森の小さな魔王
この作品は自身で投稿している作品のセルフオマージュのような作品です。
さてどうやら俺は死んでしまったらしい。ちなみに死因は食中毒。三日寝かせたカレーがまずかった。
そして転生させてくれるはずの神様は。
「あー君。転生させてあげるよ。でも最近死人が多くてさあ。人間に転生させてあげられないんだよねー」
などとのたまいやがった。
その結果転生した生物が蟻。
小さい蟻だぜ?
上を見上げたら東京タワーみたいな樹木が聳え立ってる。
「どうしろっての」
贅沢言わないからせめて人間に転生したかった。
蟻の巣は樹の根本に作られているらしく、この樹から食料を採取しているらしい。樹になっている黄色の果実と漂う甘い匂い。多分花梨だ。
蟻がたかりやすい植物で、蟻である俺にとってはごちそうの生る樹だ。だからこそ、そこによって来る天敵がいる。
それは、怪獣のように同胞を喰らう……トカゲだった。人間にとってはただの矮小な命。だが、蟻にとっては恐ろしい天敵。
長い舌でぺろりと蟻を食べつくす。こんな敵を前にどうするか。決まっている。
逃げる! でも……
他の蟻はなんと、戦っている。自分よりもはるかに大きな敵を相手に。
「ひるむな!」
いやビビるだろ。
「必ず勝てる! 進め!」
どう見ても勝てないだろ。
このままでいいのか? いくら勝てないからと言って逃げてばかりでいいのか?
そんな逡巡をトカゲが嘲笑う。
「くかかか。哀れよのう。小さき者どもよ。無様に逃げればいいものを」
ぶっちーん。
「お前だってただのトカゲだろうが! 畜生! お前ら、ついてこい!」
近くにいた数匹の蟻に声をかける。
集団から離れた俺達を食べるつもりか、トカゲが走り寄ってくる。
「確かに俺達じゃお前には勝てない。でも! 俺達がお前に勝つ必要なんかない!」
バサリ!
夜のような翼が翻る。
黒い烏。トカゲはその爪に押さえつけられていた。
「おのれ小癪な! だが妾を倒したところで……」
烏の嘴に啄まれてトカゲが絶命する。そして烏の目と俺の目が合う。生きた心地がしない。
だが烏は何もせずトカゲを咥えて飛び去った。
「ふう。これで一安し……」
ずん。
今までとは次元の違う重い振動。
視線を再び上に向けると、そこには巨人がいた。いや、正確には俺が小さいだけだ。
いかにも農夫といった風体。
そう、この花梨はこいつらが育てていたのだ。収穫に来たのかもしれない。
だが、今この樹と果実を失うわけにはいかない。
「やってやらあ。誰が相手でもこの樹は渡さんぞ!」
自分よりもはるかに大きな敵に蟻を率いて戦いを挑み始めた。