第75話:航空技術者は食事を提供する
皇暦2599年8月23日
未来は変わらず第三帝国はヤクチアとの不可侵条約を締結。
世界に向けて発信した。
唯一の違いは地中海同盟諸国による非難声明が出た事と、NUPがその声明を追認しなかった事。
これで世界の戦況が見えてきた。
やはりNUPの現大統領には退場していただかねばならない。
俺にそれを達成する方法はないものの、世論からもバッシングを受ける行為を平然とやった。
あの男は普通に共産主義者なのではないかとすら見えてくる。
ムッソリーニは公然と中立姿勢のNUPを批判したが、その言葉に反論することもなかったのは現状のNUPをよくあらわしていると言えた。
大統領とそれ以外でかなりの摩擦が生じているのだ。
ウィルソンら企業連合体は新聞などを通して大統領を批判する記事を投稿し、いよいよ企業連合体による大衆扇動が巻き起こりはじめた。
モンロー主義を事実上破棄しかけているNUPにおいて、モンロー主義を掲げているならいざしらず、現状の不透明な中立姿勢は国際社会において孤立を招きかねない。
そんな言葉を並べ、世論に対して彼らは訴えたのである。
それがどういう未来へと繋がるかは定かではないが、MI6から送られてきた情報によると、大統領近辺においての不審な動きを確認した上院議員達は、弾劾も視野に入れて行動を開始したとのこと。
民国における関与以降、大統領近辺では不安が広がっているが、ウラジミールとの秘密会談などによって徐々にその姿勢が浮き彫りとなり、国家反逆罪による弾劾など、ありとあらゆる方面で監視されるようになった。
すぐに辞めさせられないのがNUPの政治的システムの問題点だが、それは皇国にも言えた事。
現段階の皇国議会の状況は西条がいてこそ成り立っているが、彼も永久に首相の席に座るわけにはいかないので後任も検討しなければならない。
皇国議会では戦乱期の間は西条に首相にいてもらう事になっているが、後任候補は今のところ長島大臣ぐらいしかいない。
その長島大臣には健康に気を使うよう伝えているが、本来の未来では皇暦2609年に亡くなってしまう。
ただその原因は戦時中の状況に強いストレスを受けた影響ともっぱら言われており、チェンバレンと死因は殆ど変わらない。
せめて次代の首相は彼になってほしいため、今は彼の健康に気を使いながら後任候補を模索し、皇国がブレないまま後の未来に続く基盤を構築しなければならないわけだが、首相補佐官として俺が出来る事はそう多くなさそうだな。
まあ俺が出来る事といえば内側から少しずつ変えていく事だけだ。
西条が首相としての資質を備えている以上、現状維持する間に人材を育成し、未来の皇国へとつなげるしかないが、俺に出来るのは軍事関係のみ。
まずは軍上層部に新たな軍用食を味わってもらおう。
◇
皇暦2599年8月30日。
ついに大戦が始まるという最中、立川には多くの陸軍将校が集められた。
題して"大試食会"の開催である。
「えー本日お集まりいただいた皆様のお手元には現在、皇国の未来の軍用食が詰め込まれたお椀をお一人様1つずつ手に持っていただいております」
四郎博士による説明が始まる。
俺は助手という立場ですぐ近くで彼と同じく白衣を身につけて参加している。
この日のために京芝と川東に協力を依頼したところ、立川内で割と簡単にフリーズドライ食は作れてしまった。
殆ど応用品だけで作れる物なのだ。
製造法には注意が必要だが、特段難しい技術ではなかった。
量産はまだ不可能だが、量産体制構築のための試食会を本日開催する事になったわけだ。
出席者は基本機動部隊と歩兵部隊の将校達。
そして西条や、興味本位で参加してきた長島大臣や千佳様の姿まであった。
彼らの手元には漆塗りのお椀が添えられている。
本当はもっと貧相な物にしたかったのだが、千佳様が参加されるという事で急遽立川のそば屋より借り受けた。
「のう信濃、何やらその……あまり見た目が良くない固形物が入っておるのだが」
「千佳様。これからそれが化けます。今しばらくお待ちください」
嫌がるそぶりを見せる千佳様に対し、必死で説得を試みる。
