第213話:航空技術者は国家の内なる国家の存在に脅威を垣間見る
「――それで、先日のG.Iとの交渉は上手く行ったんだな信濃?」
「はい。四井物産の助力もあって数日のうちに締結まで持っていきました」
「そうか……なら宮本大将にもその旨伝えねばならんな。大将はどうやら提供された簡易設計図等を用いて海軍工廠にて検証を重ねた結果、本近接対空防御兵装が実現するならば手始めに全ての駆逐艦に搭載する腹積もりであるようだぞ」
「稼働させるための電力が足りないかと思いますが」
「こちらが検討しているタービン発電機でも流用する気なのだろう。一連の技術情報はあちらにも共有されているからな」
確かにタービン発電機については検討してはいるものの、タービン発電とはいうが現在量産が進行している主力戦車からの外部電力供給などを意味することであって、専用のタービン発電機を作る予定はないんだが……
まあ主力戦車用のコンポーネントをそのまま流用することは不可能ではないか。
今はこういうところに新しい設計案を持ち込むような形でキャパシティを割きたくない。
海軍工廠の動きは耳に入れつつ負担は最小限となるよう身構えておこう。
「ところで、本日私はどのようなご用件で呼ばれたのでしょうか。先日行われた交渉の進捗状況のためとは思えませんが」
「ああ。今のうちに話しておくべきことがあってな。戦略上の話だ。ついにヤクチアに東進の動きが生じ始めた。西側地域での想定外の抵抗力により、東側へ進軍することで我が国などを揺さぶり、西側の戦況を優位に進めようとの魂胆だろう。シェレンコフの話では春以降に順次戦力を送り込み、早ければ今年の夏、遅くとも来年の春には攻撃を開始する予定とのことだ」
西条の発言に全身に緊張が走る。
最も恐れていた事態が発生しつつあるようだ。
その一方で、なぜか妙に落ち着いていて余裕を見せる西条の姿に強い違和感を感じた。
何か裏があるのか。
「元々こちらは来年頃の侵攻を見据えて準備してきました。主力戦車の数が揃わない状態での防衛戦闘は正直言って極めて危険です。外交戦を展開して上手く来年まで遅らせるべきかと。総力戦研究所などはどう判断されてますか?」
「2月時点で道北地域に配備された250両の主力戦車をヤクチアはそれなりの脅威とみなしている。太平洋側に隣接する千島列島への配備も進めていて、多少の抑止力とはなるだろう。奴らが攻めてくる場合、樺太から南進する方法以外ないように誘導すれば、大規模戦力を集中投入せざるを得なくなるので今年の攻撃は不可能という判断。現状で最も有効なのはシベリア鉄道への破壊工作。シェレンコフ大将らの力を借りて――」
「我々が行ったと見せかけないようにしつつ輸送能力を削ぐというわけですね」
「そうだ。ただ今回はもう三国ほど協力者がいる」
協力者?
