第192話:航空技術者は武士(もののふ)を戦場に呼び戻す(後編)
「――ご覧のように、鎧の骨子となる防弾・防刃装備はこの半透明のフィルムを重ね合わせたものとなっております。完全に蒸着や接着等された状態ではありませんが、きちんと重ね合わせられており、このフィルムは極めて効果的にありとあらゆるものを防ぎます」
「具体的に述べるならば、いかほどの防弾性能か?」
会議に参加していた将校の一人は穏やかな口調で答えを求める。
通常、こういう時は高圧的な口ぶりとなるのが常であるが、人の生命に直接関わる装備なだけに弁えてしまう部分があるのだろう。
「このフィルムだけで第三帝国が新規開発した7.92×33mm弾を極至近距離にて防ぐことが十分に可能です。貫通だけなら7mm程度の小銃弾でも防ぐことは出来なくはないのですが、その場合には別途必要なものがあります。それがこちら」
それまで机の上に置かれていた板状のものを改めて両手に持ち、そして掲げるようにして周囲に見せつける。
「臆病板か?」
「稲垣大将……おっしゃる通り、臆病板です」
臆病板。
世界各国のボディーアーマーにおいては、あたかもNUPが一番最初にその概念を生み出して歴史を作ったとばかり認識されているものがある。
チキンプレートやトラウマプレートなどと呼ばれる、セラミック製の防弾用ハードプレートである。
だが、同じような効力が生じることを目指して同様の装備を今から400年以上も前の"戦国の世"の頃から甲冑に施していた国があった。
それこそが皇国であり、この国においては銃が伝来してからというもの甲冑では効果的に防げないからとありとあらゆる方法が試案され……負傷することで致命傷となりうる急所部位に金属板を仕込んで対抗する事があった。
これを臆病板と呼称し、銃の発達と流通によって機動力こそが最上の防御と認識されて次第に軽装化されていったユーグと異なり、最後まで甲冑でもって抗おうとしたのである。
……結果はどうあれ今日までその概念は根付いており、「臆病板」という言葉は相応に精通する者であれば認知している単語及び概念となっているわけだ。
そんな臆病板だが、今回採用したのは現段階で実現可能で、かつ己の中に眠る全てを注ぎ込んだものとした。
特に最後まで解禁するか迷った素材を仕込むことで……本臆病板は複合装甲と呼べるものとなっている。
構造としてはセラミックプレートと超高分子量ポリエチレン板を重ね合わせたものであるが……
このセラミックプレート……ただの硬質セラミックではない。
こいつには本来であったならば現時点ではまともに入手することが不可能な炭化ホウ素セラミックを使用している。
炭化ホウ素セラミック……またの名をB4C。
粉末状の炭化ホウ素ならば現時点でも研磨剤等として入手出来るが、構造部材として利用できるにまで至るには本来ならば後30年はかかる代物だ。
それも30年先でもまともな形状とすることは出来ず、本格的に自由に形成できるようになるには半世紀は軽くかかる。
しかも形成できるといっても、とてつもないコストと労力がかかり、大量生産が難しく……
複雑形状とすることが難しい、ダイヤモンドに次ぐ硬質さを持ちえながらも耐摩耗性等様々な特性を併せ持ち、戦車の装甲部材としても採用される炭化ケイ素等と共に地球上においては最高峰のセラミックの一種である。
何しろ硬すぎる上に驚異的ともいえる耐摩耗性も兼ねそろえているので、まともに加工を施すことが出来ない。
ドリルで穴を空ける事すら容易ではない。
ならばと、セラミックとする際、焼結させる必要性があることから最初から形状を整えた状態とすればいいのではないかと思う事だろう。
それもある時期に至るまで不可能だったのだ。
B4Cは共有結合性が強すぎるため、従来的に用いられる一般的な方法では焼結してもその特性から理想とする結晶構造とはならず、極めて脆くすぐに割れてしまうような状態となる。
ゆえに焼結する上では常に強大な圧力をかけつつ焼結するホットプレスと呼ばれる特殊な手法が必要となった。
この手法では1つずつプレスしながら焼結するわけだから、当然にして大型の工作機器が必要で大量生産には向かないし、均質に圧力をかけ続けなければならないわけだから複雑形状とできるわけがない。
加工する場合は単純形状の状態から処理を施さねばならないので、前述のように信じられないほど頑丈な素材をとんでもないほどに手間暇かけて再加工せねばならなかったのだ。
耐熱性を見てもその融点2300度以上。
簡単に溶断すらさせてもらえない素材である。
だからこそ戦車の装甲として炭化ケイ素と並んで利用される素材だったわけだが……
