第三話
誤字報告ありがとうございます!
一週間ほど経ったお昼休み。中庭を通りかかると怖い顔をしたアイリーン嬢を見かけた。視線の先をたどると、トウアと王子らしき二人が話をしている。イベントでも起こっているのだろうか。
それにしても、覗きながらキィーッてなってる感じが痛々しい。王子様狙いなら話かければいいのに。そういうの、許さないタイプなのかな?トウアと話しているなら、身分がどうこううるさくなさそうだけど。
「アイリーン様、行きましょう」
横を通りながら声をかけ、二人の元へ向かう。
「お話中失礼いたします」
「カイル様…とアイリーン様?」
よかったトウアが反応してくれた。アイリーン嬢もこちらへ来たようだ。僕と一緒に礼をしている。
「アイリーン様がお二人にお話があるようで…」
「君がカイルか!会いたかったんだよ」
……ん?どういうことでしょうか?
王子様に言葉を被せられて、しかもこちらに話を振られて戸惑う。なぜかいい笑顔だ。
あ、アイリーン嬢がポカンとしてる。
「はじめてお目にかかります。ポート子爵家カイルと申します」
「はじめてじゃないぞ。君には薔薇の件で世話になった。7年前だ」
ハンカチを見せられる。また配っていたらしい。7年前…8歳頃……あ!
「薔薇のトゲの!妹さんにプレゼントされると話していた、あの時の?」
「そうだ。妹も喜んでくれたし、指もすぐに良くなった。カイルのおかげだ。ありがとう」
「もったいないお言葉です」
まさかあの時の子供が王子様だったとは!確かにあそこは王宮だったし、いてもおかしくない、なんならいて当然なんだけど。特に思いもしませんでした。なかなか失礼な態度だったかもしれないが怒っている様子ではないので、きっと大丈夫だったのだろう。
「入学式の日、トウア嬢が同じハンカチを手にしているのに気付いて話しかけたら驚かせてしまったようでね。つまずいてしまったものだから」
「お恥ずかしいです…」
入学式での出来事が自分のハンカチきっかけとかすごいな。本人よりハンカチの存在感の方が強い気がする。
「それで、持ち主が君だと判明したと教えてもらったところだよ。あれ以来王宮では見かけなかったからね」
「確かにあれから王宮には行っておりませんが…」
探されてるとも思わないでしょ。普通。
「とにかく、お礼を言いたかったんだ。スッキリしたよ。では失礼するよ」
「はい。わざわざありがとうございます」
頭を下げて見送る。
何か忘れてる気が…やばいやばい!アイリーン嬢!チラリとうかがうと、キッと僕を睨んで去っていってしまった。ちょっと申し訳ないことをしちゃったな。
「トウアさん、もう授業も始まるし戻ろうか」
「はい。そうですね」
はー、その笑顔に癒されます。もうヒロイン決定でいいかもしれない。
* * *
『お母さん、このテストなんだけど!ちょっと問題出して!』
『ちゃんと覚えててよ!五十番以内に入ったらこの間の洋服買ってくれる約束だよね!』
ーーはいはい、ちゃんと覚えてるからしっかりがんばりなよ。テストは何日まで?お弁当のこともあるからきちんと教えてね!
今日から学園で最初の定期試験が始まる。
そのせいか、試験前のバタバタしている夢をみた。懐かしい。知らされていなくてお弁当を渡したら「テストだからいらないよ」と言われムカッとしたことあったなー。朝の忙しい時間にお弁当作りがあるとないとでは全然違う。もちろん家で食べてもらったけど。母は仕事行ってるしね。
「時間です。ペンを置いてください」
最終日の試験時間が終わった。うん、頑張った。ちゃんと勉強してるとこんなに手応えあるもんなんだな。少しの緊張感と達成感に満足する。
カイルは一応嫡男だし、あまり成績が悪いと家のイメージも悪くなるだろう。跡取り的には弟がいるしあまり心配はしていない。貴族としてどうかと思うが。前の感覚が抜けない。
「終わったなーやっと解放される。帰ろうぜ」
「そうだな。特に用事もないし、帰ろうか」
フリッツと共に停車場に向かっていると、前から二人連れ(と、少し離れて見守る団体)が歩いてきた。一人は王子だ。通行の邪魔にならぬよう少し横に寄る。すると、
「カイルじゃないか。今帰りか?試験はどうだった?」
「はい、帰るところです。試験は、順位表に名前が載るように努力したつもりです」
まさか声をかけられるとは思わず、驚きが顔に出ないよう、引きつりそうになりながら答える。
試験の順位表は30位まで載るのが通例らしい。
「謙遜するなよ。入試の結果はとても優秀だったと聞いたぞ。それより、そんなに堅苦しくしなくても普通に話せばいいだろう。学生同士なんだ」
おい無茶言うな。そんなに気軽に話せるわけないでしょが。自分の知らない入試の結果知ってるような人、怖いわ。
「ありがとうございます。今回がはじめての試験なので、自分の実力がどのレベルなのかはっきりするのではないかと。期待に応えられるとよいのですが」
「まだ堅いな」
「敵を作りたくないもので」
うしろの方々がどんな顔でこっち見てるかわかってますかー?
