第205話:航空技術者は拳銃に特殊な内部構造を導入する(後編)
長いので分けました。
本拳銃では、ヴァルザーのP99と同様、ストライカーは完全に後退して固定化される。
固定化されたストライカーは下部に爪のような構造を持ち、同じく爪状の別の構造物によって双方が爪同士でガッチリと噛み合うように引っかかり合って完全に後退した状態で固定化され、万が一落としたりなんだりしてもストライカーが動くことは全くない。
このストライカーを固定する爪状の構造物はトリガーと連動して一旦引き起こして叩きつけるかのように動作する撃発方式のハンマーのような動きをする"別の構造物"によって、そのハンマー状構造物が引き起こしの動きの最中に爪状の構造物を引き落とすような形で動かし、あたかも水飲み鳥が水を飲むかのようにストライカーを固定化する爪状の構造物が落とし込まれた結果、嚙み合わせが外れてストライカーを解放するように動く。
G17等の最大の違いはここにあり、G17では単純に引き金を引くとストライカーが同時にハーフコック状態から後退してある一定の場所でストライカーが解放されるように動くが、俺が考えた構造ではストライカー方式でありながら内部の動きはまるで撃発方式……
すなわち、これまで存在したハンマーにて動作する拳銃に類似した動きでストライカーを解放する。
三人の銃器技師はこのハンマーのように動く部品をみて「どう見てもダブルアクションだ!!」――というのだが、コッキングしなければ撃てないという意味では俺はこれをシングルアクションだと思うのだが……何度そう伝えても認めてくれないのでダブルアクションオンリーという事にしている。
なんというか、引き金を引くだけでは撃てないG17がダブルアクションと言われているので気にしないことにした。
ともかく、本構造にしたことでストライカーが解放される危険性が皆無に近い状態となり、安全面については他のストライカー方式の拳銃と比較にならないほど優れた状態となっている。
まずちょっとやそっと落とした程度ではストライカーは解放されず、銃器技師から言わせれば「シアーすら不要の可能性すらある」――と述べられる程の信頼性を得たのだ。
そして重要なのはここからで、万が一この状態で落として多少シアーが動いてもストライカーは弾丸まで到達できないようにしている。
G17等のシアー構造を見た時、俺はある違和感に気づいた。
シアーの動きが上下にしか動かないのだ。
これだと慣性によって上下に動いただけでストライカーが弾丸を撃発させてしまう状態にしてしまう。
なので俺は構造を見直し、シアーの動きを上下ではなく一旦横にズレてから斜め上にせり上がるように見直した。(構えた状態から見た視点で右斜め上の方向に動く)
シアーが最大にせり上がった時にのみ、ストライカーは弾丸を撃発することが出来る。
当然これはトリガーと連動したもので、トリガーを動かした時にトリガーがシアーを一旦横に押し込む形である一定以上押し込んで押し込み続けた瞬間カチッと斜めに上に一気にズレる形で持ち上がるよう二段階で動く方式とし、単純な上下の動きは一切しないようにしたのである。
慣性等ではまず壁たるシアーが解放されない。
ストライカーが弾丸を撃発させるにあたり、壁たるシアーは完全に開放されるためには一度に複数の動きを要求するからだ。
またここで重要なのが、このカチッと動くシアーこそがスイッチのようなカチッとしたトリガーの感触を生み出す秘訣だったりする。
独特のスイッチのようなトリガーの感触は、撃鉄方式でいうハンマーのように動く構造物でもなければストライカーを解放する爪状の構造物でもなく、ある程度横にズラして一定の領域に至るとカチッと横にズレて一気にせり上がるシアーによって生じているのだ。(撃鉄方式のハンマーのように動く構造物はそもそもカチッというシアーが解放された瞬間はまだ完全なハンマーダウンに至っていない)
他方、何度もスーパーコンピューター等を駆使して計算してみたが、慣性によっては99%シアーが解放されず、動いたとしても壁としての機能を維持したまま左右にしか動かないため、他のストライカー方式の拳銃のように慣性でシアーが動いて暴発するというリスクはほぼなくなった。