色が色の影響で千佳様は汚物と勘違いしているようだが、茶色い塊はフリーズドライで製造した味噌汁である。
しかもこの日のために20種類のバリエーションを用意して作った。
他にも"おぇぇぇ"といった明らかに嫌そうなそぶりを見せる将校もいた。
西条は割と冷静である。
こういう新技術に対して割と受け入れやすい柔軟な思考をもつためだが、食に無頓着という理由もあると思われる。
「ええ、一部から不安がられる声もあるようですが……これから皆様のお手元のお椀にお湯を注ぎますので、しばしお待ちください。ではみな宜しく!」
「はっ!」
技研の若いメンバーがすぐさま向かうと、急須を持ち寄っておわんの中にお湯を入れる。
すぐさま周囲には香ばしい味噌の香りが漂ってきた。
「何と! 味噌汁に化けたぞ!?」
「何が起こった。一体なんだこれは!?」
まあ、普通に考えて味噌は生しかありえぬのがこれまでの常識なのだから、こんなものが突然登場したら、そりゃ驚くに決まっている。
「信濃、これがこの間予算を取り付けた結果なのか? 私に申請してきたのは真空なんたらと書いてあったので、私はてっきり参入メーカーから真空管の類だと思っていたのだが」
「首相。これを製造できる技術は転用が可能なのです。真空管を作る技術を応用して、新たな軍用食を作る。そこには流体力学も大きく関わっております」
西条には特に話を伏せずに真空乾燥装置などといって予算を出してもらっていたのだが、彼は割り当て先が第七研究所であることをきちんと読んでいなかったらしい。
最近は忙しくて他の補佐官に投げている事もあるのが災いしたか。
今後はきちんと本人に伝えることにしよう。
「信濃君……いや、四郎博士に聞くべきか。これが新たな軍用食というものなのか?」
俺がまた何か開発したと噂になったことで興味本位で参加した長島大臣は、香ばしい匂いに食欲を煽られてはやる気持ちを抑えながら、四郎博士に顔を向ける。
「はい。瞬間冷凍法と真空乾燥機によって作り出した、NUPがフリーズドライなどと呼称して研究中のものです。まあ、あちらは上手く作れていないようですが……我が技研にて実用化しました。皇国には高野豆腐などがあるわけですが、全ての食材をそのような乾燥食材とし、 湯で戻す事でいつでも生の食材を味わえるという、未来の軍用食です。どうか味わってみてください」
さっさっと技研のメンバーが箸を配り、皆一様にすすり始めた。
「ぬっ……これは京味噌か! 美味いぞ!」
さすが皇族。
いい舌をお持ちだ。
予算に余裕があったので、なるべく美味しいモノにしたかった。
そこで調達したのは京味噌。
甘みがあるため飲みやすく、嫌われにくいと考えて四郎博士が厳選した。
こういった軍用食の配慮のアイディアは四郎博士の発案。
彼は乾パンと同時に配るコンペイトウの色にも拘った男。
白では寒気がするが、青くすると涼しさを感じる。
現場からアンケートを取ってまでそういった改良を施し、見た目は食欲を左右するという研究論文すら出している。
……が、残念ながら完成品の固形物としての見た目は、他の味噌よりも色が淡い分、よろしくなかったのだった。
味は超一流だけどな……
この日のためにわざわざ料理人まで呼び寄せて作ったのだ。
四郎博士と俺が技術者達とやったことは、凍らせて乾燥させて切り分けただけである。
「私の味噌汁には青菜が入っているぞ。まるで生ものだ。取れたてを入れ込んでいるようだぞ!」
「なんだと? 私のは青菜はないが、しめじが入っている。一人一人違うというのか!?」
「バリエーションを増やすのは簡単です。この製造法は何でも応用できるものですから。量産体制さえ整えば、皇国の軍人はお湯を探す事に命を賭けるようになります。それだけ美味しい食事をお湯さえあれば提供できるようになるからです。では、こちらもどうぞ」
殆どの者が味わった後にさらに別の食事が提供される。
今度は主食であった。
「むっ、これはカニか!?」
「鋭いですね千佳様……」
「どうぞこちらもご堪能くださいませ」
今度はお椀を渡すと同時に湯も注ぐ。
