第198話:航空技術者は機関砲を採用する(前編)
さて、本機の内部骨格を改めて説明しよう。
基本骨格の構造部材は7000系アルミ合金。
すなわち、本来の未来において超々ジュラルミンと呼称されたものの完成系。
後の未来においては俺がやり直す頃ですら不変であったアルミ素材である。
なおこれはあくまで俺の個人的予想だが、恐らく俺がやり直して10年もすれば新型航空機への7000系アルミ合金採用比率は下がり、より強度の高いアルミリチウム合金へと置き換わっていくであろうと予測される。
アルミリチウム合金。
従来の超々ジュラルミンを筆頭としたアルミ合金はボーウィンの影響でボーウィン以外のメーカーが使用しようとするとメーカーよりボッタクリ値段を吹っ掛けられてしまう事も相まって、これと同価格かそれより低価格で超々ジュラルミンを越える合金を目指して開発された最中に見いだされたもの。
基本的には従来までのアルミ合金と似た特性を持ち、長所短所も加工方法における特性もほぼ変わらない。
しかしその強度は炭素繊維やエポキシ樹脂を併用した複合素材に迫り、加工の自由度から形状次第では強度が複合素材をも上回る、21世紀へ向けた新世代の素材なのではないかと20世紀中に期待されたものだった。
だが残念なことに合金精製時において大変に不純物が混ざりやすく、これを排除するために極めて高精度な精製を可能とする機器が必要なため、歩留まりも悪く今より50年後の未来においては炭素複合素材より高価な純金並のコストを要求する素材なのであった。
この価格差が逆転し始める傾向を示した時期こそ、俺がやり直す直前。
相次いでより不純物を安価に排除できうる加工法等が見出され、ブレイクスルーが生じはじめていたのだ。
恐らく2680年代以降、旅客機にも積極採用されていったはずであると予測されるが、残念ながらその姿を拝む前に過去に戻ってきてしまった。
実はF-35では軽量化が求められ、開発当時は質量換算で複合素材より7倍も価格が上回るにも関わらず、将来の価格低下すら見据えて複合素材では形成不可能とされた複雑な形状のフレームの一部の構造部材にこのアルミリチウム合金を使用していたのだが……
現段階では皇国だけでなく世界の技術力不足により手に入らぬ夢の素材であるため、本機に関しては7000系のみを使用して骨格を作る。
重量面では負けるが、それでもF-16時代よりは先進的な構造にする。
図面を見てもらえばわかるが、骨格を形成するフレームは多主桁構造でありながら思った以上に隙間だらけでフレーム構成部材が少ない事に驚くことだろう。
これはF-16でもそうであったが、F-16は翼の主桁が一般的なIビーム桁であったところ本機ではF-35に近づけた複雑形状フレーム桁とする。
加工方法はNUPでつい先日実用化されたばかりのアルミ合金に使用可能な熱間ブロー成形法を用いる。
ブロー成形とは中空成形などとも業界で呼称される加工方法だが、名前の通りガスを用いた圧力でもって部材を金型に押し付けて成形する方法。
長所は押出材とは比較にならない程の複雑形状と出来る事。(押出材は押出材で非常に複雑な形状のパイプなどを作れるが、こちらは桁やボディ用の板などを成形できる)
従来までのただガスを用いて成形する方式では金属だと圧力をかけても成型後にスプリングバック等が生じたり、一部の部位に強烈な負荷がかかって断裂が生じたりして加工不可能だった。
ブロー成形自体は既に今より約90年前に発明され、主として樹脂製品に向けて用いられている確立された枯れた技法であるが、金属系の製品に向けては高熱高圧のガスを均一に型に押し付ける事が難しく、理論上では40年以上前からこれでアルミ合金等を極めて複雑な形状に形成可能とできるとされていたものの、実現化までは技法が発明されてから約90年もの期間を要した。
そこを実用化したのがNUP。
彼らは樹脂を用いた加工品の大量生産法確立を目指し、やや低温ではあるものの熱間ブロー成形法の発明及び実用化に成功し、そしてそのガスをより高温かつ均質化して型に押し付けるように改良することにまで成功したことで、アルミ合金のブロー成形を可能とする成形機材を発明していた。(実はすでにブロー成形を用いたプラスチックボトルなどの販売もされはじめている)
後に2603年に特許をも取得しているが、2602年初頭現在、この成形加工機械は一般販売されているのである。
それもそこまで高価というほどではない金額でだ。
本来の未来なら100%手に入らない存在であったが……今は違う。
手に入るものを使わずにしてどうする。
なんたってブロー成形とは大量生産方法の1つなんだ。
複雑形状部材を機械的に量産することを可能とする技法なのである。
使わない手なんて無い!
