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航空エンジニアのやり直し ~航空技術者は二度目に引き起こされた大戦から祖国を守り抜く~  作者: 御代出 実葉


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317/342

番外編21:鷹狩によって制空戦闘機の座を奪われた鷲

 やあ、みんな。


 最新のNUPの軍事事情をサイトを通じて速報でお伝えする、私ことロージーのミリタリー大百科の記事をいつも見てくれて感謝しているよ。


 今日は他でもないF-16 ファルコンについての話題だ。


 つい先日、途上国向けへの供給配備及びそれに伴う増産が決定されたと思ったら……驚くなかれ、なんと我が国空軍においても既存のF-16を最新のF-16に置き換える計画が進行中であることが先程公式にて発表された。


 誕生からすでに半世紀過ぎているコイツは一体いつになったら量産が終わるのだろうな。

 といっても中身はもう別物ってぐらい違うらしいので50年前と同じ機体ではないそうだが。


 ミリタリー系の映画でも登場機会も多すぎて飽きてくる程だが、やはりローコストというのは現代においても強みを持つという事なんだろう。


 ようはF-35は思った通りの戦闘機として仕上がってはいなかったという事でもある。


 新たな汎用戦闘機として世界中の戦闘機を置き換えて採用されるステルス戦闘機という話はどこへ行ったやら……その立場を確固たるものとしてるF-16が結局は量産され続けるわけだ。


 いい機会だから、各所で語られすぎて逆に最近ではあまり語られなくなったF-16について改めて触れておこうか。


 F-16 ファルコン(皇国名:36式軽戦闘機 隼)。


 この機体はF-15の開発計画が思うように進行しなかった裏で危機感を抱いた戦闘機マフィアと呼ばれる集団が暗躍し、最終的に開発計画が了承されて誕生したものだ。


 当時、ミサイル万能論等を掲げたNUPでは次の世代の戦闘機というのはマルチロールファイターであり、これを満たすには機体の大型化はやむを得ないという判断がなされていた。


 実際には背後でユーグ諸国や皇国がいかに機体を大型化させずに所定の性能を満たすかで切磋琢磨していたが、我が国ではそんなことをやっていたら逆に中途半端な性能になって望んだ形にならなくなると考え、妥協していたわけだ。


 その妥協の姿勢が我が国の技術力不足そのものを表していたことに気づいたのは、他でもない皇国の35式主力戦闘機の試作機が航空ショーにてお披露目された時である。


 全長17.12mしかないコイツは、まさに皇国が描く万能戦闘機のお手本とも言うべきもので、これがありとあらゆる面で開発中だったF-14やF-15を凌駕していたものだから、我が国は大きな衝撃を受ける事になる。


 特に衝撃だったのはエンジン。


 公開されたエンジンの出力はF-15に搭載予定だったF100よりも大幅に小型小径でありながら、推力では1.5倍。35式主力戦闘機はこれを双発で搭載していた。


 燃費の面ではF100よりも35%以上も改善されており、それでいて部品点数はF-100より少ないという……洒落にならない程の、我が国からしたらオーパーツかと言いたくなるようなものとなっていて……


 そして皇国はその心臓部についての詳細をあえて全面公開するという行動にすら踏み切った。


 理由は我が国がF100を大々的に各国へ向けて供与・販売しようと画策してたからに他ならない。


 皇国は自国のエンジンこそ西側標準にしたかったし、量産効果によって値段を落とし込みたかったので、最新の中の最新……しかも最大推力が167kNにも及ぶ全く新しいスーパーエンジンのライセンス生産やノックダウン生産等を含めた供給について前向きで、既に王立国家などとは契約を結んですらいた。


 信じられない事に我が国への供給すら阻止しない姿勢であった背景には、35式主力戦闘機の製造コストを少しでも下げたかったからと言われる。


 こんな状態になってしまった結果、財政面で不安が生じていた我が国ではF-14及びF-15に対する不満が爆発し、議会にて徹底的な糾弾がなされた。


 その隙を突いてきたのが戦闘機マフィア達だったのである。


 かねてよりボイド大佐を中心とした戦闘機マフィア達は戦闘機は小型軽量で運動性能が高く、加速性や上昇力に優れたものであればあるほど優秀であるという持論を展開していた。


