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一枚目 サミュエル 1

番外編になります。

長くなってしまい、二つに分けました。

 お父さまなんてだいきらいだ


 いつもいつも おやしきにいない


 それでも今日はぼくのおたんじょうびだから


 おやしきにいてくれるって


 やくそくしてたのに  ………うそつき!



 僕はおやしきを抜け出してやった。お庭の秘密の場所から外に出られるのを知ってるんだから。僕はもう怒ってるんだ。

 とことこと怒った勢いで歩いていく。でもすぐに疲れてしまい、目についた木の根元に座り込む。通りからは見えないように、木の影に隠れるようにして。

 なんで自分はこんなところにいるんだろう。やっぱりおとうさまは僕なんかきらいなんだ。だからお仕事ばかりいって一緒にいてくれないんだ。やくそくしていたのに。

 ぐるぐると同じことを考える。ポロポロと涙があふれてくる。どんどんみじめになってくる。


「どうしたの?迷子?」


 だれ?ほっといてよ。


「ちがう」


 顔も上げずにつぶやく。でもだれかはそのまま話しかけてくる。すごくやさしく。そっぽむいてた僕の涙もハンカチでそっとふいてくれた。「どこか痛いところある?けがしてない?」心配してくれてるのがわかる。このお兄ちゃんは僕のことを心配してくれてる。


ーーお父さまは僕のことはどうでもいいのに!


「………っ。おとう…さまはっ…ぼくがいらないんだ…」


 かなしいかなしいかなしい。また涙があふれてくる。

 お兄ちゃんは「大丈夫、だいじょうぶだよ」と背中をさすってくれて、にっこり笑って「僕はきみが大好きだからね。悲しまなくていいよ」と言ってくれた。なんだか体があったかくなった気がする。


「あのね、今日は僕のたんじょうびなんだ…」


 僕はゆっくり話をした。お兄ちゃんならわかってくれる気がした。でも返事は思っていたのとちょっとちがった。


「お父さんがかわいそうだね」


 え?かわいそうなのは僕じゃなくて?ばあやも坊ちゃんおかわいそうに、て言ってたよ。

 でもお兄ちゃんは、本当はお父さんだって一緒にいたいと思ってる、でもがまんしてお仕事に行っているんだ、と。

 そうなのかな。そうだったら僕がおこっちゃいけないのかな。じっと見つめていると、


「誕生日は、お母さんに『産んでくれてありがとう』の日でもあるんだよ。早く帰って感謝を伝えなきゃ。お父さんのことも許してあげられる?」


 手を差し出してくれる。その手をきゅっとにぎる。お兄ちゃんがにこにこして頭をなでてくれると、うれしい気持ちになってくる。


「僕もお兄ちゃん大好きだよ」


 手をつないで帰りながら、お兄ちゃんにつたえる。


「ありがとう。僕も大好きだよ」


 * * *


 おやしきに着くと門の前にじいやがいた。僕はおこられると思ってちょっとこわくなって、つないでいた手をぎゅっとしてしまう。お兄ちゃんはにっこりしてまた頭をなでなでしてくれた。


「坊っちゃま!ご無事でよかったです」

「ごめんなさい」

「お母様が大変ご心配なさっておいでです。すぐに行ってさしあげてください」


 僕がお兄ちゃんとお別れの挨拶をしている時、お兄ちゃんの侍女とじいやが何か話していた。


「先程、うちの坊ちゃんがお声をかけた時、様子を伺っていた怪しげな男がいました。もしかしたら、何か良からぬことを企んでいたかもしれません。お気をつけください」




「サミュエル!」


 おやしきに入ると、なぜかお父さままでいた。僕はお兄ちゃんの言葉を思い出して、ペコリと頭を下げる。


「ごめんなさい。お父さまもお仕事がんばってくれているのに、おこったりして。お母さまも心配かけてごめんなさい」


 するとお父さまにぎゅーっと抱きしめられた。お母さまも反対側からぎゅーっとしてくれた。僕はうれしくてまたちょっと泣いてしまった。


 あのお兄ちゃんにまた会いたいな。今度は一緒にあそびたいな。


 しかし、誘拐を心配した侯爵夫妻は12歳の社交デビューまでサミュエルを屋敷から出さなかった。 



 

読んでいただきありがとうございます。

サミュエルのカイルに執着する過程が少しでも伝わればいいなと思います。

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