第80話:航空技術者は戦車設計に関わる
皇暦2599年10月20日
地中海協定を締結するサモエドに対し、再三にわたりヤクチアが圧力をかけている事が明らかになる。
奴らの狙いはサモエドの工業地帯。
今は圧力で済んでいるが来年まで保たんかもしれない。
やはり冬戦争は避けられないか……
そんな日に俺は陸軍参謀本部に呼び出しを受けてしまう。
特に何かあった様子はないが、緊急を要するとのことだった。
「失礼します!」
戸を叩いて中に入ると複雑な表情の西条の姿。
何かあったか。
「信濃。お前第三帝国で妙な事をしなかったか」
西条は睨み付けているわけではないが、見上げるようにして強い眼差しをこちらに向けてくる。
「妙な事ですか? 妙な通訳ならいましたけどね」
「いや違う。視察の問題ではない。市民に向けて何かしなかったのかと聞いている」
まさか例のメモを渡して第三帝国にケチを付けられ、何か要求されたのだろうか。
だったとしたら、とんでもないことをやらかした事になるのだが……
「ユダヤ人に逃げろとはいいました」
「いや、お前はメモも渡したはずだ。ここ最近相次いで敦賀に多数の難民船が到着した。我が国には横浜港があるにも関わらず、わざわざ北側に向かってまで敦賀に行く理由が不明すぎて現地は混乱している。あまりの難民の多さに舞鶴や丹後半島などに疎開させたほどだ。渡ってきた難民は口をそろえてツルガに行けと言われたといい、ヤマトなる皇国人に告げられたといってビザも無しに渡航してくる。まあ人道的見地からいって受け入れはするが……一体何人来たと思う? すでに4万人だぞ。9月から相次いで船が到着してそうなったんだ」
「4万!? いや、確かにメモは渡しましたが……数十人ほどですよ」
「どういう情報の流れになっているのかは知らん。しかし諸外国でヤマトメモと呼ばれるこいつは、蜘蛛の巣状に広がった情報網を駆け巡って皇国が難民受け入れ態勢があるという話をポルッカなどにいる者達に伝えているのだ。見ろ、これを」
ボロボロに擦り切れた紙切れを西条が差し出し、ソレを見る。
皇国語も併記されたおかげで内容を読む事が出来た。
――皇国は第三帝国と防共協定を結ぶが、宗教の自由を約束している。
皇帝陛下とバチカンの教皇との協約があるからだ。
全てのユダヤ人は生命の保障を受けたい場合はすみやかに敦賀に向かうべきである。
難民受け入れ態勢を皇国は確保しており、我々を助けてくれるであろう。
このメモが一人でも多くの同胞に伝わることを願う。
皇暦2599年7月15日 ヤマト・タケル――
「……敦賀周辺は大和王権でしたから、この人物は横浜には向かわせないでしょうね」
「冗談を言っている場合か!」
「……と、言われましても自分の書いた内容からは程遠いので……」
なぜ信濃が大和になったのかとかいろいろいいたい事はあるが、何者かの根回しによってこちらが書いたメモが大幅に改編されていた。
いや何者かどころではなく多くの者が介在したことによって改変され、結果的にこうなったのかもしれない。
俺はただ逃げろと書いた程度なのに、このヤマトなる人物はまるで導く人のようになっている。
実際のヤマト・タケルも謎多き人物だったわけだし、きっと史実上での本人もこんな感じで脚色されたのだろう。
――などと、なぜかふと、現時点では話題とはかけはなれているヤマト・タケルについて同情するかのような感情が沸いた。
「全く……まぁいい。それで助かった人物が一人でも増えたというなら悪い行いではない」
「難民は全て皇国に滞在したままとなるわけではないのですよね」
「6割以上の者はNUPなどに向かう予定であるが、4割程度の者はまるで金をもっとらん。彼らは皇国内で職を求めているので斡旋せねばならんな。まあ、五輪や万博の公共事業もあるわけだし手伝ってもらうとしよう。労働力としての人手は足りていないからな。ある程度の保護はするが、我々も食に事欠かない立場ではない……避難してきた者達に提供できるのは衣と住が基本だ」
「仕方の無いことです」
