第42話:航空技術者は涙滴型潜水艦を提案する
潜水艦……か。
たしかに航空機と縁がないわけではない。
むしろ大戦後の潜水艦と航空機は互いに互いを補完しあっていた関係でもあった。
大戦終了後。
各国では潜水艦の見直しが始まる。
特に連合国において問題視されたのは水中の航行速度の低さ。
なんといっても枢軸国の潜水艦は水中での速度が速いものがあり、水中内での速力はNUPや王立国家のものが10ノット程度である所……
皇国や第三帝国はその2倍近くの速度を出せたのである。
……にも関わらずNUPや王立国家が高い戦果を出していた最大の理由は、レーダーやより高性能なソナーといった探査機器の導入と戦術的運用効率の高さ、そして対潜攻撃兵器の優秀さによるものだった。
特にNUPに関しては数の多さによる力技による所が大きく……
商船なら潜水状態のまま待ち伏せすることなく追尾可能な皇国や第三帝国の潜水艦とはまさに潜水艦の理想形の1つであることはNUPも理解しており……
第三帝国製の潜水艦を鹵獲して研究したものの、水中における特性は空中における特性に類似していたため、発達著しい航空関係者も招いての研究が行われたとされる。
その結果生まれたのが涙滴型や葉巻型と呼ばれる形状である。
こと涙滴型の安定性は高いが艦内スペースの確保が難しいので、流体力学的に劣る葉巻型へとシフトしていったわけだが……
この涙滴型こそが航空業界に大きな影響を与えるのである。
航空機で培われた流体力学が影響して生まれた潜水艦の構造であったが、それが再びブーメランのごとく戻ってくるのだ。
葉巻型や涙滴型が生まれた当時、世界の航空機にはあるモノが標準化されつつあった。
与圧キャビンである。
今にして思えば皇暦2598年に誕生したNUPの旅客機であるModel 307と呼ばれる世界初の与圧キャビンを備えた航空機は、B-17を大幅に流用したと言われる割には、まるで涙滴型の潜水艦に翼とエンジンを付けたような機体だった。
当時の資料では硬式飛行船を参考にして計算して作ったというが……
冷静に考えると、この時点で答えは出ていたんだ。
後の潜水艦や航空機に採用される外観形状は飛行船のものと類似しているのだから……
与圧キャビンが存在しない頃の航空機の胴体構造は割と自由だった。
正直言って円形に拘る理由など全くない。
四角い、バスに翼とエンジンをつけたような航空機が当たり前にいた。
その方が内部空間に無駄がなく、座席や荷物スペースを作りやすかった。
それに構造上強度を確保するというならば別に構造部材を円形にする必要などなく、全翼機やブレンデッドウィングボディに代表されるような存在の方がよほど空力的には優れているわけで、与圧キャビンさえなければいくらでも高効率な胴体構造に出来るのだ。
超音速戦闘機は基本最低限の与圧しかされないので、割と胴体構造は自由。
なぜ最低限の与圧しかしないというと、被弾した際に圧力によって内側から破裂して空中分解するから。
応力外皮構造の最大の弱点といっていい。
実際、航空機事故には同様の現象がなんらかの原因によって発生し、空中分解した例がある。
また、与圧した酸素に満たされたコックピットは急激な燃焼が発生しやすく、ようはアポロ計画のアポロ1号のような事になりかねないので……
とりあえず、血液が沸騰したり、一瞬で気絶しないような最低限の与圧がなされるようにはなっている。
季節や地域ごとの大気の状態にもよるが、高度1万6500m~1万8000m以上となると血液が沸騰して気化してしまう。
未来のジェット戦闘機は割とその空域を平然と飛べるため、最低限それを防ぐための与圧区画が設けられている。
一方で最低限でしかないからこそ、機体構造は思いっきり力学的に空力特性に優位なものに出来るというわけだ。
ヤクチアの最新戦闘機Su-57など、ステルス性も考慮したようなデザインとなっている一方……
翼と胴体が完全に一体化しているようなデザインにしてしまったが、そのほうがありとあらゆる面で空力的には洗練されていると言える。
