第62話:航空技術者は目標を達成する
「二人とも、なんてタフなんだ!」
「まるで勝負がつかんな」
「こんな戦い二度と見られないかもしれん……」
「うっく……おっと、別に泣いちゃいないぞ! 感激してしゃっくりが出ただけだ!」
甲板上にいる客席ではワイワイと二機の戦いを見守る。
二機はすでに20分以上空の上で対決を続けていた。
互いにマニューバを駆使した動きはまさに芸術。
稲本准尉はここにきて零の限界をさらに引き出し、零と百式は互いに雲を引き始める。
しかし悪童の戦術が上回り、中々後方を維持できない。
悪童は風を支配しているように見えた。
荒々しいマニューバなのに完全に失速しない。
見ていて怖いが、完全に乗りこなしている。
……15秒にする必要性はなかったか。
早期に決着がつくのが嫌で15秒としたが、互いに消耗しつくして着艦失敗は怖い。
どこかで引き分けにしよう。
ただ、もうしばらく見ていたい。
その後、零と百式の二機は艦隊の周囲をグルグルと周回しながらも20分以上戦い続け、時には赤城などの他の軍艦にも接近して高速通過し、最終的に双方共に決着がつかず60分ほど経過するとお互いに救難信号を出し、勝負は引き分けとなった。
彼らが帰還の意思を示したため甲板後方の者達が一時的に退避し、零が先に着艦。
百式はその後しばらくして着艦した。
どちらも着艦が非常にソフトなところがエースらしい。
俺は陸軍のエースからずっとこう言われていた。
どんなに荒々しい空中機動をとる者でも、それがエースならば離着陸は丁寧かつ正確無比なのだと。
機体に最も負担がかかるのはマニューバではない。
離着陸である。
こと空母着艦ときたら特に負担がかかる。
それが丁寧に行える者こそエースたる存在なのだというが、凄腕は戦闘中の機動は鋭いが離着陸はなぞるようなやわらかい機動を見せるのだ。
◇
「いやあ、もう勘弁だ。機体が優秀すぎて決着がつかん。零になら勝てると思って舐めてかかったな。あっはっはっ」
「いい汗をかけました」
「"次があったら"負けんぞ」
「私もさらに腕を磨いて精進します」
少尉と准尉は互いに互いを称えあい。
握手を交わした後に互いに肩を叩く。
観客からは歓声と拍手が自然と沸いた。
その光景を見て疼いているのは他の巡回隊のパイロット達。
無論俺は模擬空戦の機会も与える予定だ。
これはいいデータ収集になる。
実戦では機体は酷使されて当たり前。
その時になって初めて現れる不具合というものがあるはず。
設計に絶対はない。
凄腕のパイロットが限界性能を引き出すならば、どこかが悲鳴をあげるはず。
見定めねば。
◇
まだ日が沈むまで時間があったため、その日は零と百式は収容しつつも、他の機体を用いて射出試験を行う。
爆装などはしていなかったが九九棺おけ……艦爆なども射出。
しかし飛行している姿を見ていたが、こいつは残念ながら採用されたばかりなのに旧式に落ちぶれたな。
410kmとかそんな程度にしか速度が出ていない。
ハ33を搭載している割にゃ随分遅い。
これなら百式襲撃機を採用した方がいいんじゃないだろうか。
固定脚はもうどうにもならんな。
非番で射出試験を見ている船員も昼間の熱戦を観戦していたので、九九艦爆に物足りなさそうな表情をしていた。
一方の百式攻ことキ47は優雅に九九艦爆を追い抜いて煽っている。
乗っている者は誰かわからないものの若松准尉ではないな。
まあ双発機相手だとそうなる。
射出試験を見守りながら双眼鏡で周囲を見回すと、赤城などを含めた他の艦隊には将校とみられる者達が遠くより試験を見守っている。
航空機の性能というのは今後の戦術や戦略のありようを決める。
彼らにとって視るのもまた仕事。
特に白岩少尉はあえて赤城や長門の近くを稲本准尉を伴って高速接近飛行したが、アレを対空機銃で落とせると思える人間は減ったことだろう。
