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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん


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第27話 隊長のヤボ用【3】

 ゲビリッシュ子爵家の当主が服毒自殺をしたという記事が王都の新聞に小さく掲載された翌日。

 まだ遺体の鑑識が終わっていない事と、もしかしたら他殺の可能性もあると言う事で、王宮騎士団から派遣された事件特捜部による現場検証が続いていた。


◆◇◆◇◆


「ナタリー警視監、被害者の寝室から隠し通路で繋がった地下室が見つかったそうです!」


 本来なら国防部に所属する私がこのような犯罪捜査を受け持つ事はないのだが、今回服毒自殺をしたアコース・ゲビリッシュ子爵は、私たち王宮騎士団が別件で捜査を進めている案件があり、こいつはその関係者の一人としてリストに名前が上がっていたのだった。


「その地下室には私が行くまで、誰も中に入る事を禁じます!」


 仮にも貴族の館なので地下室の一つや二つくらいあっても不思議じゃないが、報告に来た捜査員の話では、その地下室は当主の寝室から直接降りて行く構造で、密室構造になってると聞いた。

 恐らくだけど、その部屋には当主以外誰の目にも触れさせてはいけない書類などが保管されているはず。


 やっと見つけたと、私のカンがそう告げる。


 薄暗くて狭い階段を魔導灯の明かりを頼りにゆっくり下へ降りて行く。


 古びた扉の前では、別の捜査員と魔術師団から派遣されてきた知人のエミリアが一緒に居て、そこで何やらゴソゴソと言い合ってるのが聞こえて来た。


「まだ開かないのか? もうすぐ監察官が来られるから早くしてくれ!」


「そう言われても、この扉に掛かってる魔法鍵は少し特殊なタイプみたいだから、それ専門の盗賊職の方に依頼した方が確実なんですけど。それでも中にある物が壊れても良かったら手はありますけど、ど~します?」


 扉の解錠に手間取ってる二人はすぐ後ろに私が立ってる事に気がついていないのか、まだそんなやり取りを続けている。


「こうなったら、そうだな……少しくらいなら被害を出しても構わんから、パパっとやってくれ」


「はい! それなら簡単、お任せです!!」


「ちょっと待てお前ら!!」


 この捜査は、表向きは自殺したと思われる貴族の直近の動向を捜査して、本当に自殺するほどの動機があったのか確認するだけの簡単なお仕事だと言う事になっているが、本当はこの捜査を理由に普段なら立入れない貴族の館へと入り込み、そこに隠されているであろう別事件の手掛かりを探しに来たと言うのが王宮騎士団上層部の本根だ。


 だからそんな簡単に破壊して中の蔵書が燃えてしまったらどう責任を取るつもりだ。


 それとエミリアも、そんな簡単に攻撃魔法なんか唱えようとするんじゃない!


 もしここに重要な証拠となる何かが隠されていたとしたら、その扉どころか館全体が吹き飛ぶほどの罠が仕掛けられていても不思議じゃないし、恐らくその心配は現実になると私のカンがそう告げている。


 過去にも同様の手口を使って容疑のかかっていた貴族の館を捜査した同僚が居たが、そいつは貴族の館を襲った謎の爆発によってこの世から永遠に居なくなってしまった。


「エミリア、何か他に手は無いのか?」


「ぅ~んと、あると言えばあるけど、ナタリーは嫌がるんじゃないかな~?」


 エミリアが言おうとしてる手段なら私も良く知ってる。多分あいつの事だろう。


 この王国には先代国王陛下からお声が掛かるほどのベテラン盗賊の男が居て、ある意味では有名人だ。

 ただ、騎士団からそいつに直接仕事を依頼しても断われてばかりで過去に大喧嘩をしてしまい、今もそのままの関係になっている。

 ちなみにその大喧嘩をした時に先頭に立って斬り合ったのは、私が率いていた王宮騎士の部隊だった。


 そしてこれは後から知ったのだが、その盗賊は他国から渡って来た先代国王陛下のご友人で、現在は王家の剣術指南役を拝命しており、その男に依頼を出すには王族の誰かからお願いするのが王宮での習わしだったとか。知るかそんなもん。


 それなら第二王女殿下直属の近衛騎士である私の立場なら、王女殿下にお願いすればあの男を動かす事は出来るのだが、その見返りに何を要求されるか判ったものではないし、いまいち信用出来ないから本当に別の手がないかと思案を続ける。


「エミリア、宮廷魔術師の中で誰か対応出来そうな者は居ないのか?」


「その”対応出来そうな者”として、こんな所に来るよう命じられたのが私なんだけど?」


 こうなったらイチかバチかエミリアの魔法に掛けてみるしか手が無いか。でも、それならあとちょっとだけ待ってくれ、今から外に出るから。そして私が外から合図したら思い切りブッパしても良いからな。骨は後で拾ってやる。