あれなんかはもう芸術。
水平尾翼と主翼が一体化しているようにすら見えるが、あの辺りの構造は全て航空力学における工夫と知恵が注ぎ込まれた箇所だ。
ヤクチアは敵だが、流体力学の専門家としてはSu-57を素直に評価せざるを得ない。
しかし、戦闘機がそんな風に進化していった一方……
戦闘機と同じくより上空を飛行するようになった大半の航空機は人が意識を保っていられる高度より高空を飛ぶようになり、機内を地上に近い環境とする与圧キャビンを確保するのが当たり前となった。
そうなってくると潜水艦などで培われた技術が生きてくる事になる。
複殻式が主流になった潜水艦において、人が搭乗する区画の構造は真円の与圧空間が採用されている。
こうでなければ外部からの負荷に対処できない。
そして外部からの負荷へ対応する構造というのは、内部からの圧力にも強い構造に必然的になる。
潜水艦を例にすれば常に深海にいるわけではないからだ。
外圧に対して内圧で耐える構造になんて出来ない。
航空機で言えば乱気流などによって急激な気圧変化などが生じるので、同様に内側から外側への圧力に強いだけだと、乱れた気流で機体がダメージを受ける。
実際、ダメージを受けて胴体にシワが出来た旅客機の事故が国外であったな。
あれは本来なら空中分解してもおかしくなかった。
潜水艦の搭乗区画など、まさに酸素ボンベやガスタンクの中に人を入れているようなものだ。
これは与圧キャビンをもつ航空機とほぼ同じ考え方で、今日の一般的な航空機なぞ基本は酸素ボンベに翼をつけただけのようなモノに過ぎないのだ。
そうしなければならないことが決定的となったのがコメット事件。
後に王立国家が起こす連続事故である。
Model 307が飛んでいた頃と比較し、高速かつより高空を飛ぶようになったにも関わらず、アレは窓を四角くしたことによって空中分解に至った。
などというと、なぜModel 307は問題なかったのにコメットは問題となったのかと思うかもしれない。
ここに大きなカラクリがある。
Model 307には専門の気圧調整係という者がいた。
担当の人間は機体の限界耐圧を学んでいる大気力学の専門家。
機体内外の状況に合わせ、高度や気象に合わせて気圧を調整するが、何か問題があれば気圧を下げるようにしている。
コメットにはそんな人間はおらず、基本機械式によって調整しているため、当時の技術による調整力は甘かったと言われる。
おまけにそもそもがModel 307が飛んでいた最高高度はたかが6000m。
1万2000m以上を飛ぶコメットと比較した場合、コメットと同じ気圧でも機体にかかる圧力は内部から外へ向かう圧力の力の強さは1m四方において約6トンに対し、Model 307は1m四方において約2.2トン。
こんな桁違いの負荷が外皮や骨格部分の構造部材に常にかかっている。
つまり307はコメットの3分の2程度に過ぎないのだ。
実際は圧力変化なども重要なので負荷は3分の2どころか10分の1近くになるが、細かい計算はさておき、すさまじく負荷が弱いわけである。
それでいてModel 307は機体性能に対してコメット以上の安全係数を設けていた。
最高速度も400km未満と速度も遅く、大気との摩擦で発熱が生じる800km近くで飛行するコメットとは機体構造にかけるべき安全係数が全く異なっている。
航空機の場合、時速600kmほどから大気による摩擦抵抗は大幅に増大するわけだが、当然熱となって機体表面を熱していく。
高熱化するほどではないが、それなりに熱くはなる。
一連のダメージによってModel 307では可能だった構造では耐えられなくなっていた。
それが事故の原因である。
そして事件が起きた際にその原因を探ろうと検証することを検討した際、水中に沈めて高い水圧をかけて検証すればいいとアドバイスした者達こそ、他でもない潜水艦建造などを手がけるメーカーの技術者らだったという。
彼らはこの時点でなんとなくコメットの弱点を把握していた様子だった。
