第82話:航空技術者は歴史的偉人の大集合を目にする2
2599年12月31日。
ついに皇暦2599年が終わる。
その日、俺は千佳様に招待され大晦日の日に会食の機会を得た。
皇国内は年明けからしばらくして始まる五輪によってお祭りムード。
まあ皇暦2600年という記念の年でもあるからな。
12月31日が1秒でも早く過ぎ去って欲しいとばかりの状況だ。
立川から赤坂へと向かう途中に気づいたのは、まるで戦後10年ぐらい経過した町並みのようになっていた事。
街中の電気屋にはテレビが置かれ皇国では史上初のカウントダウン放送が行われる事になった。
当然、カウントダウンの後は節目の年でもあるからだ。
数十年後の皇国では当たり前の様子になるがこんな寒い日に防寒着を纏った市民はテレビに夢中な様子だった。
理由は2600年を迎えた陛下の新年の挨拶を皇国史上初の実況生放送とすることが決定されたため。
世界においては第三帝国や王立国家がすでに似たような事をやっている。
だが皇国もそれに負けんと節目の年にやろうというのだ。
街中ではまだ随分と時間があるにも関わらず早くしろとばかりに白い息を漏らしながら震えた姿で待ち構える人の姿がちらほら見られる。
ドラム缶に蒔をくべて簡易暖炉としたものを用意し電気屋の中にあるテレビを凝視する皇国民の姿もあった。
屋台の蕎麦を食べながら遠くの様子を見守る者達もいる。
皇国の五輪にかけたゴリ押しによって、凄まじい近代化を果たしていたが新宿周辺を見ると外国人の姿も多々見受けられる。
五輪や万博のために設けられたパブリックビューイングの先行試験として陛下の生放送が行われるとのことだが世界と並んで自国の技術力を証明しようとする皇国の向かう先に光はあるのだろうか。
◇
赤坂の料亭に招かれた俺は千佳様と食事を共にする。
齢12を過ぎた彼女は徐々に少女から女性へと成長しはじめており顔つきも段々と大人っぽさが現れ始めている。
そんな年頃の女の子がなぜ俺とそんなことをしようとしたのか。
背伸びなのかなんなのかよくわからないが……終始和やかなムードでその時を待つ。
料亭には皇室より運ばれたと思わしきテレビがあり生放送をそこで見る事になっていた。
「何をしておる。お前達も陛下の姿を拝まんか」
千佳様は遠くより双眼鏡などで陛下の姿を見ようとする料理人や仲居を手で招く。
立場上その部屋に入る事は通常では許されていないが2600年とあって無礼講とばかりに千佳様は部屋に入れ込んだ。
23時の現在、テレビでは本年の出来事を解説するニュースが流されている。
これは録画。
生放送は23時45分より行われる。
……テレビの歴史は皇暦2596年からというのが正しいだろうか。
相次いで実験放送が行われたのがこの年で現時点で実験ではなく本放送を行っているのが第三帝国。
そもそも、東京五輪で五輪中継を行う最大の理由はベルリンオリンピックで世界初の実況生中継を行った事に起因する。
彼らが出来ることが我々に出来ぬわけがない。
だからこそ挑んでいるわけだ。
ちなみに、3年遅れた皇国ではあるがテレビ自体は諸外国と性能が全く変わらない。
実験放送が遅れた原因は放送規格の選定に時間をかけたため。
数年で一気に進化した影響で変な規格にすると後々困ると考えたからである。
例えばフレームレート1つとっても諸外国ではバラバラ。
NUPは30、王立国家と第三帝国は25である。
映像送信周波数だけが同じ45Mhzによる配信だった。
皇国では王立国家や第三帝国と同じ毎秒25のレートとしているが一方で音声などの周波数に違いがみられる。
それでも、本年に実験放送が行われて生放送が可能なのは技術的にはそれなりに成熟させてきた証。
ちなみにやり直す前の世界と規格は同じ。
違いは鉄塔が大量に建設されてほぼ全国で生放送が見られるかどうかといった差。
第三帝国ですら首都周辺だけだった放送なのにも関わらず我が皇国は九州と四国、そして北海道の一部都市を除けばほぼ全国の都市部で電波が受信できる環境が整っており2600年からは実験放送と称した事実上のテレビ放送が開始される。
