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一枚目 サミュエル 2

続きです。

少しだけBL風味なので、お嫌いな方は気をつけてください。

 ハンカチのお兄ちゃんに会いたいな。

 僕のことを覚えていてくれてるかな。


「早く会いたいなぁ。でもまだ会いに行っちゃダメだって。もっとお勉強して、身体も大きくなってからでないとお外に行けないや」

「でしたらしっかりお勉強なさらないと。会った時にほめていただきたいのでしょう?」

「うん。コーレナちゃんにも紹介するからね」

「楽しみにしていますわ」


 過保護にしすぎて子供たちのお茶会にも参加していなかったサミュエルにとって、婚約者であるコーレナが唯一の同世代の話し相手だった。

 しかし、毎回こんな調子で『ハンカチのお兄ちゃん』の話ばかりしていたら、いつの間にかコーレナ側から婚約を辞退されていた。

 ただ、それで仲が悪くなるわけではなく、友人関係はずっと続いている。



 * * * * *


 そしてついに12歳になり社交会デビューをするとともに、彼の世界が広がっていく……はずだった。


「ついにデビューだな。おめでとう。今までよくがんばったな」

「はい。ありがとうございます、お父様」


 あの日のおかげで父親ともとても良い関係が築けている。

 そして!今日は『ハンカチのお兄ちゃん』もこの会場に来ていると教えてもらっている。会いにはいけなかったが、年齢や名前などは調べてもらっていた。


 早く探しに行きたい。でもまずは王様たちに挨拶をしてそれから…


 近くを見回しても、やはり階級の違うお兄ちゃんは見当たらない。そわそわしている素振りなど見せないよう気をつけながら父親と挨拶をする。


「おお、シスルド侯爵か。君がサミュエルだな、よく自慢している通り聡明そうだな。おめでとう」

「ありがとうございます。これから国の力になれるようがんばります」

「そうだ。息子を紹介しなくてはな、ロベルト」

「はい」


 気の強そうな金色の瞳の少年が前に出る。


「殿下、デビューおめでとうございます。こちらが息子のサミュエルです。これから殿下に仕えさせていただくことになります」

「サミュエルです。殿下のお力になれるよう精進いたします」

「期待しているよ。よろしく」


 同じ歳で身分的にも問題ない僕は側近候補に選ばれたらしい。そのことは誇らしいことだけれど、今はそれよりもっと大切で気になる事がある。不敬ではあるが、さっさと終わってほしい。


「では挨拶が終わった後にでもゆっくり話すといい」

「ありがとうございます」


 えーーー。という気分だ。そもそも国王への挨拶の列が長い。身分の高位の者から先に挨拶をするので、サミュエルの後もまだまだ続いている。お兄ちゃんを探したくても、列に並んでいるところに声をかけるわけにもいかない。

 それに、父親と貴族的挨拶もしていかないといけない。〜公爵様、〜侯爵様……あ、コーレナがいた。


「ごきげんようサミュエル様。落ち着きがないですわよ。まだ見つけられませんの?」

「なかなか探しに行けないんだ。挨拶も続いてるし」


 こそこそと小声で話す。親同士は話が盛り上がっているようだ。


「お父様、少しサミュエル様と休憩してきてもよろしいですか」

「あぁ、行っておいで。少ししたら戻ってきなさい」

「「はい」」


 二人ですみのほうに移動をする。


「さて、サミュエル様。そのお兄ちゃん様は子爵家の方でしたわね?」

「そうなんだ。髪色は茶…焦茶かな。瞳は濃い緑色だよ。すごくきれいで…」

「はいはい。ではあちらの方に集まってる方々でしょうか…茶色の髪の方は何人かいらっしゃいますけど…」

「うーん、かたまっててよく見えないな」


 コーレナから離れそちらの方へすこし歩き出す。すると、何人かの令嬢が立ち塞がった。


「侯爵家のサミュエル様ですわね!わたくし…」

「コーレナ様とはご婚約されてないんですよね」

「この後のダンスをぜひわたくしと踊って…」


 一斉に高い声で話されて圧倒される。同年代にこんなに囲まれるのが初めてで、どう断ればいいかもわからない。何も言わないことを拒否されなかったと思ったのか、人数も増えていくし比例してどんどん声も大きくなる。今まで見かけなかった見目も良い侯爵子息に令嬢達もアピール合戦だ。

 ふと、向こうの集団が振り向いた。その中に『ハンカチのお兄ちゃん』が……


「あ…!」思わず手を伸ばすと、その手を取ろうと令嬢が向かってくる。視線を遮られた。


「ちょっとどいてくだ…」

「サミュエル。なかなか戻らないので探したぞ。お嬢様方、申し訳ないがまたの機会にしていただけますか」


 後方から父に声をかけられる。助かったのだが、自由時間の終了を意味する。

 その後王子とあらためて話をしたりしたが、頭の中は怒りでいっぱいだった。


ーーなんなんだあの女達は!うるさいし図々しいし。格好いいとか素敵とか言われてもきもちわるいだけだ!何年待ったと思ってるんだ!


 拗ねまくったサミュエルは人嫌い、特に女嫌いになってしまった。



 * * * * *


 そして、学園で再開することになる。


「殿下、試験も終わりましたので本日から公務のを少し増やしていきます。この後の時間ですが…」

 

 予定を話しながら廊下を進む。すると前方からカイルが友人と話しながらこちらに向かってくる。

 カ、カイルがいる!話したいけど殿下もいるしどうしよう!もしかしたら向こうが僕に気付いてくれるかな…などと顔には出さずプチパニックを起こしていると、


「カイルじゃないか。今帰りか?試験はどうだった?」


 はーーー!?殿下がなんで話しかけてるんだよ。しかもなんか親しげだな。いつの間に仲良くなってるんだ?僕の知らないうちに。カイルも僕を見ても気付かないし!あ!今二人でこそこそ何か話してる。友人だから手を出すな?やっぱり二人はもう友人なのか…!?


「殿下そろそろ…」


 ムカムカムカ…さっさと話を終わらせたくて声をかける。最後にじっと見てみたが、やはり気づかないようだ。ショックをうける。あぁでもこんなに近くで見るのは何年ぶりだろう。背は僕の方が大きくなってしまった。でもやっぱり瞳は綺麗で「大好きだよ」と言ってくれたあの『ハンカチのお兄ちゃん』だと確信する。僕もずっと大好きだ。


 王子と共に城に向かいながら、どうやって声をかけようか真剣に悩むのだった。




色々考えた割には…な声かけになりました。


読んでいただきありがとうございます。

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