第二話
カイル15歳。
努力の甲斐あって、学園に入学できました。
15歳から17歳まで三年間しっかり勉強します。
やはり前世の記憶があるからこそ、勉強はきちんとやりました。ええ。前はそんなに頭良くなかったです。やっとけばよかった〜なんて思うことはしょっちゅうでした。なので、大変ではあったけれどきちんと家庭教師の先生に教わったし、剣術だってがんばりました。カイルくんはそこそこのスペックあるようで、教わった事は身についています。そこそこ、きちんと。
貴族は平民の子達よりは入学条件も厳しくないので、よほどサボらなければ入れる学園ではあります。でも、やはり受験は緊張しました。試験はきちんと受けましたよ。
王都には学園が二つあり、通うのはもちろん上のレベルの方。こちらは王都の中心に位置し、貴族はほぼこちらに通う。通称、貴族学園。
もう一つの学園は貴族街の外れにあり、平民の子達が通いやすい立地。学生はほぼ平民であり貴族は少数。通称、平民学園。
でもレベルの差はあれど、大体の子供が学習できる環境にあるのはすごいことだと思う。きっと国王の意識が高いのだろう。
今日から学生だ!がんばろう!
少し違うけれど、高校入学と考えると24年+15年ぶり。まぁほとんど覚えていない。息子の入学式なら覚えているけれども。保護者目線とは違うよね。
きっちりと制服を着込み気合を入れる。少し距離があるので馬車で送迎だ。ちゃんと貴族の階級ごとに乗降場所も違う。その方が気が楽だ。偉い子供たちを待たせるとかストレス溜まりそう。
なんとなく正門までまわり、気合を入れ直す。浮き足立つ気持ちを落ち着けつつ歩き出した。同じ新入生だろうキラキラした表情の子達が歩いている。自分を卑下するつもりはないが、立場的に上の方々も多いので気をつけなければな。
そういえば、王子様も同じ学年にいるらしい。それって乙女ゲームみたいだなー。あんまりやらなかったから詳しくないけれど。漫画や小説でならよく読んだ、異世界転生定番物語。ふふっ、自分で考えながら笑ってしまう。いけないいけない。
「きゃっ」
「危ない!大丈夫かい」
ザワッと周囲の雰囲気が変わる。注目されている方を見ると、つまづいた女の子を男の子が助けている。
…王子だ…王子様よ!…誰だあの子…
ザワザワする周囲を他所に「えーーー?!これってものすごい王道じゃないの?ここってそういう世界なのーーー?なんで?どうして??だって全然知らないし!」頭を抱えてしゃがみ込みたくなるのを必死で我慢する。でも待てよ。落ち着けカイル。きっと僕は無関係だ。うん。そこまで美形じゃないから、もしゲーム世界でもその他のモブのはず。気にするな。なんとかなる!
人混みを抜け、入学式に向かうのだった。
「おーカイル久しぶり。同じクラスだったぞ。よろしくな」
「そーなのか?よろしくなフリッツ」
友人を見つけてホッとする。灰色髪に黒い瞳のフリッツは同じ子爵子息なのもあって、昔から何度も会っている。参加する集まりも同じものが多いからだ。
入学式はやはりというか、王子様が新入生代表で挨拶をした。先程女生徒を助けていたのは確かにこの方だ。一瞬目が合った気がするのはアイドルのコンサートみたいなもんか。見渡してたもんね。すごいなぁ王子様。
「カイルがいてくれると親が安心するんだよな」
「やめてくれ。お世話係じゃないんだぞ」
確かにお世話をしてしまっている自覚があるだけに冗談めかして言う。まさしくオカン体質なので手を出したくなってしまうのだ。
入学式も終わり教室への移動中、気の抜けた話をしながら歩く。すると、キーンとした声が響いた。
「あなた平民ですわよね!王子様に対してなんて失礼なことを!」
「すみません。けど…」
「言い訳するつもりですの?!」
目の前でそんな光景が現れる。お、あの子が悪役令嬢ポジなのかな。黒髪に少しつりあがった青い瞳。お決まりだなぁ。でも実際見ると気分悪いものだな。どうしようか…
とりあえずフリッツを突き飛ばす。
「うぉ!何すん…」
どしん!
