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姫の王女と王女の姫  作者: 香五七飛
15/34

15.似た立場と違う境遇


「久しぶりだね、クリスティーナ」 

 茶色い髪の少年がにこやかに近づいた。

「お、お久しぶりです。…ジェイク兄様」

 クリスティーナが苦しそうに声を出した。

「クリスのお兄様?」

 私はクリスティーナが宮殿に上がった時に貰った釣書を思い出そうとした。何回か見返したが姉二人兄一人で、当時の書面から計算すると今や三人共もう立派な大人である。

 釣書しか知らないのはクリスティーナが家族兄弟の事を話したがらないから。宮殿に仕える者は交代で長期休みが与えられるが、その時クリスティーナを迎えに来るのも毎回母親のランドール伯夫人だけだった。


「も、申し訳ありません。ヴィヴィエラ殿下」

 クリスティーナがこちらを向いて頭を垂れる。

「ご紹介します。こちら、ジェイク・ランドール。私の二つ違いの兄です」

 観念したかのように俯いたままのクリスティーナ。と、対照的に笑顔のジェイク。

「初めまして、ヴィヴィエラ殿下。妾腹の兄です。お会いできて光栄です」

「妾腹?」

 聞きなれない言葉だった。耳にしたことはあったか。

「僕はランドール伯爵の愛人の子どもですよ」

「ジェイク兄様…それは…」

「事実なんだから。僕は隠してるわけでもないし」

 ああ、王族の男性は何人女性を囲っても愛人ではなく妻だから、『妾』などという言葉は滅多に聞かないということか。

「立ち話もなんだから、取り敢えず入って。クリスティーナ」

 渋々私を会議室の中へ通すクリスティーナ。


「お茶でも煎れようか」

「いいえ、用が済み次第お暇しますので結構です」

 二人のやり取りでは話が進みそうにない。私は目の前にあった椅子に腰かけジェイクに話しかける。クリスティーナは私の後ろに立ったまま苛立ちを隠せないでいた。

「ジェイク様はここの室長なんですか?」

「あ、いえ。僕は副室長です。室長は今日はもう寮に帰ってしまっていて…明日には会えると思います」

「え…ジェイク様は三年生ですよね?もう副室長なんですか?」

 四年生五年生は?

「一応家格の高い生徒が幹部になるって決まりがありまして…他にも伯爵位は居るんですが…忙しいらしいので…」

「そうなんですか…じゃあ、ハワードお兄様は…」

 うっかり不安要素を口に出してしまった。ハワードが居たら毎日五月蠅いなぁと考えてしまっていたから。

「ハワード様?こちらにお出でになった事は一度もありませんが…何か?」

「え?あ、こっちの話で…そうですか、わかりました。クリス、書類を」

 クリスティーナから申請書を貰い、ジェイクに渡す。

「では、宜しくお願いします」

「承りました。明日からで宜しいのですね。お待ち申し上げております」

 ジェイクの丁寧な物腰は好感が持てた。私も笑顔で返す。

「では、帰りましょう。ヴィヴィエラ殿下。そろそろパメラ達との合流時間ですよ」

 イライラの最高潮に達しているクリスティーナに引きずられるように騎士団準備室を出た。



 教室へ向かうまでの道すがら。クリスティーナが申し訳なさそうに話してくれた。

 ジェイクはクリスティーナが宮殿に上がる一か月前にランドール家に来たそうで、その後に実家に帰った時もあまり話したことが無いとのこと。

 騎士団は興味がないだろうと勝手に思い込んでいたらしく、学年も違うので会う機会もほとんどないと決めつけてしまい、私に一切話さなかったことを後悔していた。

「話してくれなかったからって、別に怒ってないわよ」

「いえ、そういう意味ではなくて…何と言えばいいのか…」

「大丈夫よ。仲良くできるわよ。騎士団志望の仲間じゃない」

 クリスティーナは溜息をつきながら「そうですね」と答えた後、すぐ他の話を切り出した。

 その日私達はパメラやジェニーにもディアーナお姉様にすらジェイクの話をすることはなかった。



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