その皮切りとなるのが陛下の年始のご挨拶であり、このご挨拶以降、ブツ切りになっていた放送は24時間放送となりチャンネルこそ1つしかないがニュースなども放送されるようになる。
本来の未来ではブツ切りのままドラマなどが放送される事になるわけだが随分と未来が変わったものだ。
家電製品メーカーは現在大急ぎで格安テレビの開発中で各社しのぎを削っている。
目の前にあるテレビは12インチの反射型。
技術的限界により全長が長くなってしまったブラウン管を処理するためブラウン管を垂直に取り付けて鏡で反射して見るタイプ。
鏡で映像をやや拡大しているため12インチより大きく見えるのも特徴。
皇国標準型としては小さな12インチブラウン管モニターとしたものと……
この12インチ鏡面拡大型の二種類が存在するのだが鏡の角度が45度のため見やすいわけではないものの大人数の鑑賞が可能とのことで料亭にはこちらのタイプが持ち込まれていた。
コンセントを装着し、大型のアンテナを立てるだけで音と映像を楽しむ事ができる事に衝撃を受けていた者は少なくなかったが、未来の俺の自宅には50インチ大型液晶フルHDがあったことを考えれば幾分小さいものに見える。
それでも、音と映像双方を伝えられるテレビが目の前にあるというのは……とても不思議な光景だった。
「――うぬっ!? 我がもう一人おるぞ!? 影武者か!」
「千佳様、これはVTR……録画ですから……」
「記録フィルムか!」
それはブタペスト会議を紹介するニュースであった。
空港内でバタバタと移動しながら各国の要人と挨拶を交わすシーンをいつの間にか撮影されていたようである。
生放送とばかり頭に入っていた彼女はもう一人の自分の姿に影武者と誤認したが一目見て彼女だと判断できるほどきちんと撮られていた。
ブタペストでの映像はかなりの高精度フィルムで撮影されていたが、307の着陸シーンや陛下がタラップからゆっくりと降りるシーン……
そして前述した千佳様が周辺国家の者達と会話するシーンなどを取り上げ皇族が平和と発展のために即位式に参加された事が語られる。
良く見たら俺も映ってるじゃないか。
なんだかものすごい小心者に見える。
なんでこんなにキョロキョロ周囲を見渡しているんだ。
緊張して頭の中が真っ白となっていたが、随分情けない姿を晒しており……千佳様に改めて笑われてしまった。
しかし307のパイロットは誰だったのだろう。
随分美しい着陸だった。
これに近い映像がNUPなどでも流れたのかもしれん。
そりゃ世界各国から注文や問い合わせが相次ぐようになるわな。
俺だって何も知らずの状態で銀色の大型機による、あの美しい着陸を見たら興味を抱く。
メーカーがバリュー価格を提示するわけだ。
本来の未来よりどれだけ売れる事になるのか知らんが、皇国と同じ大量に座席が配置されたタイプが最も人気だという。
メーカーとしてはラグジュアリー仕様としたいがために座席を減らしたわけだが、実は皇国が注文したタイプこそ旅客機のあるべき姿だと気づいて欲しい。
まあすぐにDC-6などが攻勢に打って出るわけだから遅かれ早かれ気づくか。
「そろそろか? そろそろか!」
「千佳様、落ち着いてください。後5分少々です」
周囲の時計を見ると23時40分。
腕時計は完璧に合わせてあるが、そちらも40分なのでほぼ間違いない。
後5分だ。
静かに息を飲みながら待つ。
そして時刻23時45分。
皇国放送の放送局に映像が切り替わり皇国史上初の実況生放送が開始。
目の前にいるのは皇国放送のテレビアナウンサーだな。
実験放送のニュースを読み上げている皇国放送のエース。
さっきもVTR放送でアナウンサーをやっていた皇国史上初のテレビアナウンサーだ。
「皆様。こんばんは。2599年も後15分ほどとなりましたが、いかがお過ごしでしょう。わたくしは今現在、東京放送会館から皆様と同じ時間を共有しながら放送を行っております。 僭越ながら進行を担当させていただきますわたくしの名は、庄内則三と申します。 スポーツ実況をラジオ鑑賞されている方々は私の名をよく耳にするかもしれません。 陛下のご挨拶の前に少々皇国放送の実況中継の歴史について述べますと、皇暦2588年の相撲中継を皮切りに私共はラジオにて実況放送を行っておりました。 その史上初のラジオ実況放送の担当も、わたくし庄内が担当させていただいております。 あれから11年。今や映像すら配信できる時代となり、今私の姿は……多くの皇国国民の皆様の目に入っていることでしょう。 この節目の年にテレヴィ放送の担当者として参加できることを大変光栄に思います」