二国は大陸で繋がっている東亜の二国として、あともう1つがわからかない。
一体どこだ。
「一国だけわかりません。どの国が協力を?」
「NUPだよ。四井の助力もあって集の鉄道の件は今年中になんとかなりそうだ。そうなると、かの国にとってはもう1つ欲しくなる鉄道が出てくる」
「シベリア鉄道ですか」
確かに、歴史上NUPはかねてよりシベリア鉄道の国際共同管理を検討しており、20年前に鉄道使節団を送り込んで調査を行っていた過去がある。
狙いは北方地域での自由貿易圏の確立であり、集の鉄道とこちらが手に入れば、国として、あるいはNUP内部の企業による収益事業化によって収益構造がある状態で監視網を張り巡らせることが出来、結果として大陸の状況を自由に把握しつつ、太平洋側での貨物輸送の効率化を果たせる事になる。
しかし……
「それは国ぐるみの話なんですか? 現状の大統領がにこやかに我々に接して支援してくるとは思いませんが」
「現大統領がNUPの表の顔で、裏の顔も持ち合わせるとしたら、あの国には内なるNUPともいえる存在がある。これを見ろ――」
差し出されたのは極めて上質で、絶対に汚損してはならないとばかりの高級な封筒であった。
中身を取り出そうとすると多重に防護され、パラフィン紙などで外交文書らしきものが包まれている。
間違いなくそれなりの組織が皇国側に充てた外交文書であることはわかる。
その文書を取り出して中身を確認すると受諾書と共に以下のような記述がなされた文書が情報調整官長名義にて同封されていた。
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親愛なる皇国総理大臣殿
極めて慎重に、かつ差し迫った事由を以て書簡を差し上げます。
現在の貴国と貴殿と我が国の間においては、理性と信義の名の下に語り合う余地があると信じております。
かねてより我が国は貴国との表向きの関係の背後において、貴国とその同盟国が敵国として現在戦闘を行う国々への支援を行い、貴方方の頭を悩まされておりましたことを我々は把握しております。
しかしながらこれは我が国の総意ではなく、本意でもありません。
たった一人の人間が少数の人間をまとめ上げて作り上げた小さな政府により成された結果にすぎません。
彼らの狙いは自らの思想に偏った上での地政学に基づく秩序の再設計にあり、その設計図の図案にはヤクチアの名前が明記されている状態にあります。
これは一見して100年ほどの安寧をもたらすかもしれませんが、200年、300年先を考えた場合、大変危険な判断となります。
少なくとも現体制のままのヤクチアと我が国による二強体制を構築して生ずる国際社会というものは100年程度で確実に破綻することでしょう。
我々はこれを望みません。
ヤクチアがこの世の地図から消滅するかどうかはさておき、共産主義国家としてのヤクチアは滅びなければなりません。
少なくとも我が国の将来を見据えた場合、この先300年間において太平洋地域では漁業と海運業の船ばかりが航行するような安定的地域となるべきであって、結果的にそれは貴国の望む姿でもあるはずです。
いわば、太平洋地域の平和と自由な貿易を望む場合、貴国は大切なパートナーであって、無視していいような存在ではありません。
ゆえに我々は一定の条件をもとに、貴国への協力・支援を申し出たいと考えております。
既にご承知の事とはおもいますが、ヤクチアは想定外の西側地域の苦戦により、東側へ向けての侵攻を画策しています。
これは一見して戦力の分散になり不利になるように見受けられますが、戦力配分を適切に行えば現状打破に繋がるかもしれない奇策ともいうべきものです。
彼らの狙いは今年中に北海道地域への攻撃を行い、皇国側の混乱によって砂漠地域などへの追加戦力の投入を見送らせる事。
これにより貴方方が死守したいアレキサンドリアの占領を黒海側から艦隊派遣等を行う事で達成しようと考えています。
ヤクチアの思惑のままに占領地域が拡大した場合、地中海やスエズ運河は一度占領されてしまうと奪還は難しく、万が一占領を許した場合、表向きのNUPの支援が失われるか、あるいは理由を付けてこれまで行われていたレンドリース法下の支援が大きく遅れてしまう可能性があります。
ここの狙いは秩序の再設計者によるバランス調整であり、かの者にとって統計上の死傷者の数や戦争被災者の数などはウラジミール同様、紙の上に刻まれただけの単なる数字に過ぎません。