「やっぱりやめ。だって、もしここが爆発して今着てるブイ・リトンの勝負服が焦げたらイヤだもん」


 さっきから捜査現場に居るには何故か色っぽい服だと思っていたんだけど、それ勝負服だったのか。エミリアも最近は少し背が伸びたから色気づいたんだな。


「判った、それなら私が直々に抉じ開けるまでだ」


 私は腰に履いていたレイピアを抜いて扉と枠の間にある僅かな隙間へ切っ先を滑り込ませると、梃子の原理を利用してラッチ部分の金物を変形させて壊すつもりだったんだけど、いくらこぜても扉が変形する事はなく、下手に力を込めると愛剣の方が先に折れそうな音がしたので慌てて手を止める。


 ふぅ、良かった。まだ折れてない。セーフだセーフ。


 このレイピアはまだ買ったばかりでローンの支払いが残っていたんだったな。騎士団から支給される数打ち品と違って目の玉が飛び出るくらい高価だったのを忘れる所だった。危ない危ない。


 だが、このまま時間だけ過ぎてしまったら、今回の捜査が本当に服毒自殺の動機確認だけで終わってしまう。


 今回この扉の事は諦めて、残された時間いっぱいまでこの館全体を隈無く調べる方向に捜査を切り替えるべきか? でももしそれが空振りに終わってしまったら軍閥貴族どもに証拠隠滅をされるか最悪この館ごと消失してしまう可能性もあるが……。


「ちーす、鍵屋の出前でーす。ご依頼の解錠場所はここで合ってるよな?」


 私が捜査の手詰まりを感じていると、ここに呼んだ覚えの無い男がやって来た。


「ふん、お前が鍵屋だと? ふざけるのも大概にしろ。捜査の邪魔をするのなら容赦はしないぞ!!」


 私は自分の不機嫌さを隠そうとはせず、その男と向き合いレイピアを構える。


「お? そう言えばあんた。何処かで会った事あったかな?」


 あるも何も、もう今から少し前の事だけどお前とは真剣で斬り結んだ仲だ! それなのにもう私の事を忘れてしまったと言うのか? これだから老化が始まった中年男を相手にするのは疲れるというのだ。


「また法外な報酬を殿下に要求するつもりか? ここに私が居る以上、お前の出番など無い。だから早く帰って寝ろ!」


「ナタリ~ったら、ホント素直じゃないんだから。なんで普通に可愛く『お願い』って言えないのかな?」


 この男の緩んだ顔を見ていたら何故か数年前の事を思い出し、無意識のうちにレイピアを持つ手に力が入る。


 もう細かい事は思い出せないけど、国内でも最精鋭と言われた私たち王宮騎士を丸ごと相手にして、王都中を駆けずり回された記憶は今もハッキリと私の脳に刻まれている。


 あの時はたかが盗賊一匹など、ものの数分もあれば捕まえられると思っていたのだが、なかなか捕縛出来ない事に腹を立てた王宮騎士団長が、まだ待機中の者や休暇中の者まで全員に召集を掛け、文字通り全王宮騎士を総動員してこの男を追撃したのだ。


 それなのに街中のあちらこちらに仕掛けられたトラップの数々によって結果は惨敗。

 あれから王宮内における騎士団の立場が少し弱くなったのは間違いなくこの男のせいだ。


 そして夕方になり太陽が沈み始めると、この男が殿下と真犯人を連れて騎士団本部までやって来て、身の潔白を証明して帰って行ってしまった。

 そして私はあの後すぐ王宮騎士団長に呼び出されて団の要職を解かれ、今後はもう一切あの男には関わるなと念を押されていた。


「エミリア、もう終わったから帰っても良いか?」


「え?! ハルトさん、もう終わったの?」


「その扉ならもう開いてるよ」


「えーー?! ハルトさん、お仕事早すぎ!! ナタリーも良かったね! これでこの部屋の中も調べられるよw」


 エミリアがそう話すのを聞いて扉を確認してみると、確かに解錠されている!?


 私がずっと見ている前で、扉に手を触れないどころか近づく素振りも見せないまま、私たちが開ける事が出来なかった扉が見事に解錠されているのは何故だ?


 でもこの解錠依頼は私じゃなくエミリアが出したのだから、別に私がお礼を言う必要なんて無い……と思う。いや、そう思いたい。


 何年も前の事をいつまで引きずっているのかと笑いたくなるのを我慢して、あの男を目で追うがいつの間にか居なくなってるのはヤツがベテラン盗賊だからなのか?


「あーぁ、ほんと強情なんだから。ハルトさんいい人なのに、嫌われちゃったね。ナタリー可愛そ~」


 あの男め……。何もしなくても、何も言わなくても私に不幸を運んで来る。エミリアがさっきから私の事を”残念な子”見るような目をしてるのは間違いなくあの男のせいだ!

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