やや長い挨拶から入ったのは皇国ではトップクラスの人気キャスター兼アナウンサー。
スポーツ実況においては皇国式とされる実況方法を考案して導入した人物。
"ピッチャー振りかぶって……投げた!"――といったような実況方法は彼が最も最初に考案し、実践したもの。
それまでのスポーツ実況は大変地味なものであり、"一球目はボール。二球目はストライク"――などと淡々と読み上げるものだったが……
彼は後の他の放送局のように自身も熱狂して動作を説明する実況方法にて皇国の超人気キャスター兼アナウンサーとして相撲協会や野球協会などからから表彰された事もある人物。
五輪放送も担当した経験もあるベテラン。
実験放送でもスポーツとニュース担当をしていたが史上初の生放送の番組進行担当は彼以外だと他に2名ぐらいしか相応しい者はいないだろう。
きっと皇国放送では3名のうち誰にするか迷った末葛西三省氏などと比較して苦心の末に彼を選んだに違いな――と思ったら、普通に彼も出てきた。
あくまで番組進行役が彼であって、人気キャスターのオールスターにする気か。
まあ年明けからすぐに開催される五輪でもまた顔を出すからな。
今のうちに皇国民に顔出ししておこうという考えか。
葛西三省は普段とは打って変わって冷静に陛下のこれまでの歩みを淡々とした口調で語っている。
15分という限られた時間の枠を活用し、皇国放送のあり方を示したいようだった。
陛下のこれまでの歩みを紹介したのは皇国放送の人気キャスター全5名。
5名全て、実況放送がレコード化されて販売された実績を持つ人物であり、皇国放送の収益を支えるエースの中のエースだ。
最後に読みあげを担当したのが庄内則三氏であり、他4名も錚々たる面子。
名前と声は知っていたがどういう顔かは知らない。
そんな者達が今、目の前で原稿を読み上げていた。
読み上げが終わると再び庄内則三がピックアップされる。
「では皆様。本年もあと1分ほどとなりました。カウントダウンの直後に陛下がご挨拶をなされます。どうか画面から目を離さぬよう、今しばらくお待ちください」
「ついに2599年も終わるのう」
「ええ……」
「2600年もこうやってのほほんとしていられるといいのじゃが」
「そうですね……」
「30秒前となりました。――15秒前――――10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
ボーンという鐘の音が複数響き渡り謹賀新年の文字が浮かぶ。
しばらくすると先ほどまで庄内則三がいた壇上に陛下が現れた。
俺にとってはさほど珍しくなくなってしまった陛下のお姿は、多くの国民は初めて目にするだろう。
この時代、殆ど写真も出回っていないのだ。
陛下はしっかりした目線を送り、そして口をお開きになる。
「新年おめでとう。 夜分遅くに多くの皇国民が私を待ちわびていると聞いて少々申し訳ない気持ちです。 眠く、目をこすっている方々も少しばかりの間お付き合いください。 私は今、皆さんと共に新年を祝うことが出来たことを誠に喜ばしく思います。 それを可能とするために、多くの方々の努力がありました。 年頭に当たり、わが国と世界の人々の安寧と幸せを祈りたいところですが、世界が決して平和ではない事を皆様もご承知の事かと思います。 だからこそ、何か出来る事はないか……行動することがいかに重要かと考え、昨年は即位式に参加を表明したりもしました」
淡々と言葉を述べ、一旦一呼吸した陛下は再び語り始める。