戦いが長引けば長引くほど我が国にとって優位になると考えているからです。
短期的にはそうでしょうが、長期的にはそうではありません。
かの者は貴国を含めた各国の底力をきちんと把握できていません。
ゆえにその火遊びは我が国にとって非常によろしくない分の悪い賭け事となるでしょう。
我々はそれを阻止するため、本年6月に新たに組織される"戦略諜報局"の総出で、ありとあらゆる手段でもってシベリア地域の戦力投入を妨害します。
こうすることで少なくても約1年間、彼らは皇国に攻撃を開始することを遅らせられるでしょう。
かの者はこの動きを止めることはできません。
なぜなら、私にはその発言権と影響力を行使するための十分な人脈と手段があるからです。
表向きは大統領直属組織ではありますが、かの者が影響を及ぼせる範囲は限られ、この組織は私と私の支援者達のための組織として設立されます。
ただし、妨害工作を行う上では条件があります。
1つは戦後シベリア地域における自由貿易圏の担保。
もう1つは戦後ウラジオストクの大部分をNUP管理下に置く事。(限られた範囲内で貴国の海軍の軍艦を停泊させることなどが出来るよう最小限の飛び地を設ける事は認めます。また、貿易港としての機能も損なわせません)
最後はシベリア鉄道の国際共同管理か、あるいは特定企業による株式の保有。(現在貴方方が集の件で関係している企業とは別の企業団体、例えばドゥポン財閥など)
この3つの条件を貴国が受諾した場合、上記条件以上の一切を今後要求することなく、我々は全力を尽くします。
なお、戦略諜報局には陸軍のG-2、海軍のONI、そしてFBIの対外防諜部門(SIS)が連携下の組織となり、それぞれの諜報員を総動員します。
この動きを阻止することはいかなる者によっても不可能となることでしょう。
極めて先の未来の状況を鑑みて今やるべき小さな結果を生み出す活動をするため、"彼の者ら"ですら貴国にとってそれがどれほどの影響を与えるか計算をすることができないからです。
これは敵であるヤクチアですら例外ではなく、我が国は表向き彼らとは友好関係を結んでおりませんので、国家として行動阻止を働きかけることは不可能です。
しかし我々はその効果と、その効果の後に両国が得る事になる大きな利益と、長きにわたる平和をしっかりと計算できています。
いわば条件はそのための対価にすぎません。
これは小さな政府が考える、危うい国際秩序とバランスのための裏の支援活動よりよほど健全です。
あとは貴国の努力と決断次第。
良いお返事をお待ちしております。
情報調査長官 ウィリアム・J・ドナバン
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文書を封筒に再び仕舞い込む際、手が若干震えた。
なんだと……後のCIAの前身組織となるOSSの長となる人物が大統領を裏切った!?
何が起こってるんだ一体。
確かにこの男は筋金入りの反共主義者で、機会さえあればヤクチアを滅ぼすことを望んでいた人物。
本来の未来ではヤクチアに過剰なまでのレンドリース法下での支援を嫌い、皇国がヤクチアに飲み込まれた事に呪詛のような言葉すら残してすらいる。
また、戦中の段階で「東亜の安定は皇国を潰すことではなく、秩序を再編すること」――とも述べており、華僑地域等で激しい工作活動をしながら、皇国内における破壊活動等は一切行っていないという事実もあった。
この考えは本来の未来における戦後に誕生した一連の組織の後継組織たるCIAにも根付いているもので、所属していた諜報員の中には歴史研究家となり、「もし皇国が無条件降伏し、NUP管理下に置かれていたら、ヤクチアの動きに呼応して10年以内に再び戦力を保有させたであろう」――なんて仮説を唱える者すらいたほどだ。
つまりNUPには様々な考えを持つ者がいたにはいたが、一方で大統領周辺に物凄く強力な権力集中が生じていたのが現時点での話で、できる事は限られている中で活動していた人物の一人がドナバンであったことは想像がつくが、現在の彼に出来る最大限の努力が戦力が整う来年まで引き伸ばす事だということか……
そして文書の話が事実なら、1年遅らせた効果と結果を大統領周辺は把握できていないと……
いや、博打だろ。
俺が同じ立場でも未来なんて全然見えない。
彼らに何が見えているんだ。
もちろん負ける気なんて毛頭なく、やれることを日々やっている。
