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第60話:航空技術者は海の上で格闘する

「総員! 廃棄!」


 集めさせた棒は10本や20本どころではない。


 一体どこにこんなにあったのかと、200本近くにも及ぶ数を甲板に集めさせ、1本残らず兵卒者に捨てさせた。


「いいか! 皆の者ッ! 現時刻をもって加賀における海軍の風習は廃止とする! 追って連合艦隊司令部より正式な通達がなされることだろう!」


 小久保大佐に言わせた言葉は、まさしく海軍のあり方を変えようとするものであった。


 無論俺は本気だ。


 ここまで呼び出した以上、宮本司令には本気でその通達を長門より出していただく。

 他の艦がどうしようが加賀は関係ない。


 加賀は最終的に長門らと共に横須賀に帰還する。

 せめて横須賀に向かう者達だけでも意識改革を促すのだ。


 戦後に至るまで、海軍にはふざけた習慣が多くある。


 例えば入浴を許されたのは尻にアザがある者、即ちこのふざけた棒切れで叩かれた者だけ。


 例えば雨が降ったとする。

 海では貴重な真水は船員の大切な資源。

 雨が降ると船員は帆布やら風呂桶やらを持ち寄って水を集める。

 飲料水にするためだ。


 それを水筒などに詰め込んで、氷砂糖などを入れてかき混ぜて砂糖水を作る。

 貴重な清涼飲料水だ。


 これすらも尻にアザのある者しか行えない。

 海軍にやさしくされた者は、こそこそと裏においやられる。


 すなわち、アザの無い者は同格の者に虐げられる。

 この負の連鎖がヤクチアに大変気に入られる。


 ウラジミールから"すばらしい"とばかりに評価される。

 陸軍が壊滅した後、ヤクチアに蹂躙された皇国地域の新しい軍のあり方として固定化される。


 そんな事になる前に、大戦へと至る前に意識改革を促す。


 本来の未来においても条約派などを中心に、必死で改革を試みようとした。


 2年で風紀の乱れは大分解消されたと聞くが、今から変える。

 もう時間もない。


 今変えねば未来永劫海軍は変わならい。


 例え南郷大将に呪われるとされてもやる。


 もし今日寝た後に南郷大将が出てきて襲いかかってきたら、未来の皇国を賭けて全力で挑む。

 躊躇などない。


 二・二六事件の陸軍と同じだ。

 時に理由無くして引き金を引けるが陸軍。


 西条の暗殺を考えても引き金を思うように引けなかった者達とは違う。


 数々の日記から受け取った怨嗟は俺の心の中に刻まれている。

 誰かが変えねばならない。

 誰かが。


 誰もやらぬなら俺がやる。

 俺がやらねばこの者達はやめぬ。


 加賀の甲板上には異様なまでの光景が広がっていた。


 その姿を遠くより確認していたのか、艦内には赤城などから状況確認の通信が送られてきたようだが、予め艦長には誤魔化せと伝えているので問題は無いだろう。


 しかしどうやら甲板の光景については長門にまで伝わったのか、俺は加賀の艦橋に呼び出された。


 ◇


「信濃君。昨夜はよく眠れたか?」

「宮本司令。おはようございます」

「どうかな加賀は」

「正直に申し上げたほうがよろしいですか。それとも、私なりの伝え方でお伝えしたほうがよろしいですか」

「はっはっはっはっ。その物言いが全てを表しているな。遠くより見ていたが、君の事がより好きになった。ふふふ……近くに小久保艦長はいるか?」

「おりますよ」

「では、改めて連合艦隊司令長官として伝えたいことがあってね。傍に来るよう伝えてくれ」


 すでに萎縮しきっていた艦長は重い足取りで無線機の近くへと歩み寄った。

 拡声器により、直接の伝令を受けるようだ。


「小久保艦長。しばらくの間カタパルトの件を含め信濃君の意見を仰ぎたまえ。彼は陸軍所属ではあるが、統合参謀本部総長補佐でもある。我々とそう立場が変わらん。彼の言葉は私や井下軍令部総長の言葉だと思って受け取ってほしい。7月3日の射出訓練は予定通り行う。わかったかね?」

