第16話 初めての部下【1】
その日も王城内にある食堂では無く下町の飯屋で昼食を済ませたオレは、午後から自宅へ戻っても特にやる事が無かったので訓練場へと再び戻り、そこで素振りでもしながら夕方まで時間を潰そうと考えていた。
医療技術が発達していない異世界では平均寿命が短く、人族の社会だと35歳は立派なオッサン扱いをされるし、周囲(と行っても周りに親しい友人なんていないが)から見れば婚活リタイア組として扱われるのが常だ。
魔王討伐後最初の5年ほどを除けば実際に戦場へ駆り出される事態も極端に少なくなり、過去に叙爵も断っていたので管理する領地も無い。なので只ひたすら一人で自主練ばかりを繰り返して生きてきた。
だから普段から異性はおろか同性の友人すら出会う機会も無くこの歳に至ってしまったのだが、いつかトモダチの願いを叶える時が来るなら、たった一人で仲間も居ない今の状況は少しまずいかも知れないな。
そんなオレに転機が訪れたのはある日の事だった。
「ハルト殿。これより貴君には新たな部隊を率いて貰い、後進の育成をお願いしたいと言う王女殿下からの辞令をお渡ししておく」
いつもなら廊下ですれ違っても挨拶すらを交わした事の無い王城職員の男が、わざわざオレの所までやって来て辞令が書かれた信書を手渡してくれた。
そこには各騎士団から選りすぐったであろう優秀な若い従騎士たちの名前がズラっと書かれていたのだが、一人だけ有名人が混じっていたので踵を返して立ち去ろうとしていた職員の男を呼び止める。
「この方も若いが既に正騎士で隊長になってたはずだ。新人騎士の教育を任されるのは良いとして、この人を他の新人たちと一緒に鍛える必要はあるのか?」
「そうか、貴君の耳にはまだ聞こえていたかったのか、実は……」
オレが再確認をしたのはこの騎士が王国最年少で隊長に昇格した記事を読んだ事があったからで、その最年少記録を達成したのがまだ少女と読んでも良いほどの女性騎士だったとオレが馴染みにしてる飯屋でも少し話題になっていた。
それにその女性騎士は美しい容貌をしていたので「天が二物を与えた!」と新聞にはそう書かれていたみたいだが、彼女の実家が家柄の低い騎士爵だった事もあり彼女の隊長就任には騎士団内で物議を醸した。
彼女の昇格に反対していたのは彼女に一目惚れした貴族のドラ息子の実家である貴族家だったが、その貴族は国内でも有数の軍閥貴族で多くの寄り子を抱えており騎士団にも大きな影響力を持っていた。
報道された事実はどうあれ騎士団で物議となった本当の理由は彼女に振られたドラ息子の差し金だったのだが、新聞と民衆の後押しで隊長になった彼女に逆恨みしたドラ息子が手下を連れて襲撃して返り討ちにされた事件があった。
最初は学生同士のイザコザとして、王都学園の発言力を少しでも低下させたい者たちが面白おかしく書いた記事だったのだが、取材を進めて行くうちに返り討ちにされたドラ息子の実家がこの記事を書いた者たちを社会的に抹殺して問題の封じ込めを図った。
現在の王国ではこの手の事件のように力を持つ貴族によって法を無視した行いが日常的に行われているのだが、一度でも弱者だと思われた女性騎士が実力で上位貴族を負かした話が広がり、それは民衆の口を伝って王都に広がって行った。
その後でいくら貴族が地位と権力の他に大金まで積んで火消しに回ったとしても、全ての人の口に戸を立てる事は出来なかったみたいだな。
ただしこの事件が有名になり過ぎて王族の耳に入ってしまい、例のドラ息子は謹慎処分となり、それ以降は女性騎士に嫌がらせをする者は居なくなったらしいが、過去に上位貴族と問題を起こした彼女は騎士団内で腫れ物のような扱いを受けるようになっていく。
そして、そんな彼女が率いた小隊だけが最前線で突出してしまい、運悪く敵軍に囲まれて全滅してしまうのだが、そんな状況で彼女一人だけが生還してしまう。
これは以前にこの女性騎士に痛い目に会わされた上位貴族の他に元々から”女”が隊長になる事を毛嫌いした騎士たちも加わり、隊員を犠牲にして自分一人だけ生き残った彼女に対して騎士団からは極刑を求める声明が出された。
そんな時、この国の王女殿下がこの話を聞きつけて騎士団までやって来て、この女性騎士から直接話を聞き彼女の無罪を認めた為、それ以降はこの話が蒸し返される事は無かった。
だが問題はここからだ。
件の女性騎士は利き腕を負傷した際に右手首から先を切断されており、王宮に勤める治癒術師でも彼女を身体を元通りに完治させる事は出来なかった。
それでもその女性騎士は実家に戻る事を良しとせず、残った左手も腱が切れてるほどの重傷だったが今は何とか物を握れる程度までは回復したらしく、これからリハビリを行うと同時に訓練も行い、再び騎士として戦えるようになりたいと彼女が望み、その願いが王女殿下によって叶えられたと言うのがオレに新たな部下が配属された経緯だった。