つまりシアーそのものが単純な壁ではなく、それなりのセーフティ装置としてトリガーとだけ連動するようにしてあるのであり、シアーそのものが優れたトリガーの性能を実現化しているのである。
落とした際に偶然トリガーがなにかに接触し、その際の衝撃でトリガーがトリガーセーフティすら無効化される形で多少動く事が万が一あったとしても、その状態でストライカーが解放されてもシアーは解放されないようになっている。
本拳銃ではトリガーが完全に引いた状態とならない限り、ストライカーはストライカーを強固に保持する爪状構造物、普段は爪状の構造物を落とし込んでストライカーを解放するためのハンマー状の構造物、ファイヤリングピンが弾丸に接触しないようトリガーによって斜め横にスライドして動くシアーの三重で守る形としていて、ここにトリガーセーフティを押し込むことで暴発リスクを事実上の0とすることに成功した。
フルコック状態からストライカーを解放するというと本来の未来におけるヴァルザーのP99に若干似ているが、ヴァルザーのP99が安全面を考慮して上下にしか動かないシアーを二重に施していたり、トリガーを引いた際に小さな構造物と連動し……
この小さな構造物が撃針方式のストライカーのようにストライカーとは逆方向の射手の顔面に向かっていく形で高速で動いて爪状の構造物を直接叩きつけて爪状の構造物とストライカー下部に施された爪との嚙み合わせが失われる事でストライカーが解放されて射撃するのと異なり……
もっと合理的かつ部品点数が少ない形でより優れた状態で安全性を確保している点で、P99より数段優れている。
というか全体の作動機構の動きもP99とは全く異なる。
本拳銃ではP99と異なり、ハンマー状の構造物は撃発方式の拳銃のハンマーのように動くだけ。
しかもこのハンマー状の構造物はストライカーが弾丸を叩いて撃発した瞬間に完全にハンマーダウンするように動き、射撃時において発生する反動を完全に相殺するように働く。
結構大きなパーツでこれが多少ではあるが反動相殺に貢献している。
JARを開発を行っていた事で得た知見により見出した作動機構なのだ。
一方でP99の小さな構造物は、爪状の態構造物を叩きつける際に小さな撃針のごとき動きを見せつつ、ストライカーそのものの進行方向とは全く逆方向に動き、反動をむしろ増大する形で動いている。
しかもハンマーダウンの瞬間はストライカー解放前。
プロセスが全然違う。
俺が銃器技師の助力を得て生み出した拳銃の方は、ストライカーの解放にハンマー状の構造物が影響するのは似ているが、ハンマー状の構造物はすべてのプロセスの中の一部としてストライカーの解放に関与するだけだ。
内部構造も、各部品の形状も、各部の動き方も全然違う。
そもそも本拳銃については壁ことシアーの数は部品点数削減を重視して1つであるし、P99の小さな構造物のような、どう考えても耐久性に難ありな小さな可動部品類もなく、多くの可動部品は耐久性に富む状態で、かつ大きな部品として部品点数を減らしながら調整している。
類似した構造をもつP99については実際問題不具合だらけの拳銃として有名である所、不具合でよく報告されるのは "暴発" ではなく、殆どが "撃発不良" であって、P99ですら暴発という方向性においては確たる信頼性を獲得していた。
これに対して本拳銃は引き金を引けば確実に撃てるし、引き金を引かない状態においては暴発することが全くないという、別次元の信頼性を持つ拳銃なのである。
もちろん、ちゃんと試しての話。
この拳銃は試作され、本来の未来においてこの世に百挺ほどだけではあるが完成品の現物が存在したのである。
試作品は何度落としても何度床や地面に叩きつけてもついに一度も暴発する事はなかった。
信頼性だけなら世界で最も高い領域に到達した拳銃であることはいくつかの軍組織で試作品を試してもらって証明済み。
特殊部隊や警察の対テロ組織から是非採用したいのでライセンス生産のためにメーカーとの協議を行ってもらえないかとの打診も受けた程。
けれども、開発を手伝ってもらった銃器技師が銃器メーカー所属の人間で、かつ複数のメーカーにまたがる状況で公平性等の担保が不可能である事、さらに出願公開されておらず公開された場合は侵害しているかもしれない特許等の問題から最終的に生産は見送っている。
