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二枚目 トウア

 『貴族学園』に行きたい。


 7歳のあの日、助けてもらったおかげで目標を持つ事ができた。がんばって勉強して『貴族学園』に入学すること。平民の私にとってとてもとても難しいことだとはまわりの大人に言われてわかっている。それでもがんばろうと決めた。


* * *


「きゃっ…」 べちん。


 おつかいに行く途中、小さな段差につまづいて転んでしまった。あわてて起き上がったが、膝がじんじんした。見るとうっすら血がにじんでいる。グッと痛みをがまんして先へ進もうとしたのだが、手に持っていたはずの袋がなかった。上部をひもでしぼった巾着タイプの小さな袋。そこにはお金が入っている。

 きょろきょろ辺りを見回すが、見当たらない。


「なんでないの…」


 しばらく探しても見つからない。膝の痛みも合わさって涙が出そうになる。


「こんにちは。何かさがしているの?」


 ビクッと体がはねる。探すのに夢中で人が近付いてきているのに気付かなかった。


「驚かせてごめんね。あれ?怪我してるよ」


 話しかけてきたのは同じくらいの年齢の男の子。ただとてもキレイな服を着ているし、後ろに侍女らしき人もいるので貴族様なんだろう。なんで平民に話かけたりするのかわからない。しかも姿勢を低くしたりするなんて信じられなかった。


「え?そんな…大丈夫です」

「うん。でもお洋服に血がついたら大変だよ」


 わからなさすぎて、少し怖くなる。何が不敬になるのかわからずに動くこともできない。

 すると、怪我をしている膝に真っ白でキレイなハンカチを巻いてくれた。見たこともないようなキレイなハンカチ。自分の洋服などよりよっぽど高価そう。とにかく、はじめてのことばかりで頭が真っ白になっていた。


「あ、もしかしてこれかな」


 近くの街路樹にジャンプすると、その手には探していた巾着を持っていた。下ばかり探していても見つからなかったわけだ。


「これ、あなたの?」

「はい!」


 よかった!と思わずすごく大きな声を出してしまい、恥ずかしくなる。でも男の子はにっこり優しい笑顔を返してくれた。なんだかキラキラして見える。


「よかった。気をつけてね」

「ありがとうございました」


 しっかりと頭を下げる。男の子はにこにこしたまま去って行った。しばらく放心した後、おつかいを思い出してあわてて向かった。



 * * *


 しばらく経ったある日、助けてくれた男の子を街で見かけた。ハンカチを返さないと!と追いかけようと踏み出した時、誰かにぶつかってしまった。


「おっと、あぶないよ」

「も、もうしわけありません!」


 学園の制服を着た二人の少年だった。平民学園には制服がないので、貴族学園の学生で間違いない。ということは貴族だ。どうしよう。


「大丈夫だよ。俺は貴族じゃないよ。こっちのこいつは貴族様だけどな。ぶつかったのが俺でよかった」

「なんだよそれ。やめてくれよ」

「?」


 不思議な顔で見ていると、貴族学園に平民ながら特待生として通っている少年と貴族の友人なのだという。

 もし、自分も特待生として貴族学園に通えたら、あの男の子とも友達になれるかもしれない。興味深々に話を聞いていると、少年達は親切に説明をしてくれた。毎年、何人かは平民の生徒が入学していること。学力が求められるが特待生になれば授業料免除で制服も支給されることなど。


「私も入りたいな…」


 思わずつぶやいた言葉に、なぜか少年が面白そうな顔で理由を聞いてきた。


「助けてくれた貴族の男の子と友達になりたいから」


 それにたくさん勉強できそうだ、と続ける。


「よし!じゃ、俺たちが勉強教えてやるよ。な、エドワード様」

「は?僕もなのか?」

「だって俺たち教員目指してるだろ?練習になるじゃん」

「それはそうだが…」


 あれよあれよと言う間に、毎週一回一時間勉強を教えてくれることになった。お下がりの子供用教科書などももらえたことで、家でも勉強することができた。はじめは反対していた両親も、一度だけなら挑戦してもよいと許可してくれた。


 少年達には卒業するまで、ということで一年も教わることはできなかったが、平民の少年は時々様子を見にきてくれた。トウアは真面目に勉強を続けた。

 後に彼らはそれぞれ貴族学園と平民学園の先生になったのだと聞いた。本当にうれしかった。


 目標ができたことで、毎日が変わった。平民であることに疑問もなにもなかったため、不満もなければ向上心もなかった。家族のために手伝いをしてただ過ごしていくだけだった。勉強をして考えるようになると、作業の効率化を工夫したり買い物でもお店の人に交渉することができるようになった。充実感を感じることができると益々勉強が楽しくなった。


 そして


 貴族学園に合格した。



 ハンカチの男の子のことは時々見かけていたのだが、ハンカチを返すことはできなかった。

 自分にとっての御守りであったし、持っているだけで力をもらえた。学園に合格してその時に返すのだと、それをずっと夢見て……




 


読んでいただきありがとうございます。


こっそり攻略対象のエドワードと出会っています。

学園で再会した時のことなど、また書けたらと思っています。

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