それでもゲットーよりはよほどマシだ。
あちらと違い、皇国ではきちんと人権が保障される。
それに皇国にもユダヤ人商人などはいる。
大半は横浜に居住を構えているわけだが、彼らは敦賀などの状況を聞きつけたら支援の手を差し伸べてくれるはず。
「その件は以上だ。犯人がお前だとわかればいい。外務省などが混乱をきたしたとだけ言っておく。人身救助のため致し方なかったとして処理しておくがな」
「申し訳ありません。今後は慎みます」
「それとは別件で2つ話がある。1つはチェンバレンからの情報だ。これを見ろ」
西条が机の中より取り出したのは紙の束である。
内容は……中立法の改正案と、供与可能品目リストか。
「先に読ませてもらったが航空機や戦車は王立国家と共和国限定。地中海協定締結国が手に入れられるのは銃器と弾丸、燃料、そして装備品としては小物類にあたるもののみ……航空機に関係する部品すら調達できん。まあ航空機に関しては307のような裏技が引き続き使えそうではある」
リスト内を見てみると随分なぼったくり価格ではあるもののM1がある。
皇国を一番苦しめた自動小銃を皇国人が使えるか。
俺としてはかつて鹵獲銃を撃ったことがあり、まともに当たるとは思えないが……連射力を考えればこれを入手できるのはこれは大きい。
二脚など使えればあるいは……
「リスト内にM1がありますね。BARやM37も……どうやら歩兵火器に制限はないようです。M37、M1は大至急調達してください」
「M1とはお前が2年前からずっと警戒していた例の半自動小銃か。では、今しがた述べたM37とはなんだ?」
「散弾銃です。それもこの時代としては破格の軽さを誇る。近接戦闘では大きな戦闘力を発揮しますが、何よりもこいつにはスラムファイア機能がある。トリガーを引いたままポンプアクションを繰り返すと連射が可能です。M1921と並んでライセンス生産したいぐらいです」
「そんなに優秀なのか?」
珍しく俺が早口になる姿に、西条とは温度差があった。
西条は散弾銃の利点に関してはさほど無いと考えているのかもしれない。
「現時点で存在するNUPの散弾銃の中で別格の信頼性を誇りながら、圧倒的な軽さを誇るフェザーライトと呼称される武器です。未来の世界では警察組織などにも使われる武器です。皇国においても活躍の場は多いかと思われます」
「M1は元々調達する予定があった。上層部でも注目する者が多いからな。だがM37の名を出したのはお前が初めてだ」
西条はさほど興味がなさそうな反応を示す。
西条を含めた上層部が特に興味を持たなかった理由はなんとなく察せる。
散弾銃は射程が短いから……ではない。
西条も割とこの宗教的な思想にどっぷり漬かっている。
だからこういえば反応を示すはずだ。
「M37は銃剣装着可能です。オプションの項目にガンソードと書いてあるでしょう」
「何だと!? それは即ライセンス契約をせねば! リスト内の調達品は別個ライセンス契約も締結可能とある。 まあ以前からM1921を含めていくらかは交渉可能ではあったが、一部を除いて対話の窓口は閉ざされていたからな。M1と並んでさっそく交渉だ!」
この反応。
やはりこの男も銃剣信者なのだよな……
皇国陸軍ではわずか10年前まで軍刀が平然と標準装備化されていた。
未だに腰にブラ下げる者も多い。
しかし時代の流れはそれを許さなかった。
淘汰されていく刀剣を前に皇国陸軍が見出したのは銃剣。
70年先の未来でも銃剣に拘るのはこの小さな島で生まれ育った戦士達ぐらいなものだ。
だからこそ構造上銃剣が装備可能なM37は、銃としての信頼性だけでなく皇国が欲しがる散弾銃だとはわかっていた。
皇国のように同じく銃剣を欲しがる国向けにNUPは当時用意していたのだ。
主に空挺部隊用の設定らしい。
なんというか、せっかくの重量的アドバンテージを殺してしまうものの、M37で重要なのは信頼性。
そこは前線の兵士に選択の余地を与えて調節してもらえばいいか。
