第12話 王女誘拐事件【2】
幼い時に「死にたくない」と願った事でそれが結果として自分の”死”を確たるものにするなんて、本当に酷い”恩寵”だと思いました。
もしかしたらこれはそんなに尊いモノでは無くて、いっそ”呪い”とでも呼んだ方が私の中ではりっくり来るのですが、もう引き返せない過去をいつまでも悲しむよりこの国のために私の命が役立つ事を喜ぶべきでしょうか。
あの日、私が先代国王陛下からあの方の事を託されてから、もう十年もの月日が経っています。
かつて陛下の”トモダチ”だったあの方がいつまでも泣きやまない私を、どうして良いのか判らずに困っていたのでしょうね。
今から思えば自分と同じように陛下に涙した私の事を”センユウ”と呼んで下さったのですが、私がその意味を知るのは後年のこと。
そう言えば”センユウ”になってから同じ王城に居るはずなのに、なかなかお逢いする機会に恵まれないのはきっと父上のせい。
もし私に兄上が居てくれたらこんな感じだったのでしょうか? なんて悠長な事を考えている間も、私が乗っている馬車を護衛して下さる騎士の方たちが必死に戦ってくれているのに不謹慎なのは重々判っています。
でも今回のこの騒ぎによって私を護衛する騎士たちは多少のケガをされる方は居られるでしょうが、予めこうなる事を知っていた私は騎士たち全員にフル装備で来る事を指示していたので重傷者や死者は一人も居ないはず。
そしてあと数秒もすれば御者をしてる女性騎士がこう言います。
『カティア殿下、このままではもうダメです! どうかお覚悟を!!』と。
そして目を閉じてカウントダウンを始めた私に、御者台にある小窓を開けて御者を任されていた女性騎士が顔を見せる。
「カティア殿下、このままではもう……」
「大丈夫です、もう覚悟は出来ていますのでどうかこのまま進んで下さい」
その覚悟なら一週間前から出来ています、あの方にお逢いする覚悟が……。
私の”恩寵”は自分の未来だけは決して見る事が出来なかったのですが、今から一週間前のこと、いつものようにあの方の未来を夢で見ていた私はあの方が私を探しに来てくれる場面を見つけてベッドから飛び起きたのです。
それは王都にある学園の同級生だった伯爵家令嬢の誕生パーティから帰る途中のことで、私が乗った王家の馬車が襲撃されて貴族街の通りを王城へ向けて駆け続けている時でした。
もっと正確に言うなら、最初に襲撃だと知らされてからキッチリと九分二十五秒後で、そしてそれはあと数秒後の未来。
それとこの私を救い出した功績によって、あの方が居る訓練場へ出入りする許可が出るはずですから、そうなればあの計画を一気に押し進める事が出来ますね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「カティア無事か?」
オレは馬車に群がって来る暗殺者どもの心臓を片っ端から盗んで回り、見える範囲に敵が一人も居なくなったのを確認してから、まだあどけなさの残る戦友の安否を確認する。
「はい、カティは大丈夫です!」
「どうしてこんな国外がゴタゴタしてる時に、たったこれっぽっちの護衛でパーティなんかに出ていたんだ? もしお前の身に何かあったらオレがリチャードに呪われるだろ?」
「おい! 貴様! 殿下に対して何だその言葉は!! ま、まさかリチャードとは先代国王陛下の事ではあるまいな!?」
「良いのです、お黙りなさい!」
背後からやって来たその騎士たちは騎乗するにも関わらず、身につけた鎧は重装歩兵のそれであった。なるほど、これならカティアが乗る王族専用の馬車に置いて行かれる訳だ。
それに騎士たちもまさか王都のド真ん中、それも貴族街と呼ばれるこの場所であれほど多くの暗殺者どもが挙って押し寄せてくるなんて思いもしなかっただろう。
それにこの騎士たちの救援が遅れてオレが救いに来なくてはいけない場面を作り出すためだけに、きっとこのお姫様は自分の護衛たちに重装備で馬に乗れと命じたようだった。
そして助けに来たオレが騎士達に誰何される事まで予め知っていて、自分の護衛しか居ないこの場所でオレが先代国王のメダルを持つ契約者だと明かし、今後の交流をやり易くするところまでが今回の彼女の筋書きだ。
彼女の姉のパメラは今もオレを怖がって近づいて来ないが、リチャードが亡くなってから生まれた彼女の妹のエスティナは時々訓練場へ顔を出すくらいには懐いてくれてる。
カティアたち姉妹にとってリチャード王から後見を頼まれたオレは、歳の離れた兄妹みたいなもので、現国王陛下と長女殿下を除けば王妃様と二人の妹たちとは良い関係を築けていると思ってる。
カティアは大好きだったリチャード王にオレの事を頼まれたようで、小さな頃から王族の代表としていつもオレの事を気にかけてくれる。
オレはこの小さな保護者に対してリチャード王と同じくらいの友情を感じていて、彼女には共に友達を悼んだ”戦友”として、この国の未来を守るため一緒に戦って行くつもりでいる。
騎士たちの前に颯爽と現れ、そして颯爽と去って行こうとしていたおれを背後から呼び止めた彼女が、これからはオレが居る訓練場へ時々遊びに行っても良いかと聞かれたが、カティアの後ろに並んでいた女性騎士たちがとても嫌そうな顔をしていたので、笑顔で「オッケー!」と言ってやった。
ただこの話には後日談があり、この襲撃事件の後も更に色々あってカティアの後ろに居た近衛騎士たちからは蛇蠍のように嫌われるようになり、そして事ある毎に無実の罪で追いかけ回される事になるのだが、もしこいつらを死なせたらカティアが悲しむからなかなか本気を出す訳にもいかず、彼女たち近衛騎士の鎧姿を見かけたらとりあえず姿を隠すくらいの親しい(?)関係となっていく。




