第68話:航空技術者はFw190の性能に勝機を見出す2
長すぎたため読みにくいので分割します
低音を響かせた小型の航空機が滑走路を飛び出して空を舞う。
それはFw190の試作機であるFw190V-5。
謎のエースライヒ国籍の通訳と皇国の航空エンジニアは、特に第三帝国の者達に拒否されることなく新鋭機のテスト飛行を見学することを許された。
飛行試験を見て改めて思うことがある。
Fw190シリーズの試作機ほど試作機らしい存在はない。
V-0から始まり、V-32~と大量の試作機が存在するこいつは、量産された全ての派生機とは別に様々な機構が試作機にて試案されたのである。
しかもその試作機のほぼ全てが外観的特徴による差異によって見分ける事が出来、Fw190を心より愛する人間はひとたびクイズに出されようものなら40種類以上あるといわれる試作機を全て外観を捉えた写真だけで判断できるという。
まあV-19なんかは"後退翼"の実証試験機だし、わかる人にはわかるのだろう。
それぐらい細かい部位が異なりながらも40種類以上あるわけだ。
俺自身が見たことあるのはV32までだが、もっとあるのだ。
現在低空をテスト飛行しながら舞うのはV-5。
試作機としては6番目の存在。
第三帝国の試作機の場合、皇国のように別の機体をこさえてみるという事は殆どなく、改修を繰り返すためにいくつか生産された試作機が違う派生機を担う。
皇国の場合は試作段階で最大10機ほどの案をメーカー側か軍が提示するが、それらは10機全て別個の機体として生産された上で、個別に調整を繰り返し量産機としてのあるべき姿を模索するのが慣例となっている。
だが第三帝国の場合、試作機とは実験機でもあるため、仮に10機用意されてもその10機が別個の試作機として強化・発展していく。
そればかりか国外に試作機を販売するとか、試作機を量産してしまうとか……
もう割と好き放題やっていて、皇国はそれを第三帝国から購入したことすらある。
王立国家のように試作機は量産機を改修して試すような事はないわけだ。
そのため、V-5とは文字通りV-0から始まる6番目の機種であるが6機目を意味するわけではなく、V-0自体が数機存在した上でV-5なんかは少数量産されてしまっていて、V-5KとかV-5Gとか、V-5の中にすら微妙な仕様の違いがある。
つまり専門家でないとわけがわからんのだ。
航空エンジニアである俺ですらFw190は特に試作機が多いので完全に把握しきれていない。
何しろ表向きV-5は試作5号機と呼ばれているが5号機が複数存在するのである。
5号機といえば普通は5番目に建造された機体を言うはずなのに、5号機Cとか、5号機体Dとか、A~Kまでアルファベットが名づけられた量産機があるわけだ。
それは5号機ではなくバージョン5であり、"王立国家的に言えばMk.5だろ?"――と言いたくなるのだが……彼らは5号機なのだと譲らない。
そしてすでにこの時点でFw190は30機以上存在していたりするわけだ。
俺はこれが未来の皇国のクリエイターが関与するロボットアニメ作品に影響を及ぼしたのではないかと思う。
試作機が量産されているだとか、微妙な差異で同じ試作機が複数あるだとか、2号機や3号機が複数あるだとか……
……最終的に100を超える試作機が存在していたなど、Fw190やBf109などの第三帝国の試作機を参考にしたとしか思えない。
実際に試作機だけならFw190なんかは総計何機あるのかわからないほど。
俺は精々10機程度の派生機しか考えないし試作機の実戦投入も考えないが、Fw190Vシリーズは実戦投入すらされたわけだから、第三帝国もこれまた王立国家並みに頭がおかしい国だと言えるな。
まあFw190の場合は設計者が試作機で、飛行試験がてら自分の設計した機体で偵察活動をするような人間でもあるからな……そういうお国柄なのかもしれない。
しかしV-5が俺の知るV-5で助かった。
今空高く飛んでいるV-5は1段2速の過給器の切り替えが上手くいかず、高度1000m以上~3000m以上でモタつく俺の知ってる機体だ。
ギクシャクした動きは肉眼と音で確認できる。
Cs-1の件で不安になってたんだが杞憂だったのか……V-5がもっと完成度の高いモノになっていたらキ43では勝負にならない。
基本的に現在のキ43の最大の敵はこいつだ。