ブロー成形されたフレーム自体はF-16でも使われた。
だがF-35ほど複雑形状と出来なかったのは当時の未発達な構造力学に起因する。
F-16では主翼と呼ぶべき部位と胴体と呼ぶべき部位の境界においてはアルファベットの「A」を横に倒したような別の治具のような構造材を用いて一般的なIビーム桁と胴体部のフレームをリベットあるいはボルト接合し、BWB特有の翼と胴体の境界線が無い形状の骨格を作っていた。
しかし俺の頭の中にはそこから約40年先の発展した構造力学的理解と計算式が眠ってる。
これらをフル活用し、さらに炭化ホウ素とアルミハニカム材等を併用した極めて強度の高い外板を併用すれば、複雑となりすぎないフレーム形状としつつ部品点数を大幅に減らすことが出来る。
F-16でも少なかったのに、さらに少なく、F-35に匹敵する状態と出来る。
さすがにフレームの多くの部分を一体成形として1つの骨格のようにし、アルミリチウム合金や炭素複合素材すら駆使して形作られていたF-35には劣るが、削り出し部材ばかりで構成部品の1つ1つがちょっとした貴金属より高価とされたF-22より先進的で安価で合理的だ。
こいつを駆使することでフレーム部品点数を大幅に削減しつつ、BWB構造に即した機体形状にて量産を可能とする。
フレーム構造部材は1つ1つが全く形状が合わない独自の形及びサイズを纏った部品で構成されるが、それらが部品単位で大量生産されて組み上げれば形となるようにできるんだ。
未来の一部の自動車がアルミ合金を採用してブロー成形でもって同じようにボディが作られていったのと同じだ。(あちらはもっと複雑な形状の部品を溶接して組み合わせていったが……)
成形方法については既に皇国内でも確立された押出材による部材も併用するが、両者を上手く混合しながら最もコストがかからない方法でもって作り上げる。
斜め上から見た胴体フレームの状態を見てほしい。
まるで動物の骨かと見まがうほどだ。
胴体と翼の主桁は1つの部品で構成され、多数の主桁でもって胴体ごと主翼を形作る。
そこにさらに部品点数を減らした外板をあてがい、リベットを打ち込み、あるいはエポキシ樹脂で接着して主翼と胴体を作るのだ。
これは機体サイズが小型機だからこそ現時点の技術力でも可能だからやる事なのだが、F-35と同様、主翼部位のパネルは点検口を設けた上で基本上下で2枚とし、左右で4枚の外板で構成する。
点検口は一体化した状態だが取り外し可能。
よって原則は1枚だが実際には点検口部分のいくつかのパネルは独立しているとも言えなくもない。
恐らくこのためには超高分子量系の非金属素材の発見も必要だが、"なぜだか見つかってくれるような予感がするため"――徹底的に部品点数を削るために外板の数すら必要最低限にまで減らす。
主翼から先の中央の胴体部位も上下で2枚。
2枚でエンジン部位すら覆う。
こんな感じでインテーク側なども数枚の少ない外板を必要最小限のリベット止めあるいはエポキシ樹脂による接着でもって整え、全体形状を形作る。
外板を減らせば繋ぎ目も減る。
減った繋ぎ目にもパテを充填して凹凸を減らし、表面の抵抗を減らす。
三位一体構造も忘れていない。
機体はエアインテークとコックピット等を持つ機体前部、主翼を持つ機体後部、そしてエンジンで構成される。
エンジンは本来の未来におけるA-4と同様、機体前部にボルト数本で固定。
機体前部と機体後部のボルトを外すことでスポっとまるでエビを食べる時に皮をむくようにしてエンジンを剥き出しの状態にすることが出来る。
当然整備性は大幅に向上。
エンジン自体の交換も簡単で、機体前部からエンジンを外すのも殆ど時間がかからないようにする。
前部と後部からのアクセスは良好で、各部の機器の整備は胴体を真っ二つにして行う。
それこそ両者共にエンジンを取り外せば人が入るスペースがあるのでそこから各機材の整備や調整、取り外し等を行えるようにする。
これによって整備時間の大幅な削減や整備要員の労力の大幅な減少にも寄与するはず。
ここは疾風でも相当がんばった設計であったが、BWB構造とするからと言っても本機にて状況が変る事は無い。
妥協しない機体形状とするから整備性が落ちるのも致し方ないという考え方は軍用機設計者としては失格。
整備性を落とさないために機体形状を妥協する事すら厭わないのが正しい設計者の在り方。
俺の場合はあくまで未来の知識を知るからこそ両面を徹底的に突き詰める事が出来るが、これは俺の後に歩んでいく後継者達にも踏襲してもらいたい所だ……
