17.人気の科目と裏の事情
教養時間が終われば一旦教室でパメラ達と落ち合うことになっている。他の生徒がいない教室でクリスティーナと待っているとジェニーが駆け込んできた。
「ハアハア…お待たせして申し訳ありません…ヴィヴィエラ殿下。…騎士室はいかがでしたか?…ハアハア」
ジェニーが息切れで苦しそう。
「急がなくてよかったのに。はしたないって言われちゃうわよ」
「…一年生と二年生はやることが多くて…」
ジェニーは教養時間の科目に社交ダンスを選んだ。男女ともに人気で学院の半分はダンスホールに行っている。ただ、一年生の男子は恥ずかしいのか数が少ない。年齢が上がるにして男子の割合が多くなる。
「人数が多すぎて踊る時間が少ししかないんですが、マッチングの抽選とか準備とか色々で…
ただダンスを習うのではなく半分は出会いの場になっている。もちろんダンスの腕を向上させる人も少なくはないが、大抵は青田買いするためだ。
内向的なジェニーも貴族の娘で、それも一人娘。婿を貰わねばならない。ジェニーの両親も良き婿を期待しているらしい。それとは別にジェニーは大勢を前にしても物おじしないようになりたいと言う。
「それで?良いかなって思う人は?」
「分かりません。というか、何人居るかも分からないので…今日は男女合わせて百人超えてたし…毎日参加人数は変わるらしいので」
「そんなに?騎士室で何人だったかしら」
「四十三名だったかと」
クリスティーナが数字を言うと、ジェニーは凄いわと尊敬のまなざしを向ける。
「騎士室は増えそうですよね。クリスティーナ様」
「ああ…その可能性はありますね。ダンスは王族は参加されませんし」
「え?どうして王族がダンスに参加しないと騎士室の人数が増えるの?」
王族の婚姻は昨今はかなり自由度が高くなったが、ダンスに参加すると秩序のバランスに欠けるのは明白である。なので初めから王族はダンスは選べない。
でもそれが騎士室の参加人数に影響があるって初耳だ。
「真面目に仰ってますか?殿下」
「え?どういう意味なの?」
ジェニーとクリスティーナが顔を見合わせる。
「大変です。もう少し自覚がお有りになると思いましたのに」
「仕方ないんです。ジェニー様。以前からご興味がないのです」
「え?なに?なんのこと?」
「殿下はこの国の王女であることは認識なさってますよね?」
「どうしたのよ、クリス。当り前じゃないの。覚えていたくないけど、忘れてなんてないわよ」
「でしたら、いいのです。私達が気を付けますので」
澄ました顔のクリスティーナ。
「でも、クリスティーナ様も殿下と同じですよ」
「ええ、そうね。ジェニー様。気を付けるわ」
二人で笑い合っていて、結局答えは教えてくれなかった。
「それにしてもパメラは遅いわね…」
教養時間終了時刻はとっくに過ぎている。
「パメラ様はマナー講座だったかしら」
「どうしましょう。私がお迎えに行きましょうか」
「皆で行きましょう。またどちらかが待ちぼうけになっちゃうかもしれないわ」
私達は教室を出ようと立ち上がった時、パメラが現れた。
「申し訳ありません。お待たせいたしました」
「パメラ様~!心配いたしましたわ。どうなさったの?」
「なんでもないわ。ジェニー様。残って復習をしていただけなのです」
ふうっと息を吐くパメラ。少し疲れた顔をしている。
「ええっと、マナー講座って同盟国のマナーを学ぶんだったわよね」
「そうです、殿下。今月はハウディランド王国のマナー講座なのです」
「ハウディランド王国は我がケーリアン王国と文化は似ているから分かりやすいんじゃなくて?」
クリスティーナが首を傾げる。パメラも宮廷の侍女なのだからしっかりマナーは学んでいるし、似ているから復習するほど難しくもないはず、と、私も思う。
「ええ、まぁ、そうなんですが。所作の難しいところがありまして」
パメラはあまり私達の顔を見ない。出来ないことが恥ずかしいのかしら。
「お姉様は?もうお帰りになった?」
パメラと同じ講座にディアーナお姉様が出ていたことを思い出して問うた。
「へぃあ!え、あ、はい。お帰りになられました。私達も帰りましょう」
そそくさと私と自分のカバンを持って教室を出るパメラ。急いで私達は後を追った。