そのアドバイスを聞いた製造メーカーはコメットを水中に沈め、高い水圧でもって飛行中と同じ状態を作り出した。
結果、前述する弱点が判明。
航空機は軽量化と構造強化の狭間で常に設計者を悩ますことになるのであった。
後に旅客機部門は777など、人間にはもはや計算し尽くすのが不可能なので、コンピューターがアルゴリズム的に自動演算して設計していくようになっていく。
一方の潜水艦にも、同じく2つの相反する悩みが設計者を襲う。
大戦後の潜水艦開発において特に注目されたのが、流体力学的に突き詰めると二律背反となる特性である。
すなわち水中での高速性と安定性を確保しようとすると、水上航行速度が大幅に下がるというジレンマが生まれた。
例えば水中で20ノット出せる一般的なタイプの涙滴型潜水艦は、水上だと精々14ノット前後。
シュノーケルを展開した半分沈んだ状態では12ノットしか出せない。
原因は波という存在と、流体力学の恐ろしさによるもの。
水中の中に入っている時は空中にいるのと同じで潮の流れを胴体全体で制御しているが、シュノーケルを展開した状態だと、流体力学的には絶対に不要で削り取りたい艦橋部分が波にさらわれ、とてつもない抵抗力となってしまう。
波は常に一定の流れではない上に、不定の抗力を艦橋部分に与え続ける。
水中では先端部分で水の流れを掻き分けていけるのだが、シュノーケルを展開した艦橋部分だけを外に出した状態だとそうはならない。
おまけに潜水艦は波の影響を避けるために常に機首上げ気味の状態となり、それを制御しなくてはならなくなる。
ただ水上を航行するのと違い、水平に航行しているわけではないので、若干速度が落ちるのだ。
若干斜めに角度をとって航行している状態だからな。
ところでどうでもいいことかもしれないが……
未来の皇国の潜水艦は、水中20ノット、水上12ノットと公表しているものの、実は微妙に正しくない。
正確にはアレは水上ではなくシュノーケルを展開した速度である。
にも関わらず諸外国と異なりあえて水上走行の速度を公開しないのは、皇国の潜水艦運用においては他国が普通に行う水上走行は緊急時にしか使わないので、大した意味がないからだ。
結局、未来の潜水艦は通常動力を用いる限り、この数字に収まるようになってしまうわけだが……
NUPはこれに対し最終的にパワーでもって解決するという、またもや力技にて解決するわけである。
原子力潜水艦である。
そのパワーでもって解決する上でも流体力学は大きく活用されている。
ところで、第二次大戦期の潜水艦は船のような構造ばかりしていて、水上航行ばかり考えられていた――
――などと書かれる専門書などがあったりするのだが、そんなことはない。
むしろこの時期においての船体構造においては、わが皇国こそが最も先に進んでいた。
第七十一号艦。
宮本司令に案内された横須賀のドックにて待機中のこの潜水艦。
はっきり言ってこいつを後に知った時には、未来から過去へ送り込まれた流体力学者がいたのではないかと思うほどだった。
その構造は俺が知る大戦期の潜水艦とはまるで違う。
20年近く先を進んでいた。
魚雷を参考に流体力学的に突き詰めたとはいうが、そんなものを皇暦2597年に完成させていたのである。
後に皇国を中心に東側諸国が拘るマッコウクジラ型などと呼ばれる構造だ。
第七十一号艦を見せられた時点でなんとなく予想がついた。
宮本五十六は伊201型潜水艦をより完璧なものとしたいのだ。
七十一号艦の最大の特徴は、水中潜行時の速度を突き詰めようとした点にある。
マッコウクジラ型の胴体構造は完全にUボートと異なっており、後部のスクリュー付近の処理も非常に近代的。
艦橋にも後の安定翼をかねる構造部位を追加しており、俺がキ43やキ47でやったようなことを潜水艦でやった人間がいるとしか思えない。
ただ、改めて実物を見るとその構造は流体力学的に完璧ではないようだ。
やはり当時の人間が当時把握されていた流体力学の仕組みを用いてがんばって作った存在か。
二重反転スクリューの形状も特段拘りがあるわけではない。