「は……はっ!」

「それと何やら妙な口聞きが加賀の上級士官よりあったようだが、現時刻をもって空母加賀において私的制裁の一切を禁ずる。海軍の伝統とばかりに、今後は合同作戦も行う陸軍の者達に恥を晒す気か? 信濃君を呼んだ理由は今後の我が海軍のありようを確認するためでもあった。いい機会だ。加賀の状況が好転するならば、統合参謀本部でも大艦の運用を改めよう。それは小久保、貴様の活躍次第だぞ」

「承知致しましたッ!」


 俺が宮本司令に一言言いたいのは、その言葉を当初よりぶつけていれば状況が変わったのではないかということだ。


 俺を呼び寄せる必要性があったのかがわからない。


 まあ予想はできなくもない。

 小久保大佐含めて多くの者があれこれ理由を付けて遅らせたのだろう。


 内偵というほどではないが、それを長門に伝える伝令役が加賀にはいるようだな。


 口聞きというのは、上級士官が黙っちゃおれんと連合艦隊司令部に何か伝えたのか、伝令役が俺の話を伝えたのかどちらかが気になるところだが……


 宮本司令はなんだかんだで連合艦隊司令部から早々に移動できない。


 伝令役がいたところで制御はできぬであろうから、彼らはそこにかこつけてサボタージュを起こしたのだろう。


 だがそんなことは俺が許さん。

 未来を切り開くためには鬼になる。


 どうやら鬼気迫るこちらに加賀の乗員も従わざるを得ない様子だ。

 どうせ間に合わないと思っているようだが甘い。


 陸軍の厳しさは、こういう時に暴力に頼らない無言の圧力があることを知らないようだな。


 やるといったらやる。

 それをこれから教えてやろう。


 自らのサボタージュのツケを払うがいい。


「艦長。これより加賀は24時間体制で7月2日までにカタパルトを設置します。甲板に海軍の技師、下士官、その他兵卒を全て集めてください。砲術長など全てです。今すぐ伝令をお願い致します」


 もはやどちらが艦長なのかわからないが、あくまで艦長命令とするため、彼に指示を与える立場に留まらせる。


 そして俺は従わねば甲板から突き落とす覚悟で鬼の形相を保ち、ようやく問題の一端を担う技師と顔合わせすることとなった。


 時刻は10時頃と思われる。


 まだ日は昇りきっていない。


 ◇


「だから、甲板に穴を開けるならまだしも、射出装置の設置位置は格納庫になるのだとしたら、不可能だと言っているんだ!」

「何が不可能なのか教えていただきたいな」

「この設計図では滑車を格納庫上に設置、格納庫上の天板に穴を開けるのだぞ。雨水も波も全部格納庫に入ってくる。第一格納庫を浸水させつるもりか!」

「ある程度の浸水は構造物を新たに付け加えて防ぎ、多少の浸水は覚悟する……そのつもりだが?」

「近くにはエレベーターもある。この部位が浸水したらまるで攻撃を受けたような状態になる。電気系統が全てショートして破損してしまいかねない。それは無理な話だと言っているんだ!」


 加賀に油圧式カタパルトを設置する場合、どうしても問題になることがある。

 第一エレベーターの位置が最悪すぎる。


 甲板の長さを前方に8mも伸ばした最大の原因こそこれであった。


 第一格納庫の船首側には第一エレベーターがあり、技師はこれによって格納庫内にカタパルトを設置すると大きな穴をいくつも開ける必要性があって外から海水や雨水が浸入。


 第一格納庫が浸水することを嫌っていた。


 カタパルト自体は格納庫に固定せねばならないから、格納庫の床にも穴を開けねばならない。


 そうなるとさらに下の第二格納庫にまで水が浸水する可能性があった。


 加賀は改装空母で元よりかなり無理がある設計。

 浸水した場合の処理が上手く行かないのが気に入らないのであろう。


 といっても、俺はこの密閉型格納庫を欠陥品だと思っていて、実は宮本司令らに"一隻でもいいから密閉型でない空母を用意してほしい"――などとは陸軍を通して統合参謀本部にて提案しているのだがな。


 実はこれには実際に試してみたいとする者達もおり、商船改造小型空母を新たに導入する場合には実際やってみてどうなのかを試験する予定もある。


 この頃の空母はまだ発展途上。

 戦場での実戦経験がない。


 密閉型は最終的に一般的な仕様となるが、いかんせん改装空母の加賀はダメージコントロールの手法が最悪。


 そう簡単に沈んで貰っては困るのでどうにかしたい。


 だから俺はカタパルトにかこつけて穴を開けてやろうかと考えていたが、このまま彼らの感情を逆なでしても意味ないか?


