれた未来で、いくら優秀な魔術師でも街中の雑踏の中で気配を消して複数の賊に近づかれてしまえば素直に投降するしか無い。


 拐われたエミリアがその後どういった運命を辿ったのかはカティア王女しか知らないが、王女とも顔見知りの貴重な魔術師をここで失う訳にはいかない。


「ハルトさん、待った?」


「いや、大丈夫だ」


 何が大丈夫なのか自分でも良く判らないのだが、35歳にもなってこういった受け返しが下手なところがオレのダメな部分なのだろう。


 オレの目の前を通り越してエミリアが先に玄関ホールから出る。


 まだ昼を少し過ぎたくらいの時間と言う事もあり、良く手入れされたプロムナードと柔らかな春の日差しに照らされてキラキラと輝く新緑が目に眩しく映し出される。

 太陽を遮っている庇のおかげで、影になっていた玄関ホールから外へ出たエミリアを視線で追うと、建物の内外で明暗の落差が大きくて眩しく感じると同時に、外の明るい世界の色彩がより鮮やかに感じられる。


「早く行こ?」


 そう言えば、この後どこへ行かなければならないのか聞いてなかったな。


 明るい日差しの元でこちらを振り返ったエミリアが、玄関ホールで突っ立ったままになっているオレを呼ぶ。


 彼女の着ている衣服が魔術師団に支給されている堅苦しいローブ姿ではなく、オレたちが異世界へ来た頃に勇者と賢者、それに聖女の3人が普及させた現代世界風のワンピースを着ていたのに気づいたが、初対面では無いとは言え、まだそれほど親しい間柄ではないのでそれを口に出す事はしなかった。


 もしこれがオレ以外の勇者パーティの誰かだったら、ここでエミリアの服装とか褒めてコミュニケーションを取るのだろうが、35歳のオッサンがいきなり20歳くらいの女性に媚びてるようで下心がありそうだと警戒されるのは何か嫌だな。


 エミリアの服装は彼女の白い肩が出た若草色のワンピースは確かにオレが元居た世界では一般的なデザインだが、いくらその上に薄手のボレロを纏っていたとしても朝夕がまだ寒いこの時期にしては無防備すぎる印象を受ける。


「で、どこへ行くんだ?」


 オレとしては、このまま大人しく王城にある魔術師団へ向かってくれればカティア王女からの依頼を終える事が出来るのでそう願っているのだが、エミリアはどこか行きたい所があるらしく、その前に「お腹が空いたね?」と言って来たので、先に彼女が「オススメだよ?」と言うレストランへと向かう事になった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


SIDE:エミリア


 あのギスギスした貴族の捜査を早めに切り上げた私は、王女殿下が新しく設立する部隊への移籍を打診されていて、その組織の長となる人物に直接会ってから決めたいと返事をした。


 その人物とは王城内ではある意味とても有名な人物で、私が所属する魔術師団の諸先輩たちからは「王城のヒモ」とか「王ドロボー」などと言った、とても酷い評価をされている人物だった。


 でも私は仮面の勇者の事を探していた時に王族の交友関係も調査していたから、その時に王女殿下に纏わる不自然な人間関係を持つ人物を知っていたので、王城ですれ違った時それとなく挨拶をしたり、その人が訓練場に居る時は遠くから隠れて監視したりしていた。


 年齢は私より10歳以上も年上でこれまでに目立った功績は聞かないし、レベルも30程度で王家剣術指南役としては普通だったけど、彼の職業が【盗賊】だったのは何故なのかな?


 この世界では女神様からの”恩恵”(ギフト)によって様々な職業を得る事が出来るんだけど、元から複数の職を授かる人も居れば後天的な努力によって職を得る場合もあるから、一般的に”職業”(クラス)としてそれを選ぶ場合は、他人から見て好ましいと思われるクラスが選択される傾向がある。

 なので鑑定魔法で【盗賊】と判る場合はその人が持つ職がそれ一つしか無いか、冒険者などでその職が求められている場合にしかメリットが無いはずなんだけど、もしかしたら「盗賊」と言う職業自体にその人にしか判らない思い入れがあるのかな?


 それでも先代の国王陛下から”王家剣術指南役”として王城に招かれているのは確かな情報だから、きっとセカンドクラスに【剣士】系の何かを隠し持っているんだと思った。


 そう、例えば【勇者】とか。


 もしその人が持ってる職業クラスが【盗賊】と【勇者】の二つしか無くて、どうしても【勇者】の方を隠しておきたいと考えるのなら【盗賊】をファーストクラスにするしか無いでしょ?

 そうでなければ”王家剣術指南役”と言った『剣術』が何より必要とされる役職に就いているにも関わらず、そこを敢えて【盗賊】なんて他の騎士たちから下に見られるようなモノをわざわざ選ぶ理由が他に思い当たらない。


 そんな私に王女殿下からの移籍相談は、またと無いチャンスだったのよね。


 私が過去の勇者について調査してるのを知らない王女殿下には少し悪いけど、この機会にその人の事を間近で調べさせて貰えるチャンスが巡ってきたと考えた。


 でもその日はナタリーが朝早くから私を呼びに来たから、朝食を抜いたので少しお腹が減っていたので、ハルトさんと一緒に近くのレストランへ向かった。

 私の直ぐ後ろをハルトさんがついて来るけど、通りを歩いてる人たちから見れば二人の年齢差が親子としては近すぎだし、恋人と言うには離れ過ぎていて、また兄妹と言うには髪と瞳の色が違っていたので奇異の目を向けられてる。


 これまでの調査でハルトさんの人となりはある程度は把握しているし、騎士団の男どものようにギラギラした感じはしないから一緒に居てもストレスを感じる事は無かった。

 顔は普通で背丈も普通だけど、身体つきは鍛えているのが判る。でもそれほど筋肉でガッチリしてると言うより典型的な細マッチョみたい。

 ボサボサでは無いけど十分に手入れされているとは言い難い髪型と、明らかにテキトーに剃られて少し残った無精髭があるせいで、ただでも普通メンの印象がそこから更に三割ほど減点されてしまっているのに、本人はそれを全く気にした様子が無い。


 こんなに冴えない男の人があの【勇者】だなんてありえないんだけれど、でもどうかな~? まだわかんない。でも、もしこれが過去を隠すための巧妙な偽装だったとしたら見事な変装っぷりだと思うわ。 


 ハルトさんがこれまで王女殿下からの依頼で色々と活動してきたのは何となく知ってる。けど、それらについて公式な記録や文書で残されているものを見た事が無いのよね。


 これは完全に怪しい。


 怪しいけどそれを証明する証拠が何一つ無いなんて、こんなの王国でも王家が関わっていなければ到底説明出来ない事なんだけど、ハルトさんの後ろには王女殿下が居るはずだから証拠が無いのが証拠だとも言える。


 でも万一それが間違っている可能性も少し残っているから、まだ確定はせずにじっくりとハルトさんの行動を見てそれから結論を出すって感じかな。

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