「国民の皆様にも同じ気持ちを共有してもらい一人一人が出来ることからはじめる。 それが皇国生誕2600年の節目となった今、大切なことではないでしょうか。 たとえ小さなことでも何か変える事ができるかもしれない。 大きな事を無理して一人でやり遂げようとはせず、小さな事から始める。 それが何かを変えるキッカケとなると信じていると同時に、皇国の未来は私だけでなく皆様の力あってこそのものであると考えております。 皇国では本年、多くの行事が開かれる予定となっております。 冬季、夏季の五輪、そして万博。 国民の皆様の力なくして達成できないものが目白押しです。 私は、本年が今後の皇国のあり方を考えていく上で重要な年になると考えております。例え平和の祭典でも、その開催には多くの困難が待ち受けているわけですから見事に達成した先に、新たな皇国の未来が切り開かれる事でしょう。 本年が少しでも多くの方にとってよい年でありますように」
皇帝陛下が頭を下げる国というのは他に存在するのだろうか。
少なくとも俺は皇国以外に知らない。
祝辞の後に会釈とほぼ同じ角度にて頭を下げる姿は即位式などに参加した者達は見た事がある。
しかし大半の国民は恐らく今日はじめて陛下の性格を知る事になったはずだ。
これまで公開されてきた写真にて、頭を下げる陛下の写真は1つもない。
そんなものは失礼だとばかりに公開しない。
しかし陛下は頭を下げる。
深く下げるというのは一般の人に向けてはやらない。
即位式では新たな王に向けて大きく頭を下げた後でこちらに振り向いた。
本日見せたのはご挨拶の最初と最後に小さく頭を下げる姿。
しかしそれでも頭を下げるのだ。
礼節を重んじて目線を下げる王こそ、我らが王なのだ。
手を上げて観衆に応える写真ばかりで知らぬだろう。
しかもそういう時は時が時でそんな事はしない。
だが、こういう場面においてはたとえ国民に対してでも率先して自ら頭を下げる。
決してそれは深くはないが神道における普通礼と呼ばれる、国外では会釈と表現される方法を試みる。
皇国の頂に立つ者は、諸外国の独裁者とは違う。
相手が礼をするのをひたすら見下して待つような事もしない。
相手は陛下より頭を下げ、陛下は相手より少し頭を上にしつつ目線を下げる。
この、互いに礼をする姿が王と国民にあるからこそ、俺は皇国民としての誇りを抱き、最後まで足掻きたいわけだ。
千佳様は最初と最後の際に陛下に対して陛下より頭を下げる形で応えたが、周囲の者達は礼をするとは思ってなかったので即座に土下座するように頭を下げたのが印象的だった。
きっと多くの皇国民が同じようなことをやったはず。
この時代に、生きた陛下の姿をリアルタイムで提供できる機会があってよかった。
これこそ我々の王だ。
東亜の皇帝の姿だ。
2600年続く皇国の長だ。
後に聞いた話だが、2600年の年始の挨拶をやりたいと申し出たのは陛下であったという。
議会が1月下旬の札幌五輪の開会式での中継を依頼したところ、その前の段階で年始の挨拶がどうしてもしたいとお願いをし、皇国放送はすぐさまその準備に取り掛かった。
きっと陛下のことだから一人でも多くの国民に問いかけたかったのだろう。
これから世界は混沌とする中国民一人一人が力を合わせねばいけない。
その前の段階にて自ら率先して表舞台に立ち、そして皇国の王たる者はどういう人物なのか節目の年の年始の挨拶にて見せたかったのだ。
千佳様の話では、これまでの雑誌や新聞の写真に少なくない不満を抱いていたとされる。
陛下は傲慢な王のイメージがつくのを嫌がっていたのだが、頭を少し下げたような写真など失礼とこれまでは不採用とされてきた。
だが生放送の映像だからこそ、誰も止めることは出来ない。
おそらく事前のリハーサルでは頭を下げてなかったと思う。
そうしなければ周囲から止められたはず。
それか、リハーサルをやらずに本番だけで勝負して自身の持つ皇国の王の姿を見せたのだ。
こんな事で威厳を失うわけではない。
翌日の新聞が面白そうな事になりそうだ。
年始の挨拶が終わると料亭の料理人などは持ち場に戻っていき俺と千佳様もその日はお開きとなったのだが……
なぜか翌日も俺は千佳様に付き合う事になり明治神宮にて初詣に行く事になってしまった。
当然祈願したのは皇国存続。
2598年、2599年と同じ。
なんだか千佳様は俺と一緒にいる時にとても楽しそうだがこんなたんなるエンジニアといて楽しいか?