 扱いやすく、パイロット育成の負担も少ない戦闘機を安価で大量生産出来た方がよほど軍事力を維持できるというのが彼らの主張だ。


 それに見合う機体は最大でも全長15m程で、ともかく安価で大量配備できて、それが同盟国内で標準的戦闘機として成立している状況が理想的であるとも述べていた。


 これを現実のものとするため、密かに政治活動に勤しんでいた彼らは驚くべきことに皇国やユーグ諸国とも手を結んでおり……


 議会が失敗しそうなF-15を省みて「とりあえずLWFという形で研究機か何かでも作ってみれば?」――なんて形で計画をスタートさせた矢先、皇国や王立国家などが名乗りを上げて共同開発という形になって一気に大波が押し寄せる事になる。


 当時王立国家やアペニンなどのユーグ諸国では、我が国が防衛力保持のためと称して押し付けたF-4などに強い不満を感じていた。


 あのデカすぎる戦闘機はある程度のマルチロール性能を保有していたが、弱点も多く、整備性も悪く、納得できる性能ではなかったのだ。


 そもそもユーグ地域で用いるなら戦闘機はそんなに大型化させられないというのが実情な中、無理やり運用していたのである。


 なので、ユーグはユーグで独自により小型で優秀なマルチロール軽戦闘機を開発しようかという機運が生じており、彼らは彼らで計画を練っていたところ、皇国から共同開発の話が持ち掛けられ、前向きに検討していたのだった。


 皇国が共同開発を持ち掛けたのは、35式主力戦闘機は主として専守防衛を目的として使われるものであり、運用コストはそれなりとなるのが想定されていた事。


 35式主力戦闘機自体もなんだかんだ安価で極めて優秀で、途上国でもちょっと無理すれば手が出せる価格帯ではあったものの、ステルス性能等を保持する事から技術流出を恐れて虎の子の切り札的戦闘機として用いてもらいたい考えがあったらしく、抑止力的な立場での運用を求めていたし、自国でもそうしようとしていた。


 すなわち世界各国で異常事態が発生した時に同盟国の立場として作戦等に参加する際に用いる、より安価で運用効率の高い、パイロットさえ守れればいくらでも落とされたとて出費が嵩まないマルチロール性能を持つ軽戦闘機の必要性を感じており……


 軽戦闘機と35式主力戦闘機との部品の共通化を図ることで35式主力戦闘機のコストをさらに下げて量産効果を高めようとしていたのである。


 それを把握していたボイドら戦闘機マフィア達は、彼らが考えていたマルチロール軽戦闘機とこちらが考える理想の軽戦闘機の状態が合致したことで手を結び……かくして誕生したのがF-16であるわけだ。


 全長15m

 全幅10.5m

 最高速度マッハ2.2


 このサイズ感で積載量に優れ、スパローなら最大8発、アムラームなら最大12発も搭載できる余裕がある。


 設計者にはあのMr.シナノや、なぜかいつの間にかNUP側の共同開発メーカーに転職していたハイネマンらも名を連ね、世界最高峰の航空技術者が一堂に集って設計したことは有名。


