第一話
はじめて投稿します。
楽しんでもらえますように。
……なんで?どうしてこうなった??
「君が大切なんだ。私と」
「お慕いしています。わたくしと」
「好きだ。俺と」
「好きです。私と」
「大好きなんだ。僕と」
「「「「パートナーになってください」」」」
僕はカイル。一応子爵子息で17歳。焦茶の髪と深緑の瞳。顔は中の上くらいがいいところ。
あと数週間で学園を卒業する予定だ。卒業式の後には卒業パーティーがひらかれる。
そんなある日、中庭にある噴水の前に呼び出され、こんな状態に。
一旦、整理しようと思う。
ここはとある王国。ファンタジーあふれる中世ヨーロッパ風。でも案外暮らしは不便ではない。
僕とか言っているが、中身は40歳二人の子持ちの主婦だ。上の息子は17歳、下の娘は14歳。がっつりおばちゃんである。昔からわりと漫画をよく読む方で、子育てがひと段落した頃から再び漫画熱に火がついて読みあさる日々だった。ジャンルは何でも。近頃は異世界モノが流行っていて、たくさん読んだ。
まぁ、だからというか、これが転生モノかぁなんて案外すんなり理解できた。
違和感を感じはじめたのは4歳の頃。弟が産まれた時、子供たちを産んだ時のことがフラッシュバックした。それをきっかけに徐々に記憶がよみがえり5歳にはなんとなく落ち着いた。
色々思うところはあれど、基本楽観的な性格であり『なんとかなる』が口癖である。
* * * * *
カイル6歳。
泣いている子供に出会う。
「どうしたの?迷子?」
「ちがう」
天気が良いので散歩を(もちろん侍女と一緒に)していると木陰にうずくまって泣いている子がいた。じっと地面を見つめてポロポロと涙をこぼしている。声をかけるとそっけなく返されてしまった。
息子の小さい頃を思い出しながらハンカチで涙を拭いてあげる。宥めながら話を聞くと、誕生日なのに父親が仕事に行ってしまったらしい。約束していたのに、と。
渡したハンカチをギュッと握りしめる。小さな手が震えている。
「そっか…お父さん可哀想だね」
「?」
「お仕事行かないといけなかったんでしょ?」
約束していたなら、祝う気がない訳ではないのだろう。働くお父さんはどこでも大変だ。
「君やお家のために我慢してお仕事にいったんだよ。だから、かわいそう」
同じ歳くらいの子供にそんなこと言われると思わなかったのだろう、きょとんとした顔をしてこっちを見ている。涙はとまっているが瞳はうるうるしている。
うわ〜かわいい男の子だな。銀髪で碧眼なんてお人形さんのよう!母性本能が爆発しそうだ。拐われたりしないか心配になってしまう。
「誕生日は、お母さんに『産んでくれてありがとう』の日でもあるんだよ。早く帰って感謝を伝えなきゃ。お父さんのことも許してあげられる?」
にっこり笑って手を差し出すと、きゅっとにぎってきた。かわいすぎる。頭撫でるくらいならしてもいいかな。なでなでよしよし。髪サラサラだ〜。にやにやしそうな顔をなんとかにっこりに抑えつつ、お家まで送っていった。思ったよりすごく大きなお屋敷でビビったのはナイショだ。
* * * * *
カイル7歳。
何か探している子供に出会う。
ちょっとした買い物の帰り道、泣きそうな顔で下を見ながらキョロキョロしている金髪の女の子を見かけた。お節介おばちゃんの性だから仕方ない。声をかけた。
「こんにちは。何かさがしているの?」
驚いて顔をあげた女の子はピンクの瞳でカイルをしばらく見つめた後、ふるふると首をふる。怖がらせてしまったかもしれない。たぶん平民の子だ。
「驚かせてごめんね。あれ?怪我してるよ」
すこし屈んで目線を低くすると、膝から血が出ているのに気がついた。転んでしまったようだ。ポケットからハンカチを取り出し膝にそっと巻きつける。男の子が女の子に勝手に触るのは失礼だとは思いつつ、子供だから許されるだろうと心の中で言い訳をする。
「え?そんな…大丈夫です…」
「うん。でもお洋服に血がついたら大変だよ。あ、もしかしてこれかな」
女の子の顔を見上げた時、側にある木の枝に小さな袋の様なものが引っかかっているのが見えた。立ち上がり少しジャンプして取ると、向き直ってたずねる。
「これ、あなたの?」
「はい!」
ぱっと明るく笑った顔はとっても可愛いかった。こちらも思わずにっこりしてしまう。
「よかった。気をつけてね」
「ありがとうございました」
ペコリと頭をさげられて、礼儀正しい子だなぁと感心する。
「大きくなったら美人になりそうだよねぇ〜」
「坊っちゃん、おじさんみたいなこと言わないでください」
女の子と別れて帰りながらつぶやくと、侍女にピシャリと言われた。…おばさんなんだけどな。
娘にもお礼と挨拶はきちんと言うようにと、何度も伝えていたことを思い出した。
* * * * *
カイル8歳。
妹想いの子に出会う。
父親の仕事がめずらしく王宮であるということで、見学がてら連れてきてもらった。親的には「こういう所で働けるようにがんばれ」という含みがありそうだったが、カイルはただのミーハー根性でついてきただけだった。
すっごい!これが王宮!格調高いね!
