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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
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32.友達と仲間


 すっかり日が暮れてスプリング男爵廷に戻って来ると、着替えもそこそこで食堂に案内された。さほど広くなく八席しか無いのに人数は三倍以上居るので時間毎に区切る。私やサイモン、ルイーズや女官のオリヴィアなどが最初に席に着いた。

「貴方のお母様はお料理もお上手なのね」

 私は隣のサイモンにこそっと伝えた。スプリング男爵夫人は食堂に来られない私の母と部屋で一緒に夕食を取っているらしい。

「そうだろ?まぁ、毎日作ってくれるわけじゃないけどな」

 特に繊細な味や飾りつけのある料理ではないけれど、スパイスの使い方が絶妙だ。

「このサラダのドレッシングは?初めて食べるけど」

 ルイーズが声を出す。

「…それは私が。夫の領地に居た時に気に入ってコックに教えてもらったものです」

 答えたのはオリヴィアだ。なるほど、今夜のメニューは今館に居る者の集結したものか。貴族は料理をしなくていいのではなく、知っていなくてはならないのだ。美食家ほど探求心から自ら作るものらしい。


 一通り食べ終えると私達子ども三人は私の母が居る客室へ向かった。ノックして入ると二人の母親が楽しそうに談話していた。

「お母様!お加減はいかがですか?」

 静かに寝かせてあげて欲しいとオリヴィアに言われたから今まで母の部屋を訪問しなかったのに。聞くまでもなくご機嫌な母。

「先ほどよりだいぶマシよ、ヴィヴィエラ。あら、あなた達仲良くなったのね。そちらのお嬢様は?」

 幾分か痛みが和らいだらしいアメリアがルイーズに目を向けた。ルイーズは私にしたように精一杯の挨拶をする。サイモンとルイーズは母親同士の関係性から幼馴染。そういう関係も小さい頃の顔見知りは親戚だらけの私には新鮮に映る。

「ねぇねぇ、ヴィヴィエラ。私、貴女の衣装を褒められちゃったわ。今度は先生と一緒に作るから楽しみにしててね」

「妃殿下、先生はやめてくださいませ。ただの片田舎のデザイナーですわ」

「でもナジェ王国で有名なデザイナーって聞きましたわよ。もったいないわ。一度宮廷にいらして」

 なんだかいたたまれなくなって、サイモンとルイーズに目で合図しながら話に夢中の母親たちの部屋からそっと出た。


「あーあ、まぁ着せ替え人形頑張って。俺はずっと断ってるから」

 廊下を歩きながらサイモンがしてやったりな顔をする。

「そうなのよ!サイモンが最近モデルをやらないから私が男の子の服を着させられてるのよ!いい加減にしてよぉ」

「そっちは商売だろ!家の手伝いするのは当たり前!」

「サイモンだって先生の息子なんだから手伝って当たり前!」

 急に二人の言い争いが始まった。ビックリして困った顔をする私に二人が気付く。

「ああ…ごめんなさい…。サイモンとはいつもこんな調子なの。でも、親の手伝いをするのは当たり前だとヴィヴィエラ様も思うでしょ?」

「やりたくないことをやらなくても良いと思うぞ。嫌々やって儲かるわけないだろう?」

 何故それぞれ私に主張してくるのだろう。

「…親の手伝いとか儲け方とか、私にはわからないけど…助け合うのは素晴らしい事なんじゃないかしら」

 親の手伝いが当たり前か否かをはっきりさせるのは、私には正直難しい。立場で言うと王族の親の手伝いは…なんだろう?公式行事への参加…は義務だし、賓客のおもてなしとか?どこかへ視察とか?慰問や教会への寄付なら学生の私でもできるかもしれないけど、それは親の手伝いと言える?

「そっかぁ、王女様はお手伝いしなくていいのねぇ」

「そりゃあ、助け合うのは良い事だと思うけど、嫌だって言わないと延々とやらされそうじゃないか」

 私の意見をそれぞれ聞きたいところだけ聞いて納得するルイーズとサイモン。

「俺は服にはあまり興味ないからルイーズに任せるよ。じゃあおやすみ…じゃない、おやすみなさいませ、ヴィヴィエラ殿下」

 サイモンは笑いながら言い直すとすぐさま自室に消えていった。

「あっ!サイモン!もうっ!…しょうがないなぁ…」

「いつもこんな調子なの?貴女とサイモンさんって」

「ん…そう、そうなのデス。慣れっこなんですけどねっ。じゃあ、私も行きますね。先生の部屋で寝るので」

 丁度私が使う予定の客室の前に来ていた。

「おやすみなさいルイーズさん」

「おやすみなさいませ。ヴィヴィエラ様」

 ルイーズは嬉しそうにスキップしながら三つほど離れた部屋へ入っていった。

「なんだか疲れちゃった」

 皆と別れた後、私はベッドへ突っ伏した。そういえば慣れない事をしたりや初対面の人達と話したり。

「フフッ」

 でもこんな事は滅多にないことだ。後から思い出したのだが一日ディアーナお姉様の事を思い出さなかった。それも滅多にないことだと良くも悪くも充実した時間を過ごしたのだと感じた。