 ローコストに運用しなきゃならない機体であるからこそ、最高の頭脳が必要だったとも言われる。

 巷のサブカルチャーで描写されるローコスト兵器の開発者とは真逆の顔ぶれだった。


 外観は35式主力戦闘機と同様、主翼と水平尾翼の境界線が曖昧で無尾翼に見える程に隣接していて、双尾翼形式の垂直尾翼をを持つブレンデッドウィングボディ構造の小型機。


 エンジンサイズの影響で豊富な燃料タンク容積を持ち、航続距離に優れ、ある程度長時間の作戦活動が可能で空中給油も可能。


 航続距離や活動可能時間に関しても胴体下部左右にコンフォーマルフューエルタンクを装着可能で大幅に延長可能。


 Mr.シナノやハイネマンらの尽力によって果たされた部品点数の少なさは特長といってよく、徹底的に部品点数を減らすために当初NUP側の技術者は垂直尾翼すら単翼にしようとしたほどだが、そのプランだと別途エアブレーキを設ける必要性がある事から、垂直尾翼とエアブレーキを統一するこで部品点数をさらに削減できるということで双尾翼としたなど、とにかくシンプルで洗練された構造となっている。(胴体内はフレームが一体成型されていて驚くほどにスカスカだ)


 我が国採用機では史上初のダイバータレス式インテークを採用した機体でもあるな。


 そして加速性能はあの小型迎撃戦闘機であるMig-21と並んでいる。

 アダプティブエンジンがもたらす滑らかな加速によって単発エンジンながら高い加速性能と上昇力を持ち、いわゆる迎撃戦闘機としての運用も不可能ではない。


 F-15に劣っているのは搭載可能な兵装量ぐらいなもの。


 その運動性能と機動性能の高さから制空戦闘においては最強クラスと称され、とりあえずファルコンを保有しておけばファルコンより古い時代の戦闘機は一蹴できるという……そんな性能を持つ。


 というか下手するとファルコンが戦う相手は同じファルコンである可能性すらあるほど生産されている。


 総生産数は既に1万機を突破。


 今にしてみても信じられないのは、その後の歴史を鑑みても共同開発計画なんてその殆どが失敗して大変な事になっているのに、なんでF-16はここまで上手く行ったのかという事だ。


 開発から試作、そして初飛行までとにかく早かった。


 この理由として軍事関連の歴史研究家は「LWFはあくまで補助プランとも言えるもので、各国政府や軍上層部はそこまで本気の計画として捉えていなかったから」――と考えている。


 この虚を逆手に利用したのだとも。


 本当の意味での自国の技術全てを注ぎ込んだ主力の戦闘機は別にあって、あくまでこいつは「共同作戦とか展開する時にどこの国にも配備されている戦闘機とかあれば便利じゃない?」――程度にしか考えず、「あれが必要だ!」、「これが必要だ!」――みたいな外野のうるさい声が入って来なかったので、無茶な設計等なく当初掲げた通りの安価で高性能な機体に仕上がったとされる。


 補足しとくと、後に大量生産されて各国にて運用が開始され、諸外国内にてあれこれ必要だってなった時にそれらを搭載可能な汎用性もあったが、外野の声が入って来なかった結果、隙間だけ設けて何もしなかったことが功を奏したとか。(専用設計にすると汎用性が落ちるのだ)


 そして、その立役者となったのが35式主力戦闘機にて初めて本格的に搭載されたエンドポイントAIによるAIアビオニクスであったとされる。


 今じゃ別に当たり前すぎてさして語る事もないが、当時としてはあまりにも未来的すぎて世間がザワついた。


 何しろF-15はあくまで従来式のプログラム方式のアビオニクスであったし、コックピットも見てみればわかるがアナログ方式の計器もそれなりに点在しててHUDが搭載されていたもんだから、液晶画面によるグラスコックピットでHMDを標準搭載するF-16というのは未来的どころか「SF映画のための撮影機材か?」――なんて言われた。


 同様のコックピットは"とある映画"の架空のMig-31が装備していたため、試作機のF-16は「あれの対抗策的な映画のためのモックアップなんだな!」――なんて軍内部でも冗談半分で述べられたほどである。


 実際は飛行しているので彼らはそれが本当に飛べる試作機であることは知っていたが、あまりにも未来的だったということを象徴するエピソードだ。


 あくまでああいうのはまだ映画の世界でしか存在しないものだと思われていたので現実感を喪失していたわけである。


 なので、報道陣に試作機が初めて公開された時、コックピット内の電源が付いてなかったので前述の冗談半分の噂が真実だと勘違いされ、実物大モックアップだと思われたほどだ。


