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航空エンジニアのやり直し ~航空技術者は二度目に引き起こされた大戦から祖国を守り抜く~  作者: 御代出 実葉


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第57話:航空技術者は最新鋭のフラッグシップ旅客機を前に狂喜する

 皇暦2599年6月15日。


 キ51の試作1号機がロールアウト。


 空飛ぶ戦車の異名を持つこの機体はカタログスペックどおりの性能を示したのだが……


 ロールアウトした1号機を見た俺は、四菱側からの意見もあってすぐさまこいつの派生機を考える事にした。


 当初俺は通常通りの設計でこいつをこさえた。


 おかげで胴体前部こそ鋼を採用しているが、胴体後部は割とふんだんにアルミ合金を使っている。


 それでもコックピットより後ろの尾翼と胴体後部、そして主翼の一部のみだ。


 主翼の主桁と前部分などは鋼で構成されており、この鋼が主翼前部の燃料タンクの装甲部分となっている。


 これが四菱の技術者も俺も気に入らなくなってきた。


 彼らとも話し合ったのだが、メタライトを使った機体にすることでもっとコストダウンできるのではないかと考え始めているのだ。


 性能はダウンしない。

 むしろもっと軽量化するので失速特性などが良くなる。


 後部を全てメタライトに変更し、襲撃機としてパイロットを保護しつつ機体を使い捨てにするという、割と重要な使い方ができるようにしたい。


 メタライトは先に開発を命じられた中型滑空機ク1で採用される見込みだが、名前すら付いていないちょっとしたグライダーを作って採用してみたところ、グライダーで飛んだパイロットから"着陸脚はいらないのでは?"――と言われるほど、すさまじい頑丈さを示した。


 小型グライダーなら地面を滑る胴体着陸で十分だろうというのだ。

 胴体下部に金属板を取り付ければいいだろうと。


 オールメタライトで構成された機体はFRPや炭素複合繊維にこそ負けるものの、この時代において比類なき複合素材としてその性能を示したのである。


 九九式襲撃機自体はパイロット達からも失速特性以外は案外乗りやすいと評価を受けていた。

 重さは感じるが運動性が思った以上にあるという。


 まあ、この辺りは尾翼処理がきちんとしていれば自然とそうなる。

 尾翼は馬鹿に出来ないんだ。


 メタライトに変更することでおよそ130kgほど軽量化できることが判明したが、試作2号機はメタライトを採用することで大幅に構造部材を減らし、ほぼオールモノコック構造と言えるような航空機となる予定。


 開発開始時にメタライトが間に合わなかったのが残念だが、百式襲撃機となる予定のこいつは一番重要なのは胴体前半分なので、胴体後部の設計や主翼の設計を弄ってもそこまで問題とならない。


 主翼特性も変更せず、あくまで素材変更にとどめ、素材の変化による構造変更が生じるのみ。


 試作2号機はすでに胴体前半部分が完成していたため、これに合わせて主桁の構造などを変更した上で二機作ってテストしてみることにした。


 上層部はそこまでコストに拘らなくても良いので量産化を急いで欲しいと伝えてきたが、最悪は1号機仕様を一型、2号機仕様を二型とし、1号機を少数量産した上で途中で切り替えることを検討する。


 その辺のさじ加減については陸軍任せ。

 陸軍の要求以上のものを作るというのが技術者エンジニアの仕事。


 陸軍としては華僑の問題が片付いている以上、当面の間はその必要性を感じないと主張していたが、わかってないな。


 ユーグが火の海になったら、こいつが共和国領とかで奮戦することになる。

 Ju-87相手に立ち回るのはこいつだ。


 きっと応戦する国家は、この機体を見て皇国へ敬服の念を抱くことになる。


 地上スレスレを飛ぶのはこいつ。

 高空を飛んでいる百式偵や百式攻はほとんど姿が見えない。

 こいつが前線の戦車をなぎ払う。


 もっとも士気を高める空飛ぶ地上の英雄だ。


 Ju-87やIL-2が飛来すると前線の兵士が高揚したといわれるように、その役目を果たしてもらう。


 そしてこのキ51についてはティーガーが登場してきた場合にも備え、あらかじめガンポッド方式として大口径の砲火器を搭載できるよう、簡単に改修できるようにしているが……47mmを装備するのか37mmを装備するのかはその際の上層部の意向に沿うようにしよう。


 皇国に空の魔王がいるかどうかは知らないが、空の魔王と戦う事になるやもしれん。


 Ju-87 G-2と戦う事になるならもうちょっと機体を煮詰めた方がいいかもしれないが、その頃にはハ43も強化されているはず。


 そんなことを考えながらキ51の改修プランについて四菱とも検討していると、立川を訪れたとある陸軍将校からは"下部に九九式七糎半戦車砲"を搭載できないかと割と真剣なまなざしでもって訴えられた。


