第73話:航空技術者は航空機用燃料を見直す
皇暦2599年8月10日。
キ47を利用して一足先に加賀より帰国。
元々加賀に乗り続けて横須賀に戻る気は無かったが、ユーグ地方と加賀内で得たデータを技研にフィードバックするため、予定を早めて百式攻が余裕をもって帰還できる距離にて加賀より飛び立って立川に帰還した。
戻ったばかりの俺が持ち込んだデータに対し、技研が最も興味を示したのは例の空戦……
……ではなく、新型機の整備データである。
何と言ってもハ43かつ排気タービンを装備したキ47に関しては、ただ整備がしにくいだけではなく、エンジンのオーバーホールを2回も必要としたことが話題となった。
原因は大量のカーボンやスラッジの発生。
排気タービンが外気を取り込む際に大気中の水分などを取り込んでしまい、大量のスラッジやカーボンを発生させる。
当時のエンジンの空燃比の影響もあって試験飛行では気づきにくい弱点が露呈した。
ハ33固有の個性がハ43で無視出来なくなったものと言えるな……
信頼性にとにかく優れたハ33は燃費が悪い。
その原因は長島製エンジンと比較して大量の燃料を吹き付けているからだ。
おかげで極めてノッキングがしにくく、オーバーヒートもしにくい。
燃料噴射による気化熱でエンジンが十分に冷えるためである。
単純18気筒化させたハ43は元々が信頼性を重視した燃調セッティングであり、ハ33と同じく実は100オクタン燃料でなくとも92オクタンで1660馬力を出せるのだが……
問題はそれだけ大量にガソリンを吹き付けていると、ただでさえ酸素量が少なくて空燃比が悪くてスラッジが蓄積しやすいのに、それに加えてキ47は排気タービンによって外気を圧縮して大量にクランク内部に押し込むため……
外気の水分、ゴミなどによるエンジンオイルの凝固、不完全燃焼などが重なり、大量のスラッジがエンジン内部に付着してしまっていた。
それでも1500馬力以上出していたわけだが、ブーストをかけた状態だと2割ほどパワーが下がって600kmを出せなくなったため、このままの整備サイクルでは労力のかかる機体として整備要員が困るだけ。
加賀内では二機しかなかったから問題とはならなかったものの、今後キ47が九九艦爆の代替となるなら、いずれ顕在化するとの意見で整備班と一致していた所……
一連の問題は稼働率にも大きく影響するので、早期の改良が必要となった。
丁度俺が技研に戻ると技研では改良が施された新たなハ43が届いて実証試験中。
そこで俺はこいつの調整と合わせて、新たな航空機燃料を模索する。
◇
「信濃技官。少し見ない間に顔つきが逞しくなりましたね」
「お前もそう言うのか? それで、改良型の性能は上々か?」
「パワーは1720ほど出てます。燃調とか弄ればもっと出るかと。直噴化の恩恵は大きいです。前より耐久性が向上してノッキングも殆どありません。シリンダーブロックやオイルポンプなどの構造見直しなどで軽量化できた分、直噴化による重量増大も無いです。技官と上層部が拘っている信頼性もきちんと確保できてますよ」
実証試験を見守る若い技官の目線の先には、とても安定した稼動を見せる改良されたエンジン、通称"ハ43-Ⅱ"の姿がある。
すでに正式名称すら決定されていたこいつは直噴化によってより信頼性を大幅に向上させたことで馬力が多少アップした。
しばらく二人でエンジンの様子を見ていると、どこからともなく四菱の技術者が上機嫌な様子を見せながら近寄ってくる。
「お疲れ様です。信濃技官。どうぞこちらを。資料の通りこのエンジンは簡単に燃調が変更できます。今のところ86、96、100で設定してますがいかが致しましょう?」
見せられたのはハ43-Ⅱの仕様書と設計図。
ハ43-Ⅱは過酷な環境にも対応するため、オクタン価に合わせた燃調セッティングが可能となっていた。
一部パーツを入れ替えることで噴射量を制御できるのである。