その後は助力を受けた銃器技師達の同意を受けた上で技術開放して「こういうアイディアもある」――という形で開発を終了し、試作品は希望する銃器メーカーに提供してその後に俺は今いる世界へと渡ってきている。
恐らく諸問題により倫理観の全くないような国でもなければ量産はされていないだろうな……
あの拳銃のアイディアを用いた自社製の拳銃ならあるとは思う。
なお、本来の未来において軍組織が特に評価していた部分はトリガーの重さ。
当然にして感触を気にして内部構造を改めたぐらいだから、重さについての配慮も抜かりはない。
これも本拳銃の長所の1つ。
本拳銃については、一連の構造によりトリガープルを軽くすることが出来たのでトリガーの重さは4.3~4.4ポンドとなっている。
トリガーの重さというのは万が一の時に連射する上で非常に重要で、サイドアームとして運用する際に近距離で弾幕を張りたい状況も生じる軍組織では特に気にかけている部分。
例えば1911なんかは1911から1911A1に改良される際にトリガーを短くするだけでなく軽く改良していて、その状態で4.8~5ポンド。
この数値は割と優秀で、人や組織によってはやや重いかどうかという評価。
後にNUPで後継を選定する際にもこのトリガーの重さというのは重視されており、採用されたM9ではダブルアクション状況でのトリガーの重さが7ポンド以上である一方、シングルアクション状態では5~5.5ポンドとなっていて6ポンドを超えないというのが採用条件の1つだったとされる。
本拳銃は4.3~4.4であるため、ダブルアクションオンリーの拳銃としてはかなり軽い方。
例えばG17は初期型が6.5ポンドもあり、他のストライカー方式の拳銃も5.7ポンドとか6ポンドとか、酷いものだと7ポンド以上だったりするものもある事を考えると、かなり優秀な状態だと言える。(なおシングルアクションでもハイパワーのように7ポンド以上ある例もあり、一概にシングルアクションだから必ずしも軽いわけではない)
……可能性の未来からもたらされた情報によると将来的にはG17も改良されて4.5ポンドほどになり、競技用カスタムパーツで3.5ポンドぐらいにまで落とせるとの事であるようだが、重要なのはその時代に本来の未来において追い付いていたという事。
ともかく、トリガーの感触と重さについては本拳銃の自慢の1つであり、古のヴァルザーの名銃達を想起させると評判だった。
……ヴァルザーの銃器技師が関与しているのだからそうなっても不思議ではないが、本拳銃は構造的にはP250をストライカー方式にしたような状態であるのに、多くの者はヴァルザー風味であると述べていたな……
いかに優秀なトリガーをヴァルザーの過去の拳銃達が持ち合わせていたかが良くわかる。
本拳銃が採用されたならば今の世界でもきっとヴァルザーの銃であると誤認されるのではないだろうか。
そんなヴァルザー風味の本拳銃は、ヴァルザーらしからぬ特徴も有している。
それがフレーム素材を選ばず複数のフレーム素材の拳銃を一度にバリエーションとして生み出せるという点。
試作モデルでは、スチール、アルミ、ポリマーフレームの3つが存在していて、これら3つを自由に組み替える事が出来た。
つまり軍組織が求める仕様にいくらでも組み替えて調整出来たのである。
コアフレームとグリップフレームで分割した利点を最大に活かしていたのだ。
サイズも入れ替え可能で、フルサイズ、コンパクト、サブコンパクトまでをスライドやバレル、グリップフレームの入れ替えで組み替えることが出来た。(本拳銃の基本仕様はコンパクトだが、フルサイズ等も試作した)
例えば意味は薄いもののコンパクト用のグリップフレームにフルサイズのバレルとスライドというような謎な組み合わせにすることも出来たので、戦場を想定した時にバラバラの仕様の銃をとりあえずニコイチ修理等出来るようにしてあったのである。
どうやら可能性の未来では似たような事ができる拳銃が他にも多く出てきているらしい。
コアフレーム化まではされていないものの、俺がやり直してから10年以上が過ぎたあたりからポツポツと多くの部品をモジュール化した拳銃が出てくるのだとか。
しかしながらフレームまで素材を選ばず自由に組み換え可能なのはP320だけのようで、そのP320もアルミフレームまでにしか対応していないという。
