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第48話:航空技術者は世界大会と万博を開くことを会議で提案される1

 長時間に渡る会議によって5ヵ国の共通認識が構築されていく。


 ここでの情報交換によって、なぜムッソリーニがこちら側についたのかが判明した。


 ムッソリーニは当初こそエーストライヒの併合を画策。

 そのための布石として、闘牛の国で発生した内戦を支援した。


 これは皇暦2595年頃~2598年頃の話で、特にこの歴史の流れは変わっていない。


 しかし元来なら一連の流れにおいて構築されるはずだった第三帝国との関係が構築できなかったのである。


 彼はエーストライヒの併合において当初は第三帝国と対立する。

 ここまでは俺の予言通り。


 ここから互いに国際社会的に孤立を深める中でムッソリーニはこの併合を最終的に諦め、アペニンと第三帝国による協調路線をとることになっていたはずだった。


 "連邦民主共和国への不干渉を理由に、エーストライヒの併合を諦める"。


 これが第三帝国とアペニンに結ばれるはずだった秘密協定である。

 しかし第三帝国はここで連邦民主共和国への不干渉を認めなかったのである。


 背後にヤクチアがいる。


 紅海とスエズという戦略拠点を手に入れ、太平洋に至るまでの海路を構築しようとしている。


 ムッソリーニは直感でそれに気づき、接近を試みるチェンバレン側になびいたのである。


 無論、スエズ運河と紅海がヤクチアサイドの手に落ちるのは、チェンバレンにも、なんとしてでも防ぎたいものであった。


 チェンバレンが要求したのは、第一次世界大戦で本来は認めていたはずのシュチパリアの併合を認める代わりに、連邦民主共和国の独立を容認すること。


 ただし、紅海周辺地域における絶対安全性の確保をどうしても諦められないムッソリーニに対し、連邦民主共和国を含めた周辺各国との相互不可侵協定とスエズ運河の絶対中立性を担保し、共和国も追認させるという提案を出す。


 その案で妥協したムッソリーニは連邦民主共和国から手を引いたのである。


 彼が最も怖いのは、サカルトヴェッロ地域の油田地帯という、豊富な資源を活用できるヤクチアが黒海から攻め込んできて第三帝国と挟撃されるという最悪のストーリー。


 本来ならば第三帝国と戦うはずのヤクチアはこの周辺地域にて陸海空による激戦が繰り広げられるわけだが……


 もし仮にヤクチアと第三帝国が手を取り合っていた場合、ここから二国に攻められると全くもってどうしようもなくなる。


 その直感は見事に的中しており、MI6からもたらされた情報によりヤクチアと第三帝国の接近を確認したムッソリーニは"このまま滅びの道を辿るぐらいならば、融和政策を掲げる王立国家との奇跡の雪解けを行い、ユーグ全体における反共主義連合体を作ったほうがマシだ"――という結論に達する。


 まだ野心は失っていなかったが、連邦民主共和国の統治はまるで上手くいっておらず、このまま二兎を追ってシュチパリアを失うよりかは、とりあえずスエズ運河と紅海周辺での防衛ラインの構築の方が最善であるのは間違いなく……


 また王立国家としても、対ヤクチアを考えればここで押さえ込まねば、王立国家自体が四方向から攻め落とされかねないのでムッソリーニとの同調は必要だったのだ。


 しかし不思議なことだが、一連の話はムッソリーニ本人ではなく、共に来訪された外交官の口によってまるで第三者がその光景を見ているがごとく語られた。


 ムッソリーニは何かを警戒している様子で口数は少ない。


 まるで数々の現場を遠くから見ていただけに過ぎない立場のように語るせいで、ムッソリーニの意思すら曇ったが……



 筆談などを駆使して会話をしようとする姿から、スパイか何かを警戒している様子であることがわかった。


 慎重な男とは聞いていたが……徹底しているな。


 スエズを守り抜くというのは、東亜三国にとっても非常に重要なこと。

 彼らは極東だけでなくここからも攻めてくる。


 秘密防共協定においてはスエズ運河の三国の自由利用を認め、アドリア海、地中海といった海域での軍艦による自由航行を認めつつ、スエズ海、エーゲ海、地中海、アドリア海の各海域においてはヤクチア、第三帝国の勢力が一切及ばないようにするという防共協定を東亜三国に提案してきたのであった。


