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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん
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第2話 その後の異世界

 勇者と魔王の戦いを見届けてから、オレは盗賊スキルを駆使して魔王城から逃げ帰った。


 まだ魔族領にはまだ多くの魔王軍が居て、魔王暗殺の犯人であるオレを探し回っていたが、オレ以外の仲間がみんな居なくなってしまい一人ぼっちになったオレは、勇者たちの功績を国王へ報告するため、出来るだけ戦いを避けながら、ただひたすら人族の王国を目指した。


 オレの”亜空間ストレージ”の中には、帰りに皆で食べるはずだった5人分もの食料が残されたままだったので、そのお陰で飢える事は無かった。

 たった一人でろくな休憩を取る事も出来ないまま、元々は料理の材料として購入したはずの食材を火も通さずにそのまま噛りながら逃避行を続ける。


 とにかく何を口に入れてもしょっぱくて不味い。


 それでも何かお腹に入れておかないと走る体力が持たないと考えて、泣きながら飲み込んでいくのは本当に辛い作業の繰り返しだった。


 荒廃した土地から段々と緑が増えて来た景色へと変わった事によって、ようやく魔族領から人族が統治する場所へと移って来たのが判る。

 行きは旅を急ぐ余り辺りの風景など楽しむ余裕が無かったのだが、人族が住むこの地は美しい大地だったのだとこの時始めて知った。


 魔王城へ向かっていた時、みんな誰一人として欠ける事無くこの道を戻って来られると信じていたはずなのに、今オレの周りに誰も居ないのは何故だ?


 確かに「約束」はしていなかった。


 オレが魔王城の大扉を開くのに手間取ったせいで皆が次々と生命を落として行ったのに、最後に生き残ってしまったのがオレだなんて、もう笑うしかない。


 今直ぐに追いかければ、まだ皆が待ってくれているような気がする。


 オレは何度も走っている足を止めて、腰から吊るしている短剣を手に取り自分の首にあてがってみる。このまま手前に引くだけで仲間の所に行ける。今ならまだ間に合うんじゃないか?


 オレのせいで仲間たちを失ってしまった自分が許せなかったが、勇者からこの後の世界の事を頼まれてしまったのをふと思い出し、そこからあと一歩を踏み出す事が出来なかった。


 止まっては考えてまた走り出す。走りながら考えたのはもう亡くなってしまった仲間たちとの新しく始まるはずだった生活のこと。


 「国王から報酬を受取ったら王都に皆で住める家を買わないか?」と言っていたのは勇者で、彼はこの旅が終わり皆と別れるのをとても寂しがっていた。

 オレたちの中で一番イケメンだった勇者だが、彼の3人居る姉たちから、これまで散々乙女心を教え込まれて育ったせいか、女性が近寄って来てもいつも迷惑そうにしているのを見て勿体ないな~と思っていた。

 彼と聖女は誰もが認める美男美女でお似合いの2人だと思うんだけど、誰に対してもズケズケと物を言う聖女の事は苦手だと零していた。本当に勿体ない。


 「私は王都に戻ったら聖女なんか辞めてお店を始めるの!」と瞳をキラキラさせて夢見る聖女に客商売が出来るなんて思えないし、そもそも彼女に在庫管理とかシフト管理などの概念は無い。

 尤もこのパーティの雑事とか帳簿管理をオレが進んでやってるから、これまで聖女に隠された本当の能力を発揮させる機会が無かっただけだと彼女は言うが……多分その通りなのだろう。

 聖女の額にあるはずの第三の目が覚醒さえすれば、彼女がこれまで苦手としてきたお部屋の掃除とか洗濯、それに料理と食後の片付けの他にも些細な繕い物などについてその実力を遺憾無くオレたちに見せつけてくれる事となるのだろう。いや、なってくれるはず。う~ん、なってくれるんじゃないかな。なって欲しい、頼む。


 オレは聖女が店を始めたら、彼女にとっ捕まる前に光の速さで王都から逃げ出す自信がある。その後はオレより素早さで劣るオレ以外の3人のうち誰かが聖女の店番として落ち着いた頃を見計らってから、何食わぬ顔で”いかにも”用事で仕方が無かったんだと言った感じで戻って来るつもり……だった。


 「私は騎士団でご厄介になろう」と言っていたのは、何だかんだと言いながら真面目で女にだけだらしない、それなのに妙に話の合う聖騎士の彼。

 こいつも勇者の隣に並んで立っていても見劣りしないくらいの美男子だが、勇者と違うのは”そっち方面の経験”がそれなりあって良く賢者と二人で相談相手になって貰った事かな。


 「私は魔術師団で新しい魔法の研究をするのです」元プログラマーだった賢者の彼は、こちらの異世界で魔法の解析とか術式の組換え実験が大好きで、オレたちには理解出来ない理論とか法則の説明を話始める事が多かった。

 一見するとクール系に見える彼の中には誰よりも熱い血潮が流れており、自分の中にある正義の為なら惜しみなく自分の生命すら差し出せる漢で、実際にそんな最後だった。 


 思い返せば楽しかった事ばかりなのに、思い出の一つ一つが涙で滲んでしまい、そのどれもがオレに生きろと言ってるような気がして、素直に「うん」と頷けない。


 みんなはもう居なくなってしまったのに、オレ一人だけ生きろって言うのか?


 オレがみんなから託されたのは魔王が居なくなった異世界の未来。


 魔王が居なくなったとしても、まだ魔王軍の残党を始め強力な魔族どもは生き残っている。だからオレがそいつらを全部倒して世界が平和になったら、オレもそっちへ行っていいよな?


 こうして王城まで辿り着いて仲間たちの報告を終えたオレは、早く次の戦場へと向かいたかったのだが、国王からの立っての願いで暫くの間だけここに留まる事にしたのがそもそもの間違いだったのかも知れない。


 その当時はまだ魔族との戦争が完全には終わっておらず、魔王との戦いで勇者が居なくなってしまった事が明らかとなれば、ようやく終わりが見えて来た戦争の火種が再び燃え上がるのでは? と指摘されて、亡くなった勇者の代わりにマスクで正体を隠して戦い続ける事となる。


 東で騎士団が窮地だと判れば直ぐに駆けつけて敵を殲滅した。


 西から隣国が侵攻して来たと聞けば直ぐに駆けつけて敵を殲滅した。


 南にある同盟国がテロで脅かされていると聞けば直ぐに駆けつけて敵を殲滅した。


 北へ派遣された部隊が敗北して魔術師団が危機に瀕してると知れば直ぐに駆けつけて敵を殲滅した。


 オレはただ、生命を掛けてこの世界を護った勇者たちの功績を無にする事が出来なかっただけなんだ。


 それはこの異世界へ召喚された時に、オレたちの事を大切に扱ってくれた国王からの願いでもあったので、勇者のフリをして彼らの名誉を永久のものにするために、少しでも力になれればと考えていた。


 だから国王からあんな無茶な契約の話を持ちかけられた時に、上手く立ち回る事が出来なかったのだろう。

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