ならば最初からポリマーフレーム化を見越してそちらを重視して設計しつつも、スチールフレーム方式にも対応する本拳銃の方が汎用性と冗長性の面で上回っている事になるな。
恐らく本拳銃がこの世に誕生して普及したならばP250やP320も同じような形式となるであろうことは間違いないであろうと予想できるものの、そっち方面で唯一のライバルがP320となるのではないだろうか。
そんな可能性を持つ本拳銃の外観や他の機構はこのようになっている。
まず全長は4インチないし4.2インチ。
サプレッサー等を装着できるようにした場合は4.2インチで、基本は4インチである。
俺としてはサプレッサー装着可能な状態を通常仕様としたいので基本は4.2インチとしたい。
サプレッサーを装着しない場合はネジが切られた先端部分が破損しないようにキャップを装着する事とし、これで4.2インチだ。
つまり本銃はフルサイズではなくコンパクト拳銃である。
バレルが5インチたるフルサイズではない理由は、技術的制約によりスチールフレーム化せざるを得ない現状において重量が大幅に増大しうるためであり、各部の作動機構や低床化されバレル位置が低くなった事でリコイル制御が容易になった恩恵からもたらされる命中率の向上から、バレルの長さは短くした。
また、サイズ感的に考えても通常仕様を5インチとするとサプレッサー装着を考慮した時に5.2インチ程となって14年式拳銃と殆ど大きさが変わらなくなってしまう。
西条を含めた上層部はアレより小型の拳銃をご所望だ。
よって全長は20cm未満としたいのでバレルの長さはこれが限界。
スチール製のスライドに、4インチまたは4.2インチのバレルを内蔵し、スチールのグリップフレームと組み合わせる。
スライドはいわゆる本来の未来などで「フラットスライド」あるいは「フラットトップスライド」などと呼称される、段差の一切無い平面形を持つカクカクとした真四角なスライドで、ここに斜めに大きな溝を掘ったセレーションを施してあり、耐久性を加味しながら手が滑りにくく確実な動作を可能とした。
フラットスライドはJARにも施されているが、これが錯覚を生じづらくして命中率を向上させるのだ。
ここに本来の未来では最新拳銃ではほぼ当たり前となっていたスリードットのサイトが組み合わされる。
グリップは人間工学に基づいたエルゴノミックデザインであり、手によく馴染む。
樹脂で成型されたものを採用予定のグリップパネル1つとっても抜かりない。
また、グリップはバックストラップやグリップパネルだけでなく、フロントストラップ部分もチェッカリングが施してあり、滑りにくくなっている。
トリガーガードは当初より軍での運用を想定した設計で大き目としてあり、手袋を身に着けた状態で指が入るように調整されている。
さらにグリップフレーム先端には重心点の調整と軽量化を目的としたスライドレール及びピカティニーレールを装備。
ここは現状ではCQC用のコンペンセイター用ぐらいにしか使い道がない構造となってしまっているものの、将来を鑑みて一応最初から搭載しておく。
恐らくスライドレールやピカティニーレールの意味を理解する者はいないであろうが、本来の未来で基本仕様とされていたのを変更すると工程数が減るメリットがある一方、再設計が非常に面倒なのでやらない。
一連の構成は本来の未来においても相応の価格帯の拳銃では当たり前となっていた仕様。
本拳銃も抜かりはない。
生産工数を減らせた余裕をこういう所で活かしていくわけだ。
当然にしてデコッカーやストライドストップ等の装置は全てアンビデクストラスことアンビ構造で、銃の両側で操作可能。
本来の未来においてCQCの発展と共に右利きでも左手で構える機会が増えた事から、銃のアンビ化は求められていたが、助力してもらった銃器技師の助言もあり他のメーカーに先んじる形で導入している。
というか同時期に開発に携わっていたJAR自体がアンビ構図であるので、そうしない理由がない。
可能性の未来からの情報では最新鋭拳銃ではアンビ構造が当たり前になっている事から、この構造は引き続き踏襲する。