実は今飛んでいるキ47には中に何も入っていないハリボテの800kg爆弾を背負わせているが、これで高速飛行させてあえて見せ付けている。
本当はもうちょっと速度が下がるが、航空機不要論者にはいい薬となるだろう。
近く航空機は爆弾の投下で戦艦を撃沈することになる。
これが皇国の航空機不要論を根底から覆すことになるわけだが、キ47によるパフォーマンスを見れば少なくともこの艦隊にいる将校達は見直さざるを得なくなる。
600kmを超える速度を発揮しながら800kg爆弾のハリボテを2個背負うキ47は、間違いなく戦艦の脅威と彼らの目に映ることだろう。
だから言ったのだ。
大艦巨砲主義などもう終わりなのだと。
対空砲火は重要だ。
今後も必要になる。
しかし大型艦である必要性はないんだ。
その辺りは末期の皇国にて活躍した海防艦が示している。
一連の小型艦は艦隊を護衛してB-17をいくつも落とした。
なまじ爆弾の命中率が下がる機動性の高い小型艦ほど、航空機の脅威となる存在もない。
俺はVT信管を皇国で実用化するつもりだ。
その地盤は整いつつある。
そこで活躍するのはこういった小型艦。
結果的に言えば大和も打たれ強くなるだろうが大和の仕事は少なくなる。
キ47は本当にいい仕事をしてくれるな。
愛してるぜ。
◇
皇暦2599年6月30日。
翌日も射出訓練が続く。
カタパルトは1回に100機まで整備無しで射出できる性能があるのだが、それが本当に空母に括りつけた状態で可能なのかは不明瞭だったため、その確認試験を行った。
結果としては朝から延べ100回以上射出して特に問題なく成功。
ただしその後に地獄が待っていた。
カタパルトの整備である。
航空機用の潤滑油を使うこいつは何度も射出していると内部にてカーボンが蓄積したり、ゴミがシリンダー内部などに入り込むため清掃がとにかく大変。
解体して整備して組みなおすのに現状では8時間かかる。
大量のオイルの廃棄をどうするかといった問題もある。
オイルについては即座に劣化するわけではないのでゴミを取り除いて何度か再利用しているのが現状だ。
そうそう大量廃棄するほどの余裕は空母にはない。
ゴミは布で作ったふるいにかけて取り除く。
カーボン類は丁寧に乾いた布などでこそぎ落とす。
今後は艦内にいる整備員に運用を任せるため、俺は作成したマニュアルを見せながら共同で分解整備を行った。
オイルをアキュムレーターに送るモーターやポンプ類の清掃はとにかく丁寧に。
特にアキュムレーターは貴重なので、その整備は慎重にと説明しておいた。
一応現在までにある程度改良を加え、カタパルトは4分割して整備が出来るようにしてある。
ブロックごとに整備できるような構造としているのだ。
それでも完全な動作を目指すためには8時間もの時間を割いて整備せねばならない。
ここにマンパワーを投入しても6時間程度までにしか時間が縮まらん。
せめて2時間~4時間程度の間としたい。
同じく実用化している王立国家やNUPがこの問題をどうしてたかというと、ブロック構造とした上で文字通り組み替えていた。
ようは裏で整備しつつ、使い終わったら一度取り外して汚れた部位ごと入れ替えるのだ。
新幹線の台車と同じ方法でとても効率的かつ合理的だな。
あっちも台車交換して、交換した台車を裏で別途整備しておく。
整備工場は常にそういう仕事があるために毎日稼動するわけだ。
そこが他の通常の鉄道と違う所。
鉄道整備工場の場合は365日稼動が必要というわけではないからな。
皇国で真似が出来るならやりたいところだが、そこまでのマンパワーがあるかどうかわからない。
それにマンパワーがあったとしても解体などが楽になる方が作業時間が縮まって効率化する。
これについては宮本司令にも伝えてある。
最悪は常に整備したものと交換し、常に艦内で清掃を行うようにすべきと。
彼もそこは認めていた。