王子がそっと周りを確認し小声で言う。
「私の友人だから手を出すなと言ってやろうか?」
「絶対にやめてください」
ホント勘弁してください。そんなちょっと面白そうに笑顔で言わないで。隣の冷たい雰囲気のこれまた美形の学生が「殿下そろそろ…」と声をかける。
「それは残念だな。ではまたな」
「はい、失礼します」
「………」
美形の人が何か言いたげだったけれど、そのまま去って行く。
「さ、帰ろうか」
「お前何で王子とあんな親しげ?」
説明、面倒だなぁ。
* * *
結果発表〜〜〜!
試験終了から四日後、順位が張り出される掲示板に生徒が集まっている。
お!7位か。思ったより上位にいて安心する。1位が王子で2位がトウアだ。すごいなやはり優秀なんだな。平民のトウアは自分達よりかなり厳しい受験だったはず。各学年10人に満たない平民学生は皆優秀で、たぶん今回全員名前が載っているだろう。
「カイル7位かすげーな。俺は22位か、まぁまぁだな」
「フリッツはもうちょっと上だと思ってたよ。皆しっかり勉強しているんだな」
「トウアちゃん教えてくれないかな〜」
「と、言ってるけど、教えてもらえる?」
「え?」
たまたま近くにいたトウアに話をふる。
「うわっ!トウアちゃんいたの!2位おめでとう!」
「おめでとう」
「ありがとうございます。がんばりました」
にっこり笑って、かわいらしいファイティングポーズを作る。こちらも笑顔になってしまう。
ふと、視線を感じる。振り向くとアイリーン嬢が睨んでいる。僕になのか彼女になのか、はたまた両方か。目が合うとプイと去っていってしまう。アイリーン嬢は11位だ。
確認も終わり、三人で教室に戻ろうと掲示板から離れると目の前に立ちはだかる人物がいる。顔を見ると、先日王子と一緒にいた美形だ。
冷ややかな表情に、邪魔なのかな?と避けてみるが動こうとしない。視線を外したまま静かに声をかけられる。
「カイルくん、僕が誰だかわからない?」
「王子様のお隣にいらっしゃる時にお会いしましたね。シスルド侯爵家サミュエル様。試験では3位と素晴らしい成績で」
あの後、フリッツと確認し合ったので間違ってはいないはず。なのに少しムッとした雰囲気を感じる。
「もっと前の話だよ、君と会ったのは」
すっとハンカチを見せられる。
出た!またハンカチ!
と、いうことはどこかでお節介をやいたということで。うーん、いつだろう。他の子達みたいに自分から話してくれる気配はないし…銀髪碧眼の美形…ん?もしかして…
「…それって、10年近く前だったりします?」
あ、当たりっポイ。クールな表情が少し緩んだ。じゃあやはりあの子なのか。誕生日の日に父親が仕事だと泣いていた、とんでもなくかわいい男の子。面影がないこともないが、今は美人系のイケメンだ。一目で気付くのは無理ですよ。
「今は格好良すぎて、かわいい泣き顔のあの子とは気付きませんでした。すごくお久しぶりですね。会えてうれしいです」
「僕も、あの時助けてもらったのをずっと感謝していたんだ。君のおかげで父親とも話ができるようになったから。今は父を尊敬しているよ」
先程とはうってかわって優しげに微笑むサミュエルは花びらが舞っているかの様で、周囲の人たちがうっとりとしている。うわ〜笑うとあの子のイメージと重なるな。かわいくて頭を撫でたくなってしまう。
微妙な表情をしていたのか、不思議そうに首を傾げる。
「すみません、あの時のように頭を撫でたくなってしまって。もう子供ではないですのに失礼ですね」
「撫でてくれてもいいよ?」
ザワザワッ…!美形のはにかむこの破壊力!
「さすがにやめておきます。ここは廊下ですし」
「そうか、またの機会にするよ。じゃあ」
去って行く背中を見ながら、ふと考える。
「なぁ、僕はそんなに昔から変わらないのかな。なんで僕だとわかるんだろう?」
「確かにあまり変わってないかもな。でもハンカチを見れば家紋も入ってるし、少し調べれば名前くらいわかるんじゃないのか」
「あの…私は時々街でお見かけしてたので…」
ハンカチで個人情報ダダ漏れだったんですね。
トウアにフォローまでさせちゃったよ。
読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。