 いや、若松准尉などから情報収集を試みた限り、どうやらこいつらが茅場の技師などに暴力を働いたというから、私的制裁禁止とはいえ、俺がこのまま引かずに押し通してもいいのだが……


 他の方法も模索したほうが時間を浪費せずにすむか。

 こいつらが喚くのも牛歩戦術の一種かもしれんしな。


 かといってアキュムレーターを外に配置することは出来ないし、おまけに例えば船首付近の見張り台にアキュムレーターを設置しても滑車を配置するための構造的に甲板までの距離が高く、遠すぎるので上手く設置できない。


 ある意味でこれはカタパルト設置に赤城を選ばなかったことが、最大の失敗と言えた。


 しかも甲板の見張り台は脆弱で、高さをかさ増しするにはそれなりの改装工事が必要。


 急造仕様には無理がある。

 おまけに4本の支柱があるとはいえ、甲板自体も薄い。


 例えば甲板の真下に仮設小屋のようなものを作ってうえから吊るす構造とし、その中にカタパルト制御装置を配置するというのも、支柱は頑丈だが甲板の鉄板が構造的に弱く不可能という。


 ……そもそもがあらゆる部分で無茶が生ずる話があったのである。


 造船技師達はそれを理由に拒否していたが、そこに便乗したのが航空機不要論を掲げる艦隊派の人間。


 艦長も含めてそういう人選となっているのは意味不明と言えるが、おそらく宮本司令はそれを見せれば考えも変わるとでも思ったのだろう。


 実際はそうさせないと動くのは見えていたはずだなのが……


 もしかしたら宮本司令は俺がきたら艦内の環境も変わらざるを得ないから、最初から呼び寄せるつもりだったのかもしれない。


 あまり時間が無いな。

 現状を打破する方法は1つしかない。


 油圧カタパルトはとにかく汚れる。

 外気にふれさせたくない。


 それなりに密閉された空間が必要不可欠。


 格納庫にそれを用意できぬというならこうする。


「なら4本ある支柱にツリーハウスのごとく急造のカタパルト小屋を作る。この支柱は敵の攻撃を想定して必要以上に補強され、今後の改装のためなのかボルト穴も多数設けられている。この支柱4本を使い、船首側に油圧カタパルトを設置。甲板には予定通り滑車のための穴は設けるが、滑車の真下には箱状のボックスを作り、シーリングなどを十分に行って浸水を防ぐ構造とする。少なくともこれで穴を開ける部位は4箇所程度で、小さな穴で済むようになる。これでいいな?」


 油圧で得た力をそのまま変換するため、滑車位置はどうしても限定的になる油圧カタパルトであったが、高さこそ問題となるも、それ以外についてはさほど問題とならない。


 ようは滑車が動いて彫られた溝の間をワイヤーが高速てい進する構造が作れればいい。


 加賀には予め修理やら何やらのために大量の鋼板が艦内に保管されている。

 これを使い、10日内に突貫工事にて臨時の小屋を船首に作り、カタパルト装置を組み込むのだ。


 この小屋との移動は適当な梯子を用いて、船首見張り台より移動する。


「ともかく、7月2日までに間に合わせねば私の首はまだしも貴方方の首は飛ぶ。貴方達は連合艦隊司令部に泥を塗った立場として永久に蔑まれる事になる。この構造以上の妥協はしません。甲板にただ穴を開けるよりよほど重労働となるが、それでもやりますか?」

「む、むぅ」

「時間がない。今この場で10分以内で決めてください」


 カチッといつも持ち運んでいるストップウォッチのスイッチを押す。


 これが陸軍式だ。

 相手に迷う時間など与えん。

 海軍とは違う。


 無言の圧力が彼らを襲うが、単なる暴力よりよほど効く。


「わ、わかった。わかりました……しかし人手が……」

「必要だというならば、最悪は艦長にすら手伝って貰う。それでも足りぬなら赤城の船員も呼び寄せる。まだ足りないというなら最悪は長門含めた全艦の技師も含めて全て呼び寄せる。無論、援軍を呼び寄せる度に貴方方は白い目で見られる。本来ならば30日近くの猶予があったにも関わらず20日もサボったツケは少なくとも艦内全体で払ってもらおう。これは勅命である。当然、我々も遊んでいるような真似はしない――」