インジェクションの場合、機械式でもインジェクションポンプの調整によって燃調は変更できる。
そもそも、車や航空機の場合はアクセルやスロットに合わせて調節できるからこそ直噴化のメリットは大きい。
大雑把なキャブレター制御から開放されるので燃費は改善するし、ノッキングも起こりづらくなる。
V型や直列エンジンの場合は背面飛行すら可能となる。
オクタン価に合わせたセッティング変更が出来るのは大きいな。
オクタン価。
皇国は本来の未来でも開戦当初には100オクタン価の燃料を確保できていた。
……ニッケルと同じく備蓄で2年程度で底をついてしまったが。
なお、ここでいう100オクタンというのは混ぜ物が殆どない状態での100を言い、NUPや王立国家などは添加剤をてんこ盛りにすることで事実上の100オクタン以上のアンチノック性能を燃料に与えていた。
ただ、それは人体に有害であったりエンジンに有害だったりとあまりよろしくなく、戦後は段々と添加物に頼らない方式へと移行する。
有鉛ガソリンなんて発明者や製造者が鉛中毒にかかって大変な事になったりしたし、添加剤も危険な成分だらけで……
特にNUPはそういうのを度外視して使うせいで、火炎放射機で焼き払うよりも大型爆撃機などが墜落してきて火事になったほうが、有毒ガスによって多くの死者を出したなんていうエピソードがある。
東亜社会主義共和国の話だ。
一方の皇国は有鉛ガソリンでこそあるものの、そこまで添加剤てんこ盛りにはしていない。
藤井少佐を筆頭とした燃料精製に詳しい者は早くからその危険性に気づき、否定的だったというのが大きい。
メタノールすら否定的だったぐらいである。
そんな我が陸軍は本来の未来では86オクタンを使った。
それは92オクタンは海軍でしか精製できなかったからというのもあるが、86オクタンだと性能低下がそこまで顕著じゃないと思われたからだ。
当時の燃料関係のデータでは様々な状態での検証データが示されているが、100オクタンに対し、92オクタンで約8%のパワーダウン。
86オクタンで13%で85オクタン未満で一気に2割減。
無論エンジンの種類にも寄るものの、ハ25とハ33での平均的データの話。
陸軍は13%なら目をつぶれるといって86オクタンで行くことに決めた。
実際は13%どころではなく、その原因がスラッジやカーボンの蓄積などによるエンジン性能の低下。
試験データでしかわからないから実戦で泣く事になる。
実戦に近いデータを訓練で示してくれた海軍には感謝しかない。
「――100に設定して馬力はどれぐらい絞り出せます?」
「1780馬力ほどは」
「今いくつで1720馬力出てます?」
「96の設定で実証試験をしております」
「ふむ……なら87、92、96で組み替えられるようにしてもらっていいですか?」
「100を捨てるんです?」
「信頼性の方が欲しいんです。陸軍も100は暫定的で96で十分という評価ですから、ガソリンってちょっとしたことで96とかになってしまうんですよ。100で設定してノッキングは怖い。試験データを見ても結構ノッキングしてますしね。一番安定している96をベースにしましょう」
実証データを見る限り100のセッティングは成績がよくない。
もっと詰めれば安定化するかもしれないが、必ずしも100オクタンの燃料が手に入るとは限らない。
ちょっと湿気が多い地域で保管するだけで100未満になる。
92か96が理想だが、96程度なら現地で調合すればすぐに達成できる。
上層部も完全な100専用エンジンだと使い勝手が悪いというので、92~98程度の範囲で調節可能にして欲しいと四菱にはお願いしていた。
それは現場の声をまとめたものだ。
「確かに。実用する場合は常に最高の燃料の状態ではないかもしれませんしね。承知しました。96をベースに最大値を設定してセッティングを詰めてみます」
「よろしくお願いします」
実証試験に参加していた四菱の技術者は足早に試験室のすぐ近くの会議室へと駆け込んでいく。