だが、彼らにはそれなりの結果が見えているかのような口ぶりだ。
ヤクチアとの関係性が強いゆえに、こちらの想定以上にヤクチアの経済体力が削られていることを把握しているとでもいうのか。
「――信濃、お前に見せた文書は限られた者のみに共有しているものだ。外部に漏れてはたまらんのでな。その上で私はこの条件を飲もうかと思っている」
西条の反応に俺はすぐさま否定する事などしなかった。
頭の中では様々な情報が交錯しており、現状の皇国の内情を考えると即座に全否定できるような状況にない。
「北方地域全域の権益を奪われるというわけではないし、そんな条件では我々が受諾しないことなどあちらも把握している。ウラジオストクにNUPが軍港を整えるのはどうかという話もあるが、既に旅順か大連いずれかは彼らの支配下に落ちるのは避けられない状況。お前が数年前に見せた未来に登場する新兵器(長距離射程ミサイル)の存在を考慮しても、ここにウラジオストクが追加されたとして大きな差になるかは怪しい。そういう意味では外交的にはここ数年、我々は政治的に負けている部分も多い」
「皇国の存続を考えた場合、国力には限界がありますので、全てを東亜地域の国々が治める方向性に持っていくというのは不可能です。それだけの国力があったとするなら、自分が知る未来は存在しないでしょうね」
「どの国もそうだ。安全圏が欲しい。これはNUPとて例外ではないのだ。となると大陸側に港や基地はどうしても欲しくなる。重要なのはヤクチアのような権力の暴走によって人々の不幸を顧みない政治家がNUPの実権を握らぬことだ。互いに相互監視し続ける関係性。これが重要なのだと思う」
「おっしゃる通りです。私は本件について否定しません。それと、情報調査長官の実力も確かなものです。遅らせることが出来るか出来ないかでいえば、この男と戦略諜報局なら間違いなくできます」
西条との話を通して何者かが囁くようにして頭の中に色々と浮かんできて気づいた事がある。
先ほど見せられた文書には、シベリア鉄道に関してはドゥポン財閥等の企業が株式を保有するとあった。
ドゥポン財閥は本年6月に組織される新組織たるOSSの支援法人の1つ。
限られた予算の中で活動せねばならないドナバンの手助けをしていたとされ、それだけでなくOSS内部にはドゥポン家の人物が何名か所属していたとされる。
ドゥポン財閥の狙いは国外での事業拡大や権益の確保に他ならないわけだが、そのためにはOSSのような組織の情報は経営戦略を構築する上で極めて価値の大きいものであり、OSSという組織を維持するための出資に足る利益を得る事が出来ると考えていたらしい。
もちろん、シベリア鉄道の株式のうち集の鉄道のように1/3も獲得するなんて事になれば相当額の収益が見込まれるわけだから、OSSを支援するに足る理由になりうるし、本来の未来においても同様の何かを得るために支援していたのであろう。
重要なのはここからだ。
ドゥポン財閥は集の鉄道の株式を取得する可能性が高い、ユニヴァックあるいは親会社のユニバーサルオイルニュージャージーとは政治的、経済的には対立関係にある。
双方は一見して傘下の企業だけの様子を見ると相互補完の関係にあり、原材料等はユニバーサルオイル系列から仕入れていて、これを化学製品や合成ゴム等の製造に用いている。
直接的に市場で対決しているのは合成ゴム分野だけで、本来なら仲良く手を結んでいそうなものなのだが……
双方の一族は政治思想が全く異なっており、NUP内部では互いに自らの資本力を用いてより立場のある者に取り入っていて……
NUPという国家を1つの人間に例えるなら、互いに腕を引っ張り合っていたような状況だった。
正確には相応の立場の者の両腕を互いに引っ張ってるわけだな。
だから、四井の仲介を通して集の鉄道の株式を得るという話が現実化してきた事で焦ったんじゃないのか。
ユニヴァーサルオイルニュージャージーが得るのはあくまで貨物輸送等での効率化ではあるが、人と物、双方を大量輸送する大きな需要がある路線の株式の一部を得るという事はそれだけNUP国内での発言力を高める事になる。
ならば自分達はシベリア鉄道とウラジオストクの双方で同様の権益を得たいと考えるのはごく自然なこと。
そして何よりも重要なのが……ドゥポン財閥の背後にいる一族の多くが、現大統領を嫌っていて、反対勢力を構築している点。