炭化ケイ素が約34年後にG.Iによって常圧焼結と呼ばれる圧力をかけずに焼結できる技術が発明されて航空機等にも利用されていった一方、こちらは常圧焼結のための技術開発が日々行われたもののの、複合素材とも言うほど化合物を含有させなければ常圧焼結は長年不可能とされてきた。
いや、炭化ケイ素についても常圧焼結については開発されたばかりの頃は含有させる助剤の量が多かったため、従来方式のものと比較して完成品の性質は劣っていたが、他の素材よりか優秀だという事で活用されていっただけで品質向上が果たされるのはもっと先の話。
正直俺が100を迎える頃になってようやく理想の素材となって旅客機などに活用されていったのだろうと推測される。
そんな中、俺がやり直す前年の事であった。
より完璧とも言える炭化ホウ素の常圧焼結法が、かつて皇国と呼ばれた地にいる技術者達によってついに見出されたのだ。
ようはホットプレス方式の炭化ホウ素セラミックとの比較で性能は殆ど劣らないものが作れるようになったという事だ。
情報は即座に現地の技術者を通してこちらに渡ってきた。
何かに活用できるかもしれないと、一連の全ての技術理論と技法を渡してきてくれたのだ。
その手法は信じられない事に2602年現在でも普通に再現可能なものであり……あまりにも突出しすぎた性能を持つ素材であった事から、これまで導入を躊躇してきたのだが……
超高分子量ポリエチレンの入手に成功した以上、より完璧を求めてこちらも導入することとした。
まず、そもそも超高分子量ポリエチレンが入手できるならばハードプレートたる臆病板はそれだけで構成されていても弾丸は防げることは防げる。
なぜ各分野の技術史を根底からひっくり返してしまいかねない程に完成度の高いB4Cプレートも併用した複合装甲とする必要性が生じたのかというと……耐熱性にある。
俺がやり直す直前におけるMSVの開発の頃から、NUPはトラウマプレートについて超高分子量ポリエチレンだけの単一素材構成とすることは考えていなかった。
従来のセラミックプレートオンリーよりかは軽量化できるからと超高分子量ポリエチレンと複合化させた新たなトラウマプレートとする予定はあったが、完全な転換を行う予定はなかったのだ。
理由は超高分子量ポリエチレンの特性から、戦闘車両やヘリコプターに備え付けられた機銃から発射されることがある焼夷弾や徹甲焼夷弾に対しての防御力に不安を感じていたため。
現状だと航空機からの地上への機銃掃射などに焼夷弾や徹甲焼夷弾が混じっている可能性が極めて高いが、超高分子量ポリエチレンはその特性から単一利用だと所定の防御力を発揮できない。
よってセラミックプレートを用いて複合装甲化することにより、炭化ホウ素セラミックが持つ圧倒的な耐熱性によって熱源体とも呼べる飛翔物を効果的に防ぎながら、超高分子量ポリエチレンの持つ力を最大限発揮できる構造が少なくとも約70年後の理想形態とされた。
だからこそMSVに採用されたトラウマプレートではNUPが得意とする炭化ケイ素セラミックか、あるいはホットプレスされた炭化ホウ素セラミックと射出成型された超高分子量ポリエチレンを併用したものを採用する予定となっていた。
重量比では炭化ホウ素の方が優れているので軽量化でき防御力を底上げできるが、俺は炭化ホウ素の製造方法についてはNUPに伝えなかった。
よってどちらが本採用されたかは知らないが、コスト的には常圧焼結を用いることが出来ないならば炭化ケイ素の方が安価だった。
だが、炭化ケイ素は仮に常圧焼結が出来るとしても原材料の調達等、生産性に劣ることから俺は炭化ホウ素を使う。
コスト的にはホットプレス方式と比較して製造コストが2/3~3/4となるため、常圧焼結の炭化ケイ素と並ぶか若干下回るほどだ。
その炭化ホウ素セラミックの常圧焼結方法はこうなっている。
現在も入手可能な99.5%以上の純度を誇る炭化ホウ素粉末に総質量換算2%の純度99.9%の炭化タングステンを含有させ、黒鉛るつぼの中にアルミニウム粉末をまぶしてアルゴンガスによる雰囲気熱処理をしながら焼結する。
これだけである。
精度が求められ複雑極まりないホットプレスなんて必要がなく、最初に炭化タングステンと炭化ホウ素の粉末を均質に混ぜ込んでプレス機にかけて成型し、その後にそのまま一般的な方法で焼結させるだけ。
この中のどこにも難しい技術が無い。
プレス機にかけながら焼結する必要性がないから流れ作業で次々に成型品を作れるし、大型の工作機械を必要としない従来方式の焼結で構わないから大量に一気に焼結してしまえば大量生産可能。