他の四菱の技術者も合流し、すぐさま身内での会議が始まった。
本来の未来ではここに長島の技術者がいる所……その姿は無かった。
彼らは未だにハ45の開発が上手く行かずにハ44開発へと移行したばかりで、そちらもようやく実証用エンジンが完成した程度。
DB601をデッドコピーしたインジェクターを用いてハ43を直噴化させた四菱が皇国の航空機エンジンメーカーとしては完全に一歩リードしていた。
本来の未来でもソレは完成させるが、随分な前倒しになった。
俺は事前にDB601のインジェクターをハ43に搭載できないかと事前に四菱に相談はしていたが、彼らに開発を命じた事は無い。
デッドコピーなど開発にはかなりのコストがかかるだろうし、時間もかかると見られたからだ。
ところが彼らはハ43の成功によって研究設備を拡大。
研究費も潤沢に用意することが出来て非常に早い段階でインジェクター開発に成功。
戦間期では山崎ですら作れなくて困った代物を四菱だけが作れたのだが、さすがディーゼルエンジンですでに実用化したメーカーだ。
確か試作品レベルなら皇暦2600年の段階でデッドコピーできていたんだっけ。
だとするなら約1~2年の前倒しとなる。
なんだか最近の皇国の航空機は殆どこのメーカーのおかげで成立している気がする。
自動操縦装置も結局四菱しかまともなのは作れなかったわけだが、それは今の世界においても変わらない。
ハ43-Ⅱはまだ試作段階で調整が必要なレベルだが、見事なまでの完成度である。
馬力よりも信頼性向上というのが大きい。
これならセッティングを詰めれば1800台に乗れるぞ。
そこに排気タービンでブーストをかけて約2000馬力。
高速戦闘機の姿が少しずつ見えてきた。
そのためにも燃料をどうにかせねばならない。
会心の切り札ならある。
東京飛行場に行かねば。
◇
立川を離れた俺は大急ぎで東京飛行場へと向かう。
ここにも技研の研究室があるものの、主にここでは航空機燃料などを研究していた。
航空機燃料開発においては航研も実は参加し、少なくない文字通りの"貢献"をしている。
こと燃料合成関係においてトップクラスの能力を誇るのが藤井少佐。
現在も存命のままでいる彼は上層部の指示を受け、来るべき大戦のための航空機燃料の標準規格を策定する任務を受けていた。
陸軍参謀本部において上層部が提示したのは、現在の燃料事情に合わせた燃料規格である。
例えば藤井少佐は当日の気圧、気温、気流……これらに複合してエンジンの特性まで見定めて燃料配合を決める人間であり、しかもその燃料配合はエンジンの固体別に調整すらしていた。
その時の実証データはもう1つの世界においても遺している。
その中にはメタノール類がエンジンのシーリングなどに多大な悪影響を及ぼすため、それらの使用を控えるよう促していたりなど、後の皇国の航空機燃料の標準仕様は彼や航研などの研究を中心に策定されていた。
問題はそんなスペシャリストな整備要員など早々いるわけではないので、数%ほど性能が下がっていいので作りやすく管理もしやすい汎用性のある燃料規格でなければ標準規格と言えないこと。
藤井少佐は3%ほど効率がダウンすると主張していたが、3%切り捨てることで全ての航空機が全ての環境に対応できるなら十分だ。
凝り性の彼には申し訳ないが、ハ43だけが皇国のエンジンではない。
だからどの航空機に入れても一定の性能を出す、非常に汎用性の高い代物をこさえねばならないが、いかんせん凝り性の影響で中々それが達成できずにいた。
まあ来年までに間に合えばいいし、改良していけばいいので、とりあえず現段階でのベストを1型として、2型、3型としておけばいいとは上層部も彼に伝えている。
俺はその航空燃料1型となる存在にある薬品を調合してもらいたいのだ。
そのために研究室まで来た。
外から内部をのぞき、彼がいる様子をみかけた俺はガチャリと扉を開け、研究室の中へと入る。