おそらく魚雷を参考に高速化しようとした影響で設計の甘さが露呈したのだと思われる。
だが、こいつは当時世界最速の潜水艦。
それだけじゃなく、世界最高峰に近代化された潜水艦でもあった。
NUPやヤクチアにこいつが渡っていたら大変なことになっていたところだ。
速度に対して潜行可能時間もかなりがんばってたらしいじゃないか。
この当時の潜行可能時間は最大20時間。
それも気絶寸前までがんばってであり、一般的には10時間が限度。
皇国では侍魂でもって、船内にアルカリセルローズをばら撒き、床に伏せるか寝そべる状態で20時間という長時間の潜行を実現していたが、どの国もこのあたりが限度と言われている。
一説にはそのまま浮上しなかった潜水艦がいるのではないかと、皇国海軍の過去について諸説を述べる者もいるほど。
まあ、大体10時間はどこの国もがんばれるというわけだ。
その10時間の間に何ができるかを考えれば、第三帝国や皇国のように20ノット以上出したいのは当然。
2倍の距離を移動できるというのもあるが、それよりもいざという時に敵から逃げられるという理由もある。
ただ、20ノットだと高速艇の2分の1なので、対潜装備が優秀で数の暴力でもって押し切られてしまっていたわけである。
それでも後の世ではこの水中航行20ノットが標準化されるわけだから、皇国や第三帝国の設計思想や戦術運用思想は断じて間違っていない。
「七十一号艦ですか」
「成美君も君が随分な情報通だとおののいていたが、本当に君は詳しいな。そうだ。呉で建造された新鋭潜水艦だ」
「水中航行22ノットを発揮したといわれる……」
「ああ。だがこいつの安定性は最悪。私も乗ってみたが潜航中の揺れは率直に言って恐怖を感じた。これをもっと量産しやすい構造の複殻式とし、水中航行を安定化できれば……あるいは……と思っているのだが」
「案はあります。ただ、実現化は不透明です。黒板のある会議室などありませんか」
「近くの造船所にある。案内しよう」
◇
「司令。この写真をどうぞ」
「これは旅客機か?」
「ええ。NUPがB-17を流用して作った、世界初の与圧室をもつ旅客機です。知り合いが公開された試験飛行の写真を持ってきてくれました。何気に側面図を公開している点に私は強く興味を抱いております」
それはModel 307の側面図付きの写真絵葉書である。
フラッグシップとして作られた307は大々的にNUP国内で宣伝されていた。
俺は芝浦電気のCEOに手に入れてきてほしいと頼んだところ、わざわざG.IのウィルソンCEOがもってきてくれたのである。
この側面図の構造こそ、新たな潜水艦に非常に重要になる構造なのだ。
「この飛行船にも類似した真円の胴体を採用した涙滴のような構造。これこそ、潜水艦において最も適した構造に他なりません」
黒板に計算式を書きながら、流体力学的に水中内で最も洗練された形として描いたのはModel307から翼やエンジンをもぎ取り、中央よりやや前方に艦橋を設け、艦橋部分に水平安定翼を設けた今より20年ほど先を進む潜水艦である。
しかしNUPのバーベル級よりかはよほど洗練されてはいた。
特に船体後部の処理についてはバーベル級より上である自信がある。
「なんと!? 魚雷型の方が優れているのではないのか?!」
「あれも流体力学的にはかなりがんばっている方ですが、どうしても安定性に劣ります。全方位での安定性は艦橋に水中翼を装着して確保するのがよろしいかと思います」
突き詰めれば水中に船体など晒さないほうがいい。
水中翼船と同じでいかに水の抵抗は強いか。
だが、水と大気の間と、水中そのものだと、また抵抗力は変わってくる。
水中の方が抵抗は制御しやすいが、その抵抗を水中内でのみ、最も正しく制御できるのがNUPが発見した涙滴型。
しかし後にそれは水中30ノットの高速でなければ葉巻型でも妥協できることがわかり、世界各国の潜水艦は原子力潜水艦を含めて葉巻型が主流となる。
艦内スペースが確保できるからだ。
しかし、この時代に葉巻型を作っても魚雷と同じで制御できない。
