私メリー。今、もだもだしている男女の片割れの背後にいるの
『私メリー。今、駅のホームにいるの』
『私メリー。通話無視にもへこたれない、私強い』
『私メリー。今、ショートヘアーの女の子の背後に回ったの』
『私メリー。今から、気になっている男の子に対して素直になれない女の子の背中を押そうと思うの』
「まじで!?」
『私メリー。食い付きがえぐくて、どんびいてるわ』
うるさいな。しょうがねえだろ、僕のバリバリ就業時間中に電話かけてきた方が悪い。なんなら、仕事終わりに即座に反応してもらったことをむせび泣いて喜べ。
『私メリー。調子に乗るな』
僕が座っていた椅子が、ガクンと傾いた。
こわ、ポルターガイストじゃん。椅子弁償してくれんの?
「スペックよろ」
『私メリー。あなたの心臓、毛が生えまくってるのかしら? スペックは、呪いの菊人形、年齢74歳、チャームポイントはえぐれた左目よ』
僕が知りたいのはその男女のことであって、お前のスペックは聞いてねえんだわ。菊人形なのかよ、メリーさんって名前が付けられることねえだろそれなら。
あと、意外と歳くってんだな。
『私メリー。不快な気配がしたの』
僕の目の前の床がへこんだ。
なんかもう、メリーさんじゃなくてそういう怪異みたいだな。
『それで、電車がホームに入ってくる直前に背中を押そうと思うの。私メリー。』
「名乗りっていうアイデンティティ失おうとしてるんじゃねえよ。 そんで、その背中を押すっていうのはどっちで???」
物理なの?
精神なの?
話が変わりすぎるんだが。
『私メリー。あなた、私がそういう都市伝説ってことを知らないのかしら。もちろん、黄色い線の外側に、よ』
忘れてた、メリーさんって物騒な都市伝説だったわ。
…………いやいやいや、物騒さのジャンルが違うだろ、もっと陰湿なタイプだろお前一瞬納得しかけたわ。
『そして、白線の内側で絶妙な角度でよろけさせて、男の子の方に支えさせるの』
「天才か?」
『私メリー。今さら気づいたのかしら』
顔は見えないけど、ドヤ顔してることは良く分かる。片目えぐれてるらしいから、可愛らしさはないだろうが。
『ということで、えーい………………あ』
怒号、車掌さんを呼ぶという声、叫び声。
『私メリー。 てへぺろ☆』
「なにやったんだよ!?」
『おっさんの方に女の子をぶつけちゃって、痴漢冤罪が成立しかけたけど本当に盗撮していたおっさんだったことが発覚する騒動を引き起こしたのは、私メリー』
訳わかんねえよ!
てへぺろ☆で誤魔化せねえレベルのややこしい奇跡を引き起こすなや。
『私メリー。結果オーライ、女の子は男の子に抱き寄せられているわ』
「何よりだよ!」
『私メリー。ということで、ハイチーズ!』
同時に脳内に流し込まれる知らない映像……映像って言い方で良いの?光景?
そこには。
銅像と。
おかっぱ頭の女の子が。
はにかんでいた。
……うん。
うん?
うん。
「幼馴染みって怪異同士だったのかよ!?」
『私メリー。これで、学校の七不思議同士に新たなCPが生まれたわね。そう、二花よ』
カプっていうなや。
あと、お前ら気軽に電車に乗んなビックリする人がいるだろ。
『私メリー。私たちはあなたたちから生まれた存在。文明の恩恵に預かれるのも、道理というものよ。確かに私たちは、改札すらも欺く存在ではあるけれど』
「欺くな。運賃払え」
『私メリー。次を呪いにいかなきゃならないから、切るわね』
ツーツーという音。通話を強制終了しやがった。
にしても、盗撮魔のおっさんってまさかトイレの花子さんの盗撮したのか?その写真別のジャンルの好事家に高く売れそうだな。
僕 わりと人の心がない
メリーさん フランス人形が捨てられる系の出来事が最近少なくて、もっぱらニチアサヒーロー系の姿の仕事が増えている