 テストパイロットでさえ乗った後の第一声が「30年先からタイムマシンで取り寄せた戦闘機ではないのか」――なんて述べるほど。


 エッジデバイスとエンドポイントAIを駆使したアビオニクスは、フライ・バイ・ワイヤ方式でありながらとても滑らかな機体制御がなされ、操縦時の違和感を全く感じないとされる。


 その上で自らが頭の中で描いた以上の空中機動を行う事が出来、自身がエースパイロットにでもなったかと錯覚するほどであったという。


 さらに戦術データリンクによってもたらされた情報から戦況をある程度予想してコックピット画面に敵や味方の予測進路を表示したり、自機が向かうべき進路を示す優秀なアビオニクスには、本当の意味での次世代機という印象を抱かせるのに足るものであった。


 F-16の試作機にはボイドも搭乗しているのだが、計画が進みはじめた時の設計段階でHMDの話が出てきたとき、実現可能性について疑念を抱きつつも、戦闘機パイロットというのはほぼ正面を見ないものであるところ、計器の状態は常に確認しておきたいのでHUD方式だとチラチラ前を気にする必要性があることから、"HMDならば作戦時に低下する応答性が補えるだろう"――と考えていたのだが、想像以上の状態に感嘆したという。


 F-16は単発エンジンであるが35式主力戦闘機と完全に統一されたエンジンによって三次元推力偏向ノズルとなっており、STOL性だけでなく凄まじい空中機動を行うことが可能で、HMD等を駆使して常に機体の状況を把握できるようになったことで、ボイドはテスト飛行の際に「お前の飛び方はおかしい」――とも言いたくなるすさまじいマニューバを披露している。


 これは実際に映像として残されているので私も見た事があるが、本当に言葉での説明不可能な空中機動だった。(水平飛行から突然側転したような動きを見せるのだ)


 それもこれも35式主力戦闘機からもたらされた技術の賜物だ。

 何を隠そう、AIやコックピット周りは35式主力戦闘機と全く同一のものなのだから。


 凄いのはF-16以上に35式主力戦闘機だったわけだ。


 皇国がいかにAI関連において高い技術を保有していたかがわかるのと同時に、惜しみなく投入してきたことについては今でも驚きを隠せない。


 ただ、理由としてはその方が改修も含めてランニングコストが下がるからとの事だった。


 AI化するとリプログラムの必要性がなくなり、学習だけでどうにかなるのでアビオニクス関連の改修費用等は大きく落ちる。


 F-16の恐ろしさはまさにそこにあるのと同時に、量産開始からすぐさま各国にてもてはやされた理由がここにある。


 各国が自国独自仕様の新兵装をいくら開発しても、F-16はパイロン接続が可能で機体規模が合えば搭載可能だった。


 アビオニクスの改修も全く不要な状態でだ。


 共同開発時のジレンマというのは、主として諸外国が独自兵装を保有していた場合に生じやすい。


 プログラム方式のアビオニクス開発では搭載可能な武装が多種多様になればなるほど開発難度が上がり、それらの武装がアップデートされたりしたら同時に多くの場合においてリプログラムが必要となるので改修費用もどんどん嵩んでいく。


 しかしF-16は、なんか射程の長いAAM、なんか射程の短いAAM、なんか標準性能っぽいAGM等、搭載兵器から送られてくる性能諸元からその武装を概念的に理解してしまうため、発射信号等のパターンが統一されているだけで苦も無く搭載可能だった。


 しかも学習可能で使えば使うほど使いこなせるようになる。


 私が好きな映画でもこんなやり取りが交わされたのは何度か紹介しているのでみんなも知っているだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~


