第10話 世界大戦の頃【2】
【脳内シミュレーション】
建物内にはさっきやって来た下っ端を含めて六名の賊が居るが、オレはこの時既に一階台所の窓から侵入を果たしており、足音を消して賊が集まっているリビングへ忍び寄って爆発物の報告に来た下っ端とその報告を聞いていたリーダーの男を確認する。
顔と声さえ覚えておけば、この後直ぐにあの部屋へ突撃しても間違って殺してしまうミスを防げるからな。
賊の一味もまさか自分たちの背後から、しかも誰も居ないはずの台所から見知らぬ男が音もなく飛び込んで来るなんて思っておらず、まだ迎撃姿勢を取っていない間に一番近い二人を処理してから、その瞬間こちらを察知して振り向こうとした手練の心臓へ一閃する。
そしてまだ自分の目前で何が起こったのか理解出来ていないであろう雑魚の頸動脈もサクっと斬り飛ばして、その段階になって漸くオレに反撃しようとナイフを抜くリーダーに向けて雑魚を胸から蹴り飛ばしておけば、心臓に加えられた衝撃で雑魚の首から血飛沫が舞う。
その血液でリーダーの男の目を塞ぎ、その一瞬でやつの視界から姿を消して背後に回り込み延髄の辺りを強打すれば失神させる事が可能だろう。
後はこう言った経験が無さそうな下っ端の処理だが、こいつ程度なら何も出来ずにその場でブルブル震えているしか出来ない素人だ、手を下すまでもない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
……なんて手間を掛けていたあの頃が懐かしい。
オレはそのまま階段で下のリビングへと降りて行く。
するとそこには先ほど感知していた通り六名の男たちが居て、オレが武器も持たずに歩いてきた事を訝しく思っている顔をしていた。
「貴様、何者だ?!」
まるで街中を気軽に散歩してるかのように殺意も無く普通に近づいて来たオレの事を、もしかするとオレが同じ組織の者でまだ顔を知らされていない仲間と考え、無闇に攻撃するのを控えてるのだろう。
「先ずはお前、そうお前だ。お前にはこの街に仕掛けた爆発物の場所を教えて貰おうか」
「そ、組織の者じゃないのか?!」
確かにオレも知らないやつから見ればお前達と同じ犯罪者扱いされる事が多い”盗賊”だが、オレはお前たちとは違って人畜無害な盗賊なんだよ。
だからお前たちのように誰かを拉致したり無差別殺人をするのは戦場だけと決めているし、これまでその誓いを破った事はない。
「ぶ、武器が、知らないうちに武器が消えてるのはお前の仕業か!?」
オレが仲間ではないと直感した手練の男が腰に吊るしていたはずの剣に手を伸ばしたが、そこに慣れ親しんだいつもの感覚が無い事に気づきオレから目線を外したのがこの男の運の尽き。
オレがその手練っぽい感じの男に手を向けると、言葉を発する事もなく崩れ落ちるようにして床に倒れてしまった。まぁ、いきなり心臓を盗まれて生きていられる奴なんて、ほんの一握りしか知らないからな。
「今何をした!! こいつ魔術師なのか?!」
確かにオレは賢者から受け継いだ無詠唱魔法なんてチート能力も使えるが、お前たち程度のクズを相手に賢者の力なんて必要ないだろ?
「は、早くこの男を取り押さえろ!!」
今頃何を言ってるんだ? オレの姿を見た時、もうお前達六人の人生なんてとっくに終わってるのが判らないのか。
お前たちが生かされてるのは爆発物を仕掛けた場所と爆破する時間、それと念のため今回のターゲット及びその襲撃目的を聞くため。それだけだ。
それだけ聞いたらもうお前らに用は無いから、お前たちがこれまで多分そうして来たように、ここで命乞いをしても無駄だと知らしめてから絶望の中で最後を瞬間を与えてやろう。
今床に倒れている四人は彼らが話していた言葉にリョハン訛りがあり、あの国独特の人相をしていたのでこれ以上調べる必要は無い。
リーダーの男は言葉だけ聞いているとこの国の者だと思ったかも知れないが、やはり目元の辺りがシナジア人特有のそれであり、これでこいつらの組織がどの国に所属しているかなど聞く必要が無くなった。
「待て、殺すな。何が目的なんだ?」
「爆発物を仕掛けた場所とそれを起爆する時間はいつだ?」
「言う、言うからそれ以上こっちに来るな……いや、来ないでくれ」
こいつの母国であろうシナジア教国が世界でも有数の国土面積と人工を誇りながら、他の大国に正面から戦いを挑む事が出来ないのはその国民性にある。
それは相手より大勢で有利な時は平気で脅して一方的に虐殺するほどの荒い気性を持ちながら、その反面で一旦不利になると直ぐに逃げ出すメンタルの弱さを併せ持つに至ったのは、かの国の民がこれまでの歴史でお互いを信じて来なかったから。