さて、このようにフレーム形状において妥協しない事で、ある長所が生じている事に気づくだろう。
そう、F-35と同様、内部空間にはかなり余裕があることが見て取れるはずだ。
もちろんこれは燃料搭載容積の増大にも寄与するが、翼自体の主桁も減らししたことで生じた余裕ある内部空間により、フラップ類もかなり強力なものを装備することが可能となった。
必要となる作動のための油圧機器を押し込めるようになったためだ。
俺は当初前縁フラップについてはA-4と同様、速度に合わせて大気の圧力に応じて自然に稼働する方式も検討した。
これなら油圧部品を排除できるのでその分の余裕を後縁に回し、より強力な後縁フラップを装備することが出来るからだ。
しかしやはり速度や迎角に合わせてすべてのフラップ類は自動で精密動作するようにした方が理想であるし、それらを細かく統括制御する信頼性の高いアナログ計算機についても小型機ながら押し込めるスペースが欲しかった。
当然押し込めるだけの十分な余地があるので、ここも妥協しない。
機体重量が当初案より軽量化された事とフラップ類がより強力となったため、現状のまま作り上げることが出来れば武装状態でも整地された滑走路ならおよそ750mでの離陸を可能とするはずだ。
これはより優れたBWBに即した胴体形状をもあってこその短距離離陸能力だが、本機においては不整地での簡易滑走路への着陸も行えるようにしなければならないため、機体の着陸脚におけるタイヤ1つとて妥協しない。
ナイロンコードを用いたバイアスタイヤだ。
航空機においては着陸時のそのあまりにも強い衝撃からラジアルタイヤは向かず、俺がやり直す直前において合成ゴム関係のブレークスルーからようやくラジアル化の目途が付いてきたぐらい耐衝撃性能の高いバイアスタイヤが主流。(しかもチューブ方式)
恐らく2680年代頃にはアルミリチウム合金と共に旅客機にもラジアルタイヤが標準仕様として採用されていくものと予想されるが、現状ではアルミリチウム合金共々、こちらも手に入らない夢の産物。
より軽量で耐摩耗性に優れ耐久性の高さが売りのラジアルタイヤは自動車を中心に世界のデファクトスタンダードとなったのだが、航空機の世界ではそうではなかったのである。
そんなバイアスタイヤでも戦中において最高峰の強度を持つのがタイヤコードをナイロンとしたもの。
ナイロンは将来のタイヤコードの標準形式の1つとして定着するほどであるが、当時ナイロンコードを施した高性能なバイアスタイヤを量産して運用できていたのはNUPのみであり、皇国のものは良くてレーヨン、そうでなければ綿コードという天然素材を用いたタイヤなのであった。
着陸速度が低いプロペラ機ならまだしも200km/h以上もありえるジェット戦闘機でこのような素材を使うのは正直言ってリスクを孕む。
ましてや不整地での離着陸なんてまともにできるはずもない。
万が一簡易滑走路においてバーストが生じ、滑走路逸脱からの事故によってパイロットの命を奪うなんて事になったら洒落にならない。
ゆえにG.91でも採用されていた低圧仕様のナイロンコードを用いたバイアスタイヤを使う。
現状の試作機である疾風については従来方式のレーヨンを用いた国産タイヤであったが、これは疾風が整備された滑走路ででしか運用されない事から何とかなるだろうと妥協した面がある。
本機においては不整地での短距離離着陸も可能とするため妥協せず採用するというなら、疾風に先行装備させて運用試験を行い、データをフィードバックしながら両者において標準仕様とする。
タイヤコードのナイロン化の技術はNUPが持つが、皇国でも高い技術力を保有するストーンブリッヂならさほど時間もかけずに国産化可能なはずだ。
何しろストーンブリッヂはNUPの耐久試験を突破して輸出販売を許可されたメーカーの1つ。
他の国産メーカーだって決して技術力は低くない。
ナイロンという存在に気づいていないか、入手性から市販に至っていないだけ。
ストーンブリッヂを中心に技術者をNUPに派遣するかライセンスを購入し、ナイロンコードを装備したバイアスタイヤを手に入れる。
そしてそれを本機に施そう。
その前の段階で疾風には輸入してきたナイロンコード式のバイアスタイヤを装備させて具合を見る。
疾風は短距離離着陸能力こそないが、主脚は無茶な着陸をも想定して頑丈に作ってある。
滑走距離や着陸距離が必要だが、距離さえあれば不整地での離陸は可能。
そっちで試験して様子を見る。
着陸だけじゃない。