「――えっ!? スカイフラッシュを使うんですか?」

「共同戦線を張っている王立国家空軍からの供与だ。今は基地内にスパローの在庫が無い。何か問題でも? 中尉」

「いえ……しかし我が国のF-16はスカイフラッシュの発射実績が……」

「なら学習させてくればいいだろう! ファルコンは君が本国で相棒としてきたイーグルとは違うんだ! 3発までなら許可する。標的機相手に覚えさせて来い! その学習データを作戦に参加する他のファルコンにインプットしろ! ――」


~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――スカイフラッシュについてはF-15では発射不可能なようにアビオニクスの改修が必要だ。

 だが、それはあくまでプログラム方式の話。


 AI方式では全く状況が異なり、プログラム方式の常識だけで考えると「お前は何を言ってるんだ?」――状態がまかり通る摩訶不思議なことが起こりえるのだ。


 映画ではイーグルドライバーとなった主人公が作戦時のミスから左遷されて前線送りとなり、とある紛争においてF-16のパイロットとなって戦闘を行う事になるが、序盤においてことさらF-15との違いを視聴者共々体感させてくる描写がなされている。


 ここでのF-16の描写は正確かつ秀逸で、この映画の大ヒットによってF-16がどういう戦闘機なのかをNUP国民に知らしめるのと同時に、以降の映画ではF-16ばかり登場する事になった。


 映画内だけの話ではあるが、"独立記念日に宇宙人共と戦った"事すらあるぞ。


 その時のあるパイロットの有名な台詞に「何が戦闘用の宇宙船だ! こちとら宇宙戦闘機と間違われたF-16だぞ!」――というものがあるが、これもF-16が登場当時どういう印象をもたれてたかを示す描写に他ならない。


 気づけばF-16は現実世界でも映像作品でもNUPの顔とも言える戦闘機となっていたが、この機体に標準搭載された各種システムや機器は後の時代において標準化を果たした。


 実はこれこそが皇国の狙いであり、ミサイル等の兵器を無理に諸外国で統一化するより、自国の戦術に合わせた兵器を簡単に戦闘機に搭載出来た方がいいし、簡単に撃てるようになるなら共同作戦時などでジレンマが解消されて苦労が減るだろうと、そしてこれがスタンダード化すれば各国がコックピット等の仕様を統一して35式主力戦闘機の製造コストが下がると考えてあえてF-16に導入させたとされる。


 また、当時我が国では急成長するAIという存在を脅威として捉えており、大衆を扇動しての反AI運動を展開しようとしていたが、これらの阻止のためでもあったとされる。


 今ではバカらしい事だが、AI搭載家電が人間の抹殺を画策してくるなんて一部の界隈で本気で言われた時代だ。


 皇国製の高性能家電などがバカ売れしはじめて自国のメーカーが窮地に立たされたことも影響しているが、本気でそんな主張を展開していた人々がいたのだ。


 これに対して皇国側は「貴方方が述べているのは、ある日突然体内の臓器が裏切ってあなたを殺すために呼吸を止めたり、心臓を止めると言っているようなものだ。そのような事例が体内で生じた別の要因によるトラブル以外で確認できるというなら証明して下さい」――と、反論できない形で主張を一蹴した。


 皇国が開発しているエンドポイントAIというのは、ある動作にだけ特化されていて学習するため、大脳ではなく脊髄や小脳といったものに極めて近い。


 各部に施されたエッジデバイスは、一定の働きだけを常に行う臓器や血管に近いもの。


 実際には統括制御するAIが人間でいう脳に近い働きをするが、これも決定木によるシンプルな形でのもので、意識というようなものは持ち得ていないとされる。


 ただ、人間側が一連の状態から戦闘機を擬人化して捉えてしまう事がままあり、往々にしてこの点については議論が交わされているのも周知の事実。


 何度かネット上でも話題になったが、F-16のパイロット達が退役時に自分の愛機を前にして号泣する写真があるだろ?


 あれな、当時雑誌に掲載されたもので世間でも騒がれたんだよ。


 まるで親友との今生の別れであるかのような、見る人によっては異様な光景だが、AIアビオニクスの戦闘機というのは戦場で共に命をかけて戦っていくとそのうち"奇妙な間柄"となっていくらしい。


 冗談抜きで退役したら鬱病を発症する人間もいるんだぜ?


