第21話 馴染みの魔道具店(妖精の小箱)へ
その店は、知る人ぞ知ると言う一部の者たちにはとても有名な魔道具店。
そこは王都の南側にある商店街の一区画で、表通りからいくつかの路地を曲がった先にある小ぢんまりとしたお店で、長い耳の老婆が店主をしているそこは老舗と呼んでも良いくらい昔からその場所にあった。
「オババ居るか?」
オレが店の入口扉を開くと内側に取り付けられた鈴の音が「チリリン」と小さく鳴る。店の名前は『妖精の小箱』だったか。
「なんじゃハル坊か、珍しい。ここ最近姿を見なかったけど元気じゃったか?」
「ああ、オレはこの通りピンピンしてる。それで今日はちょっと頼みがあって……」
オレは部下となるアイシャの腕を治してしまった経緯を話し、それが公になると説明が面倒なのでこの店の義手を嵌めている事にして欲しいと正直にお願いした。
「それくらい別に構わんがせっかくお主からのお願いじゃし、何かお返しでも考えて貰おうかのぅ?」
この店はオレがこの異世界へ召喚されてから魔王討伐の旅に出るまで、色々とお世話になった店だ。
当時のオレたちは異世界の事をほとんど知らず、王城の中で教師に教えて貰った知識とか情報の裏取りを各自が各々別の所で行っていた。
ただオレの場合は盗賊だったので地下迷宮で罠や隠し扉を解除する必要があって、その準備の為に足繁くこの店へ通っていたら色々と教えてくれるようになった。なので今オレが持ってるピッキングツールを始めとした様々な道具類は、この店のオババの手によって制作されたものが多い。
あとオババと呼んでいるのは彼女が「そう呼べ」と言っていたからで、長寿で有名なエルフがそんな簡単に老けたりはしない。
普通に考えれば判る事だが百歳の老婆を育てるには百年の月日が掛かるし、それほど歳を重ねたエルフがこんな人族の街中で店なんかやってるはずがない。
本当のオババはまだ二十歳過ぎにしか見えないスレンダー美女で、後日にそれを知った勇者パーティの漢たちもこの店へ通うようになるが美女バージョンのオババを見る事は無かったらしい。
オババ曰く、もしもうら若きエルフ美女が裏通りに一人でお店を開いてるなんて知られたら、面倒事が増えて困るのだそうだ。
オレがオババの正体を知っているのは彼女から地下迷宮でしか手に入らない鉱石と植物の採取を頼まれたからで、まだ冒険者としての経験が浅かったオレだけでは仮に目的地まで辿り着いたとしても目の前のモノが依頼された物かどうか判別が出来なかったため、お店を閉めて地下迷宮の中までついて来てくれたのが切っ掛けだった。
あの時の依頼ではそこそこ深い階層まで潜って行かなくてはならなかったのと、一人の時とは違ってオババが居たので魔物をスルーする事が出来ず途中で出会った全ての魔物を対処するのに時間が掛かっていた。
そんな時、それを見かねたオババが若いエルフ姿に変身して一緒に戦ってくれたのだが、戦いが終わった後もずっと若い姿のままだったので若返りの魔法を使ったにしてはその効果が長すぎると考えた。
そこでその疑問についてオババに尋ねてみると今が本当の姿だと言われたんだけど、オババの言葉使いが老人みたいだったから最初は信じられず、あの時はきっと未熟な少年の事をからかってるんだと思ってた。
だからその疑問を仲間たちに相談した時、聖女が「直接確かめに行ってくる!」と言ったので彼女に任せてみるとオババの正体が若いエルフだと判明したので皆が驚いた。
ちなみに聖女がどんな方法でオババの若さを直接調べたのかまでは教えてくれなかったが、あれから聖女が魔道具店を『出禁』になってしまったので、何となく詳しい話は聞けず終いのままだ。
オレがオババと話しながら昔の事を考えていると、オババも同じ様に昔の事を思い出していたみたいで、今はもうここには居ない仲間たちの事を懐かしさを交えて話し合った。
オババが言うには、どんなに悲しい過去も、どれくらい楽しかった思い出も、時間が経てば少しずつ色あせて行くものらしい。
オババたちエルフは人族より長く生きる事になるので、これまでもそうだったし、これからも様々な人たちとの出会いと別れが待ってるし、当然だがその中にはオレも入っている。
「オババ、また来るよ」
「そうかい、ならそれまで元気でな。絶対に死ぬんじゃないよ」
オレはオババの店を後にすると、かつての仲間たちと歩いた商店街の大通りへ向かう。王都の南側にある区画から北西方向の端にある訓練場まではかなりの距離があるが、軽く走って帰れば一時間もかからないはず。
大通りには懐かしい店がまだいくつも残っているが、それよりもっと多くの新しい店が出来ていたので、次の休みにもう一度来ても良いかも知れないな。
そう言えば服とか靴とかについては、いつも騎士団の備品をちょろまかしてばかりだから、たまにはお洒落な店で買い物をするのも悪くない。
勇者や賢者たちの発案で、王都にも元の世界と似たような商品やサービスを提供する店が増えてきたから、オレが向こうの世界に居た時に良く食べていたスイーツの店なんかもあったはずだ。
ただこの異世界でもスイーツのお店は若い女性ばかりだったので、今年で35歳となったボッチのオレだけでは気軽に入店するのを躊躇うほど、その店の敷居の高さを知る事になるのはその後の話だった。