「おや、信濃技官ではないですか。もしや信濃技官も標準燃料の催促に?」
やや疲れた表情を見せる藤井少佐は、いよいよ俺もしびれを切らしてやってきたかと少し緊張した様子だった。
「いえ、そうではなく標準型航空燃料にこれらを入れてもらいたくて」
「それは組成表ですか?」
「ええ、エーテルアミンの一種なんですが、どうしても必要なんですよ」
「見たこと無い組成表ですね……もう1つはイソプロパノールですか。そっちは当初より0.8%ほど添加する予定でしたよ」
組成表を見ただけで何なのかわかるのか。
本当にただのテストパイロットではないな……この者は。
「この添加剤の製造法はおわかりでいらっしゃるのです?」
「ええ。ジオール化合物を水素化すれば作れます。こちらがそのための触媒の構成データです」
「信濃技官は相変わらずニッケルを使わない触媒に拘りますね。水素化でも使わないのですか」
触媒がマンガンやクロムといった代替に思える素材ばかりだったことを見抜いた藤井少佐は、紙の資料を見てポツリと呟いた。
普段からニッケル排除を掲げている俺だが、強制はしていない。
俺は掲げる以上、自ら率先してやっているだけに過ぎない。
「まあ貴重な資源なので……」
「これなら現時点ですぐ作れそうです。どういった効果が?」
「ガソリン洗浄剤です。ちょっとこのデータを見てください」
見せたのは海軍の整備データ。
とにかくスラッジが問題となっており、写真も添えて見せたハ43のオーバーホール時の資料である。
「これはひどい……」
「少佐に作っていただきたいのは魔法の薬品。なんと言ってもこいつは……カーボンとスラッジを溶かすんですから……」
「そんなものが。一体どこでこの薬品の情報を?」
「出所は聞かないでください。まあNUP関係です……」
「……なんとなく察しがつきました。深く追求しないでおきます」
俺が見せた組成表。
それはポリエーテルアミン。
現段階の皇国の技術で製造が可能ながら、未来の世界においてはエンジンのオーバーホールだけに留まらず、航空機レースにも使われるほどの魔法の薬品である。
ポリエーテルアミン。
それは車検という存在が無いNUPで皇暦2640年代に誕生した。
自動車好きの人間の中でも、多少なりとも化学的な理解がある者なら良く知っている事がある。
洗浄効果アリなどと謳うエンジンオイル添加剤はただのオカルトだが、ガソリン添加剤は効果の大きいものがあると。
従来から添加剤が大量に含まれているエンジンオイルは同じ成分がすでに必要なだけ含有されており、殆ど効果がないばかりか効果が悪化してしまう事もある。
エンジンオイルはそもそもエンジンの潤滑に使うものであって、エンジンの洗浄などと謳うシリコンなどの成分はまるで役に立たない。
一方のガソリン添加剤。
皇暦2610年代から注目されたのがガソリン洗浄剤だ。
航空機と自動車双方のメーカーからの要望を受けて誕生し、皇暦2610年代に発明された。
しかしその完成度は中途半端で、以降様々な薬品が調合されて誕生していった。
俺がやり直す頃には純正のガソリン添加剤が登場しはじめたりしたわけだが、それらの主成分がこのポリエーテルアミンである。
航空業界においてはもっぱらエンジンのレストア、オーバーホールに使われるが、それまで強引に削り取るしかなかった状況から洗浄するという方向に転換した事で、古き航空エンジン達の寿命は延びた。
俺がやり直す前ですらまともに動くハ25やハ33が存在したぐらいだ。
それらを可能としているポリエーテルアミンは、スラッジ、カーボンなどのNUP流に言わせるとガム状固形物を溶かしてしまう魔法の薬品である。
誕生の経緯はNUP流の考え方。
俺はそういうNUP流の考え方は嫌いじゃない。
車や航空機において必須となるのがオイル交換。
しかしオイル交換だけでなく、乗れば乗るほどエンジン内部が汚れて調子が悪くなり、最悪ブローに繋がったりしてしまう。
他方、暇人でもないならいちいち分解修理などしていられない。