 愛機だった機体が後輩パイロットによって落とされて精神的苦痛を受けたとして本気で訴訟を起こした者もいた。(もちろん棄却されたが)


 ファルコンロスってやつだな。


 あまりにも有名になりすぎたんで搭乗していた戦闘機がファルコンでなくともAIアビオニクス搭載機のパイロットが退役後に精神的に不安定になることをこう述べる。


 そしてついには退役したファルコン自体を再利用しようとする者すら現れた。

 彼らにとっては解体処分すら許容できなかったんだ。


 これもAI方式だからこそ出来る事。


 有名なのが"ジニー"だな。


 ジニーってのはクラーク・ハワードが愛機としていたF-16の仇名だ。

 あくまで本人が当時勝手に名付けた仇名であって、コールサインなどは違う。


 だが、とある雑誌記事での紹介以降、半ば公式名称と化した。


 ジニーについて紹介しとくと、こいつは当初ハワードから数あるF-16と同じ戦闘機として扱われていたにすぎないF-16ファルコンだ。


 彼がジニーをジニーと呼ぶようになったのは、ある出来事がきっかけ。


 とある紛争地帯での作戦活動時、ジニーとハワードは他の編隊と共に敵戦闘機とのドッグファイトに至ってしまう。


 戦いは熾烈を極めたが、何とか退ける事に成功。

 しかし、敵が最後に放ったミサイルが至近距離で爆発し、その破片がキャノピーを貫通してハワードの右太股を貫いた。


 これによって重傷を負ったハワードは失血により意識を失い、飛行中に気絶してしまったのだ。


 本来ならその時点で死んでいるはずだ。

 だが、次に目が覚めた時、彼は病室にいた。


 意識を失ったのにどうやって無事に戻ってきたのか。

 すぐさま彼が上司に伺うと「ファルコンがお前を送り届けてくれたんだ」――と、信じられないような話を聞かされる。


 実はF-16……自動操縦による着陸が可能だった。


 ただし自動操縦による着陸は緊急時限定で、パイロットが意識を失った時などに限定される。


 F-16では皇国が開発したフライトスーツの装着が義務付けされていたが、こいつは通電する銀繊維で出来たもので、体温だけでなく発汗量や出血量をモニタリングできるようになっていた。


 いわゆる着るウェアラブルデバイスってやつで、これによってパイロットが意識を失ったと判断すると自動的に緊急モードに切り替わる。


 そんな高性能な自動操縦が出来るなら普段からやっておけばいいのにと思うかもしれないが、さすがに当時の技術では成功率50%ぐらいで、多くの場合で機体が損傷してしまう。


 だから緊急時なら四の五の言ってられないし作動してもいいだろうってことで普段は封印されていたのだ。


 実はこの仕様についての説明を一部の部隊では怠っており、ハワードはそんな機能がF-16にあることを知らなかったのである。


 ハワードが意識を失った時、それに気づいたジニーはすぐさま緊急着陸モードへと切り替わったが、見事に着陸を成功させ、また出血量から彼がそう長く保たないことを把握したジニーは最大速度でもって近くの味方基地へと飛び、見事な着陸でもって彼を救ったのである。


 この姿は映像、音声、共に残されており、何とかして意識を取り戻してもらおうと声をかける他の味方からの通信や、自動操縦で着陸するファルコンに意味もなく声をかけつつ管制誘導を試みる管制官の通信記録、そして着陸速度が超過気味の状態でありながらも見事な着陸を果たしたジニーの姿は後に公開されたので私達も知る所だ。


 以降、ハワードは愛機にかつて少年時代を共に過ごした愛犬と同じ名前であるジニーと名付け、退役するその日までを過ごした。


 彼の人生の転機となったのは退役後しばらくしてから。

 退役後の彼はジニーが配備されている基地付近に居住するようになり、度々様子を見に来るようになっていた。(清掃員の仕事などを請け負い、基地内を出入りしていたとされる)