一番重要なのは作戦展開時に常に使えることなのだ。
だから多少の使い勝手の悪さは目を瞑るしかない。
それでも皇国の総重量8tの航空機を小型空母から飛ばせる利点は大きい。
航空巡洋艦という存在だって皇国にはあるわけだが、彼らが活躍できうるということなのだから。
俺は全身油まみれとなりつつも、カタパルトを整備して翌日の試験のために状況を整えた。
カタパルト機器周囲の構造物の見直しも行い、ワイヤーが甲板と接触する箇所に新たに鋼板を添えるなど調整を繰り返す。
残り後3日。
7月2日には完全な状態としなければ。
◇
皇暦2599年7月1日。
着艦時に事故が発生。
九六艦戦が失速して着艦前に海面に墜落した。
パイロットは無事に脱出し、ボートで回収。
九六艦戦を1機喪失したが、射出試験に支障なしとのことで試験を継続。
この日は零と百式の第二ラウンドも行われる。
百式には若松准尉が搭乗。
零は後藤准尉が登場した。
後藤准尉は343空の後のエース。
両者は互いに切磋琢磨し、最終的に百式に慣れていた若松准尉が勝利。
後藤准尉は敗因を「一機しかないので怖くて振り回せなかった」――と述懐した。
いや、本当だよまったく。
白岩少尉と稲本准尉は化け物か。
特に白岩少尉なんか見ててヒヤヒヤしたぞ。
若松准尉もそれなりに気を使って飛ばしていたが、空中機動に白岩少尉ほどの鋭さがない原因は百式が一機しかないからだと言っていた。
白岩少尉は世紀の対決のために奮起したからだとの事だが、周囲には"これで喪失してもいいって暗示かけて飛んでたんだよ"――と終わった後に言っていたそうだ。
スーパーエースの頭の中はいい意味で狂ってる。
そういえば彼は三大奇人なんて後の世で呼ばれてたか。
上官を殴った事もあると言われる割には、俺に対して不遜な態度をとることはないんだけどな。
ただ、どうやらあそこまで張り切った理由もあるらしい。
少尉は今回の航海を最後に除隊するつもりらしいのだ。
思い出したよ……彼はこの後、民間航空機のパイロットになるんだ。
ヘタすると彼がModel 307を操縦するかもしれない。
まだ戦えると周囲から言われているが、齢31になって精神的に無茶ができなくなってきたという。
だからこそ最後に稲本准尉との決着に拘った。
俺が知らぬところで彼はこの対決の話を聞いた時に、若松准尉に対してこう述べたという。
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「若松。すまんが譲ってくれ。どうしても飛びたい」
「どうしたんです? 改まって」
「稲本と決着を付けておきたいんだ。もう二度と機会はない。あいつはきっと零でエースとして名を馳せ、皇国海軍の航空士の憧れとなるだろう。俺はもう随分歳を食った。今回の航海にゃアドリア海の上空を飛びたいという個人的願望もあってのことだが、俺の後ろを歩むやつらに俺の生き様と飛び方を見せようと思ってのことだ。これからは若い奴らの時代だ。俺はバトンを渡したい。この模擬空戦を見た奴らがバトンを受け取る。それに恥じない最後の空戦をお前にも見てほしいんだ」
「何言ってるんすか白岩サン! 自分と少尉は2つしか違わない。まだまだやれる!」
「いや、稲本が俺に引導を渡してくれたようなもんだ。華僑でアイツに撃墜数で負けた時に除隊を決めていた。だが、なんだかやり残したことがあるような気がして暫く留まっていたんだ。お前が言うように俺も今まさに天命を受けたと思う。お前も加賀に来てくれてよかった。俺が飛ぶ姿を見て欲しかったからな」
「……わかりました少尉。なら譲る代わりに勝ってくださいよ!」
「おうよ! 今まで負けたことがない零には負けん!」
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もうこれが最後の飛行でいい。
その思いがあそこまで限界性能を引き出した。