集の件でいろいろと苦悩していたら、これまでこちらに見向きもしてこなかった一大勢力が釣れたという事になる。
最初の段階でこれを予想できなかったのは俺の失態だ。
ありえたかもしれない話だ。
外交戦略を構築する上で戦術内容を左右する重大な情報だったはずだろ。
そしてウラジオストクとシベリア鉄道の件。
仮にこれが相手側の思惑通りに目標を達成できた場合、確かに皇国は得られたかもしれない利益の一部を失うかもしれない事になる。
一方、NUPが地域一帯において絶対に無視できない権益を得る事は、皇国が周辺地域を安全圏として長期にわたって防衛するにあたり、必要となるコストが引き下がるため、必ずしもマイナス面だけとは限らない。
確かにウラジオストク等にNUPの海軍が配備される事になれば常に皇国は監視され、NUPから圧力を受け続ける事になる。
しかしそれは直接的な戦闘行為に至る際に最優先で排除したくなる戦略拠点が新たに誕生するだけなのであって、直接的戦闘行為以外の面ではメリットもそれなりにある。
NUPにとっては太平洋だけでなく皇国海周辺の安全圏も確保したい。
なんなら皇国側に基地でも作れるなら多少は皇国海側は目を瞑れるが、そうじゃないなら大陸側に拠点と拠点維持に見合うだけの収益物件が欲しいというのが本音。
本来の未来においてNUPは北部地域からシベリアとを海底連絡トンネルで繋げ、ユーグまでを鉄道で結ぶという、およそ地球の2/3もの範囲……距離にして約26000kmにも及ぶ長大な距離の世界を事実上横断する鉄道輸送網を手にすることを画策していた。
実現すれば一切の海上封鎖を無視してNUP側はレアメタルを含めた資源を陸送できる上、戦力展開上でも利点がある。
しかし技術的に大変な困難を要することは必至で、本来の未来、可能性の未来双方共に実現していない。
それでも構想が何度も立ち上がっては消えるのは、それだけ国家戦略上において莫大な建設費を投じて建設したとしても大きなリターンが見込めると考えているため。
仮にこれが実現化した場合、俺が知る世界の物流における状況が大きく変わり、物流経済の1つの柱となってしまう。
従来の4%程度から、世界の物流の8%以上が鉄道輸送になるかもしれない。
これは一見少ないようで規模が規模であるがゆえ、凄まじい変化だ。
ここを将来計算に入れて現在動いているのだとしたら、ドナバンという男は自らが墓の中に入った後の未来の世界情勢に対する責任すら背負って自国の将来を見据える傑物と言えるのかもな。
まあ恐らくドゥポン財閥が耳打ちしているのであって、あくまでこれは大きな夢の1つで、現実ベースで見たらユーグ各国まで安全に陸送できるルートと、NUPの経済学者などの言葉を借りるなら太平洋側地域の自由通商のための内海化が目的のはずだ。
その場合でも共産主義・社会主義圏が掌握する世界の貿易の15%を自由経済を主軸とする資本主義国家が握る事になるので、大義は成り立つ。
その最大の障壁が、実は完全敵対した場合になると目を背ける事が出来ない危険で絶妙な位置に存在する皇国で、ドナバンは恐らく「なぜ敵対してまで自由貿易圏の拡大を阻むのか」――と考えているのではないだろうか。
自由貿易圏の拡大は皇国にも大きな恩恵が生じる。
それだけでなく、北部において安全圏を確保できる。
300年先を見据えるなら、経済大国とその国内企業が絶対に失うことが出来ない流通網を構築するべきなのは間違いない。
重要なのは、当初よりNUPも単独では不可能との結論を持っている事。
一国の力でどうにか出来る地域ではないのは事実だ。
一方で喉に小骨が刺さったような感覚が抜けないのは文書内容とNUPという国にある。
届いた文書は一見して友好的な内容だが、これは無視すればどんどん状況が悪化して要求内容も上乗せされていくものと考える。
それこそ権益のためなら戦争すら辞さない国というのは本来の未来で経験済みだ。
また、彼らはレンドリース法の支援についても触れたが、彼らの口添えを通して一時的に大統領経由で支援を遅らせて条件を飲ませようと圧力をかけてくる可能性も高い。
だからこそ俺は西条に向けて否定しないと述べたが……受け入れざるを得ない理屈ほど、薄ら寒いものはない。
NUPがもっとこう、信頼できる国家であるとしたなら西条への回答はもっと前向きなものになった事だろうな……
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