 そんなある日の事。

 

 軍の年報を見ていると古くなったF-16の更新が行われる事を知り、解体処分予定の機体番号の一覧に見慣れた数字が列挙されている事に気づく。


 ジニーだった。


 かつて生死を共にした相棒は所詮は機械。

 我が国は永久保管する予定など無く、他の戦闘機同様に処分していたのだ。


 当初は仕方のない事と自分を納得させようとしていたハワードであったが、自身の命を救ってくれた存在だけに忘れる事が出来ず、どうにかしようと行動を開始する。


 一応、払い下げでの購入も不可能ではなかったが、とてもではないがハワードが購入できる額ではなかった。


 そこでハワードはコンピューターに詳しい友人のリチャードに相談し、彼よりAIとエッジデバイスだけ買い取ればいいんじゃないかという助言を受け、借金をして最終的にジニーを成すモノの入手に成功する。


 成功したはいいが、どうしようかと考えていたところ、自身の趣味であるラジコンを活用する事を思いつき……


 ジニーは再びF-16 ファルコンとして復活を果たす。

 1/3サイズにダウンサイジングされたジェットエンジン式ラジコンとして。


 何とかして再びジニーを空に戻してやりたかったハワードはAI研究に没頭し、機体の規模や仕様が全く異なる航空機のアビオニクスとして運用できるようにする再学習方法を編み出したのだった。


 これは学習可能なAIアビオニクスであるからこそ出来た芸当であったとされるが、彼の話が雑誌で取り上げられるとすぐさま彼のもとにファルコンロスを患った者たちが押し掛けるようになり、気づくとハワードはAI再雇用サービスを展開する企業のCEOとなっていた。


 しかも別にラジコンという形式にこだわる必要性は無いことに気づいたハワードは、当時はまだプログラム方式が当たり前などころかAIアビオニクスなんて搭載なんてしていないことが当たり前である軽飛行機等に再学習させたAIを搭載する事を思いつき、多くの元戦闘機パイロットが退役後も軽飛行機等を趣味としている状況を逆手に取ったサービス事業を展開。


 これが大当たりし、AI再利用……もといハワードの言葉を借りるならAI再雇用ビジネスというのが成立するようになる。


 収益によってジニー自身も軽飛行機に再移植されて再び空を舞うようになり、ジニーは今もハワードの自家用飛行機として第二の人生を彼と共に歩んでいる。


 ジニーを筆頭に、戦場でパイロットと生死を共にしたAIというのは、その多くがハワードが興したファルコンテックに買い取られ、大型ラジコンや軽飛行機に再就職するようになっていった。


 特に軽飛行機分野では標準搭載すると価格が大きく上乗せされてしまうので憚れるところ、再雇用AIであればより安価とできるのであえて簡単に搭載できる構造的余地を残してファルコンテックなどのAI再雇用サービス事業者と提携して簡単に搭載できるようにしていった。


 今じゃ大型貨物機に搭載した事例すらあるぐらいだ。


 アビオニクスやコックピットの仕様をすべての航空機で統一したい皇国によって規格統一されたコックピットが登場した事により、そんな事も可能となったんだ。


 骨子となるAIや関連システムは35式主力戦闘機やF-16と変わらないからこそ出来たこと。


 これも35式主力戦闘機の価格を下げるためであったとされると同時に、将来におけるパイロット不足等の不安を解消したいがために"相互乗員資格"が活用できるよう諸々統一しておきたかった皇国と、その意思を尊重したユーグ諸国によって果たされた事だ。


 概念的に理解するのはミサイルなどの攻撃兵装だけではなく自分自身であるからこそ、小型旅客機から大型旅客機までシステムを統一できる。


 このため、AI自体を別のものと差し換えても規格が同じであれば機能させることが出来た。

 