本機には離陸後にもあることが出来るよう施す。
それが空中給油能力。
プローブ・アンド・ドローグ式用の給油口を機体右側前方に折り畳み式にて仕込む。
本当はフライングブーム式にも対応できるようにしたいが、現状において最も早く実現可能な給油方式はプローブ・アンド・ドローグであり、ブーム構造に高精度な加工技術が要求されるフライングブーム式については本機が飛び立つ頃までに実用化の目途が立たない。
よって将来可能なような空間的余裕を確保しつつ、現状では見送る。
未来の戦闘機では両方式での給油が出来るようにするのが一般的となっているが、空中給油機ですら双方の方式で給油できるようにしている事は把握している。
いずれできるようにはするが、今は見送る。
ともかくこれで継戦能力は大幅に担保される。
それもこれもそれもこれも内部空間に余裕があればこそ。
そしてこの内部空間の余裕により、俺は当初案より固定武装すら見直す事にした。
そう……機銃だ。
ジェット機が主流になると、西側では主として2つの固定武装が搭載される事になる。
1つがリヴォルバーカノン。
単砲身であるが名前の通り複数の薬室を持ち、この薬室を持つシリンダーが高速回転することで高速連射を可能としたもの。
もう1つが砲身自体を増やし、砲身自体を回転させながら弾丸を発射する斉射砲……すなわちガトリング。
航空技術者としてどちらが軍用機としての理想かと言えば、整備性、銃本体のサイズ、重さ、大口径化が行いやすい長所をもってリヴォルバーカノンであると即答できるのだが……
それはあくまで長所だけを見た場合に過ぎない。
なんでNUPがF-5等に採用実績があるにもかかわらず、こいつを積極採用しないのか。
それは各部に極めて高い工作精度が要求されるばかりか、弾丸の品質すら選りすぐりでなければならず、そこにかかる人的労力が割に合わないと考えているからだ。
リヴォルバーカノンに採用される弾丸は極めて高度で多重に敷かれた品質検査を突破したもののみ。
なぜなら大半がガス圧駆動で、かつその構造から排莢が容易ではないため、遅発や不発を起こせば即使用不能となるため。
冗長性確保のために2丁装備するという手もあるが、F-5の運用時にはどちらも使用不能となる事が相応にあり、ユーグ並に技術力があればまだしもそうではないNUPにとっては、発射までのタイムラグがあろうが、よりスペースを奪おうが、重かろうが、遅発が起きても問題なく弾丸を排出可能で、不発であればそのまま排莢できるガトリングの方が信頼性があると判断されたからに他ならない。
これは現状の皇国にも言える事。
俺はMG213及びその後に発展していったリヴォルバーカノンの構造の詳細を把握している。
本当なら2門のリヴォルバーカノンを本機には採用したい。
しかし皇国の現在の技術力で作れたら苦労しない。
第三帝国すら結果的には戦中に完成させられなかった代物を、この国で作れたらとっくにやってる。
ガンポッド方式にして仕込んでる。
疾風はF-5と同じく2門の20mmリヴォルバーカノンを固定武装として様々な方面から評価を受けてる。
できなかったんだ。
求める品質の砲身1つ作れなければ、必要となる精度を確保したシリンダー1つ作れなかった。
これらを組み合わせてもまともに撃てない欠陥品が誕生するだけ。
だからこれまでは従来式のガス圧駆動の機関銃を機銃として採用してきた。
しかし余裕のある空間を持つ本機の設計図の状態を見た時、こいつが攻撃機であることを改めて思い起こして考えた末……
俺は20mm仕様の斉射砲を新たに採用して搭載する事に決めた。
"航空機関砲"――として。
本来の未来において、陸軍では航空機に搭載される固定武装の機関銃については各部隊や組織ごとに機銃と統一呼称していたり20mm未満を機銃、20mm以上を機関砲と使い分けたりバラバラで、一部の部隊ではそのまま機関銃と呼称していたり統一感が無かった。
やり直した俺はガトリングやリヴォルバーカノンをもって機関砲と呼称し、戦中に装備する予定はないが例え30mm以上でも従来のガス圧駆動方式ならばそれは機銃として統一化することを西条に求め、結果西条の力もあって機銃と統一呼称されてきたのだが……
斉射砲を採用するため、正真正銘本機では"航空機関砲"を固定武装として搭載する。
なお搭載するガトリング砲の砲身の数は3門。
最期まで4門とするか迷ったが、3門として本機に搭載するタイプは連射速度を毎分2000発とする。
他にも1500発仕様等を作る予定だが、これはガンポッドとしたり……後はターレット方式にして"あるもの"に装備させる事をも想定して開発する。
