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オッサン勇者、実は盗賊?!  作者: としょいいん
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第1話 魔王大戦の頃

勇者パーティの一人として異世界召喚された主人公。最近の流行りではパーティメンバーたちにイジメを受けたり虐げられたりするのがテンプレですが、今回は勇者を始めとする仲間たちに温かく迎え入れられた盗賊職の男の話です。また、最近では勇者が魔王と戦うシチュエーションもほとんど見る事が少なくなって参りましたが、この物語では昔ながらの古き良き魔王VS勇者の戦いを描いてみようと考えていますが、結末は……?

「ハルトお願い、私の想いを奪って……早く、手遅れになる前に……。私の力でみんなを助けて……あげて……」


 ここは魔王城の一階。


 オレは勇者パーティの一人として今ここに居る。オレの役目はこの城の最上階にある魔王の間までの大扉を全て解錠し勇者を魔王の元へ送り届けること。


 そして今、解錠に思ったより多くの時間が掛かってしまい、作業中で動けなかったオレを庇った聖女が命を落とす。


 聖女なら自分で直せば良いと思うだろうが、暗黒属性の呪いがかけられた槍で心臓を貫かれた状態でまともに意識を集中する事が出来なくなった彼女は、自分の生命がもう助からないと考え、力尽きてしまう前に自分の”祝福”をオレに引き継がせるため、今にも消えてしまいそうになる意識を必死に繋いでくれていた。


 オレたちはまだ魔族の兵士どもに周りを囲まれているが、勇者、賢者、聖騎士の3人が今も決死の防衛戦を続けている。


「ハルトまだか!? これ以上はもう持たないぞ! 早くしてくれ!!」


 オレは二階へと続く大扉の前で聖女の胸に手を翳して彼女のスキルを盗んでから、今まさに生命の灯を失い、床に倒れた聖女の身体をそのままに最後の解錠作業を終える。


 大きくて重い扉が「ギィ~」と不快な音を立てて開き始める。


 オレたち4人は魂を失った聖女の亡骸が光に包まれて消えて行くのを見届ける時間さえ惜しんで、開きかけた大扉の向こうを目指して、その中へと飛び込んで行く。


 そして今度は三階の大扉前で魔族四天王が現れ、オレたちを取り囲んでここで始末するつもりらしい。


 これまでより更に強力な敵の出現にオレたち勇者パーティは必死で防戦し、オレの解錠作業に必要な時間を稼いでくれているが、扉の解錠には一定時間を置かないと次の作業に掛れないクソみたいな仕様が組み込まれていて、これは解錠される事を前提にここで時間を引き伸ばし、その間に侵入者を始末する設計思想なのだろう。


 ここでもそれなりに時間が掛かるオレのために、そして勇者と賢者の力を温存するために、たった1人で敵中へ突撃し敵の四天王と刺し違えた聖騎士が床に倒れた。


「ハルト、悪いが私はここまでだ。最後まで皆と共に行きたかったがもう身体が動かん。せめて私の剣だけでも持って行ってくれ……たのむ……」


 オレは勇者と賢者が敵を阻んで作ってくれたスペースまで聖騎士の身体を引きずって、彼の胸に手を翳して聖騎士の”祝福”を盗んで受け継ぐ。


 その時点になってから、やっとオレたちの行手を阻んでいた大扉が開き、その先へと進む。


 聖女の時より状況が切羽詰まっていたのは聖騎士の彼が光に包まれるまで待つ時間すら無かった事で、オレはいつかまたこの魔王城へ舞い戻り亡くなった仲間たちに花を手向けたいと思った。


 次の四階では魔王四天王を失った魔族軍が決死の総攻撃を仕掛けて来たが、またも行き止まりとなっている廊下のつきあたりで五階へと続く大扉の解錠をしていたオレを守るために、今度は賢者の彼が獅子奮迅の活躍を見せる……が、彼の目からは血の色をした涙が流れている。


「魔力なんてもうとっくに尽きてます。それでも君たちを先に進ませる為にはここで生命を張るしか方法が無かった、それだけの事です。この先にある最後の大扉を開ける為には盗賊の貴方を失う訳には参りませんからね。さぁ、せめて私の魔法だけでもお持ちなさい。まだ魔力が残ってる貴方なら私の魔法はきっと役に立つはず……です……」


 廊下の向こうから魔王軍の第二波が押し寄せて来るのが見えた時、オレは力尽きようとしている賢者に駆け寄って彼の胸に手を当て彼の”祝福”を受け継ぎ、五階へと続く最後の大扉を開けて勇者と共に魔王の玉座を目指す。


 たった2人だけになってしまったが、魔王が待つ玉座の間へ向かう途中で勇者の傷を聖女の力で癒やし、聖騎士から託された聖剣を持ち、賢者の魔法で周囲にシールドを張りながら長い廊下を進む。


 そして玉座の間へ到着したオレは勇者と共に魔王に戦いを挑んだ。


 ここまで来ればオレも残った力を全て使い切るだけだ。魔王さえ倒せるならここで死んでも構わなかったので最初から全力で行く。


 今のオレに取って”死”とは決して恐れるものでは無く、ここへ来る途中で散って行った仲間たちが待つ花道でもある。

 それに死ぬのが早ければ早いほど待ってくれてるはずの皆に早く追い付けるとさえ考えていた。


 オレたち皆の力でこの場所まで送り届けた勇者の力は凄まじいものだった。


 魔王が持つ絶対防御の結界を女神の”祝福”と手にした聖剣で易々と打ち破り、回復不可能なダメージを確実に蓄積させて行く。


 魔王が呼び出す眷属どもの相手はオレが一手に引き受ける事になるのだが、敵が召喚される魔方陣の上に賢者特製の爆裂魔法を重ねておいて、敵が出現する瞬間に合わせて次々と吹き飛ばしてやったので室内が血飛沫と肉片で酷い状況になってる。


 魔王が放つ全体攻撃魔法は聖女が遺してくれた聖属性の防御魔法と勇者が持つ女神の結界がダブルで防いでくれるから、こちらが一方的に有利なワンサイドゲームとなっていく。


「余は作戦を誤ったようだ。最初に倒すべきは盗賊のそなたであったか。だが我もこの異世界を滅ぼすべき宿命を負わされた者。この命、決して安くはないぞ。せめて貴様ら二人だけでも道ずれにしてくれる」


 最後に魔王が使ったのは”対消滅”と言う能力だった。


 これは魔神の使徒たる魔王が自身の存在を触媒として勇者をこの異世界から消し去る捨て身の力。


 その瞬間からこの玉座の間を中心に世界を揺るがすほどの空間崩壊が始まり、このままだと異世界そのものを飲み込んでしまうほどの破滅の力を、勇者が自身の存在を掛けて創り出した聖なる光で中和させる事によって、この量子レベルの崩壊を防いで行く。


「ハルト、ここでお別れだ。それで僕たちが消えた後の世界を君に託したい。この崩壊が終われば僕は消えてしまうけど勇者の力をここで失ってしまう訳には行かないから判ってるよね?」


 こうして量子崩壊を食い止めた後、徐々に対消滅の効果によって存在が薄れて行き今にも消えそうな勇者に手を翳し、彼が持つ勇者の”祝福”を受け継いだ。


 ただ既に魔王の力と合わさった状態になっていたので、勇者の力だけを盗む事は出来なかったが……。

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