彼らが心の拠り所にしているのは唯一神のみで、その神すら自分たちが民衆を支配するための道具にしてしまった瞬間から、あの国の未来は決まってしまったのだろう。
こうしてオレはこのリーダーの男が知ってる事を聞き出してから始末し、今度は連絡役をしていた若い男を引き連れて建物の外へ出る。
この男と言っても見たところまだ成人したばかりに見える。
こいつだけはヒュベリオン王国の出身で同時に貧民街の者だと直ぐに判ったが、いくら貧しくても敵国から僅かな金を受け取り同じ国に住む者たちに危害を加える片棒を担いでいたのは立派な犯罪行為だ。
まだ学園へ通っていてもおかしくない年齢なので他国の手先として使われたので無ければ、子供として見逃してやっても良かったが、犯した罪が外患誘致罪ではそうする訳にも行かない。
今こいつを見逃せば、過去を理由に強請られてまた同じ罪を繰り返し、救えたはずの多くの生命を失ってしまうかも知れないからだ。
街に仕掛けられた爆発物は全部で四つ。
こいつの話が本当なら、シナジアが用意した爆発物は元の世界でもこれと似たモノがあり、それは「圧力爆弾」と呼ばれるシロモノだった。
この異世界にも硝酸アンモニウムや軽油と似た成分の物質があり、それらはある程度の規模を誇る組織であれば簡単に手に入れる事が出来る。
これは金属製容器の中に予め炸薬と金属片を仕込んでおいて外部から真管に火を付ければ、内部で急激に膨張した圧力が金属製容器の限界を超えた時、破壊した容器と一緒に内部の金属片を周囲数十メートル以上の範囲に渡って巻き散らすと言った、お手軽で強力な爆弾だ。
この異世界には魔法があるのにわざわざこの手の爆発物を使用するメリットとしては、魔術のレベルが低くても小さな火を起こせる程度の魔力さえあれば、遠くから起爆させる事が可能だし、素人を使って狙った相手を確実に死傷させる威力を持つ非常に使いやすい物だと言えるだろう。
若い下っ端を連れて四つある爆発物を全てストレージに収めた後、震えながら失禁していたこいつの右膝から下を斬り飛ばしてやった。
男が激痛で叫んでも近くの住人たちが起き出して来ないように、周囲には防音結界を張ってある。
最初は生命を奪うつもりで連れて来たのだが、片足が無ければもうテロ活動に引っ張り出される事は無いだろうが、普通に生きて行くのも難しいこの異世界で、それでも諦めずに生きてくのならそれがこの男の罪滅ぼしになると思ったのだ。
オレは気を失って倒れている男の右膝に治癒魔法を掛けて止血を行い路地に放り込んでから、例のブルームバーグ伯爵家へと向かった。
最初は爆発物だけ回収して襲撃されるお貴族様なんて放っておくつもりだったんだが、そのターゲットが友達の家族で”戦友”だと知れば助けに行かない理由がない。
せめてそのナントカ伯爵の家へ一度でも訪れていたら一瞬で転移出来たのだが、この国の貴族連中とは敢えて交流をして来なかった過去が少しだけ悔やまれる。
場所についてはリーダーの男から聞き出したので大凡の場所は判っているのだが、瞬間移動に慣れてしまったこの身体には、もう音速程度の飛行速度では遅いと感じてしまう。
上空から探していると、その場所は直ぐに見つける事が出来た。
いくら待っても平民街の方から火の手が上がらず、決行しようか迷った上で襲撃を決断したのだろう。
貴族の屋敷から護衛を置き去りにして逃げ去って行く馬車がいくつもある中で、たった一つの馬車だけを執拗に追いかけてる怪しい一団を見つけた。
あの場所から元の貴族屋敷へ戻るには馬車を回頭させる必要があり、それくらいなら護衛たちを盾にしてそのまま駆け抜ける決断をしたのは順当な判断だが、あの馬車が向かう先を予め知ってる賊の仲間どもがそのルート先で待ち受けてる可能性は高い。
それでも正面突破が出来ると考えてその判断をしたのなら、ある意味では正解だ。だってあの馬車には、今夜この場所にオレが来る事を知ってるヤツが乗ってるはずだからな。
ただ少し気になったのは、このオレですら予定していなかったオレの到来を予見出来るのなら、自分の身に危険が迫る事も知る事が出来ていたのではないかと思うが、彼女がもつ”恩寵”にはその手の能力にありがちな『自身の未来だけは覗けない』と言った制約があった。
国外では既に列強国時代へと突入しているこの時期に、決して多くはない護衛たちをつれて貴族のパーティなんかに呼ばれるからこんな事になるんだと、一度きつく言っておくべきだろう。