当初より俺はキ43の想定敵機をスピットファイアとBF109とFw190、そしてP-51としていたが、特に危険な相手はFw190と考えていた。
現時点で最高速度が600km以上でありながら、運動性能もそこそこの能力を持つこいつがさらにパワーアップされたら困る。
ただそう簡単にパワーアップできないとも考えていた。
流体力学は甘くないし、何よりも軍の要求が厳しかった。
Fw190の試作機はV-0から始まるわけだが、V-0からV-5までの道のりも苦難に満ち溢れている。
軍が希望したのは600km以上の速度と、BF109以上の運動性。
かつて俺がキ35で要求されたような厳しい要求を突きつけたのだ。
ハ33で同じ事を達成しろと言われたら俺も相当苦労したと思う。
今の皇国の航空機の性能はハ43があるからこそ達成出来るようなもので、第三帝国の軍上層部はV-0の時点では到底誕生しないと考え、そんな無理難題を押し付ける。
BF109で十分だとばかりに。
だが、このFw190は流体力学的理解がある設計者により設計され、V-0は当時としては破格とも言える空力特性を誇っている。
特にエンジン周りのデザインは見事。
強制空冷ファンを導入する代わりに細く引き締まった状態としているのは、後に一郎すら影響を受けて烈風に採用してみたほどだ。
いわば俺や一郎が導入した強制空冷ファンの元祖はV-0だ。
やり直した影響で逆転現象が生じてしまったように思えるが、モックアップ単位で実用化していたのはこちらが先なので、こちらが元祖で間違いない。
あのキ35で試したエンジンカウルの処理もあの時点で考案できていた。
彼らの失敗はさらに高みを目指しすぎただけだ。
俺の方が当然にして後のFw190の苦労や計算データを知っている上、さらに先の先の未来の理論なども認知しているため、強制空冷ファン周りの処理における完成度は数段上の領域に達している。
V-0とは異なり、皇暦2599年時点でより洗練されたものを皇国では実用化していたのだ。
だからこそ、A-0として正式採用されるV-5にも影響を及ぼす心配があったのだ。
キ35でのヘマを教訓として機密保持を徹底したために外部に漏れていないが、表向きは友好国である第三帝国には外観の公開と簡単な構造説明だけしていた。
その不安はどうやら解消されたようだ。
やはりというか普通に処理に手間取ってV-5は本来の未来と同じ形状となっている。
V-4まで拘っていたV-0から続く挑戦的な形状ではない。
空冷ファンは搭載するが俺達ほど洗練されていない。
彼らが百式襲撃機を見たら驚くことだろう。
彼らがV-0でやりたかったことを俺はやり遂げた。
空冷エンジンでありながら防弾性能がほしかったため、百式襲撃機はプロペラスピナーに防弾鋼板を採用しつつ、V-0と同じく完全にスピナーでほぼエンジンを覆う構造としている。
外観としては後のBF109のGシリーズのようになっているが、スピナーとナセルには若干の隙間があって中空とはなっている。
もちろん、戦場での状況を想定して限りなく狭い隙間としてあるが。
これを空冷の単発戦闘機でやろうとしたのはFw190のV-0が史上初。
Fw190の場合、Fw189というV型空冷エンジンなる、皇国でも試作しかされなかったド変態エンジンを用いた機体が存在していて、そいつは双発機ながらV-0に発展しうる構造となっていた。
Fw189はエンジン下部にエアダクトを設けているが、こいつの試作機に下部を埋めてスピナー側を中空とし、プロペラスピナー側から外気を取り入れたモデルがあったのだ。
その実証データを用いてFw190V-0では当初よりその構造を試してみたのだが、冷却性能が確保できず当然失敗した。
V型エンジンと星型エンジンでは冷却特性が異なって当然。
シリンダーが一列に真っ直ぐ並んでいるV型エンジンと、円を描いてシリンダーが配置される星型では、常に風を吹き付けなければならない場所がまるで異なる。
強制空冷ファンを用いるというアイディアは素晴らしいものの、当時の流体力学的理解ではV-0のやり方では駄目なんだ。
百式襲撃機のようにしなければならない。
百式襲撃機ではエンジンの信頼性確保のため、エンジン側にも防弾鋼板を配置する必要性が生じていた。
IL-2が凶悪なまでに頑強だった要因は、エンジンブロックまで防弾鋼板で保護されていたから。
これを空冷で達成せねばならない。