「アメリア妃殿下、ヴィヴィエラ殿下の旅路に幸運を」

 従者を二名付けたキラッキラした少年がスプリング男爵廷の庭で跪いている。

「ジェフ!こんな朝早くどうした!」

「そりゃ王室の方々がお見えになっているから父の代わりに挨拶に伺ったんですよ」

 サイモンが驚いた顔つきでジェフの手を取りブンブン上下に振り回す。表情を変えずに返答するジェフ。

「ジェフ・グリーンフィールドです。父は邸宅から離れることが出来ませんので、息子の私が参りました。途中までお送りします」

 私の友達なり親戚なり言われてた子だ。爵位は伯爵。彼は普通のこの国の貴族らしく金髪なんだから赤茶の髪の親子と親戚なんてあまり考えないのだが…。そういえばここには黒髪の男爵母子がいるか。そういう事とは関係なくこのキラッキラした服装だけで彼の知人だと言っていたのか?

「まあ!忙しい時期にわざわざ見送りありがとう」

 思わぬ可愛い伏兵に、体調はだいぶ良さそうだが目に薄っすら隈を作っている母は感動していた。

「三人は仲が良いのね」

 私にベッタリくっついていたはずのルイーズが、いつの間にかサイモンとジェフの近くで話している。

「まぁ、年齢が一緒ですし、幼馴染ですから」

 母の隣のスプリング男爵夫人が答えた。

 この辺一帯の領主の伯爵令息と山林だけが領地の男爵令息と織物商人の娘。王都だと学院以外でこのような三人が礼儀も無視してはしゃいでいる様は見たことが無い。しかも大人達が誰も注意しない。

 ―羨ましい―

「あら、貴女とクリスティーナ嬢とリサを見ているみたいよ」

 母は私にこっそり耳打ちをした。うっかり口に出していたようで、慌てて唇に両手を当てた。あまりくだけたところを見せないようにしているのに。

「私はヴィヴィエラの事なら何でも知っているのよ」

 ニッコリ笑う母。赤面して俯く私。でも私達三人は全員女で、サイモンの方は男二人女一人。比べるのも違う気がしてくる。

「妃殿下、そろそろ…」

 後ろに控えていたオリヴィアが急かした。今日中に直轄領リンキスに着かなくてはならない。それでもいくつかの行事はもう間に合わない。

「お名残り惜しいけれど、もう出発します。突然お訪ねしたのに心良くお泊めいただいて本当にありがとう。宮廷にぜひ遊びにいらしてね」

「はい。必ずご注文の品を持ってあがります」

 母は既にスプリング男爵夫人に衣装の注文をしていたらしい。目元の隈は多分そのせいだろう。

「宮廷に…お帰りの際は…お寄りにならないのですか」

 サイモンがたどたどしく母に問う。護衛隊長が道中も視察に含まれるので帰途は違う道になると答えた。来年も来ると思っていたルイーズが泣き出した。

「…来年は違う領地に行っちゃうってぇ…」

「でも再来年には三人とも学院に入学するんでしょう?そうすれば毎日会えるわ」

 貴族の二人は入学決定だが、ルイーズに関しては不透明だが母である王太子妃が懇意にする商家なら無条件に入学できると思う。

「本当?入学したら毎日?嬉しい!!」

 ルイーズが私に抱きついてきた。かなりの勢いに押され私はよろけた、ところをすぐ後ろに居た女官の一人が支えてくれたので尻もちを付かずに済んだ。

「はい、涙を拭いて」

 私は持っていたハンカチでルイーズの頬を拭い、そのままルイーズの手に持たせた。

「サイモンさんもジェフさんも、学院で待ってるわね」

 ジェフは恭しく微笑み、サイモンはそっぽを向いた。

「ヴィヴィエラ」

「はい、お母様」

 私は先に母を馬車に乗せると、集まった皆に振り向き挨拶した。

「では皆様、ごきげんよう。春祭りの祝福とケーリアンに幸福を!」

 私達一行はスプリング男爵廷を出発した。最後尾にジェフ達が付いてくる。サイモンも同じ馬に家に送るためにルイーズを乗せている。

 街道の途中の街の入り口付近にルイーズの母のボーウェン夫妻と店の従業員達が見送りに来てくれていた。本当は止まってきちんとお礼したかったがそんな時間も惜しい。私と母は窓越しに手を振った。瞬く間に皆小さくなった。


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