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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
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5.痛さと熱

 それから後のことは覚えていない。

 目が覚めたというのか、我に返ったというのか。あれから3日経ったらしい。

 部屋の訪問記録をメイドに読んでもらう。様々な人たち…シャーロット伯母やハワードの名前もあったのだが、父の名は読まれなかった。読まれていたら恐怖でベッドに逆戻りだったかもしれない。

 ディアーナお姉様が呼んでいるとのことで、急いで支度をする。急ぐのはメイドだ。私はお姉様に会える喜びと怪我をさせた後悔がない交ぜになった為にノロノロと動いている。


 …夢だったらいいのに。

 触ると痛い側頭部と左頬の腫れが現実だと訴える。


 (いいか!金輪際ディアーナに近づくな!)

 あの日の父が思い出される。恐怖で震える。いいのだろうか、お姉様に会いに行って。



 いつの間にかお姉様の部屋の前に居た。

 ドアが開け放たれるとお姉様の香りが辺りを包んだ。


「ヴィー」


 お姉様の優しい声が胸に入ってくる。

 泣き出したいのを我慢しておずおずとお姉様のベッドに近付く。

 連れてきてくれたメイドも応対したメイドも部屋から出てドアを閉めた。お姉様と二人きりだと思ったとたん、涙が出てきた。

「ディアーナお姉ちゃま…お、おかげんは…」

「大丈夫よ。ヴィーこそ、お熱出たんですって? 辛くない?」

 ディアーナお姉様はベッドに腰かけていた。背もたれやクッションも背中に当たると痛いのだろうか。

「おねえちゃまぁ!ご、ごめ…も、申しわけ…」

 グズグズの顔で抱きつく。

「平気よ。だって大事な妹を守れたんですもの。王妃様…お祖母様に自慢しちゃったわ!」

「じまん?」

「お祖母様に教えていただいたの。年長者は年少者を守らなくてはならないのですって。だからディアーナはヴィーを守ってねって」

 うふふと笑うお姉様。


 えー?何それ何それ。

「ヴィーもお姉ちゃまを守る!」

「え?私がヴィーを守るのよ?」

「やーだー!わたしもお姉ちゃまを守るのー!」

 グズグズを更にグズグズさせてお姉様に縋る。一歳しか違わないのに!

「ヴィーはまだ小さいじゃない」

 そう言ってお姉様は私の腫れの残る少し赤い頬を触った。

「…どうしたの、これ…」

「おとう…」

 バツが悪い。自分の口から父親に怒鳴られ殴られたなんて言いたくない。


 黙っているとお姉様は私の頬に自分の唇を押し当てた。

 そこから熱いものを感じる。体中にそれが駆け巡る。胸も熱い。

 なんか…前に…

 そうだ。これは四歳の誕生日の時に受けたものと同じだ。

 熱いものは私の体の隅々を通って、またお姉様に返っていった。


「あれ…」

 唇を私の頬から離したお姉様は、おもむろに白い寝間着のボタンを外し始めた。そうして後ろを向いて素肌の背中を見せた。

「背中の火傷…どうなってる?」

 火傷の症状を見たことがない私はどう答えたらいいのかわからなかった。あの日もお姉様はすぐ別室に連れていかれて、どうなったのか知らない。


「きれい…でしゅ」

 見たままを伝えた。

「触って!いいから触って!」

 恐る恐るお姉様の背中を触る。人差し指からゆっくりと順番に指を付け手のひら全体でさすった。

「…痛くない!」

 寝間着がはだけたまま、振り向くと頭を抱きしめられた。

「さすが私のヴィー!大好き!」

 お姉様の頬が殴られた左頬を撫でる。お姉様の腕が側頭部の打撲痕に当たる。

 どちらも痛くなかった。

「お姉ちゃま…だいしゅき」



 傷が治ったことは誰にも内緒よ、と人差し指を唇に当てウインクするディアーナお姉様。

「お祖母様に来てもらうことになったから」

「王妃しゃま?」

「違う違う。私のお母様のお母様。こんな風に突然傷が治ることってお母様のお家じゃ時々あったことらしいの。もし私の周りでそんなことがあったら誰にも言わないで、すぐに知らせなさいって…」

「そなの?」

「うん…だから、ヴィーのお母様にも言ってはダメ」

「…わかった。だれにも言わない」

 おでことおでこをくっつけて誓いの言葉を交わす。誓いの言葉を言うときは目を瞑るのが正しいのだけど、しっかり開いていた目をお姉様に見られた。お姉様もコッソリ私の顔を見たいと思ったようだ。二人でクスクス笑う。


 とりあえず、お姉様に言われるままに新しいサラシを火傷があった場所に貼り付けた。一日二日は誤魔化すつもりのようだ。

 お姉様の部屋に入る前が嘘のように幸せな気分で退室した。


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