「しかしなんで中立法を改正するに至ったのでしょうね。P-38を共産党軍に供与しておいて……」
「ムッソリーニは外貨獲得政策だと考えているようだ。地中海協定で発生するドル安の緩和だ。ドルとの等価交換とあるからな。各国は小火器や燃料類などを欲しがるだろうからと、細かいモノを大量に買わせてドル安を防ごうというのさ」
なるほど。
確かにリストの品目は皇国ですら欲しくなりそうなものがそれなりにある。
無線機器も全面的に購入可能。
SCR-300は現時点で名前が明記されてるほどだ。
正式採用は皇暦2600年だが、2600年を見越したリストであるということなのか。
しかし小火器類だと皇国自前で製造可能な銃器類も多く、M1とM37以外に調達すべき銃器は機関銃系統だけ。
その機関銃も重機関銃は航空機銃の転用で済むから不要。
20mmクラスとなるとNUPより勝ってる武器すらある。
戦車や航空機関連は恐らく秘密協定でヤクチアかどこかに売り払えるんだろうな。
だとしたら結局NUPと直接戦闘にならずとも、NUPの戦闘機群とは戦わねばならない事だろう。
例のXP-38がどういう状態か気になる。
恐らく先行量産型のYP-38と同じはずだ。
現在XP-38と合わせて14機この世に存在する。
そのうちの1機を撃破したが、残る13機も共産党軍が保有しているかもしれない。
2つの方角に顔を向ける姿勢は是正したいが、皇国にそれだけの発言力が無いのがむなしい。
今は脅威となりうる小火器を己のものとして耐えるしかない。
P-38なら倒せない事はない。
最終的には歩兵装備の方が重要なんだ。
「それにしても、どうしてこれまで改正についての話がこちらに流れてこなかったのでしょうね。突然我々も含まれると言われて正直驚きましたよ。理由はわかりましたけど、水面下でなにがあったやら」
「チェンバレン首相やその他の国家主席らによる尽力のたまものだ。首相は私にそれなりの成果をあげてみせるとだけ伝えていたが、我々に情報を与える事は無かった。我々に早い段階で情報を与えれば第三帝国を通してヤクチアが妨害する可能性があるがゆえ、敵を欺くにはまずは味方からというわけだ」
そういうことか。
確かに現状の第三帝国と皇国の間の風通しの良さは危険だ。
チェンバレンはヤクチアと第三帝国との間の風通しの良さも警戒していたか。
おかげで欲しいものが調達できることになる。
後は兵器を揃えて戦うだけ……
「中立法の件は以上だ。……それでな信濃、お前には急な話だが戦車を作ってもらう事になった」
「はあ!?」
思わず西条に対しても失礼な物言いで退いてしまう。
何を言っているのだ。
「いや、私は航空機の技師、技術士官ですよ!?」
「私もそう伝えているのだが、お前はがんばりすぎた。新鋭戦車の開発がまるで上手く行かん。私は今回の中立法に一縷の望みををかけていた……M4戦車が手に入るのではないかとな……ところが戦車はリスト外。こうなると我々にはどうにもならん」
「三号戦車を手に入れておくべきでしたね」
「発動機が作れん。変速機もだ。結果は変わらん。そこでお前に頼みたい」
「さすがに戦車は門外漢ですってば」
「上層部は納得しない。潜水艦建造にかかわり、カタパルトを開発、おまけに蒸気機関車の改装にまで手を出し、二輪にまで手を付け始めた。……ならば戦車が出来ぬ道理などないと言われて私は反論できなかった。何か方法はないのか」
「……方法ですか」
さすがに戦車は門外漢だ。
装甲関係に関する弾道学に関しての知識ならある。
それは航空機にも必要な概念であり、コックピット内の装甲や襲撃機の装甲の形状に反映されているからな。
だが戦車最大の問題はエンジンとトランスミッション。
各国はこれに泣かされ、第三帝国はあらぬ方向へと向かう。
皇国はまず空冷に拘りすぎだ。
それをやめて水冷にするだけでも大分違うはずなのに、なぜか空冷ディーゼルにやたら拘りがある。
ソレを捨てればいいだけのはず。
俺はトランスミッションやギア、板バネやトーションビームなどのシャフト類は門外漢すぎる。