 元来、皇国はスエズの利用が上手くできなかったので、ケープタウンを経由してでしかユーグ地域に乗り入れることが出来なかった。


 実際、アキュムレーターに関してはなるべく急ぎたかったのと、ヤクチアや第三帝国の目を逃れるためにパナマからこちらへ移動してきたほどだ。


 そのほうが早かったからである。


 もっと早くにその提案が欲しかったが、今後の技術交流においては最短距離で物資が届くようになるのは皇国にとって優位となる。


 また、これによって地中海からの行動を容認されただけでなく、対ヤクチアとの戦闘後にサカルトヴェッロにおける油田地域。


 王立国家が戦闘後の報酬として東亜に示したのは、この油田地域の採掘権の大半を東亜三国に譲るとのことだった。


 中東での採掘で十分であった王立国家に、サカルトヴェッロの油田はさほど魅力的ではなかった。


 質も悪いし、量も圧倒的というほどでもない。

 だが、資源に限りがある東亜においてはとにかく欲しいもの。


 秘密協定がチャーチルの政権となっても守られるかは不透明であったものの、俺は会議の休憩中に、チャーチルは守らざるを得ないと西条に進言した。


 なぜなら、第三帝国から攻められて皇国らが防共協定により参戦することとなった場合、あらかじめチャーチルに約束を反故にするならロンドンが崩壊しても構わないとつきつけることで、本来はNUPが果たす役目だった仕事を皇国が果たせば、さすがのチャーチルも認めざるを得ないということは予想できる。


 ただし、それはサカルトヴェッロを占領できた場合によるもの。

 あそこはウラジミール出生の地。


 占領は容易ではない。


 それでも尚、協定にはスエズ運河の自由航行と地中海における自由航行という、商船活動を行うにあたっては非常に重要な航路の構築が出来る。


 本来は絶対に手に入らない最短航路なのだ。


 もうパナマを通るなどという真似はしなくていい。


 上手いことすればエーストライヒなどから良質な鋼鉄が手に入るかもしれないし、やりようによっては大きな戦略的優位性を得ることとなる。


 何よりも王立国家とはこの後で二国による首脳会談の予定が設けられているが……


 ここで同盟復活となれば、国際的な孤立を防ぎ、南半球の諸国との関係を構築できる可能性がある。


 また、東亜王国などは元々皇国と対立関係にないが、彼らとも個別交渉を行い、支援を得ることで何とか戦力を増強できうる可能性もあった。


 これでもヤクチアと第三帝国だとNUPの援助無しにはどうにかなるかわからない。


 そこで会議内で提案されたのは、第二次世界大戦を遅らせるためだけに札幌・東京五輪を2600年に開くことである。


 現時点でウラジミールは己の立場を明確にしていない。


 そのため、反共主義連合体を構築しつつある皇国ではあるが、彼らが五輪に参加しない理由もなく、あえて窓口を開くことでその間の紛争を棚上げすることを目的とする。


 また、防共協定がある以上、アペニン、第三帝国もまた五輪の不参加の表明を出す可能性は低く、表向きは中立を宣言するNUPも参加拒否はしないであろうとみられた。


 平和の祭典を一時の平和のために利用せんがため、なんとしてでも皇暦2600年に開こうというのである。


 そのために五輪参加協定を設けて国際連盟にて決議し、各国は皇暦2600年9月1日までの間、軍事行動を自粛させるという提案をし、五輪が開かれるまでの間、なんとしてでも防衛体制を構築しようというのだ。


 無論、この間に各国が想定以上に戦力を増加させる可能性があったものの、何よりもこの件において重要なことが1つあった。


 NUPからの支援を取り付ける大きな理由となるのだ。


 当初より万博と五輪の同時開催は不可能ではないかとは言われていた。

 皇国内でも、どちらか片方にすべきではないかという話でまとまりかけていた。


 しかしそこに待ったをかけたのがムッソリーニとチェンバレン。


 裏で動くNUPは表向きは平和のために活動しているというならば、NUPに強い姿勢でもって五輪と皇国万博の双方に全面的支援を要求し、開戦を一時的に遅らせることでその間に五ヵ国間での連携を強め、2度目の大戦を乗り切ろうというのだ。


 俺は正直、この案に関しては賛成と即座に言えない立場にある。


 第三帝国がその間にヤクチアと連携した軍拡を行い、ヤクチアの戦力、特に当時は大したことがない彼らの航空戦力が増強されると、いくらこちらががんばったってどうしようもない。


 IL-2は脅威だが、LaGG-3やLA-5、YAK-1やYAK-9は脅威でなかったのに、互いの技術が融合した傑作機が出てきたらどうする。


 チェンバレンが提案してきそうだなといえなくもない話だったが、今年の9月から始まる戦いをとめられるとは思えないし、今のところは彼らになびいておいていざ大戦が始まったら混乱に乗じてNUPの支援金だけ受け取ってしまうのが得策だと思える。


 西条も似たような考えを示していた。


 今は彼の考えを否定してしまうと、欲しいブツが手に入らない。

 なので、表向きは賛成としてその提案を受け入れることにした。

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