9.小さいお姉様と大きいお姉様
(お姉様…?)
私は自室に居たはず…なのにこの白い空間は何…?
「泣いてるの?」
(…お姉様が?)
すすり泣く声が白い空間に響いている。
「どこですか?」
泣き声しか返ってこない。
「お姉様!」
目を開くとベッドの天蓋が見える。身を起こして辺りを見渡す。
私の部屋だ。
「あ…」
確かにディアーナお姉様の泣き声が聞こえる。が、お姉様の部屋は同じ建物にあるが自室から十部屋も向こうにある。物理的に聞こえるならかなり大きな声になる。
実際には風の音と見回りの警備の靴音が遠くでするだけ。
ベッドから降りると裸足のまま部屋を出た。夜中だから廊下の灯も寝る前の半分。ちょっぴり怖い。壁伝いにソロソロと歩く。
実はお姉様と身体の熱?のやり取りをしてから、こういう事が度々ある。
まるで小さいお姉様が私の中に居るみたい。
それをお姉様に言うと「ずるいわ。ヴィーだけ…。私の中にも住んで欲しいわ」とちょっと拗ねてくれた。
「お姉様」
ドアをノックする。中から「どうぞ」と涙声。
「どうかしましたか?お姉様…」
中に入るとすぐに抱きしめられた。
「…泣いてるの、バレちゃったのね…」
「お姉様、何かあったんですか?誰かに何か言われたとか?何か失くしたとか?」
「そうじゃないの。そうじゃなくて…」
ディアーナお姉様は私の手を引いてソファーに横並びに座った。
「ヴィーに会いたかったんだわ」
「え?それだけですか?」
「多分…そう…」
会いたいだけで泣いちゃうなんて。嬉しくてニヤニヤしちゃう。
「お姉様。一緒に寝て良いですか?」
「そうね。そうしましょう」
お姉様は隣室に控えているメイドに言付けて、私と一緒にベッドに入った。
「内緒の方が面白いのに」
「だめよ。またリサが真っ青な顔で泣き出しちゃうじゃない」
今まで何度も夜中にお姉様の部屋に忍び込んだ。その度に私専属のメイド…リサが早朝からお姉様のメイドに泣きじゃくりながら相談に来る。そして私を見つけた時の泣き怒りの複雑な顔がとても可愛いのだ。
「そうやっていじめてると、誰もお世話してくれなくなるわよ」
「いじめてません~。リサは可愛いから好きなんだもん」
「ヴィーは本当に可愛い子や可愛い物が好きね」
「フフッ(ディアーナお姉様が一番好きですけど)」
布団の中で手をつなぐ。
「ねぇ、ヴィー」
「何?お姉様」
「いつまでも一緒にいてくれる?」
「お姉様は一緒にいてくれるんですか?」
「いるわ」
「ふふっ」
「どうしたの?」
「嬉しい。私もお姉様とずっと一緒です」
「ありがとう。私も嬉しいわ」
つないだお姉様の手をもう片方の手と包む。
「でも、大人になったらどうしたら一緒に居られますか?」
「ヴィーが近衛に入る話?危ないのは嫌よ」
「…他に何かありますか?お姉様の女官になるとか…」
お姉様がクスクス笑う。
「王女が女官になれるわけないでしょう。それにヴィーが私のお世話をするなんて…私がヴィーのお世話をしたいのに」
ちょっとほっぺを膨らませて怒ったふりをするお姉様。
「女王様がそんなことしたら、どっちが女王かわからないじゃない」
私もクスクス笑う。
「二人とも女王になれたら解決なのに」
そうすれば本当にいつも一緒に居られる。他の方法よりもずっと。
「それって、お姉様の口ぐせになっちゃったね」
「そんなにいつも言ってるかしら」
二人で目を合わせて笑いあった後、ディアーナお姉様もつないでない方の手を私の両手に乗せて目を瞑った。
すぐ側にある温もりに安心して私とお姉様は眠りの国に誘われていった。