ギアはまだしも……戦車にとって最も重要なのは、これら一連の配置のレイアウトとこれら一連の機構と耐久性などの計算だ。
それは航空機とは殆ど関係が無い。
流体力学とも……
今、俺が出来る事と言えば……俺が普段から重用する京芝などと協力した全く新しい戦車の提案しかない。
それはどう考えても大戦後を考えていない戦車だ。
浪漫を目指しすぎている。
しかしそれでも中戦車と重戦車の中間的な存在を作れるかもしれない。
燃費を犠牲に……ならば。
「首相。失敗作となりうるほど浪漫を追い求めたものでよいならば、35t~40t級の重戦車を作れるかもしれません。ただ、それは第三帝国が皇暦2601年ごろから始める失敗作戦車を前倒し、やや別方向から挑戦してみるものです……」
「なんだそれは」
「それはつまり――」
戦車において重要なのは何か。
それは速力と走破性、そして旋回能力。
特に超信地旋回が重要。
俺は戦後になって知った事がある。
超信地旋回が可能な戦車は大戦時期に殆ど無かったと言う事を。
さも当たり前のごとくおもちゃとして発売されたラジコン戦車は可能だったので、それが大戦時期も当たり前で、皇国の戦車はそれが出来ないから諸外国に劣っているのだと思っていた。
実際諸外国には可能な戦車もあったが、それは限られており、皇国の戦車がそれが出来ないから弱いというわけではなかった。
もっと根本的な部分で話にならなかった。
戦車に必要な基礎技術は自動車関連。
当時の皇国はモータリゼーションの発展が大きく遅れており、自動車後進国と言って差し支えない。
それでも尚、皇国は国産しなければ明日はないとして戦車の国内生産を目指した。
例えば皇国では八九式戦車まで到達するにあたり、螺子やボルトの規格化から立ち上げねばならず、国産第一号の試作戦車においては、その詳細設計図の枚数1万2800枚以上と、未来の戦闘機並となってしまうほどであった。
自動車部品等から流用できるはずの螺子すら皇国にはなかったのだ。
このように、すべてを1から始めた影響は戦後まで皇国を苦しませる。
迷走に次ぐ迷走。
エンジンさえどうにかなればある程度解答を示せるのだが、それすらどうにもならない目を覆いたくなる状況がそこにあった。
まずディーゼルの選択は間違ってなかったが空冷ディーゼルを選んだのは間違い。
これを水冷にするだけでもある程度どうにかなるはずだった。
四菱に素直に水冷ディーゼルを作らせるべき。
しかしそれでも所詮は中戦車止まり。
空冷に拘った結果、チハ以上のものができないとモックアップのようなものすら出来上がっていないというならばもう手遅れ。
中戦車を開発している余裕などない。
だから最初から重戦車で挑む。
そして重戦車でやるというなら皇国流はたった1つしかない。
ガスタービン発電式モーター駆動。
実は皇国には第三帝国に劣らぬ分野が1つある。
モーターと発電機だ。
あの国が苦労したモーターと発電機に関しては皇国の方が技術力は上。
それを証明するかのように電車では狭軌でありながらそれなりに快速走行できるものがすでにある。
標準軌の諸外国の鉄道より速い。
つまりは電鉄系の技術者を集めて、全く新しい機構に挑むしかない。
元々皇国の戦車は蒸気機関車のメーカーと手を組んで開発が始まった。
当時自動車分野のメーカーが皆無であったからだ。
転輪など、数少ない技術流用可能な部品は自動車ではなく機関車からだった。
俺はそこから派生してもっと鉄道技術を多く導入してみようと思う。
何しろ航空機分野の開発で技研と関係を構築しているメーカーが、鉄道関係、特に電車関係においても手を出しているのだ。
現在の皇国において活躍する鉄道のモーターの多くは純G.I製。
保守管理などを京芝の子会社などが行っている。
他にも計器類などで関係を持つ常陸など様々なメーカーがモーターを製造できるが、その性能は第三帝国より優れている。
だからこそ潜水艦の速度で第三帝国を上回ることが出来たわけだ。
