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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
21/34

21.母の手紙とお姉様


「あら?お手紙?」

 ディアーナお姉様が私の部屋のソファーに座ってお茶を飲んでいる。

「最近お母様からが多くて」

 私は椅子に横向きで座って手紙を読んでいる。お姉様と斜めに向かい合う形になっていた。

「アメリア様から?何て?」

 お姉様は瞳をキラキラさせて嬉しそうに聞いてくる。

「え…、えっと」

「ごめんなさい。内緒なら言わなくていいのよ」

 顔は微笑んでいるが、垂れた耳と尻尾が見えるようだ。

 どうしてこの方は私の母に興味があるのだろうか。

「お姉様は私のお母様が好きですか?」

「え?あっ、あ、そうね。好き…好きと言うほどアメリア様の事を知っている訳ではないし…憧れ?憧れかしら。ヴィーのお母様だし、隣国のお姫様だし」

 お姉様もお姫様なんですが。

「シャーロット伯母様も美しいと思うんだけど、アメリア様は…そうね…大きな絵にしてお部屋に飾って毎日眺めたい…ああ、そうね、小さい頃のヴィーがアメリア様のお膝に居てもいいわね。ヴィーと同じ赤茶色の髪がこう…ああ…可愛い…美しい…」

 お姉様が違う世界に行ってしまわれた。引き戻さなくては。

「お母様からのお手紙には、会いたいとは書かれているんですが、やたらと学院はどんな所だとか何をしたのか誰と何を話したのかとか質問ばかりで…」

「そうなの…。そうね、アメリア様はこの学院には通ってらっしゃらないんですものね。ヴィーが心配なのでしょうね」

 うんうんと頷くお姉様。そして何かに気付いたように立ち上がった。

「あ!私もアメリア様にお手紙書こうかしら?ヴィーはこんな風に過ごしています、こんなお勉強をしていますって!」

 私の体から血の気が引いた。

「やめて、やめてお姉様」

「あら、どうして?アメリア様のご心配の種を少しでも減らして差し上げたいわ!」

「私が恥ずかしいからぁ…やめてくださぁい」

 全身が熱くなった気がして私は両手で顔を覆った。フワッとお姉様の匂いが近付いたかと思うと私の頭がお姉様に抱きしめられていた。

「私の可愛いヴィー…。ヴィーが嫌なら手紙は書かないわ」

「本当?」

 頭を上げてお姉様の顔を見つめた。

「本当よ。でも恥ずかしがってるヴィーはとっても可愛いわ」

 お姉様は今度は私の上半身を抱きしめた。お姉様の温もりと香りが私を包み込む。

「意地悪…」

 うっとりしながらうわ言のように呟いた。

「フフッ、意地悪は姉の特権らしいわよ」

 ずるい。お姉様という生き物は。



 母に手紙を出す必要は私にも無くて。

 もうすぐ春祭りの為の十日間の休暇が始まる。

 春祭りはケーリアン王国を挙げてのお祭りで、種蒔きの季節が来たことを寿ぐ意味がある。

 学院では祭りの少し前から休暇が始まり、貴族子女も家を手伝う為に領地に帰る。もちろん王族の私達も一旦宮殿に帰り直轄領の農作地を視察する。種蒔きが終わった頃に各地で三日間祭りが行われる。

 遠方の領地のある生徒の為に休暇の始まる二日前には教養時間は無く、それぞれ授業が終わると早めに寮に帰り帰省準備をする。

 私もクリスティーナと私の部屋で荷物の選別をしていた。

「これで終わりかしら」

 お気に入りのクッションや本、少量の衣類だけケースに入れた。入寮の時の半分も入ってない。

「明日も授業で使うから入れませんけど、問題集も忘れないでくださいね」

 クリスティーナは机に積まれている数冊の問題集を指差した。

「う~…」

「明日もう一回言いますからご安心を」

「心配なんかしてません」

 座学なんて必要以上にやりたくない。折角の休暇に課題や宿題があるのかしら。

「では、私も自分の荷物整理してきます」

 クリスティーナはお辞儀をして部屋を出ていこうとした。

「あ、クリス。私も手伝うわ」

 追いかける私。

「いいえ。殿下にお手伝い頂かなくとも大丈夫ですわ」

「私は忘れ物しても宮廷は近いから誰かに取りに来させればいいけれど、クリスは領地に帰るんでしょ?忘れ物をしたら一大事だわ」

「大丈夫です。制服以外は全部持ち帰る予定なので」

「遠慮しないで頂戴」

 と、二人で笑いながらやり取りを交わしていた時、ドアをノックする音が聞こえた。

「ヴィヴィエラ殿下!国王陛下がお見えになるようです!」

 メイドのリサが驚いた顔つきで私達に告げた。

「ええっ?いつ?」

「…二時間後には…さっき宮殿をご出発なされたようで…」

 急に学院に国王陛下が来る。部屋の外が騒がしい。いつからこんなに騒がしかったのか、全然気付かなかった。

「陛下は何の御用で?」

「わかりません。誰も聞いてないようで…お召し替えなさいますか?」

 そういえば。学院から帰ってすぐ荷物整理を始めたので私もクリスティーナも制服のままだった。

「そ、そうね。じゃあ、クリスもお部屋に戻って…」

「いけません。そのままでお願いします」

 突然四人目の声が聞こえた。リサの隣にいつの間にかディアーナお姉様の専属メイドが居た。

「ディアーナ殿下からのご伝言でございます。どうか制服のままでお出ましくださいませ」

 お姉様からの伝言。では国王陛下の急な訪問の理由を知っているのか。

「そ、そうなの…じゃあ、身だしなみだけ整えるわ。クリスも自分の部屋に戻って」

「はい。では後ほど」

 二人が出て行ってドアが閉まる。私はドレッサーの前に座る。リサがブラシとリボンを出してきた。

「制服のままってどういうこと?」

「さあ…陛下にお見せしたいということではないでしょうか」

 リサが編んでいた私の髪を解き、ブラシで梳かしてくれる。

「制服を?」

「ヴィヴィエラ殿下やディアーナ殿下の制服姿を、です。ヴィヴィエラ殿下だって去年の今頃はディアーナ殿下の制服姿を見たいって仰ってたじゃないですか」

 リサにそう言われると、当時の感情が蘇ってきて恥ずかしくなった。

「そ、そういうことなのね」

 この寮には現在三人の孫が居る。揃って制服を着ているのは割と絵になるのかも…ディアーナお姉様だけで十分とも言えるけど。ハワードも制服姿はまた違って素敵ってクラスの子たちが言っていたかしら。お姉様だけで十分絵になるんですけれども。

「それにしても、本当に急だわ…」


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