 いくら頑丈で空飛ぶ戦車とはいえ、さすがに反動で失速して墜落してしまう。

 航空機に搭載できる大口径砲は150kg程度。


 こいつならホ203、ホ204を装備することは間違いなく可能だが、ホ402となると怪しい。


 そんなに大型機ではないので重量面ではどうにかなっても射撃時の安定性を考えると怖すぎる。

 砲身その他で200kgを軽くオーバーする九九式七糎半戦車砲など搭載できない。


 その陸軍将校に対しては40mm相当なら可能ですと言っておいたが、それでもその話に目を輝かせていた。


 戦車連隊に所属する彼にとっては新鋭戦車の開発が滞っている所もあり、列強の新鋭戦車に対抗するためには襲撃機の活躍を見込んでいるらしい。


 まあ、わかる。


 チハは怖い……チハが活躍できるのは緒戦の間だけだ。


 しかし、今後も改修プランや派生機が登場するなら、なんだかとんでもないゲテモノになってしまうキ51が見える。


 キ51は本来の未来でも汎用性が高くて活躍したというが、魚雷は搭載できるようにしてあるんだよなあ……


 本来のキ51もそうだったから。

 こいつが潜水艦と戦う未来がない方がいいんだが……


 だが訪れた将校達は、各々に70mm対戦車砲を搭載しようだとかいろいろ語り合っている。


 立川は即位式と万博、五輪とイベント目白通しの件もあってか、そんなジョークのような軽い話題を言い合える環境となっていた。


 本来の未来ではもはや開戦已む無しの状況で、春先に暢気に流しそうめんなど食べながら試作機が飛ぶ姿を観察しにくる余裕などない。


 ノモンハン事件は解決しておらず、あの地帯での小競り合いは続いているのでもっと気を引き締めてもらいたいのだが……


 皇国内にいる者たちにとっては対岸の火事のようなものなのか。


 まあそれも直に変わるはずさ。

 五輪の前後で否応無しに戦いに出向くことになる。

 俺もなるべく前線で活動したい所だ。


 前線の意見を聞かねば、よりよい航空機のプランは練られないだろうしな。


 ◇


 皇暦2599年6月18日。


 307の受け渡しの前倒をメーカーが快諾し、すでに完成してテスト飛行も終わっている1機だけ即位式参加を見越して先に受け渡されることとなった。


 すでに改装の終わった307は美しい銀色を纏い、羽田飛行場に到着。


 さすがフラッグシップ機だけあってDC-3とは比較にならない造りだ。

 職人が丹念に仕上げたボディはまるで鏡のように太陽光を反射している。


 当日は事前にお召し飛行機となることが発表されたことで、大勢の新聞社などがつめ掛けてごった返し。


 俺が307と初めて対面したのは一連のマスコミ対応が終わった後、羽田の整備ハンガー内に入れられてからだった。


 周囲には人がなく、暗がりの羽田にライトが照らされた307を見て思わず笑いがこみあげて止まらなくなる。


 きっと今この場を見られたら発狂したのだと勘違いされそうだ。

 いや、俺は本当に狂喜しているかもしれない。


 なにしろ本来ならば絶対に手に入らなかった代物だからだ。


 Model 307。

 西条にB-17が手に入らないならばどうしても1機手に入れて欲しいと、そう頼んで手に入れてもらったこいつには、表向きの顔と裏の顔の2つがある。


 なにしろこいつこそ、B-29の母体となったのだからな。


 幼子の様な愛嬌のある顔つきと報道されたこの機体こそ、もっとも皇国を苦しめたB-29の父親だ。

 それも直系のだ。


 時は皇暦2590年代。

 世界各国で伸びる無着陸弾道飛行の記録。


 これによって彼らは2つの航空機を提唱しはじめる。


 1つがキ47で形となった万能双発機論と、もう1つが長島大臣が政治家となった理由である戦略爆撃機論である。


 世界の地図をじーーーっとよく眺めてみると、ある事に気づく。


 各国の領有地を合わせた戦略拠点から、仮想敵国とも言える首都までの距離が大体8000km以内であること。


 この間を往復するのか、そのまま爆撃して通過し別の地点に着陸するのか……


 どちらとしても8000kmというのが1つの指標となった。


 各国では"夢物語だ"としながらも長長距離飛行爆撃機の開発が始まるも、結局本当の意味で誕生させられたのはNUPのB-29が初と言える。


 しかしB-29には実はその前段階の試作機として計画された存在がある。

 Model 341だ。


 皇暦2600年1月29日。