強いて言えばプレス成型する際に複雑形状とする場合、均一に圧力をかける必要性があるので高精度な金型及びプレス機がいるぐらいだろうか。
後はアルゴンガスが均質に焼結中の炭化ホウ素に晒されるような構造をるつぼに施せばいい。
流体力学はこちらの本分。
そこは問題ない。
本来の未来ではかつて皇国と呼ばれた地においてスピーカーの振動板を製造してみた記録すらあるが、発展したプレス機と培ったノウハウとを活用することで、従来まで不可能とされてきた構造体すら製造できるようになったのがこの常圧焼結法。
無論、複雑形状とした場合は大変であることは間違いない。
例えばこれでセラミックタービンを作ろうなんて時には大変困難が伴うのは言うまでもない。
だが今回はプレートだ。
人間工学に基づいて最低限の形としたプレートとするだけならばどうにかなる。
どうにかなったから目の前に臆病板がある。
融点2300度以上。
生半可なガスバーナーですら融解させられない。
一般的なガスバーナーは1800度。
いわゆる本来の未来では皇国には必要ないと第三帝国に向けて使用されることが多かったテルミット焼夷弾クラスでないと融点に達することは不可能。
しかも本方式にて炭化タングステンを含有させると、聞いた話では融点が若干向上するとのことだ。
炭化タングステンは2800度以上なわけだから、2%も含有させるという事は相応に耐熱性が向上するという事なのだろう。
戦車の装甲としては1つの到達点とも呼ばれる素材なわけだから……当然にして主力戦車の装甲強化にも使う。
それこそ無拘束の炭化ホウ素セラミックタイルを並べるだけでも相当に装甲性能は向上するが、拘束セラミック装甲にも挑戦する所存だ。
真の意味で"主力戦車"を名乗るならば、やはり拘束セラミックによる正真正銘の複合装甲を纏うべきだろう。
まあ使うと言っても、純度の高い炭化タングステンの生産量というのは限られているのでまずは甲冑用の臆病板優先となるわけだが……
第三帝国と異なり自国でも産出するとはいえ、タングステンはレアメタル。
本来の未来と同じく昨年華僑で相次いで鉱脈が見つかっているが、そう簡単に大量消費できるものではないのだ。
生産体制も昨年からようやく本格化して安定供給できるようになったばかりだしな……
そんな完成品の現在手元にある炭化ホウ素セラミックプレートは、従来品の皇国国内でも極少数生産されている焼結アルミナセラミックと比較した場合、アルミナが曲げ強度220MPa~250Mpa、破壊靭性値2.5~2.8MPa・m1/2であるところ、520Mpaの4.7MPa・m1/2にも達していた。
作れるならば使わない手は無い素材だ。
これでありとあらゆる7mmクラスの弾丸を完全に防ぐことが出来るようになる。
ソフトアーマーで貫通を防いでも、その衝撃が身体に及ぶならば意味がない。
銃創は負わないが、内臓等に致命傷となる衝撃を伝えてしまう。
だからこそハードプレートが必要になってくる。
受けた衝撃を分散させ、完全に身体に伝えることがないハードプレートが。
といっても臆病板は単体では使うように想定されていない。
あくまで防御力を底上げするための、超高分子量ポリエチレンフィルムを支える甲羅のごとき外殻なのだ。
「――あー説明中のところ申し訳ないが1つ聞いてもいいかい?」
「なんでしょうか」
「信濃君、君は金属が嫌いなのか。それとも我が国の実情を鑑みて少しでも金属使用を控えたいと考えているのか。どちらなのかね? 燃料事情でもそうだ。君は主として使うガソリンの使用を控えようとするようなタービン式の発動機の量産化を成功させた。結果そのタービン発動機が我が軍の柱となりつつあり、我が軍のガソリンの消費量は当初想定していた消費量ほど増大していない。灯油を大量消費するようになってきたからだ。一連の技術開発はあえてそうしているのか」
稲垣大将は何を問いかけたいのか。
現時点における常識で考えれば合金を使うべき所に発展途上とも言えるセラミックを用いた事に不満があるのか。
「質問の意図を読みかねています。稲垣大将は拘りを捨てた方がもっといい発明が出来たかもしれない中、あえて国の事情を鑑みて控えているのか、単純に技術者としての哲学として金属を避けているのかと伺っているわけですか」
「そういうことだ。どちらなのかね」
「しいて述べるならば両方の考えを柔軟に取り入れているというところでしょうか。我が国における様々な事情は把握しているがゆえ、実施不可能であることに苦痛を感じることはままありますが、回答として出すにあたっては常に最適解を選択しようとは心がけておりますので、結果主たる原材料を避ける事に繋がってはいるのではないかと。少なくとも炭化ホウ素をさらに上回る防弾素材は現状存在しないのは事実です」