父親を待つ間、許される範囲で探索をする。今日は侍女もいないので、気を使うこともない。
すると、綺麗な庭園に出た。子爵家である家にも庭園はあるがやはり比べ物にならない。ごめんね、庭師さん。ウチの庭も落ち着いてて大好きだよ。
とことこと散策していると、すぐ近くから「イタッ」と声がした。覗いてみると濃紺の髪の男の子が手を見ている。薔薇が咲いているのでトゲでも刺さったのだろうか。しかし、その手を服に擦り付けようとしたのを見て、思わず声をかける。
「ダメだよ!」
驚いて動きを止めたその子に駆け寄る。
「何だお前は!」
「手を見せて!」
同時に叫んで、手を取る。カイルより少しだけ大きい子だけれど、そこまで力の差があるわけでもない。振りほどこうとするが離さない。じっと見てみると、やはりトゲが刺さっている。服に擦り付けたりしたら指の中に入り込んでしまうかもしれない。
「よかった。これならすぐ取れそう」
「痛いから離せ」
「トゲをすぐ取らないとずーっと痛いよ?」
「………」
金色の瞳をじっと見つめる。黙ったので納得したととらえ、ハンカチを添えてギュウと押す。もう痛いとは言わなかった。えらいえらい。浮き上がったトゲを取り除く。少し出てしまった血をチュッと舐めとり、添えていたハンカチで指を巻いた。
「ん?…なっ…?!」
驚いた声を上げるも、カイルの目は近くの薔薇を見ていて気付かない。少しこちらに傾いた綺麗な花をつけた薔薇が一輪。
「ごめんね、一輪もらうね」
薔薇に向かって声をかけると、小さな折りたたみナイフを使って切り取る。別のハンカチを取り出し茎を上から下へ扱いてトゲを取り除く。そして差し出した。
「はい。トゲがあるともらう人も刺さることがあるからね。気をつけて。」
一連の流れを呆然と眺めていた男の子は、薔薇を差し出されハッとする。顔を赤くし、何かを言い返そうとして、黙ったまま薔薇を受け取った。
「助かった。妹にあげたかったんだ」
「うん。でも薔薇は素手で触るのは危ないから、誰かに頼んだ方がいいと思うよ。勝手に取ると管理されてる方にも悪いしね」
「…ああ。そうする」
素直に頷くその子はなんだか可愛いくて、にっこりしてしまう。すると、また少し顔が赤くなった。あれ、馬鹿にしたように思われちゃったかな。違うんだよ。でも顔がゆるむのが止められない。
急いで踵を返し父親の所へ戻ることにする。
「一応、きちんと手当してもらってね。それじゃ」
「あ、おい」
妹さんにお花をあげたかったなんて、いいお兄ちゃんなんだなー。ウチのお兄ちゃんも、さすがに高校生になってからは気難しくなっちゃったけど、小学生の頃は妹とも遊んでくれてたなー。
うれしくなりつつも、自分の子供たちを思い出してさみしくもなるのだった。
『お母さんお兄ちゃんがゲーム貸してくれない〜』
『もうちょっと待てって言ってるだろ』
――二人で仲良く出来るって言うからゲーム買ったんでしょ?喧嘩するなら従兄弟のまーくんにあげちゃうよ!
『うそうそ、仲良くやってるから』
『待ってるからお兄ちゃん、早くしてね』
あぁ。いつものやりとり。いつかのやりとり。
目が覚めると頬が濡れている。
前世のわたしは死んでいない。死んだ覚えがない。なのに何故か異世界にいる。きっと帰れる大丈夫、大丈夫…!なんとかなる。
読んでいただきありがとうございます。
色々と拙い点があると思いますが
ゆる〜く見守っていただけたらありがたいです。