問題はそのモーターを駆動させるための電力だが、生み出すのはCs-1だ。
すでに量産化の目処は一応ついた。
だが最大出力を国産のCs-1が可能とは思えない。
そもそも燃費を考えたらCs-1で全力運転させる意味はない。
Cs-1のシャフトを伸ばして600kWの発電機で発電させる。
実はそれはすでに試してみてやった事。
皇国でもタービン発電を試してみようと試験的にやった。
最も燃費効率が良かったのが600kW。
燃料1000Lで5時間駆動。
時速40kmで走れれば200km前後。
ただし、これは走り続けた場合の計算。
走らなければどんどん航続距離が短くなる。
鉛電池に一時的に溜め込むという手はあるが、そんなスペース戦車にあるわけがない。
Cs-1の重量は330kg。
ここに発電機その他を合わせても600kg未満となるだろう。
俺はここに小型排気タービンを2つ搭載し、電力の一部とすることで燃費改善を図ると同時に吸気側の大気の圧縮を行わせる事にする。
こうしなければ装甲をおっかぶせた状態でCs-1を動かそうにも窒息するだけだ。
装甲は傾斜装甲をSt52などの溶接可能な鋼板を用いた複合総溶接装甲とする。
トランスミッションは装備しない。
減速機を用いてモーターを駆動させる。
ただし、2つのモーターは通常走行においてはシャフトとクラッチで接続。
同調運転が可能なようにし、超信地旋回をも可能とさせる。
モーターは鉄道と同じ方式とする。
皇国製の中で最大効率かつ最大出力のG.Iのライセンス生産品である150kWのものを4基搭載。
減速機を用いて前後に4基を搭載とし、前述のシャフトとクラッチで制御。
エンジン重量分は燃料に割り振ることが出来、主砲の具合にもよるが40t未満を目指す。
俺の予想では各種機器を搭載しても42t未満にしないと性能的にいろいろ厳しい。
特に重量に耐えられる履帯は40t程度までしか皇国には作れない。
主砲は最低限王立国家が設計図を渡した17ポンド砲を装備。
車輌の性能次第で80mmクラス以上のものを装備することも勘案する。
「正直机上の空論です。ですがね、第三帝国が知らぬ技術が皇国にはある。モーター同士を接続するシャフトなら電鉄にて実用化されている。それと、分散器と抵抗制御装置もね……これがあるから皇国の鉄道は4基もモーターを装備しといて、快速を出しうる電鉄が作れたわけです」
「つまり長島大臣を通して電鉄の技術者を呼び寄せ、航空機部門やお前がよく使う京芝などの電気技術関係のメーカーを揃えればいいわけだな?」
「正直、トランスミッションを王立国家から取り寄せたりして、星型エンジンで戦車作ったほうが速いですよ。首相が購入されようとした戦車が星型エンジンですからね……」
「それが可能だったらとっくにやっている。我々では変速機だって簡単に作れんのだぞ」
それは全くもって自慢にならない開き直りだった。
だが弁えてはいる。
St52は大砲に対する防御力も確保できたとのことだが、果たしてこれを戦車に導入してよいものなのだろうか。
一応、第三帝国の重装甲車には大変よく使われた。
他方、戦車向けの一般装甲は炭素鋼だ。
この炭素鋼がまるで溶接に向かない。
重量軽減のために炭素鋼は使いたくない。
となると最悪は複合装甲になるか……
この戦車を作る場合、これまで俺が頼った人達の大半の力を借りる事になる。
電熱服を作っていただいた坂本博士と、モーター関連では常陸、京芝などのメーカー全て。
Cs-1関連では芝浦タービンと茅場。
クラッチ関係では山崎、四菱などだ。
それでまともな戦車に出来る気がしない。
あまりにも茨の道すぎる。
いかんせんCs-1のサイズ的に現時点における認識の中戦車に搭載すると装甲を確保できんので、中戦車以上のサイズは必要なんだ。
車体長は6m以上欲しい。
Cs-1はこれでも現時点で最も小型のジェットエンジン。
もといタービン発電機である。
タービン発電機用に小改良施した奴を使って試作機を作り、失敗作をひっくり返すしかない。