現状どころか自分が生きている間にさらに上回る素材が出てくるような気すらしない。
しかし稲垣大将のお気持ちは察しうる。
製造方法その他、表面上だけ見れば本来の未来で代替素材を検討して陶器に手を出したのと同じ。
ただし性能は天と地。
あの時、そんなものがあったらなと、第三帝国を通して断片的に渡ってきた情報から陶器に手を出したりセラミックについて検討して失敗したのを、未来の技術情報をもとに技術的跳躍を果たして成功に導こうとしているわけなのだから。
なお、製造に関しては今回京芝を頼っている。
というのも、国内で高純度タングステンとタングステン合金を製造できる数少ない企業が京芝の関連会社。
そして後に京芝セラミックとなる京芝炉材には大量生産可能な耐火物関係の大規模生産施設があり、現時点で一括大量生産が可能だったからだ。
グループ企業で生産できるという事は技術を秘匿しやすくなる利点がある。
京芝セラミックは本来の未来においても炭化ケイ素や炭化ホウ素の構造体を製造する企業。
どうにかなると踏んで一連の技術情報を京芝炉材に伝えたところ、即座に生産できてしまった。
それも所定の性能を満たしたものが。
生産だけなら他にも現時点で可能な企業は国内に複数存在するため、今後の必要生産量次第では手を広げる。
焼物生産の盛んな地域には耐火物製造企業が点在するが、これらの企業でも成型後の状態ならば焼結可能な施設を有しているため、伝統工芸の流れをくむノウハウが最大限に活かされる。
鎧に関与するのは甲冑師だけではない。
工芸品として紡いできた歴史と技法も、戦人の命を守る糧となる。
その上で技術を可能な限り秘匿しつつ、諸外国との取引材料にすることも考える。
なにしろ炭化ホウ素セラミックは原子力発電における制御棒の素材。
何が何でも原発を作りたくて仕方ないG.Iとより優位な関係を結ぶ交渉材料とすることも不可能ではない。
政治的、外交的なものも含めた交渉材料として使えるなら技術共有も検討する。
ともかくこれで求める防御力を得るに至ったわけだが、当然この臆病板については取り外し可能となっている。
臆病板が施される部位は前後と脇腹などの側面。
それぞれ攻撃が命中した際に生死に関わる致命傷となりうる部位に施され、インナーアーマーを駆使して確実に攻撃を防げるようにしつつ、修理整備等も容易なように超高分子量ポリエチレンフィルム共々簡単に取り出せるようになってるのだ。
この部分だが、特に防水処理は施していない。
必要が無い。
例えばケブラーでは防水処理は絶対だ。
下手すると防弾用のソフトアーマーがパッケージ化された防水処理が施されたユニットとすらなっている。
しかし超高分子量ポリエチレンは不要だ。
なぜならケブラーのように吸水することで性能低下する恐れが超高分子量ポリエチレンには無いからだ。
あっちは吸水することで40%も性能が低下するが、釣り糸や船舶用ロープとして使えるほどに耐水性が高く吸水性がほぼ0に近い超高分子量ポリエチレン繊維及びフィルムにおいて、なぜ無理してまで封入する部位に防水処理を施す必要性があるのか。
フィルム自体に相当な防水性がある素材なのに。
この防弾防刃フィルムはそもそも水を通さない。
むしろ通気性を向上させて速乾性を獲得させた方が装着時の不快感が減少するため、各部はナイロンとしつつ通気性を保たせた状態としてある。
水を含んでもすぐに乾く。
それでいい。
もちろん封入するナイロンポケットとも呼ぶべき部分も外せるようにはしてある。
超高分子量ポリエチレンフィルムや臆病板共々部分が破損することだってありうるからだ。
そして他の襟回しなどの一連の構造体も取り外し可能だ。
伊達に本来の未来においてModular Scalable Vestなんて名前がNUP内で名付けられたわけではない。
必要最低限の状態とすることで本装備はプレートキャリアと呼ばれる軽装状態にもすることが出来る。
足軽の装備した腹巻のごとき姿とすることで、最低限の防御力としながら機動力を大幅に向上させられるということだ。
この状態では5kgを切っているのでアウターハーネスの装備すら必要無いが、アウターハーネスを装備することで重心を落として腰の負担を落とすことは軽装状態でも可能である。(さほど意味がないかもしれないが)
1つの装備でプレートキャリアにも本格的なボディーアーマーにもその中間的形態にもなれるなら、あえてプレートキャリアを別途開発する必要性が無い。
工業力に劣るこの国では多くの選択肢を用意することは出来ないので、1つの鎧で完結する必要性がある。