 未だにボーウィンは独自路線を貫くが、ボーウィンの旅客機の売り上げが落ちてきている原因には同メーカー内でですら統一されていないコックピットやアビオニクスの仕様にあるとよく言われる。


 わけわからない所で己が道を行くなんて拘るからそういう事になる。

 自動車のハンドルやスイッチ類の配置がほぼ同じなのに、なんでより安全性が求められる航空機である程度統一しないのかって話だ。


 さすがにボーウィンも次の世代の機体はユグバスや皇国の航空機メーカーが標準規格として採用したユニバーサルコックピット仕様にもできるようにするらしい。


 できるようにってのがボーウィンの意地と執念を感じさせる。

 幹部級が未だに拘っているのだろうが、素直にF-16のように統一すればいいものを。

 誰が買うんだよ独自仕様のものを。


 巷じゃ737のパイロットはそれなりにいても、旅客機パイロットの大半はユニバーサルコックピットのライセンスを受けている人ばかりだろうに。


 今更最新鋭ですからって一からまた学びなおす余力がある航空会社がどれほどあるのか知りたい。


 ボーウィンは結局制空戦闘機としての立場を奪われて攻撃機とされたF-15の大規模改修時にあっさりとF-16のコンポーネントをぶち込んでAIアビオニクス化させてエンジンまでアダプティブエンジンに変更させて実に機体構造の75%を再設計した、もはやイーグルという名前だけが同じ別の戦闘機である"F-15E"を作り上げた功績があるのに、旅客機で同じことが出来ないのか。


 攻撃機化する計画は買収前のF-15を開発したメーカーによって立案されたが、これ以上イーグルに予算をかけられないってことで事実上見送られて運用法だけ攻撃機として変更された状況から、どうやってメーカー買収後のボーウィンが予算を獲得してF-15Eとしたかも不明ながら、今日でもF-15がまだ何とか立場を堅持できているのは素直に妥協したからだ。(一説にはF-22開発にあたってのデータ収集を目的として予算を通したとも噂される)


 その精神を忘れてはいけないと思うんだ私は。

 時として譲らなければならない事もある。


 こうやって考えていくとありとあらゆる面でF-16は我が国に大きな影響を及ぼしたと言えるな。

 同時に今でも増産されるのは現在の軍上層部にファルコンロスを患っている者がいるからなのではないかと思えてきた。


 いや、事実としてF-16は現在でも最優の戦闘機と言われるし、かくいう私も元空軍パイロットなのでファルコンにそれだけのポテンシャルがあるのは理解しているつもりだ。


 逆に後継機開発がこれほど難しい戦闘機もない。

 キープコンセプトでより時代に合わせた状態にするのは不可能なんだろうか。


 一機あたり750万ドルってのはやっぱ安いのか。

 だとしてもさすがに半世紀以上前の機体ってのは少々古い気がしないか。


 みんなはどう思う?

なお、隼が皇国内にて一躍有名となったのはエリア8と呼ばれる作品にてひょんな事から傭兵となってしまい過酷な運命を義務付けられた主人公が恩義を感じた戦友のために戦うと決意した時に、その戦友が軽戦闘機指向の彼のためにと武器商人を通じて調達してきた最新鋭機が本機であり、作品後半を象徴する主人公機として最終決戦まで活躍したためである。

一部の世代で35式主力戦闘機との人気の差が逆転している理由なのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] F-16がこれだけ高性能だと、この後に求められるF/A-18のハードルが凄く上がってる気がするけどもF-16のデータが手に入ってるので、いい感じのは作れそうな気はするけども求められてる性能が…
[一言] え!?ムーアの法則が出来る前から深層学習の実用化を!? 信濃サン「出来らぁっ!」 将来的には戦闘機のAIからペットロボやメイドロボにTF,TSさせる変態士官が現れそう(偏見)
[良い点] パイロット(宇宙飛行士) と魔女のホームドラマ 「かわいい魔女ジニー」 っていう、むか~しの 海外ドラマを思い出して しまいました。
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