といっても、可能性の未来からの情報及び本来の未来での試験等での意見によりマガジンキャッチについては左右交換式の方が良いという意見の組織もそれなりにいた事から、マガジンキャッチについては左右交換式の仕様も用意してどちらにするか検討。
使用弾丸は9mmパラベラム弾。
ここについては本拳銃開発時点から9mm仕様を基本とし、他の弾丸としてはより強力な.40S&Wにのみ対応できるようにしていた名残である。
現状においてはそもそも.40S&Wという拳銃弾がこの世に存在しないのと、装弾数と威力、そして調達容易な弾丸を考慮すると9mm以外の選択肢はない事から9mmパラベラム弾とする。
なお、ただの9mmではない。
本来の未来において試作品に.40S&W仕様が存在したように強装弾が使用可能だ。
短機関銃用の9mmをそのまま使える。
元々本銃はNUPへのアピールも考慮した設計とすべきとP250に関与した銃器技師に促され、将来を見越して.45ACPモデルも多くのコンポーネントを共有したまま一部のパーツを大型化するだけで別途作ることができるよう予め設計してあり……
弾丸が大きいのでそのままでは.45ACPに対応できないが、計算上だけであるなら、そのままの状態でも.45ACPすら余裕で撃てるほどに頑丈に設計している。(パーツの大型化の必要性は弾丸の大きさによりスライドやグリップフレームの大型化をしなければならないため)
その設計的余裕から9mm強装弾なんて全く問題なく撃てる。
徹底的に頑丈な設計にした結果、スチールフレーム仕様では信じられない程に重くなってしまい「小ぶりな癖に見た目の5倍は重い! こんな重いコンパクト拳銃があるか!」――なんて試験に供した軍関係者が愚痴をこぼすほどだった。
その重さなんと空マガジン装填状態で1.14kg。
現状の世界を見渡すと同じ9mmパラベラム弾を使用するP38が950g、ハイパワーが920g、NUPが後に採用するM9が970g、M9のライバルたるP226が845gと、この手の銃より約200gも重い。
M1911A1ですら1.13kgなわけだから、小ぶりなサイズに対してアイツより重いのだ。
すべては生産性と信頼性と耐久性の確保にステータスを全振りしたため。
代わりに重量が犠牲となった。
重量面についてはアルミフレームとしても980g、ポリマーフレームとしても775gと、他のポリマーフレームの拳銃がフルサイズでも600g台な中、かなり重い方である。
代わりにストライカー方式の長所を完全に活かした形で装弾数は複列式弾倉仕様による17+1発となっており、標準仕様で十分な装弾数を確保している。
このマガジンは可能性の未来からの情報により内部構造をよりブラッシュアップした最新鋭のスチール製マガジンを採用する気でいて、本来の未来における本拳銃は15+1発仕様であったが、グリップ内部の構造を見直すことなくマガジンが一切出っ張らない状態で17発が難なく装填できるようになっている。
これは現状最も装弾数が多い拳銃であるハイパワーより4発も多い。
さすがにポリマーフレーム全盛期の銃が20+1発などと装填できることからすると劣るが、十分な装弾数だ。
現時点で9mmパラベラム弾仕様でありながら17+1発も装填できる拳銃なんて他に無い。(しかも強装弾仕様)
これもストライカー方式によってグリップ内部の空間に余裕があるからこそできる業だ。
通常のトリガー式だとシアースプリング等が埋め込まれているため、空間的余裕がない。
いわゆる複列式弾倉というのは、弾丸を真横に並列で並べているのではなく、一定の間隔でジグザグに重ねている。
このため、装弾数はマガジンの太さに比例して増やせるわけであるが、当然にしてグリップの太さには限度があるわけだから簡単には増やせない。
ポリマーフレームの銃は一体成型に出来る長所を活用してグリップ自体の肉厚を薄くすることでマガジンを太くして対応するところ、同じ4インチのスチールフレーム型コンパクトハンドガンでハンマー方式の銃の場合、マガジンが出っ張らないようにした状態だと内部構造の影響によりどう足掻いても9mmでは15+1発ぐらいが限界。(可能性の未来の情報によりハイパワーは将来17+1仕様になるそうだが、本拳銃より二周り程も大きいフルサイズ拳銃である)
一方で構造的に何もかも排除できるストライカー方式では、マガジンを装填するグリップ内部に大きな空間を確保できる。
