13.赤茶色と挨拶
ケーリアン王国の歴史を簡単に、殿下のご挨拶にて。
『王立記念学院入学式』と書かれた横断幕が学院の講堂入り口を飾っている。
講堂内に規律正しく置かれた椅子にクラス毎に分けられた新入生達が座っている。
私は一番前。両隣にはクリスティーナ、パメラ&ジェニー。
横手には教師、生徒会の面々、生徒の親達。壇上には校長や教頭、王室代表として王妃様。時々私に向かって小さく手を振っている。
儀式も丁度半分過ぎた。名前を呼ばれ、席を立ち壇上へ上る。
新入生代表の挨拶。
通常は首席の生徒が挨拶するらしい。学院は入試が無い代わりにクラス編成用テストがある。手を抜く人が多いせいで首席と言ってもあまり喜べない代物だそうだ。
王族が入学の場合は問答無用で挨拶する。去年はディアーナお姉様とハワードで話し合った結果お姉様が挨拶した。お陰でお姉様に原稿を見てもらうことができた。
演台に立つとそれまでヒソヒソと聞こえていた会場のざわつきが止み、様々な感情がこもった目が私に向けられる。
お祖母様の心配そうな視線も背中に感じる。
人の目には慣れているとは言え、こういう場はやはり緊張する。原稿を台の上に広げた。
「みぁんあs…」
いきなり声を出したので変に裏返ってしまった。会場中が音を出さない笑い声で溢れる。恥ずかしくて泣きそう。
前を見るとクリスティーナ達が身振り手振りで励ましてくれている。咳を一つして声を整える。
「皆様、この度ここに居る新入生諸君と共にこの記念学院に入学するヴィヴィエラ・ジー・ケーリアンです。
私はこの学院に入学するのが楽しみでした。早くここに来たくて年齢を偽って入れないものか考えた程です。
皆様ご存じのように、この学院は以前は”王立学院”と言い、およそ百年前に若者が揃って勉学に励めるように、当時の国王陛下が建立なさったものです。
その頃は男性のみで期間も二年でした。全員騎士団に入らなければならなかったからです。
国境付近で小競り合いが多く、幾年に渡り騎士団を派遣しました。次第に疲れ国力も低下していきます。それは敵国である周辺諸国も同じでした。
そして今から四十年ほど前に、我が国を入れて周辺五か国で不戦同盟が締結され、各々の国が急激に変化していきました。
我が国も変革を重ねます。その変化の一つがこの王立記念学院です。
同盟国にふさわしい人材を育てるため、女性も一部の平民も入学できるようになり、カリキュラムも増え期間も五年になりました。
五か国同盟の記念にという事で学院の名称に『記念』の文字が追加されたのです。
『記念』とは何の記念か?と疑問を持つと我が国の歩みが自ずと解るようになっているのです。私はとても素晴らしいと思います。
この記念学院で皆様と共に我が国の為、同盟国の為に学んでいきたいと思っております。
お耳をお貸しいただきありがとうございました」
一歩引き、王女らしく礼をする。
静かな講堂は私を不安にさせる。
(失敗しちゃったかしら)
最初だけつまづいたけど、ちゃんと原稿は読めたはず。
内容がイマイチだった?
赤茶色の髪を持つ『同盟の象徴のヴィヴィエラ』ならこれで正解だって、ディアーナお姉様も太鼓判を押してくださった。
大丈夫。と、顔を上げた。
一斉に拍手が始まった。特に教師席からが多い。
(及第点は貰ったかしら)
胸をなでおろす。
壇上から降りるとき、熱心に見つめる瞳があることに私は気付かなかった。