ドライブや遊覧飛行がしたいのにその倍の時間を整備に食われるぐらいならば整備しなくてもどうにかなるような燃料を作ってしまおう。
それがNUPから世界に拡散した洗浄剤という存在であった。
ポリエーテルアミンはその最新鋭版かつ革命的存在で、NUPからユーグに広まり、今や両地域のハイオクには標準で入っている。
一方の皇国はそんなもの入っておらず、ガソリン添加剤として輸入されてきたものが販売されていた。
俺は当初これをオカルトの類だと思っていた所、周囲がポリエーテルアミンは違うと言うので試してみた。
そしたら本当にカーボンやスラッジが本当に溶けるんだ。
これを知ったのは自動車整備をやっていた頃。
エンジン洗浄はもっぱらコレの原液を使っていた。
そしてこれを添加させて普段から車に乗っている人間の自動車を修理した際、エンジンをバラしたら異常なまでに綺麗で凄まじい衝撃を受けた。
だから、いつか役に立てばいいと頭の中に組成表や製造方法は記憶していたのである。
製造方法を知っている要因はその時輸入に頼ることが出来ず、俺が所属していた修理工場が独自に調達していたからだ。
まさかそんな事が今更役に立つなんて……
ポリエーテルアミンは不燃性の影響で最も効果が出る1%をガソリンに添加すると、オクタン価は事実上1%下がる。
他にも添加剤が入るとオクタン価はさらに下がる。
皇国のガソリンは現在、99.8ぐらいに藤井少佐が調節して標準規格を検討中だが、ポリエーテルアミンを添加すると98.8になるな。
俺としてはオクタン価を上昇させる添加剤を加えて99.2~99.6ぐらいにするのが理想だ。
大体これが未来の環境に優しい航空機燃料と同じ数値。
本当はポリエーテルアミンの採用はもっと後でよかった。
だが、ターボコンパウンドの件も考えても必要に感じる。
ターボコンパウンドの失敗はコレがなかったからではないかと、実は未来のNUPの技術者も主張しているんだ。
なぜなら、未来のDC-7の燃料にPEAポリエーテルアミンを入れてみたらまるで故障しなくなって他のレシプロエンジンと同じぐらいの整備サイクルになったからだ。
このままハ43がハ25とほぼ同じ立場になるなら、ターボコンパウンド化しか道は無い。
その解決方法は燃料側で行う。
NUP的発想でもって解決する。
「うーん。これ結構コスト上がりそうですよ。大丈夫なんですかね?」
製造方法の詳細をペラペラとめくりながら見ていた少佐は不安そうな表情を浮かべる。
だが問題ない。
「単価は私の計算では2割上がるでしょうが、エンジンは整備サイクル期間が長くなって人件費とかで十分元が取れます。一度作ってみて汚れたエンジンにぶっかけてみてください。自分がどうしてそこまで欲しい薬品なのかすぐわかります。常に新品みたいなエンジンで飛べるようになりますよ」
「そんな薬品を開発していたような国と一時は戦おうとしていたなんて、いやはや……戦ってたら負けてましたね」
「どうでしょうね……まだ彼らと戦わないと決まったわけではありませんから。だからこそ、おいしい技術は手に入る間に手に入れて実用化するだけです」
「わかりました。すぐに製造に取り掛かってみます。報告に期待しといてください」
「宜しくお願いします」
握手を交わした後に研究室を去る。
彼は半信半疑といった様子だったが、PEAは本当にすごい代物なのだ。
60年後の未来には皇国製航空機でも使われて実証データがある。
それはレース機だったり保存用機体だったりするわけだが、エンジンオーバーホールは今後不要になる。
その前に他の部分が壊れるようになるからな……
どこぞのアニメのように「そろそろオーバーホールせにゃならんな」――なんて時代は皇暦2600年で終わらせる。
今後は別の部分が壊れた際にちょっと洗浄する程度になる。
ハ43以上のエンジンが出なければ、俺はその燃料を使ってターボコンパウンドを試す腹積もりだ。