この長所を逆手にとってグリップの太さを細くできる利点は、体格のすぐれない皇国人がストッピングパワーに優れたより大口径の拳銃弾を使うにあたって魅力的だった。
皇国が自国向けの国産拳銃としてストライカー方式に拘っている理由はまさにそこであり、西条からの指示でもストライカー方式こと撃針方式は絶対条件として提示されている程。
実際問題、ポリマーフレーム形式の将来の銃は体格に合わせてグリップの中に空洞を設けた上でグリップの大きさを大型化させているぐらいで、かなりの空間的余裕がある。
それこそ装弾数を増大させるためにいかようにも活用できる程に余裕がある。(例として可能性の未来ではP365-XMacroと呼ばれる3インチサイズのPPK/S並みのマイクロコンパクトハンドガンが9mmでありながら17+1発仕様で登場している)
皇国人にとっては、この空洞を無くしてしまえば相応に手に馴染む大きさとなるわけであり、俺は可能な限り装弾数を確保しつつ、現代を生きる皇国人でも手に馴染む大きさに調整している。
そこに可能性の未来からもたらされた、より小型と出来るマガジン構造のノウハウを投入することで、4インチのコンパクトハンドガンでありなががら17+1発を実現化させてみせた。
一連の仕様のまま現在の世界で作れるのだ、この拳銃は。
1つ懸案事項があるとすると冷間鍛造。
冷間鍛造は2595年に第三帝国で発明され、その技術を欲した俺が2597年に皇国に持ち込ませた。
機密として徹底的に隠していた第三帝国であったが、皇国側からそのような存在があるであろうと指摘し、その上でライセンス購入を打診すると同盟関係の立場もあり渋々工作機械ごと受け渡してきたのが現状である。
といっても受け渡されてきた工作機械は未完成。
第三帝国内でも完全な状態とならないまま本来いた世界でも使われていたが、この冷間鍛造の技術を完全に仕上げてアルミ等の軽合金以外にも使えるように昇華したのは本来の未来における戦後の王立国家とNUPであり、皇国だけでは戦中にそれなりの段階に至らない可能性を考慮した俺は既に王立国家とNUPに本技術を公開している。(どうせ戦後になったら奪われる技術であることは確定的であるため)
ともかく、少し装置類の改良を行わねばならぬのであるが、改良するためのノウハウは頭の中に刻み込まれているので本拳銃の量産にあたって導入された工作機械を改造する形で冷間鍛造についても本格的に用いていく事にする。
冷間鍛造については本来の未来でもハンマー式の拳銃ですらハンマー等の一部のパーツの製造に導入されるほどで、生産性を上げるにあたって銃器類では欠かせない製造法の1つ。
チャンバーの製造に導入しようと思ったのも部品製造への導入実績があっての事。
今後の銃器製造にあたっては必要不可欠である技術でもある事を鑑みたら、このあたりでモノにしてていきたいところ。
そんな製造現場の未来をも託そうとしている拳銃の諸元をまとめるとこうだ。
全長18.7cm
全高13.5cm or 13.6cm(デコッカー装備モデルは13.6cm)
バレル長4.0or4.2インチ
重さ 1.14kg
使用弾薬:9mmパラベラム弾(強装弾対応)
装弾数 17+1
トリガープル 4.3~4.4ポンド
将来の様子を見ても拳銃としては無難にまとまっていると言える。
この状態で部品点数についてはデコッカーが施された状態で41、それすら排除すれば37だ。
部品総数が50以上が当たり前である現状、最も少ない状態で37という数字はかなり優れていると言える。(例として1911A1が52~54、ハイパワーが55である)
トリガーセーフティ等を入れて、バックストラップも交換できてこれなんだ。
生産性、部品点数、性能。
ありとあらゆる点を見直した拳銃……
今いる世界も試作品までは作ることになる。
試作品を製造し、トライアルにぶつける。
ユーグやNUPでですら重すぎると言われた仕様にて登場するであろう存在が、果たしてどういう結果を生み出すのか……見守るしかないだろうな。
【拳銃のモデルイメージ】
ワルサーQ4 SF + CREED + SIG Sauer P320を3で割ったような銃。
なお作動機構はワルサーPDP SFを参考に描写