皇国では多種多様な種類の兵器を同時並行で大量生産できない。
ゆえに戦中は3門に統一して量産。
そしてガンポッドタイプは三式重戦闘機に搭載する事も検討する。
本来の未来においてA-1スカイレイダーは7.62mmのガンポッドを装備することが可能で、12.7mmの試作ガンポッドも搭載して試験に供された事がある。
20mmのガンポッドは反動が強く装備は不可能とされたが……実は3門方式のM197をガンポッド化させたGPU-2/Aを装備可能で、実戦での使用はされなかったもの試験飛行されて射撃テストも行われたりしている。
A-1よりエンジン出力が低いOV-10が装備して平然と射撃できたように、連射速度を落としたGPU-2/Aは装備可能だったのだ。
すでにA-1は引退間近で特に話題にもならず実戦投入すらされずに終わったが、その時のデータはOV-10に活かされた。
つまり1500発仕様なら重戦闘機こと鐘馗には装備できる。
元々鐘馗には翼形状を変更して攻撃機としたものも開発予定で、現在開発が進んでいるが戦闘機版、攻撃機版、どちらも装備可能なようにする事は可能。
疾風にガンポッドとして装備させる事だってできる。
まあ疾風の場合はLERXとその周辺に実は内部空間を確保していて、万が一敵側がMG213などを開発してジェット戦闘機に装備させて襲い掛かってきた場合などを想定して最初から搭載可能なようにしていたりするのだが……
疾風の将来の固定武装とする事も検討しつつ、こちらでは標準搭載しようと、そういうわけだ。
本機に固定武装させた場合、搭載可能弾数は最大1000発少々まで十分可能。
3門方式だと大きさがかさばらずに省スペースと出来るためである。
砲は1門しか装備しないが、弾数の多さでカバーする。
「――待て信濃君。ガトリングだと!? ガトリングというのは元々は手回し式で信頼性が低く、より信頼性を求めて電動機を搭載したものが開発され我が軍でも少量配備したものの先の帝政時代のヤクチアとの戦いで全く役に立たなかった、あのガトリングを君は搭載するというのか!?」
「ええ。稲垣大将。そのガトリング砲で間違いありません」
「君はあたかもそれを極めて汎用性の高い派生型も生まれ出るモノだと述べているように聞こえるのだが……どういう事なんだ。どうして突然、過去に一度欠陥品として葬られた存在が蘇ったのかワケを聞きたい」
「つい先日……G.IがNUP本国より試した新式の電動機を搭載した博物館より持ち出したるガトリング砲の実験に関する極秘情報を入手しておりまして、その再現を京芝の力でもって試したところ、上手く行きました。現代技術によりガトリングは見直されつつあります」
実際は嘘である。
G.Iはまだ博物館から持ち出して試験などしていない。
もっと数年先の話だ。
今の時代、その手のあらぬ噂はよく巷にて流れているため、実は存在せぬ欺瞞情報を基に作ったと後の時代にて語られてもいいであろうという体で手を出した。
先んじる事で京芝を通してG.Iに技術情報が逆流して渡るリスクを冒してでもガトリング砲に手を付けたのは、現状ではガトリング砲を構成するにあたり要となる信頼性の高いコンデンサーやその他機器の入手が不可能であるためで、京芝がG.Iと並びそれらを製造する技術力を持つからに他ならない。
どうせ彼らは生み出す。
それが数年早くなるかどうかならば、そこには目をつぶる。
今必要なのは新型攻撃機の攻撃力と継戦能力。
ここまで来たら中途半端なものとしたくない。
「……君の表情……読めたぞ。もう発射可能な実物があるというんだな?」
「あります。本日あるいは後日お見せする予定でした」
「そうか。ならば是非今日で頼むよ。時間は惜しくはない……」
稲垣大将の言葉より感じたのは、新兵器に期待するというよりも恐怖を押し殺して戦闘機から受けた余韻が抜けぬまま追加のプレッシャーを斉射砲より感じ取っておきたいというような、複雑な感情が入り混じった人としての素直な感情そのものだった。
きっと今後の戦場が……戦争がさらに熾烈で恐怖と苦痛の渦巻くものとなることを予見しているのだろう。
周囲を見回してわかるのは、今後皇国は自ら積極的に戦争へと歩もうとする国ではなくなるのではないかという期待。
ガトリングがその力添えをするというなら、あえて先んじて試験機を作った意味はある。
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