実はIL-2にもM-82という空力モデルがあるのだが、こいつは本当に空冷エンジンに置き換えただけの妥協の産物。
同じく空冷を採用したSU-6も途中で液冷に置き換えたように、冷却面で問題を抱えつつも防弾性能は欲しいため、どちらもスピナーを拡大し、エンジンカウルを絞り込んだが……
それでも評価試験では"エンジンブロックが破損した"――と言われ、液冷ほどの評価を得られなかった。
元来信頼性の高さが取り柄の空冷エンジンは、それそのものがヘッドオン時には防弾装備となりえるのだが……
対地攻撃を考慮した場合、対空機銃などがわんさかいる場所で飛行を続けるためには一般的な処理では信頼性を確保できないのである。
ヘッドオン時の攻撃を防御する程度でいいなら、1気筒や2気筒死んでも構わない。
攻撃を受けた後の様子を見て戦線離脱すればいい。
そもそもがヘッドオンなんて滅多にない。
だが対地攻撃をするというのは空戦でいうヘッドオン状態を常に強いられる。
1気筒、2気筒死んでもいいがすぐ死んでもらっては困る。
常に弾幕に晒される中でエンジンは最後までパイロットが戦線離脱できる信頼性を確保せねばならない。
それを空冷で達成しようとすれば困難が伴うが、唯一の解決法は強制空冷ファンしかない。
俺がやったのはV-0に類似する大型スピナー形状としながら、エンジン下部にダクトを設けたこと。
そして複数のファンを用いてナセルの周囲に空気を送り込むようにして、星型エンジンのシリンダーブロックに風が向かうように調整した。
こういう場合、簡単な気密構造を採用することで冷却は上手く行く。
加圧構造にして排気量よりも吸気量を上回らせればいいわけだ。
ナセルからエンジン内に流れる空気の逃げ場を減らす。
よく未来のコンピューターにおいて、"大型冷却ファンを採用"などと称して、排気側に大量のファンを用意することがある。
これでは内部の気圧が低くなるために外からの空気が入り込みやすくなり、一見するととても冷えやすくなると思いがちだ。
しかし実際は内部に熱が滞留してしまう。
原因は風の逃げ場がなく、気圧が低いので外から穴という穴から大気を吸い込もうとするから。
この手のパソコンのコンピューターケースは極めて汚れやすい。
メンテナンスフリーなどと呼ばれるコンピューターケースでは加圧構造とする。
すなわち、排気<吸気という出力構造にする。
大量に空気を取り入れるファンを用意し、逃がすファンは1箇所か2箇所程度。
そうするとどうだろう。
大気は熱い空気ほど外に逃げようとするため、熱が見事に逃げていくのだ。
おまけに埃もシャットアウトできる。
つまり必要なのは大量の吸気ファンとそれらがある程度の内圧を保つ構造であって、排気用のファンではないということだ。
ありとあらゆる分野において半世紀後にもこれが勘違いされて廃熱問題を引き起こす。
コンピューター関連ではサーバールームとかの設計でよくやらかす。
空調関係の分野でもこういうミスがある。
冷却時には吸気が重要。
その吸気させる構造が難しいからエンジンの世界は奥が深いのである。
吸気問題はジェットエンジンにも関わってくるほどだ。
百式襲撃機の場合、純モノコック構造ゆえある程度の気密性は確保しやすい。
そのため、流体力学を活用した風流の流れを計算したエンジンカウルとナセルとし、推力単排気管のある左右のエンジンカウルへと風流を導いてやれば、V-0と同じような構造を採用しても冷却問題は解決される。
その構造は本来の未来では一郎が烈風で証明することだが、V-0との違いとしてはV-0はプロペラスピナーとナセルがほぼ一体化していたが、俺の場合は一体化しているように見えて構造は別だということ。
この要因はただ1つ。
V-0の方法は冷却以前にプロペラ効率が悪すぎる。
あの形状でプロペラ効率を高めるなどどれだけの全長にすればいいのだ。
あんなスピナーはBf109のような液冷エンジンだからこそ採用できた。
百式襲撃機の場合、プロペラスピナー自体は大型化しているがプロペラ効率を意識した大きさだ。
いくら最高速度を500km台と見積もったとはいえ、 スピナーを巨大化しすぎれば非効率極まりない。
本来、スピナーとは可変ピッチプロペラの構造体を保護するためのカバー。
不用意に大型化するものではない。
空力を考えるならばV-0の考え方はアリだが。
大型化したスピナーによって発生したトルクにより、V-0の安定性は最悪。
