第11話 王女誘拐事件【1】
SIDE:賊のリーダー
馬車を追う賊たちの人数が想定よりも遥かに多く動員されたのは、シナジア教国からの婚姻の申し入れを断った小娘に正義の鉄槌を下すためで、かの女は恐れ多くも次期教皇とも目されている枢機卿に見初められ、栄えある愛妾の一人として迎えられる栄誉を提示されながらも素気なく断って来た暗愚の姫君だった。
シナジア国内であれば誰であろうと喜んで受諾するはずなのに、唯一神を信仰する心が無い者は例えそれが他国の王族であろうと決して許される事では無い。
今回の作戦では枢機卿のお力添えによって、我々は精強揃いと噂に聞く敵国の護衛騎士たちに対して三倍もの暗殺者をこの街に送り込む事が出来ており、その上で王都の守備隊をこことは違う場所へおびき寄せる策まで準備してから事に及んだ。
結果として守備隊をおびき出す為の花火には失敗したが、それでも目の前を王家専用の馬車が通り過ぎて行くのを見て、このまま黙って逃がせるはずは無かった。
先に逃げ出した貴族どもが街の衛兵どもを連れて戻って来るまで多少の時間は残されているはず。
いくら護衛の三倍もの人数を投入したとしても、そこに守備隊が加わればこの襲撃が頓挫してしまう可能性が出て来る。
この作戦は我が国にとって”聖戦”だと枢機卿猊下が仰ったのは、近い将来に教皇と成られる猊下のお子を授かる母体を確保するためで、それは結果として次世代の教皇をこの世界のお迎えすると言う事に繋がるからだ。
だからどれだけ被害を受けたとしても、必ずや暗愚の姫を保護して本国まで送り届けなくてはならないのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
SIDE:カティア
いつも王城の中にいる私がいくら王都学園の知人だからと言っても、これまでなら伯爵家程度のパーティへ直接赴く事はありません。
だけど今夜のパーティだけは絶対に出席したい理由があったのです。
あの日、いつも私と姉上を可愛がって下さっていた先代国王陛下であらせられる叔父上と最後のお別れをしたのですが、その後で私たちが寝室から出るように言われたのは陛下がたった一人の”トモダチ”と言う方との面会を望まれたからでした。
私は大好きだった陛下と引き離される事となったその方に対して、最初は決して良い印象を持っていた訳ではありません。
お父様とお母様はその後直ぐに別の部屋へ行ってしまわれたのですが、私の手を握ってくれた姉上と私の二人は廊下に残ったまま、陛下が居られるお部屋の扉の前で呼ばれるのをずっと待っていたのです。
私は陛下の”トモダチ”が誰なのか興味があったので、その人が来たら絶対に会いたいと思っていました。
それなのにいつまで待っても、ここには誰もやって来ません。
私は陛下の”トモダチ”がもう来ないかも知れないと思い、先の言いつけを破って部屋の中に入ろうと思いました。
確かに私は後で怒られる事になるでしょうが、それでも陛下の近くに少しでも居たいと幼かった私は我慢する事が出来なかったのです。
そして扉を開けようと思った瞬間、私は部屋の中から呼ばれた気がした。
「陛下、カティです。アタシはここに居ます」
その部屋の中には一人の少年? にしては少し大人びた、それでも大人とお呼びするにはまだ若い男性が私に背を向けてベッドの近くに立っておられました。
「カティアよ、よく聞くのだ。そなたが見た破滅の未来はそこに居る儂のトモダチが必ず何とかしてくれるはずだ。だから儂が逝った後はそこの頼りない男の事を頼んだぞ」
「はい……リチャードおじさま……」
いよいよお別れの時が来てしまいました。
私の”恩寵”はいつも知りたくない事まで教えてくれる。
私が泣きながら顔を上げた時、その方も一緒に泣いて下さいました。
私が見た未来でもこの方はきっと一緒に戦ってくれる。そう思った時、私はあの約束された破滅の未来がやって来ない事を願った自分に後悔の思いを抱いた。
何故なら私の願った幸せな未来が叶う時、私はこの世から居なくなってしまうから。




