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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
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16.代々の部屋と演習


 次の日の午後。少し早めにクリスティーナと一緒に騎士団準備室を訪れた。

 室長とジェイクだけが居て、挨拶もそこそこに私達の控室に案内された。

 着替えの入った大きなトランクを持っているクリスティーナに手のひらを見せたジェイクだったが、無視を続ける彼女に苦笑いを浮かべながらその手を引っ込めた。

 ギシギシと廊下に敷き詰められた木材が鳴く。騎士室の建物は大きいだけで内部はかなり古くて質素だ。修繕を繰り返した壁や窓は歴史を感じる。

「王族専用の部屋なのですが、ヴィヴィエラ殿下が現在最年少の王族だと思われますから…」

 思い切った改装をしました、と、ジェイクが控室のドアを開けた。


「わぁ…!」

 真っ先に目に入るのは可愛い花柄の壁紙。取り付けられた燭台も花の造形。天井は小ぶりのシャンデリア。大きめのソファーと布張りの椅子が二つずつ。作り付けの棚やテーブルは古そうだがよく手入れがされていた。

「バスルームも新しいのですか」

 クリスティーナが部屋の更に奥の部屋から声を出す。

「最後に使用したのはクライド様だけど、その時は壊れた個所を直しただけだったそうだよ。だから女生徒が使い易いようにしてくれって頼まれたら断れないでしょ」

「頼まれたって…どなたに?」

「殿下の大叔父様ですよ」

「まぁ、アシュリー大叔父様?」

 私とクリスティーナは大叔父のサプライズプレゼントを大いに喜んだ。

「そうそう。アシュリー様と言えば」

 ジェイクが話しながら部屋の隅の天井を指さす。木製の梁が大きく掘れている。直したとしても異常に凹んでいた。

「真新しい剣を当時の国王様に頂戴して、さっそくその日にこの部屋で素振りをしていたそうです。何度目かの振りで汗で滑ってあそこに剣が突き刺さったらしいですよ」

 剣の腕では右に出るものはいないと称される大叔父も、少年の頃はお茶目で可愛いらしかったのか。

「直さないのですか?」

「直さないように言われてます。代々の室長に…元々は今の騎士団長かと」

 ほほーとクリスティーナと同時に声が出た。団長と大叔父はそういう…親友?悪友?な間柄なのだろう。


「で?」

 クリスティーナが険しい顔をジェイクに向ける。

「ジェイク兄様は出て行っていただけませんか」

「はい?」

 ジェイクが怪訝な顔をする。

「私たちは着替えなければいけないのです!ジェイク兄様がここに居ればいつまでたっても用意が出来ないではありませんか!」

 兄を怒鳴りつけるクリスティーナ。怒るクリスティーナは見る機会があまりないので、驚きよりも物珍しさが勝ってしまう。

「そうだった、失礼。では…三十分後くらいにお迎えに上がります。演習場にて他の新入生と共に顔合わせがありますので」

 ジェイクはこの部屋の鍵束をテーブルに置くと静かに部屋を出ていった。すぐさまクリスティーナが鍵を閉めドア部分のカーテンを閉め三つある窓のカーテンを閉めまくった。ただし窓のカーテンは分厚い布が三重になっており、まだ陽が高いのに部屋の中は灯りが必要だった。

「…心配し過ぎじゃないですかねぇ」

 もしかしたら宮殿の国王の寝室より厳重かもしれない。




 演習場でも挨拶が簡単に済まされた。

 昨日の内に準備室の皆には説明されていたようで、王女と公爵令嬢がこの場に木剣を提げて立っている事に異を唱える者はいないかった。それぞれの顔や目には不満がありありと見て取れたが。

「僕の相手をお願いできますでしょうか」

 観戦しようと生徒達が輪になり、その中心でジェイクはまるでダンスにでも誘うように私に言った。

「喜んで」

 相手の手に自分の手を重ねる代わりに木剣を構えた。

 心配そうなクリスティーナが目の端に見える。

 ジェイクは少年らしい体形と言っていいのか、細くて長い手足と敏捷さが持ち味のようだ。同じ歳のクリスティーナに未だ身長でも技でも負けているのに、更に二つ上の男子が相手なんて無謀もいいところ。

「ヤーッ!」

 掛け声だけでも大きく。勝てる要素には貪欲に。

 盾と剣を両方突き出すのはバランスが悪い。左手の盾はピッタリと胸を隠すように当てておく。

 ジェイクに向かって走る。相手が交す動作寸前で盾の方を一瞬前に出し、すぐ元の位置に盾を戻すと同時に右手の剣を突き出した。

 ジェイクにはお見通しだったようで、身を少しよじりながら剣で受け止め空中に払われた。

 私の剣はクルクルと空に舞った後、地面に落ちた。


「…」


「…ヴィヴィエラ殿下…申し訳ありません…もう少し弱めにするべきでし」

「嬉しい!」

「はい?」

「今まで本気で相手してくれるのはクリスティーナだけだったの!楽しい!楽しいわ!やっぱり握力がまだまだなのね。後ろ足に残す力配分もなってないわ!凄いわ!足りてないところもすぐに分かっちゃう!とっても素晴らしいわ!」

 ありがとうございます!と思わず直角のお辞儀をしてしまった私。

「もう一本宜しいでしょうか?」

 満面の笑みでジェイクにダンスのお代わりを催促した。


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