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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
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8.剣の稽古と継承問題


 本日の午後はお姉様だけ別カリキュラム。アシュリー大叔父直々の剣の稽古だからだ。

 初めて会うクリスティーナと大叔父は先ほどから剣を交わしている。もう三十分以上は経っているか。

 クリスティーナが満面の笑みで…流石に実力差があるから端から見てると遊んでいるみたい。

「よそ見をするな!」

 私はハワードの相手。不本意なことに私は剣を持たずに盾のみで相手をしている。

 ハワード達がちゃんと稽古の相手をしてくれるなら、クリスティーナが宮廷に呼ばれることもなかった。

 女と真面目に剣を交えることなどできるか!ってハワードが五月蠅くて。仕方なしに他の者もハワードに倣って私との稽古は『剣の者と盾の者』が定番になった。ハワードに至っては私に剣を握らせてくれない。

「大叔父様はお前よりあの女の方がいいみたいだな」

「クリスティーナです」

「あの女も可哀そうだな。お前みたいな恥晒しの侍女なんてやらなきゃならないなんて…」

「クリスティーナです」

「ああ、お前と同類だから、別にいいのか」

 反撃に転じたかったが、持っているのは盾。押し返してもいいのだけれど、一回それをしてしまったその後は大人以外は誰も相手をしてくれなかった。懸命に謝って今がある。

 ハワードはガンっと剣全体で盾ごと私を押し出した。尻もちをついた私にフンっと一瞥をくれて侯爵子息の元へ行った。

(やっと終わった)

 防御のみでも神経は使う。しかし盾側から終わらせることはできない。まだまだ元気なハワードと息が上がっている自分とを比べてしまう。


 クリスティーナの方も終わったようだ。息を弾ませながら礼をする彼女がとても可愛らしい。

 ハワードだけでなくクリスティーナとも比べてしまう。こちらは同姓だし年齢も同じ、違うのは身長体重くらい。それでも私とはかなり違う。

(お姉様に仕える近衛も私よりクリスティーナの方が似合いそう)

 式典用の白いドレスを纏ったディアーナお姉様と軍服姿のクリスティーナを想像する。絵になる。大人になったらそれはそれは…

「ヴィヴィエラ殿下」

「ふょえ?」

「稽古は終わりですよ。これからどうされますか?」

「あ…ああ」

 昨日よりも柔和な顔でクリスティーナが覗き込んでくる。

「…クリスティーナはアシュリー大叔父様が好きなのね」

「え!…あ…はい…恐れ多くも…とても憧れてて…」

 顔を真っ赤にして手を前に組んで指先をモジモジ。

「わかるわ。私もあんな大人になりたいと思うわ…」

 人望の厚い大叔父は結構な経歴や経験を持つ。私とてその全ては知らない。

 私やディアーナお姉様を限りなく甘やかしてくれるのは、会えない実の娘がいるからだと聞いたのはいつだったか。今も若い頃と同じように身体を鍛えているのは、その娘を守る時がいつか来るかもしれないから。

「このような機会をくださってありがとうございます」

 クリスティーナが頭を下げる。

「…それは…私じゃないけど…」

「でも、殿下がいたからこそじゃないですか。ありがとうございます」

「も、もう、やめて。礼はいいから」

 気恥ずかしい。家族以外からそういう風に言われたことは初めてだった。


 良かった。ディアーナお姉様よりアシュリー大叔父が好きなら仲良くなれそう。


「…ヴィヴィエラ殿下、聞いてもいいですか」

「何?」

「ハワード様に言い返さないのは何故ですか?」

「…」

「ヴィヴィエラ殿下の方が立場が上じゃないですか。私や使用人の前でもあのような」

「クリスティーナは王位継承権の事は知ってるわよね」

「は、はい。ヴィヴィエラ殿下は第三位ですよね」

 我がケーリアン王国の王位継承は国王の直系子孫が優先される。順位は王太子の父、第一子のディアーナお姉様、第二子のヴィヴィエラになっている。

 その次が王太子の姉シャーロットの二人の息子、兄クライド。弟ハワードは五位だ。

「私が女なのが一番の問題なの」

 王位継承は男女の別なく与えられるが、男性は他国に籍を置いた時に女性は結婚時に継承権を返上する決まりがある。例外は直系子孫の第一子のみ。つまり、今現在はディアーナお姉様がそれに該当する。

 女性の結婚が遅れるのを防ぐ意味合いもあり、暗黙の了解として男性が優遇されるようになった。

 父の代も誕生時は姉シャーロットの方が順位は上であった。オリヴィエ公爵に嫁いだ時点で継承権は返上となり、継承者が他に存在しない場合にのみ復活する。

「だからシャーロット伯母様みたいに、私も結婚すればただの王族の一人になるわけ。なのに私も帝王学を学んでるのが気に入らないってハワードお兄様が言うの」

 不安になってテオ先生に度々相談に乗ってもらった。誰と結婚しても何処に居ても学んだことは役に立つはずだよって先生は言う。

「継承権が消える予定の私がこの先ずっと持っているハワードとケンカしちゃいけませんって、お母様やお祖母様や…みんなに言われる…」

「そう…なのですか…」

 クリスティーナも私と同じように俯いて地面を見つめた。


「でも…ヴィヴィエラ殿下…」

「何?」

「ハワード様だってどうなるか分かりませんよ」

「?」

「ハワード様も他国に婿入りすることもあるかも…ですよ」

「!」

 ハワードは次男だ。十分に有りうる。

「そうよねぇ!そうねぇ!」

 私はクリスティーナの両手を取りブンブン振った。

「私は結婚なんかしないから」

「そうなのですか?…私も同じです。結婚したくないです」

「そうなの?」

 見つめあって二人同時にフフッと笑う。

「クリスって呼んでもいい?」

「どうぞ。ヴィヴィエラ殿下」


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