 ――こうして、かつて皇国を統一したとされる秀吉の一夜城以来の世紀の突貫工事が始まった。


 ◇


「うらっしゃー、うぉーい!」

「わっしゃい わっしゃい!」

「おぁらああ! てやらぁあ!」


 突貫工事が開始された。


 まずはじめたのは艦内にある修理用の鋼板を集め、艦内の旋盤などの工具を用いてボルト類も作る。

 穴はあっても土台を固定するボルトがない。


 そちらの製造は他の技術者に任せ、俺は2時間で急造小屋の簡易設計図を作成。


 土台となる鋼板を他の者らと共に運んだ。


 率先して200kgもある鋼板や鋼材を運ぶのは、こちらの覚悟を見せるためだ。


 俺は海軍の下士官のように黙って様子を見るようなことはしない。

 技術少佐とはそういう者達だ。


 運ぶと嫌な思い出が蘇ってくる。


 最後まで皇国の存続を願い、2605年の8月に隼を力いっぱい運び込んでいたあの日を。

 まだ戦ってすらいないのに強烈にフラッシュバックした。


 その姿を見た上級士官の中にはフンドシ一丁で手伝うような者もいた。

 彼らに指示は出していないが、こちらの覚悟を理解したのだろう。


 残念ながら艦首の支柱には梯子はあってもクレーンはない。

 重い鋼板や鋼材は、全てマンパワーで持ち上げていくしかない。

 この時代に移動式クレーンなどない。

 全てが人の力にかかっている。


 艦長は俺に対し、「可能な限り援軍は呼ばない。私としては即座に呼ぶことはできない」――と伝えてきていた。


 まあ理解できる。

 そんなことをしたら、艦長の首は飛ぶ。


 だが俺は間に合わないならすぐさま連合艦隊司令部に要求すると伝えた。

 宮本司令は最後の手段として呼ぶなら理解してくれることだろう。


 俺もあえて今は呼ばないが、昼夜を徹しても尚出来ぬというならば、致し方ないことなのだ。


 作業は続く。


 まずは艦首の見張り台に、作業用の急造仕様の高台を作った。

 これがないと土台をくみ上げるための作業が捗らない。


 俺はとりあえず普段なにをやっているのかを兵卒者に聞き、部隊単位で作業を分担。


 みんな似たような坊主頭で見分けが付かないため、色分けした手ぬぐいを身につけてもらい、効率的に作業を分担することとした。


 鋼材を運ぶだけで数時間が経過。

 艦内では細かい部品の製造が続く中、一端小休止して食事を採る。


 ここで俺はあえて兵卒者向けの食堂へと向かった。


 メーカーの技術者がこちらで食べるというが、私的制裁が禁止されたとはいえ、治安が改善されたわけではない。


 窃盗も横行する加賀の風紀を正す。

 近いうちに風紀委員でも組織するか。


 とりあえず現時点においては信頼できそうな若松准尉ら、横須賀の下士官の航空士らを集め、割と暇な彼らに風紀を正すための手伝いをしてもらうことにした。


 彼らは重労働に参加してしまうといざ航空機を飛ばす際に支障が出る。


 体力を温存してもらうため、航空隊の上級士官が同階級であることもあって、俺が強引に命令権を強奪して指示を出す。


 窃盗や賭博などの行為を禁止するが、その上では注意に留め、私的制裁は禁じた。


 ただし、重罪と思われる場合は降格処分も検討させることとし、軍の規律でもって裁くことを警告させた上で注意させることを徹底。


 横須賀のパイロットは割と素直で実直。

 おまけに鋭い目を持っているため、こういう仕事にはうってつけ。


 食堂や売店など、規律違反行為が横行する場所を中心に巡回させる。


 巡回はほぼ24時間単位で行い、特にキ43、キ47がある格納庫も重点的に巡回してもらった。


 若松准尉は俺より7つも年上の男ではあるのだが、俺の言葉に真面目に従ってくれるのはありがたい。


 そこにはキ47への並々ならぬ思いと、加賀への乗艦を果たさせてくれた恩義というのが関係しているようだが、それでもありがたいものなのだ。


 航空士を中心とした巡回隊が組織されたことで、加賀の船内は少しずつ落ち着きを取り戻す。


 兵卒者はほとんどの訓練を返上してカタパルトの建造にあたった。


 俺は睡眠は確保しつつ必要な伝令を出し、茅場や芝浦電気の者達と話し合って3日以内に急造のカタパルト収納庫を設置する事に決めた。