最後まで言えずにお嬢様方の近くに倒れ込む。
「大丈夫か?気をつけろよ」
しらじらしく言いながら助け起こす。恨みがましい視線を感じるが、置いておく。
「失礼しました。あなたはレイルズ伯爵家のアイリーン様ですね。同じ学園で学ぶことができて光栄です。ポート子爵家カイルと申します」
にっこり笑って礼をする。
「そう」
興が削がれたようで、二人を一瞥して去っていく。残された平民らしき女の子に声をかける。
「大丈夫?」
「…はい」
どこか驚いた顔で見られる。まぁそんなスマートな助け方でもないからね。ピンクのくりくりした瞳が大きく見開かれている。
フリッツに軽く謝り教室に向かう。後ろからついてくる彼女も同じ教室に入ってきた。
「同じクラスだったんだね。よろしく僕はカイル」
「あ、あの私トウアといいます。よろしくお願いします」
「俺はフリッツだ。よろしくな」
それぞれ席にわかれる。アイリーン嬢は違うクラスのようだ。よかった。
あれ?でもそういえばトウアはヒロインなんだろうか?そうしたらあんまり関わらない方がいいのかな。う〜ん、わからない。勘違いかもしれないしな。
「あの!すいません!カイル様!」
「はい。何でしょうトウアさん」
ホームルームも終わり、席を立った時声をかけられた。なんだか緊張した様子なので、ゆっくり返してみる。落ち着いてくれるといいけど。
「先程はお礼も言えずすみません。ありがとうございました。あと、これもお返ししないとと思っていて…!」
ペコリと頭を下げながら何かを差し出す。
「あれ?これお前のハンカチじゃない?また配ってんのかよ」
「配ってないわ!てかフリッツ、お前に何枚貸してる?戻ってきたことあったか?」
丁度そこへやって来たフリッツが割り込んでくる。軽いやり取りにトウアが頭を上げる。
怖がらせないようになるべくにこやかに話す。
「わざわざありがとう。でもごめん、いつ貸したっけ?」
「8年前です。市場のはずれで、怪我をしていた膝に巻いていただいて。無くした袋を探してくれました」
「え?そんなに前?……あ!あの時の女の子?うわーすごい。本当に綺麗になったねぇ」
その一言にトウアの顔が赤くなる。しまった、あのおじさん発言、この子は知らないんだった。
「何口説いてるんだよ」
「ごめんごめん。口説いてるわけじゃなくて。8年前に会った時きっと美人になるだろうな、て思ってて」
「それを口説いてると言うんだよ」
首に腕をまわされペシンとはたかれる。トウアの頬がますます赤くなった。耐えられなくなったのか、ひとこと言って去ってしまった。
「ま、また明日ッ…」
折角声をかけてもらったのに申し訳なかったかな。フリッツの腕をどけて帰ることにする。
「今日はちなみに何枚持ってるんだ?」
「ハンカチか?3枚かな」
「ぶはっ、やっぱり配る気じゃん」
「何枚か持ってないと落ち着かないんだよ」
おばちゃんは色々用意してないと落ち着かない。出来れば大きめのトートバッグを常に持ち歩きたいくらいだ。水筒とかタオルとかソーイングセットとか。手元にあったらきっと安心する。
家に戻ると侍女に報告した。
「予想通りすごく美人になってたんだ。覚えてる?」
「坊っちゃん…言い方がすごく残念です。親戚のおじさんのようです」
「あ、確かにそんな感じかも」
「坊っちゃん…」
うんうんと頷くと、なぜか涙ぐんでいた。なぜだ。
次の日、「よかったらそのままもらってくれる?」と伝えると、可愛く「はい!」と頷いてくれてキュンとしてしまった。さすがヒロイン候補!
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