辺りには食欲をそそる魚介の匂いが立ち込めた。
「こちらも京都の料理人がこさえた食事でありまして、カニ雑炊にございます。製造日は5日前……なれどこの雑炊は今しがたつくったような出来。カニは越前より取り寄せたベニズワイガニになります。越前ガニと呼ばれているものをふんだんに使いました。保存が利くのでこの味を2年3年と維持する事が可能です」
「美味いぞ! これならば遠い異国の地でも皇国の食事が採れるわけだな! あっぱれじゃ!」
「まさか真空管の技術を利用してこんなものを作るとは……しかし確かに美味い。軍用食とは思えん」
「とても評判がよくて光栄です。では、今からその製造方法についてご説明します」
パンパンと手を叩くとテーブルが運ばれてくる。
そこには謎の機器や銀のお盆などが並べられていた。
「まずこれは先ほど、立川の料亭で作っていただいた味噌汁にございます。トレーに入った状態のこれをまずは冷凍させます」
銀のトレーの中には味噌汁が入っている。
一度それを周囲に見せた後、テーブルの上に置いた。
四郎博士が手で促すと、手袋を身につけた若い技官が二人でなにやらボンベを抱えてくる。
その鋼鉄製のボンベからは白い煙が噴出していた。
中には液体窒素が入っている。
「こちらは立川の第六研究所で製造してもらった液体窒素です。液体酸素などを製造する際に同時に大量に作れる存在なのですが、これを今より味噌汁にかけて冷凍させます。ではどうぞ」
四郎博士が指示すると、若い技官は味噌汁の入ったトレーをさらに大きな容器の中に入れ、その中を液体窒素で満たした。
ボコボコと音を立てながら沸騰する液体窒素によって、味噌汁は急速に冷やされていく。
「今行っているのが急速冷凍です。瞬間冷凍法の最大の利点はこれで殺菌も同時に可能であるという事。熱処理も行ってはいますが、大抵の細菌がこれによって死滅します」
会場からは「ほう」といった声が漏れた。
千佳様は目を輝かせながら初めて目にするのだろうか、液体窒素の様子をまじまじと見つめている。
陸軍将校も食い入るように見つめていた。
数分ほどすると液体窒素はほぼ蒸発しきり、中には冷凍状態となってカチンコチンになった味噌汁が出来上がった。
「見ての通り、金属音のようなものが鳴るほどの状態です。-30度以下で冷凍したことによりこうなります。これを今から乾燥させますのでご覧ください」
牛皮の手袋を身につけて冷凍されたソレを周囲に見せた後、すぐさまガラス製の大きなビンの中に詰め込む。
これぞ真空管を応用した瞬間乾燥装置である。
分厚いビンの上部にはホースが繋がっていて、ここからタービンを利用して気圧を下げ、真空状態を作り出す。
タービンには逆流防止弁なども備えられ、カタパルト用の高出力のタービンと電気モーターにより、内部はすぐさま真空状態になるのだ。
内部の気圧が下がると、詰め込まれた味噌汁はシューっという音と共に内部の水分が昇華されていく。
これによって水分だけが外に逃げて内部はスポンジ状にスカスカになり、フリーズドライの味噌汁が完成するというわけだ。
完全な乾燥まで大体20分前後。
それを彼らに待ってもらった。
◇
「これで完成です。どうでしょう。最初に口にされたものとほぼ同じ物が出来上がったと思います」
「おお、確かに」
「誰か飲まれますか?」
完成したソレを容器に入れたまま四郎博士は会場の座席へともって行き、見せて同一のモノであることを証明する。
殆どの者が「おー!」といった声をあげて感心していたものの……
「いや、私は結構……」
「私も」
「うむ、味噌汁はもう十分だ。同じ物であるというのは見ればわかる」
西条も含めて殆どの人間は完成したソレを最初に食べ物と同じ物だと認めた一方、誰一人として味わおうとする者はいなかった。
「では口直しにデザートなどどうぞ。これも軍用食として採用予定のものですが、やや趣向を変えたものです。信濃君が考案してくれました」
最後に出したのは俺のアイディア。
会場にいる者達には陶器のカップが手渡されたが、中には紫色に染まった固形物が入っている。