そしてその飛行によって稲本准尉も覚醒。
二人は互いに真の意味で切磋琢磨し、空中ですさまじい鍔迫り合いを見せたわけだ。
きっと稲本准尉は当初は零を喪失できないと少し力を抜いていた。
だが、悪童の舞う姿にどんどん己のリミッターが解除されていき、終盤は二人共に雲を引いて機体の限界を完全に引き出していた。
パワーに余裕がある疾風ですらあんなに綺麗に雲を引く姿を俺は見たことがない。
あの対決は映像に収めたかったほどだ。
未だに雲を引く姿が目に焼きついて離れん。
少尉は終わった後、周囲に向けて"600kmの世界はさすがに武者震いした"――と主張していたが、本来の未来で彼は零や隼に乗ることはなかったそうだ。
だから零や隼に乗ったらどうなるかという話は、戦後本当によく語られていた。
あの大空の侍ですらも興味を抱いていた。
彼が捻り込みを教わった師匠の一人こそ少尉なのである。
稲本准尉も同様の話を後に述懐しているので、俺が見せた捻り込みは教わったばかりの空中機動と思われる。
何しろ4号機には彼と稲本准尉が中心的に乗ったのだから……
その大空の侍も加賀に乗船している。
彼も零と百式双方には大変興味を抱いていたが、天下の浪人と悪童の世紀の対決を見ていた彼は口を開いたまま閉じることさえ出来なかった。
彼の中の何かが変わったとするなら白岩少尉が命を燃やして飛んだ意味があったのだろう。
零には俺流の装甲を施した。
せめて彼が左目の視力を失わないよう守ってくれ。
今できる限界まで零の装甲は高めたはずなんだ。
今の零はP-51とそう変わらないはず。
百式がそれを目指したように零も近づいた。
侍はP-51を最強の陸上機と称したが、今の皇国の機体たちはソレに負けない。
彼は零と百式双方による飛行試験を希望していたため、俺が両方に乗れるよう配慮して欲しいと白岩少尉には伝えてある。
すでに彼の腕は稲本准尉と共に評価されていたため、白岩少尉は俺から何か汲み取ったのか快諾してくれた。
残り1日。
未来のエース達に出来る限りカタパルトに慣れてもらい、横須賀に帰る前までに彼らには存分に飛行して貰う。
年が明ければ零が待っている。
母体となる4号機は現状において完成されている。
量産はすでに始まっているのだろうから半年後には全員乗れる。
海軍の意識改革が進むと同時に彼らには皇国の領海を守って欲しいのだ。
◇
皇暦2599年7月2日。
本日もカタパルトを利用した飛行試験。
すでに問題ない所まできていたので、本日は明日のための最終調整を行う。
あくまで俺達は今日は見守るだけ。
明日からの訓練は加賀の乗員のみでこなして貰わねばならないのだ。
しかも俺は後数日で一旦加賀を去る。
即位式に参加するようにと西条に言いつけられている。
王国には増槽を取り付け、機銃類を全て取り外した九九棺桶……艦爆にて向かう予定だ。
当然キ47を晒すことなどできない。
採用されたばかりで旧式となったこいつにはうってつけの仕事。
これで第三帝国などが「あっはっはっはっ。皇国は未だに固定脚の機体を使っているのか! 聞いたか、あれが新鋭機らしいぞ! なーにが空冷式の速度試験機で600kmだよ!」――などと勘違いしてくれればありがたい。
その時は笑っていればいい。
奴らがユーグで暴れ始めた時、あいつらを駆逐するのは真の新鋭機。
600kmを平気で出してくる零や百式シリーズなのだから。
精々、棺桶などと笑ってればいい。
皇国の本物の翼は背後に影として力を蓄えている。
500kg爆弾を積めるか積めないかの機体を見て笑っていれば、来年には800kg爆弾×2か、250kg爆弾×6という構成で飛来するキ47が現れる。
7.7mm×2という九九艦爆を笑えば、20mm×4に震えることになる。
ホ5は手加減なんぞしてやらないからな……
――飛行試験はすでに昨日から加賀の乗員と交代で行わせていたため、彼らも手馴れてきていた。