 ◇


 皇暦2599年6月25日。


 前日には土台が完成し、土台の強度を調べた後に壁、そして天井を形成。


 ワイヤーを通すための穴も隙間も設けてある。


 艦内にあった鋼板がSt52であったことを発見したため、壁は溶接で接合することに決めた。

 その方が工期が短縮できる。


 鋲打ちでは間に合わない。


「陸軍の技官というのは溶接もこなすのものなのですなあ」

「綺麗だ……」


 こんな所でD51にGPCSを装着した経験や、自動車修理の経験などが活きるとは。


 次第に出来上がってくる様子に上級士官は唾を飲んでいたが、艦橋にいる艦長らはあえてこちらの動きを無視して航海を継続していた。


 構うものか。


 兵卒者の8割は現在この作業に従事し、全ての訓練を返上しての参加。


 アキュムレーターなどの機器を運び込む作業を行わせる傍ら、溶接作業が出来る者が俺含めて限られた者達しかいないため、こちらは急いで溶接機器を用いて壁と天井を作る。


 重量計算もバッチリだが、かなり頑丈な小屋が出来上がる予定だ。


 St52が艦内にあったことで、滑車のために穴を開ける部位の浸水を防ぐための箱などは溶接で接合したものを用いることにした。


 L字の構造を設けて、鍔のついた帽子をひっくり返したような形状に整える。

 そして上からかぶせるようにして甲板に装着するのだ。


 こうすればボルト止めの必要性はないばかりか、水が溜まったら取り外して捨てればいい。

 誰がSt52を持ち込んだかは知らないが助かった。


 日付が変わる頃には小屋が出来上がっているはずだ。


 ◇


 皇暦2599年6月26日明け方。


 いよいよスエズへと近づくために北西へと進路をとる中、完成した小屋の中で気絶していた俺は目を覚ます。


「信濃技官。アキュムレーターは無事でした。特に問題はなさそうです」

「そうですか……良かった」


 仮組みでアキュムレーターの動作試験を行った茅場の技術者は胸をなでおろす。


 これが死んでいると全てが無駄になる。

 後はシリンダーなどを運び込んで、この小屋の中にカタパルトを設置しよう。


 カタパルトは二基設置。

 上部の溝と水平によるよう位置を調節しなければならない。


 この位置決めに割と苦労するも、どうにか印を付ける事に成功。


 残り後6日。

 出来れば数回飛ばして細かい調整がしたい。


 よって完成は4日以内とすることを勝手に決定する。

 その上で巡回隊にこう伝えた。


「巡回隊の皆さん。皆さんには射出試験のため、全ての人間は1回は飛んで貰います。ここには30名ほどおりますが、九六艦戦、新鋭の九九艦爆、十二試艦戦。キ43、キ47。横須賀からこられた皆さんは聞いたところによると全員が最低限30回以上の着艦訓練を経験したとのことなので、キ43などを含めた全ての機体の人選は任せます。キ47は陸上機ゆえ着艦がとても難しい機体で注意が必要ですが、2機あるので経験したい方は名乗り出てください。希望に沿うように努力します」

「おおおぉぉ!」

「やった! 新鋭機に乗れるぞ!」


 無論、アメとムチである。

 こうやって巡回隊の士気を底上げし、仕事能率をあげるのだ。


「無論、普段の仕事ぶりを評価して調整しますので、一層仕事に励んでください」


 巡回隊の仮集合場所から離れた際、黄色い声が中より漏れていた。


 いいか海軍。

 人を扱うとはな、こうやって持ち上げて仕事に従事させるのだ。


 これが陸軍式のやり方だ。

 暴力と恐怖よりもよほど効率がいいことを教えてやる。


 艦橋に篭っている連中め。

 見てろよ……俺は絶対に成し遂げてみせるからな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空母で色分けした手拭いで作業分担… レインボーギャングへの伏線かな?
[一言] 撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ。
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