彼女の考えはよくわからない。
千佳様と別れた後、試しに新聞を購入してみたところ……やはり昨日のことが話題になっていた。
"陛下の年始のご挨拶に国民総土下座"
すさまじい見出しだな。
だが、大半の人間が衝撃を受けたのだろう。
記事の写真は陛下が頭を下げた後に大慌てで地面に伏せる皇国民の姿があった。
大名行列どころではないからな。
写真も地面から撮影されたものと思われピンボケしているが、巡回していた憲兵達も思わぬ事態に困惑した様子である。
事前に起立と礼と号令をかけてやればよかったんだ。
西条に五輪のときにはそうしたほうがいいとアドバイスしておこう。
そうしないとケガ人が出るぞ。
他の新聞には外国人も困惑しつつ跪く姿なども捉えられていたがインタビューを受けたNUPの人間も王が頭を下げるとは思わず、ただの新年祝賀だと思って見学していて大変驚いた様子だった。
全くとんでもない年明けになった。
だが、これからもっともっと皇国民は映像ですごいものを見ることになる。
三週間後の開会式がどうなるか……まだ告知されてないが誰が来るのかを知ってる俺から言わせれば教科書に載るような写真になるんだ。
◇
皇暦2600年1月12日。
五輪の開会式を前に各国から要人が詰め掛ける。
相変わらず珍妙な航空機が集まってきた影響で羽田は航空機の見本市に。
ただし307の姿がチラホラ見られる。
おいおい本当に売れてんのかあれは。
といっても、ライバルのDC-4はまだ出てきてないわけだから……307の方が現状では立場は上か。
本来の未来なら10機しか存在しないレア物だったのに、皇国だけでも新たに2機増えて4機体制でまだ4機別途増加するからな。
それだけでも19機だが100機ぐらい売れたのだろうか。
そんな羽田に機首が特徴的な1機の四発エンジン大型旅客機が着陸する。
Fw200……あの部隊章は間違いない。
これは飛んだ第三帝国の独裁者のご到着だ。
いつ見ても不思議な機首だ。
機銃は取り外されてるが、総統専用機は下部に正面銃座が追加されている。
これのせいで普通な形の旅客機が普通ではなくなった。
まるで飛行船の客席を装着したようなデザインになっている。
これが羽田に到着するなど不思議な光景だ。
今回の五輪の開会式には多くの要人が出席する事になっているがムッソリーニ、チェンバレンと並んで第三帝国の総統まで参加。
己の命が惜しかったウラジミール以外ほぼ全ての歴史的偉人達が大集合する。
札幌会議が開かれる事はないけどな
立場上、ポルッカやエーストライヒを制圧しながらも第三帝国の総統は防共協定がまだ破綻していないため出席に意欲を示した。
まあ皇国内で暗殺される可能性は低いだろうしな。
ウラジミールと違って。
ウラジミールは他の人間がやらないなら俺がやる気概すらあるが、総統をここで始末する利点が政治的に見てもまるで無い。
西条はウラジミール含めて表向きは歓迎ムードだが……ウラジミールに対してのみ、その背後では"これるなら来てみろ"――などと影で挑発していた。
……まあ当然来ることはなかったが。
ヤクチアが派遣したのはモロトフ。
現在のヤクチアの外交官。
ガルフ三国などに赴いて挑発している張本人。
よくこいつを皇国に派遣できたものだ。
皇国にはポルッカから逃げ延びたユダヤ人も多くいると言うのに。
それを言い出したらチョビ髭も皇国海側に向かうのは危険なはずだが、周辺国を挑発してまわってるこいつほど嫌われてはいなかったご様子。
外交官としてのモロトフは正直言って優秀。
可能なら即時始末したい人物の筆頭ではある。
だが、それで東亜三国の立場が崩れるのは問題があるわけで、あえてNo.2に近い人間を送り込んで皇国の様子を探る気か。
まあヤクチアの立場としてもモロトフ以下の人間を呼び出す事は出来ないか。
国家としてそれ以下を送り出すと失礼にあたる。
なんだか未来が変わって随分と面白い事になってきた。
これは開会式が楽しみだ。