 高性能化する諸外国の爆撃機について恐れを抱きつつあったNUPは、自国のメーカーに先進的な戦略爆撃機の開発を提案。


 B-17の航続距離の問題をどうにかしたかったNUPは、B-17を超える新たな空の要塞の姿を模索する。


 NUPが提示した性能は当時のエンジン性能の実情に見合ったもので、ダブルワスプ……つまりハ43と同程度の性能のエンジンを4または6基搭載。


 それでいて8500km程度の航続距離を持ち、1000kgの爆弾を搭載出来、B-17最大の不満ポイントとされた与圧室を備え、最大速度約650kmを目指した大型機をこさえようとした。


 おっと、まるで俺が再設計したキ68だな。

 まあ、当然この案には俺も影響を受けているからな。


 各メーカーが提案した内容はそれなりだったものの、どこの国も600km未満の速度を提示し、650kmなど不可能だと主張した。


 その中でただ1つ、650kmを可能としたメーカーがいる。

 それこそがB-29とModel 307を生んだメーカーである。


 では341とはどういう存在だったのかというと、307の全長と全幅を増やし、新たなエンジンを搭載して307からパーツを4割ほど共有した機体を案として提出。


 しかもNUP軍部の要求に真っ先に提出し、可能だと言い張った。


 その機体は307と同じく突起類が一切無く、後部機銃1つしか防御兵装がなく、可能な限り軽量化し、小さな爆弾倉を備えた機体。


 コックピットと後部スペースの間は筒状の通路で接続され、この通路の真下は爆弾しかない。


 そう、まさに軍用機B-17を旅客機にした307を再び軍用機にするというものだった。


 ただ、試作中のダブルワスプではエンジン出力不足であることが判明。

 さらなるエンジンの開発をメーカーに促しつつも開発が継続。


 そして誕生した2000馬力級のR3350を搭載することとなり、積載量も大幅に増やされて産声を上げるのがB-29だ。


 そのB-29に採用されている与圧室の構造は、Model 307の与圧キャビンを半分に割ったような構造となっていて、307が手に入れば、本気で皇国で大型戦略爆撃機が作れる可能性がある。


 最悪はNUPから与圧室用の技術をどうにか入手する他ないのだが、潜水艦建造に関わる山崎と四菱なら十分与圧室について解析できることだろう。


 富嶽へとまた一歩近づいたわけだ。


 まあ、そういった使い方ができなかったとしても、この307は未来の旅客機の標準となる存在だ。

 このメーカーが未来で作る777は、外観が307に似たことをよく指摘されていた。

 機械が判断した理想像がなぜか似たのだ。


 そしてその理由は307の力学的データが非常にすばらしいものであり、大いに参考にされていたからだとされる。


 それまで冒険しがちだったこのメーカーに対し、コンピューターが突きつけた結論は旅客機のスタンダードを作ろうとして誕生させた307のアルゴリズム進化系だったのである。


 B-17のパーツも多く共有しているし手に入れて損はない。


 今回の陛下の外遊には俺もこれに同乗して移動する予定だ。


 すでに艦隊は外洋航海に出てしまったが、久々に与圧室のあるまともな航空機に乗れそうで今から期待している。


 今のところ、試運転で乗ったキ33など、古臭い航空機ばかりで少々疲れていたし久々にゆっくりさせてもらおう。


 頼むから墜落なんてしてくれるなよ。


 運行は航空網を絶賛拡大中の半民半官企業の皇国航空である。


 307はその後もこちらでフラッグシップ機として運用予定だが、この時代ではエア・ガールなんて呼ばれたキャビンアテンダントも同乗する立派な旅客運用がされる予定。


 ユーグへの就航はずっと計画されていたが、初となる試み。


 どうやら実際に飛ぶ前に試験飛行をするらしい。

 まあ飛んで現在地を見失っただとか洒落にならんしな。


 割とドタバタしたスケジュールだが、陛下は2日前にブタペストに到着する。

 まあ旅客機といってもパイロットは陸軍上がり。


 また、海外系の航空機の操縦に長けた藤井少佐が同乗し、航空士として補助する。


 なんだかんだ彼が一番長距離運用では最も信頼できるパイロットなのは上層部も把握していて、この計画が発表されてからすぐさま白羽の矢がたった。


 キ47の長距離飛行試験はこれに関連するものでもある。

 3000km以上の長距離移動の経験は彼もまだなかったからな。


 俺も当日が楽しみだ。

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