葉巻型は、どちらかというとエンジンの動力性能や精密制御に余裕が出てきたから採用できるのであって、不安定さを他の部位でカバーしているため、諸外国ではあえて採用しないケースも多い。
本来の未来における、かつて皇国と呼ばれた地域内でも採用するかどうかは意見が分かれたほどである。
この時代において第七十一号艦が作れる皇国ならば、ベストな形状はこれしかない。
「宮本司令。ただこの形状は水上航行の速度を大幅に削ってしまう構造です。海面付近の抵抗制御というのはとても難しいわけですが、この構造は常に水の中に沈んでいるからこそ効果を発揮します。水上航行が30ノット近くになるわが皇国の諸所の潜水艦においてこの構造は水中22ノットを可能としますが、水上航行はどう足掻いても14ノット程度とお考えください」
「潜水母艦との密接な連携が必要となるか……」
「構造としてはシンプルな複殻を採用。全体構造もシンプルな真円の構造部材ゆえ、構造自体は単純ですが、艦内スペースも絶望的となります。いきなり作ってみるより、71号艦のような先行試製をされるのがよろしいかと」
「ううむ……模型など作れんか?」
「できますよ。潜水艦の構造については流体力学的に突き詰めても、現代的な技術で十分カバー可能です。どちらかといえばその形状を見出すまでが大変でしたので。谷次郎先生の弟子を自負する私としては、ハイスキュードピッチも採用したいとは思いますがね」
「ん? ハイスキュードピッチとは? 初めて聞く用語だ」
まあどうせ西条と異なり物理学的理解はしてないのであろうが、黒板にサッサッとハイスキュードピッチについて描く。
「スクリューの効率を重視したというよりかは、いかにスクリューの音を静穏にさせたいかという試みです。まあ二重反転式にすると効率自体は上がりますがね」
そこに描いたのは鉤爪状のスクリュー。
後に世界各国の潜水艦が採用するスクリューであるのだが、残念ながら重要機密ゆえに俺が知る構造はあくまで退役済みの古い潜水艦のものを見て性能を導きだし、そこから俺の知識を総動員してさらに改良してみたものに過ぎない。
この技術はまるで公開されないので、俺では新鋭潜水艦の形状を見ただけでは性能がわからないのだ。
一般的に水に関する流体力学の専門家はスクリューの形状だけで効率や静穏性がわかるため、各国では絶対に公開しないよう隠している。
その道の専門家ならば荒めの写真画像ですら外観を見ただけで最高速度がわかってしまうのというのだ。
流体力学が発展した未来においては、船体の全体構造を知られるというのはすなわち潜水艦の性能を知られると同義なのである。
この時代ではさほど重要でなかったのは、未だ発展途上だったため。
全ての艦船における船体構造の設計に用いられた流体力学は、大戦期を境にある程度発展していくものの、結局水の抵抗が強すぎるので速度は妥協し、より省エネな方向へと向かっていく。
それは潜水艦でも変わらず、原子力潜水艦以外はある程度で妥協され、その分航行時間を増やす手法がとられた。
だから速度のためのスクリューなど採用していないのである。
「簡便な設計でよろしければ作れます。4日ほどかかりますが……山崎の造船技師を集めていただけますか」
「わ、わかった! すぐに手配する! 頼んだぞ!」
どたばたとまるで子供のように駆け出していった宮本司令の目は、まるで新しいおもちゃを買ってもらえると喜ぶ幼児のソレであった。
やれやれ……
正直門外漢すぎて技師がいないとやってられないぞ。
キ78に続いてまた山崎と組むことになるとは。
といっても、彼らと四菱以外潜水艦は作れないのである。
おまけに山崎こそが現時点で最も潜水艦に精通する企業。
この技術を応用して彼らは与圧キャビンを作り、キ108に用いる。
つまり現時点で与圧キャビンを考えるなら、彼らと関わってて損がないわけだ。
彼らと共にとりあえず涙滴型の実験艦を作るしかないか……
艦船に関してはこの当時は防御力の面もあるから正直俺には厳しいが、潜水艦はここを割と妥協できるからどうにかなるかな。