また、カタパルト出撃についてはパイロット達も慣れてきた。
最初は怖かったそうで「根性ぉぉぉおお!」――などと叫びながら飛んでいたのだが、今やもうそのような奇声をあげることなく、無言で冷静に落ち着いて飛翔するようになってきている。
射出頻度は2分に1回。
それをほぼ2機同時に行う。
翼の干渉があるために微妙に間隔は開けているが、やろうと思えば同時も可能。
あくまで安全性を考慮してのことだ。
つまりカタパルトは微妙に前後ズレて設置されているわけだが、特に飛翔に問題などなかった。
航空士を除くと加賀は平時の状態に戻り、他の兵卒は訓練などに精を出している。
ただし、解体整備作業には多くの者が駆けつけることになっている。
とにかくこれが大変なんだ。
手先が器用な者は率先して作業に従事してもらっているが、昨日は8割ほど乗員にのみやらせてみたものの作業終了に9時間ほどかかった。
夜を徹しての作業となって途中で疲れて寝てしまったが、翌朝、つまり本日の未明には作業が終わっていた。
作業自体は完璧。
まあ皇国の人間は手先が器用な者が多く、そこに不安はなかった。
解体作業は本日も行う。
本日は午前中に試験を切り上げ、解体整備作業を行い、終了と同時に連合艦隊司令部に伝令を送るのだ。
設置、試験、その他の状況終了とな。
何も無ければ明日には訓練開始。
訓練には赤城のパイロットも参加する。
俺は明後日には急造民間機になった九九艦爆で飛び立たねばならんので、以降の訓練は見守ることが出来ない。
アドリア海の上空は初めて乗る九九艦爆に託すことになった。
その間までに、キ43を整備できるようになるよう、加賀の航空機整備員達を鍛えておかねばな。
◇
日が沈む直前。
カタパルトの整備が終わり、連合艦隊司令部に伝令を送る。
設置は滞りなく進み、明日は当初の予定通りとなる見込みと宮本司令には伝えた。
カタパルトの整備は全て艦内の整備員達によるもの。
朝方の射出も全て艦内の者達によるもの。
一応、メーカーの技術者が補助に入るが、最終的にはこの船の乗員が全て運用できるようにならなければならない。
そこも問題なさそうなので、自信をもって司令部へと無線で伝える。
しかしなぜか司令部は「了解した」――としか言わなかった。
それも、そう述べたのはあちらの無線技術士である。
だが、なぜ一言で済ませたのかは、すぐに理解した。
特に何も考えず艦橋を出ると、長門から小さなボートがこちらに向かってくる姿が見える。
そのボートには宮本司令を含めた連合艦隊司令部の将官達が乗船していた。
しばし待つこと15分程度。
長門より加賀に乗船した宮本司令が甲板に上がってくる。
「信濃君。直接礼をいわせてくれ。私は間に合うと信じて疑わなかったが、君は私が望む以上の仕事をしてくれた。あの空戦は見事だったよ……加賀の航空士の心すら掴むとは。赤城の航空士が指を咥えて新鋭機を羨ましがっていたそうだ。加賀の雰囲気もいい。よくがんばってくれたな」
「こちらこそ、至らぬところも多くあったと思います。申し訳ありません。空戦については少尉と准尉の強き思いによるもので、私は航空機とカタパルトを用意したに過ぎませんから……」
右手を差し出されたものの、立場の違いがあるため頭を下げながら握り返す。
しかし彼はそれでは留まらず、両手を添えた。
「信濃君。よければ即位式の後も是非加賀に戻ってきてくれ。我々はアドリア海にしばらく展開する予定だが、まだまだ君が必要なようだ」
「承知しました。戻ってこれるよう努力します」
「ははは。君は本当に真面目だな。その正直な物言いがいい。戻ってくる頃にはもっと居心地が良くなるよう我々も努力しよう」
宮本司令は抱擁すらしてこちらを労う。
他の司令部に所属の将官達も、去り際に肩をポンポンと叩くなど労ってくれた。
それなりに疲れたが……何とかなったようだ。