ゆえに各部を取り外し可能なのは必然であった。
とはいえ外観的な魅力から軽装状態にする事例は少ないものと考えられる。
見た目をよくすると無理してでも重装に拘る者が続出するが、これは狙っての事。
機動力だけを優先させて軽装として戦っていける兵はそう多くいない。
特殊部隊の兵士でもない限り需要が無いので最大限体の可動を阻害しないボディーアーマーではなるべく重装状態でいてもらい、少しでも生存率を上げてほしいと考えている。
もちろん本来の未来において既に主流となっていたボディーアーマーに施されていたクイックリリース機能も装備。
正面のタブを引っ張ると瞬時にボディーアーマーが外せる。
アウターハーネスも同様にクイックリリース機能を装備。
負傷した場合等に迅速に脱ぎ捨てることが可能だ。
また、各部にはNUPにてPALSと呼称されていたインチ幅によるウェビングが施されており、ここに小物入れ等の様々な装備類を装着可能。
兵科合わせて柔軟に形態を変化させ、どのような状況に対しても1つのボディーアーマーで対応できるようにしてある。
ウェビングをインチ幅にしたのは今後を加味しての事。
どうせ規格を作る時にまた某国が騒ぎ出すんだ。
後々改修するのも面倒だから最初から文句が出ないようにする。
そこはピカティニーレールがNUP仕様となっているJARと同じ。
本当はセンチに統一したいのだが、完全に敵対でもしない限り中々そうも言いづらい雰囲気がある。
そしてあちらでも一部の部位においてノックダウン生産を行うことも視野にいれているのでなおさらインチ対応設計にせざるを得ないときた。
皇国の工業力がもっと高ければな……素直に歯がゆい。
一国で全てを満たせるなら、そもそも俺はやり直して今に至るわけがないとも言えるか……
「なるほど。随分と考え抜かれた装備だ。ハッタリや酔狂でそのような外観をしているわけではないというわけか」
「ええ」
「見たところ戦闘服も一新する様子があるようだが、甲冑に施された妙な柄も含めて説明をしてもらえるのだな?」
問いかけてきた将校の一人は我慢しきれないという様子だった。
彼らは既に甲冑に大きな期待感を有している。
だからこそ、甲冑を着込んだ人物が鎧だけでなく戦闘服を含めて全体像がこれまでにない意匠となっている事に強く興味を抱いていた。
「もちろんです。この柄は現時点における人間における心理学や自然科学を併用したものではありますが、これまでにない迷彩を目指して施してあるものです。他の装備も上衣同様、装備に合わせる必要性がありましたので、新たに開発しました」
「金属ではないようだが……鉄帽もか?」
「はい」
そう、この鎧においては徹底してやれるべきことをやろうとしたため……戦闘服も全て新たなものとする予定があったのだ。
現時点における到達点の1つとしてこれから説明する戦闘服やその他の装備類については、後に三式戦闘服や三式防弾兜として採用される。
今まさに、皇国の兵士は再び武士へと変貌を遂げる途上であったのである――
参考資料:
産総研による炭化ホウ素の常圧焼結に関するプレスリリース
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080313/pr20080313.html
登録特許 登録第5430869号「緻密質炭化ホウ素焼結体およびその製造方法」
https://patents.google.com/patent/JP5430869B2/ja
上記の技術を活用して作られた炭化ホウ素セラミックによるスピーカー振動板
https://dbnst.nii.ac.jp/pro/detail/4089
https://dbnst.nii.ac.jp/upload/images/research/4089/pro/89b50343c2ca854fae664cce7043cee5/4089_doc.pdf
炭化ホウ素or炭化ケイ素+超高分子量ポリエチレン板による複合装甲のごときトラウマプレートに関する特許「US9879946B2」
https://patents.google.com/patent/US9879946B2/en
旧:東芝セラミックス(現クローズテック)による、常圧焼結炭化ホウ素構造体
https://www.coorstek.co.jp/jpn/products/detail/detail_23.html
https://www.coorstek.co.jp/jpn/corporate/history.html
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