スピナーを巨大化させれば遠心力は高まるから当然。
だから可能な限り巨大化は避けるものだ。
理想としてはB-36のような構造が最も洗練されてるとはいえる。
アレなんか星型エンジンと言われても後ろから見ただけではそう思えん。
百式襲撃機はプロペラシャフトをやや長くすることで、アレと同じく先頭に向かってやや絞り込んだデザインとして広い視界も確保している。
プロペラを外すとヤクチアの後のジェット戦闘機に見えなくも無い。
対地攻撃で正面の視野角に優れないと最悪だからな。
一連の工夫は本来の未来での雷電も似たようなことをやっていたが、雷電ほど挑戦的な延長プロペラシャフトではなく、雷電のようにスピナーから空気を取り入れて空冷ファンを回す方式でもない。
アレなんかはプロペラの後方にもう1つプロペラがあるようなもんだ。
俺の場合はキ83のようなスピナー形状に、ナセルでもって殆ど隙間を作らないという、割り切った構造。
おかげでパイロット達からの評判は非常にいい。
離着陸時の視界が開けていて、元の頑強さも相まって乱雑に扱っても壊れないしな。
その辺りの特徴は今空を飛んでいるFw190 V-5に通じる。
V-5は俺達が知るFw190とほぼ同じデザイン。
非常に評価が高く、A-0として量産される。
ただA-0はエンジンの信頼性が低く問題が多発。
改良に1年ほどかかった。
よってFw190はWW2の緒戦には出遅れたのだ。
今回の世界においては五輪のために開戦を遅らせる。
そのため量産化される不安はあるのだが、それでもこのペースならこいつの登場は本格的な戦いに間に合わない。
こいつの本格的な量産はA-1で、それが皇暦2601年以降。
だが俺達は2600年の9月には戦いを挑むつもりだ。
最大の敵は出遅れる。
キ43の方が信頼性が高いのは燃料の影響もあるだろうが、やはりハ43が極めて優秀なエンジンだからだろう。
Fw190が搭載する801エンジンはまだ完成していない。
その801ですら生まれた当初は不具合連発だった。
現在搭載しているのは1550馬力の139エンジンだな。
さっそくエンジン不調で試験を中止させた姿を見て、Fw190に変化無しとメモ帳に記入しつつ、飛行場を後にする。
Fw190といえばこの後は液冷エンジンを搭載したFw190Dが登場するが、俺は個人的にその試作機の1つであるFw190V-18を手に入れてみたい。
あの排気管の性能とエアダクトの構造に興味がある。
特徴的なエギゾーストシステムはV-13あたりで採用されたものだが、P-51を意識したダクトの内部構造がよくわからない。
外径が変わっていないのにどうやってエンジンに風を送り込んだ?
しかもエンジン下部にもエアダクトが設けられているぞ。
それをどうやって制御しようとしたんんだ……
後退翼のV-19も興味あるがV-18の方が興味があるんだ。
あくまで個人的な興味でしかないが……
そこで俺はその発想につながりそうな何かがないかと、Fw190の開発と量産を行っている工場を確かめてみたがそれらしきモノはなかった。
設計室はさすがに技研でも出入り禁止なので見せてもらえるわけがないのだが、構造さえ見ればどういう効果を意図したものなのかはわかる。
流体力学の専門家はそういう人間だからこそ、戦後はそう簡単に外部の人間を出入りすらさせなくなるが……今の時点でも俺なら見ただけで各種機構の意図と効果がわかる。
しかしそれらしきモノはない。
残念ながら早すぎたと言えよう。
液冷エンジン搭載のFw190は皇暦2602年以降登場するものな。
今は基本空冷しか考えてないからな。
設計者はこの時点でBf109を超える航空機を考えていて後に実現化させるが……
本人にも会わせてくれなかった。
会わせてくれたら多少は改良のヒントぐらい出したのに。
それと早いうちに皇国に来てくれってアドバイスできたのに。
彼にもジェット機の開発は手伝って欲しかったが仕方ない。
工場を後にした俺達は今度はBf109の確認をしにいく。
今気になることは1つ。
見学の最中、この通訳者は彼らの言葉の一言一言を切り取ってメモを取っていること。
やはりただの通訳ではなかったのだが……怪しまれるそぶりはなかった。
そんな人間に軽々武装や馬力性能を説明してしまって……まあいい。
このメーカーは割とそういう所があるって話もあるからな……