これはお湯だけがフリーズドライ食品に使えるものではないことを証明するため、あえて作ったもの。
山梨よりぶどうやブルーベリーを調達し、それをフリーズドライ化。
これにあるものを注ぐのだ。
「おや、牛乳か?」
ある将校は持ち込まれた銀色の牛乳用の缶にすぐさま反応した。
この日のためにキンキンに冷やしており、それをゆっくりと若い技官達は注ぐ。
「ええ、どうぞ味わってみてください」
俺は一人一人にスプーンを渡し、味わうよう促した。
それは皇国の遥か未来に存在する飲むデザートを、現段階の技術で可能な限り再現したもの。
牛乳を入れて溶かしたそれは酸味と甘みの絶妙なハーモニーがくりなす、見事なまでのデザートならびにビタミン補給用補助食品であった。
「こ、これが軍用食だと……だったら今までのものはなんだったのだ!?」
「信濃、これはどうやって持ち運ぶのだ? これだけ乾燥していれば缶詰は必要なさそうだが」
「このようにパラフィン紙やフィルムを使います。見ての通りとても軽いですよ」
渡したのはチューブ入りの軍用食などのために考案されたフィルム包装。
透明なフィルムの中には先ほどのデザートが入っている。
「こんなものを軍用食として味わっていいのか……いや違うな。こういうのを味わえる時代が到来したと考えるべきか!」
「質素倹約は士気を下げます。例えば苦しい戦場から戻ってきた時、牛乳があったとします。これがあれば一時の幸せを前線に出向く兵士は感じられる。それは高揚感だけでなく安心感ももたらし、士気を維持するのに役立つ。生きようと促すのは食事から。軍用食は梅干と白米だけあればいいわけではないはずです。考えてみてください。我々は今後ユーグで戦う事になる可能性が高い。だとするなら……ユーグにいる者達、そして今華僑で駐留する者達は、和食を恋しいと思わなくないのか……この味噌汁やデザートを食べたとき、彼らは思い出すでしょう。自分達が皇国の人間であり、皇国は彼らの帰りを待っているという事を。そのために皇国の味を届けるんです。最前線に。お湯か牛乳さえあれば皇国の味がいつでも堪能できる……必要なのはお湯と牛乳だけ。新たな軍用食時代の到来です!」
高らかに手を振り上げたが……しばらくの間、誰も反応しないので恥ずかしくなる。
しかし、それはあまりの衝撃に感動した影響だっただけであり、しばらくすると一人、また一人と拍手を送ってきた。
「最大の功労者は四郎博士です。どうか自分ではなく博士に惜しみない拍手を」
一層大きくなる拍手は四郎博士に送られた。
とても嬉しそうにそれを受け入れる博士。
これからやる事は沢山ある。
だが、今日これを示した意義は大きい。
少数ながら技研で量産できるため、今後は様々な部隊に試供品を提供してアンケートをとろう。
「私はこれを仮称ながら乾燥型戦闘食1型と呼称しております。内容物は製造コストとの兼ね合いもありますので今後検討するとして、栄養価に即したメニューを構成し、最前線に軽量な軍用食量パックがいきわたるように調整したいです。どうか開発予算を頂ければ」
「四郎博士。その名称を百式軍用携帯食料1型と出来ないか。ようは来年中にメニューが少なくともいいので実用化したい。予算はそれなりに出す。第七研究所総出で新たな携帯食料を作って欲しい」
「ははっ! 可能な限り努力致します。ただ、そのためにはデータが必要な面もありまして、出来れば本日より随時歩兵部隊を中心に提供したいのでありますが……」
「すでにそんなに量産できているのか?」
「なにぶん保存が利きますので、腐るなどないものですから……」
このところ四郎博士は部下の研究員と共に、様々なバリエーションの食事を作っていた。
まだ大量生産には遠いが、少数量産にはすでに成功している。
四郎博士が求めたのは標準型メニューの策定。
雑炊、汁物、デザートを中心に構成するが、コストだけでなく兵士の好みに合わせた献立を作りたいわけである。
そのための兵士達の意見を求めていた。
