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第43話:航空技術者は新鋭試作潜水艦に航空機の概念を導入する1

 宮本司令との対談が終わった俺は、彼に頼んで横須賀の修理ドックなど、本来は非公開とされている区域の見学をさせてもらった。


 最初に向かったのは建造中の110号艦のために新設されたドック。

 すでに改良設計された110号艦の建造が開始されている。


 厳重に非公開とされている空間内には、多くの技師がせっせと作業中であった。


 結局建造中止が出来なかった事にため息を吐きながら外に出た後は、修理ドックへと向かう。


 そこには駆逐艦や海防艦が整備されている小型艦向けのドックであった。


 作業員が行っているのは藤壺をブラシでそぎ落とす作業。


 この光景を見れば見るほどにこの頃の船体構造の難しさというものが浮かび上がってくる。


 船舶における船体構造において特に苦労したのは、航海中に付着するゴミやフジツボといった、抵抗を増加する存在。


 なにしろ大気と異なり、水中というのは大気と比較して800倍の抵抗係数となるわけだが……


 フジツボが付着するだけで生じた抵抗というのは、いったいどれだけ船舶の性能を低下するのかわかったものではない。


 船舶における高速化とはいわば、この障害物をいかに排除した上でいかに摩擦係数を下げるかという部分が大いに関係していた。


 構造を突き詰めたってどうにもならないのである。


 だが、現時点で半世紀後に皇国が世界に先駆けて生み出す塗料は完成していない。


 おまけにアレは電磁電熱吸着という特殊な塗布方法のため、現時点では実用化できない。


 海水というのはヤスリのようなものとは技術者の間の中でよく言われたもので、この頃の船底構造においての摩擦係数など基本的にはある程度で妥協。


 塗料の能力不足で1年に1回は整備ドックにて整備を行わないと性能が低下していく。

 それが戦後20年ほど続き、そこから徐々に進化していくのである。


 とくに船体構造においては流体力学的には常に困難が伴った。


 喫水という存在がある船は、長距離を航行すればするほど船体が浮き上がり、船体が掻き分ける水の抵抗力などが変化していく。


 航空機では重心位置が変わる程度で済むが、船舶はそうではない。


 これを固定ピッチプロペラの翅のごとく、どの状況においても、どのような波や潮の流れの状況であっても効率的なものとするのは航空機以上に困難を極めた。


 水の法則性がある程度わかっても、潮の流れは一定ではないのだ。


 それこそ北半球と南半球では大きく潮の流れが異なるわけだが、海流の流れが相殺されてしまう南極や北極近辺ともなると天候も相まって想像を絶する世界となり……


 南極観測船が体感したように片側50度以上から、反対方向40度以上という、普通に考えて転覆と変わらぬような動きにすらなることもある。


 そんな世界に帆船で突撃した冒険家というのは、まさしく冒険の言葉に相応しい航海をさぞしたことだろう。


 そんな過酷な環境にも対応できるよう、まるで可変後退翼のごとく船舶もまた喫水状況によって胴体が可変できればいいのだが……


 そんなのは水中翼船や双胴型の一部ぐらいしかできないし、それらの機構は無駄に重量が増加するので試験船程度にしか採用されていない。


 また、航空機などで培われた技術をカバーし、風に晒される船体部分における構造についても俺がいる今の時代において着目されはじめるが……


 この部分でカバーできる速度の向上など2%~4%程度などと、さほど大きな効果が現れないため、こういった構造も妥協された。


 船底構造を効率化させると燃費が40%改善できるのと比較すると、船体上部の構造はどんなに突き詰めても1割に到達しない。


 船の航行速度が大気から受ける抵抗力に対して遅すぎるからだ。


 未来の船舶も未だに上部の構造については妥協されたものが多いものの、戦前の間は船舶において少しでも速度が出るのではないかと、皇国でも皇暦2590年代に相次いで流線型が採用された艦船が登場するのだが……


 当時の与圧キャビンを持たない航空機と同じで、少しでも内部スペースを確保したいので、小数に留まった。


 その後、皇暦2630年頃まで開発が続けられたが、数値的な効果が低いことがわかってくると世界的にも開発競争が沈静化した。


 結局、高速船で45ノット以上を発揮する水中翼船などに採用される程度となったが、それすらも一部の水中翼船では見送られるほどだった。


 しかし時代は省エネ時代。


 よりエコな艦船をほしがる各国の要求により、俺がやり直す直前の頃には再び活性化したものの……


 その頃には航空機ですら劇的な進化を辿っていたので、船舶にもようやくその日が訪れたかといったような印象である。


 そんなのを皇暦2599年に目指してなんになるというのかといったところだ。


 110号艦の建造風景を見ても、軍艦の場合は機械でなければただでさえ計算が難しいとされる船底部分の設計においては、対魚雷などの防御力も加味した装甲を施さねばならないわけだから……


 俺が提案できるのは……第四艦隊事件の真の原因についてと、航空力学を応用した潜水艦だけだ。


 なまじ喫水という概念が殆どない潜水艦だからこそ、軍艦と違った方法でアプローチができるというわけである。

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