「例えば人それぞれ好みというものがありますし、苦手な食べ物もあります。私としましてはなるべく多くの者達に慣れ親しんでもらえるものとしたいのです。それにコレは元の料理を凍らせて乾燥させるため、前線には出ない料理人達が腕をふるって作れる物であるというのも大きいです。全てが全てフリーズドライ化はできませんが、機器さえあれば料理を専門とした兵員は最前線に向かうことなく、フリーズドライの食事を作ってそれを最前線に投下するといった、非戦闘員に組する者達を不安から遠ざけた上で、彼らの力を最大限に活用できるわけでありまして……そういった製造環境も構築したいわけであります」
「1食分のコストに関しては今はさほど気にするな。実用化した後に考える方向性でいい。保存が利くとはすなわち長期的に見ればコスト節約方法はいくらでもあるという事だ。例えば3年、4年保つならちょっとした生鮮食品より実質コストは低くなる。豊作で安い時期に大量に素材を確保して製造し、不作の時期には作らないみたいな事が可能だからな。つまり我々は豊作の時期に生鮮食品をもてあます時代を終わらせられるわけだ。皇国の食事そのものに革命を与えられそうだな」
俺はそこまで考えてなかったが、確かに西条が言う通りだ。
民生技術として発展させるのはちょっとばかしアレだが、豊作の時期に集中的に作ればコストは下がる。
なるほど、そういう方法もあるか……保存食は奥が深いな。
「四郎博士。人員が必要ならいくらでも補充する。百式軍用携帯食料1型。頼んだぞ!」
「は、はいっ! ただちに!」
西条の懇願に四郎博士は敬礼して応え、最後は拍手でもって試食会を終わらせた。
すでに作られた試供品はすぐさま部隊長らに箱単位で渡され、わずか数日ですぐさま陸軍内部で新たな軍用食が話題となる。
魔法の軍用食と称された新型レーションはすぐさま海軍の耳にも届き、翌々日の第三帝国によるポルッカ侵攻に合わせた統合参謀本部会議においては、第三帝国との同盟関係の処理をどうするかというよりも、そちらの方が長く話し合われたほどだ。
まあ会議にかこつけて俺と博士が実物を持っていって提供したわけだが、さすがの海軍も衝撃を受けていた。
そりゃそうだよなあ。
コレがあれば潜水艦だって長期で野菜に困らないもの。
海軍はその日のうちに潜水艦部隊で試供したいと陸軍に申し出て、潜水艦部隊に先行で支給される事が閣議決定される。
まだ試作品段階なのに、すでに実用化したとばかりに会議内では盛り上がったが、まだ完全な大量生産体制にまで至ってない。
精々数千人程度までにしか供与は出来ない。
こちらには100万人以上の兵員がいるわけで、それに対応するにはもっと大規模な製造工場が必要となるわけだが……
統合参謀本部内では、皇暦2600年の実用化を目指し、新型携帯軍用食の工場をこさえようという事で予算まで話し合われる始末。
この様子、既視感がある……松根油だ。
あの時の流れとそっくりだ。
あっちよりもよほどまともな代物だが、海軍の反応がまさにそれ。
神風とばかりに語っているが、まあ確かに、携帯食料の革命ってだけではないのは事実か。
結局、第三帝国との同盟関係においてはムッソリーニと同じく、現時点での防共協定の破棄はせず、一方で中立的立場からポルッカ進軍に一切協力しない声明を出す事になった。
これは事をまだ荒立てたくない王立国家や共和国からの要請もあってのことで、今は状況を見守る。
早い話がそれに誰も否定的な見解をもたなかったからこそ、会議内では食事の話題ばかりになってしまったわけだ。
真に皇国人というのは食のこだわりが強いことが浮き彫りになった。
まあこれだけわいわいやれるという事は、それがそのまま前線の兵士の士気向上にもつながるということだな。
将校単位でこんなに賑わうだけ士気が上がったしな。
それは四郎博士が軍用食に望むことであったが、代替缶詰に失敗した皇国はフリーズドライで戦う事になったのだった。
本来の未来では缶詰の代わりに新たに採用される代物で、どちらかというと皇国は戦後缶詰が使えなかった反動で缶詰系レーションが主流になったのだが……
もしかすると缶詰系レーションは誕生しなくなってしまうかもしれない。
俺はあの飯缶が大好きだったのに……