第186話:航空技術者は過程を飛ばして乗用型高速ロータリー式田植え機を示す(後編2)
改めて説明するが、今回採用した方式はロータリー及びポット式となっているが……実はポット式とした理由には技術的な問題もあっての事だったりする。
本来の未来において田植機が誕生できた理由……それが四節リンクと呼ばれる、4つの支点をつなぎ合わせることで単純回転運動を複雑な動作に変換させる機構を見出した事による。
平行四辺形のような状態で支点をそれぞれつなぎ合わせた構造体は、出力軸から与えられた回転運動を人間が土に苗を差し込むがごとき動きへと変換させる事ができ、これをもって連続的に植え込むことで田植機というのは成立している。
これはクランク式とロータリー式どちらも例外ではなく、双方ともに同様の原理で成り立つ機構である。
クランク式の場合はクランクを作動させるメインシャフトの回転力を四節リンク機構によって単純動作させるものであり、ロータリー式というのはこのクランク自体がさらに自転しながら連続的に植付けを行うものだ。
ロータリー式を見てもらうとわかるが、より高速で作業を可能とするため、1つの区画につき2つの植え付け爪が存在している。
回転しているロータリーは四節リンク機構でもって苗を掴むと、それを土に植え付けるわけだが……
片方が土に植え込んでいる間、片方は新しい苗を掴んでいる状態にあり、連続した自転によってその連鎖が続くことで一連の動作として機能する。
偏にクランク式に対してロータリー式が二倍以上の速度と出来るのは、植え込みと苗の取り出しまでの動作を1つの植え付け爪でもってミシンでもって針で縫うがごとく植え込むクランク式では、高速化すると振動が強くなって植え込みに失敗してしまうためであり……
ロータリーの場合は2つの植付爪が互いにカウンタートルクとして動作することで振動を大幅に緩和出来、さらに内部機構において重量配分等を調節することでその効果を増大させられるからだ。
問題はここから。
マット式の場合、苗を掴む際、苗を適量でもって剥ぎ取って植え込むまでの動作を1つの機構で成立させなければいけない。
ロータリー装置に取り付けられた植付爪とロータリーは、より複雑な苗を掴み取って剥ぎ取る動きをもしなければならず、内部構造は複雑化し、極めて高い工作精度が要求される。
それこそ、植付爪の遊びが少しでも生じると掴み取ることが出来ずオーバーホールが必要になるレベルだ。
マット式のロータリー式田植機を見てみればわかるが、苗を掴み取って剥ぎ取る際などに植付爪が飛び出て苗を掴み取る動作をしていることがわかるだろう。
内部機構も極めて複雑となっていて修理も容易ではない。
これに対し、ポット式のロータリーにはマット式には無い優れた長所があった。
それは、苗を剥ぎ取るという動作を完全に分離できるという点。
ポット苗をポット式育苗箱から剥ぎ取るのは、別途専用の剥取爪の機構を投入すればいい。
剥ぎ取った後はベルトコンベアで植付爪にまで運び、植付け爪は単純動作でもってポット苗を掴み取って、後はマット式と同様、地中に植え込むだけ。
たった1つの動作を分離することが出来るだけで、その内部構造は大幅に簡素化し、より単純で信頼性の高い構造に出来るのだ。
実際に動作している田植機を見てもらえばわかるが、薄い円盤状のロータリー機構の中にギアが仕込まれ、その外側に回転ノコギリのごとく回転しながら動作する植付け爪が存在するだけ。
ハイスピードカメラでもないと実際の動きは見えないがきちんと植え込んでいるのだが、端から見るとただ回転しているだけにすら見える。
マット式が明らかに「植え込みますよ!」――などという声が聞こえてくるのとは対照的。
つまり、現状を考えると技術的な問題も相まってマット式は採用できないんだ。
米の生育への負荷が減るかもしれないからってだけで採用しようとしているわけじゃない。
現状の2600年代の皇国の工作精度でも、確実にその作動信頼性を確保できるロータリー機構を考えた場合、より製造難度の低い方法を選択するしかない。
それが現状の発展途上の農薬や肥料しか存在しない2601年の皇国にとっても有利になる方式ならば尚更の事。
今可能なことで、最大限の効果を得る。
そう総合的に判断した結果だ。
外観を見てみれば分かる通り、ガイドレールは平仮名の「つ」の形状を立たせたような状態となっている。
見ようによっては前後左右にてガイドレールが4つあるようにすら見えるが、実際のガイドレールは2つ。
左右のガイドレールは前後で一対となっている。
マット式と異なりポット式では1つの育苗箱から2条分の植付を行うため、一見すると2条植えに見えるものの……これで4条植えとなる。
逆を言えば、苗の消費速度は2倍という事になるが……そこは粗植や密苗でカバーしているということだ。
ガイドレール側も少し伸ばしており、育苗箱の装填数を増やしてもいるので頻繁な育苗箱の装填はなるべく生じないように調節している。
装填されたポット苗は苗を植え終わると、そのままさらにガイドレール上を進んで表と裏が反転した状態で裏側の使用済みの育苗箱を収納するスペースへと送り込まれる。(平仮名の"つ"のような形状となっているのはこのため)
マット式と違い、苗台はタイプライターのごとくガイドレールでもって左右に動くことはない。
この機構もまた構成部品を増やして構造を複雑化させる要因となるのだが、ポット式では重力でもって落ちた育苗箱がある地点にて保持され、そこから剥取爪によって徐々に育苗箱から分離されるだけ。
水田の起伏によって多少は上下するものの、常に全てが同じ配置のまま作動するためマット式と比較して振動しにくく、苗台や植付装置そのものが振動の原因となる事は無い。
故に工作精度が低くても、それらを補って所定の性能を達成できる。
サスペンションと合わせれば現用技術でも13分以内は可能だろうと俺は見ている。
植付装置には当然、機械式のセンサーによって植深さを保持機構する機構を搭載。
多少の凹凸ではものともせず強制的に苗を植付することが出来る。
これは植付装置の上げ下げを行う油圧の調節を自動で行うものだが、油圧感度調節レバーもあるため、土壌に合った感度とすることでより正確な植付けが可能
また、植付装置は乗用型耕運機と同じく後退や転回時において装置が持ち上がるように施す予定だ。
これにより、転回時や後退時において植え付け装置が破損することなどを防ぐ。
当然マーカーもこれらと連動して動く。
また、乗用型耕運機で採用予定の湿式多板クラッチと電磁ソノレイドバルブによって駆動力を制御するシステムも当然にして搭載。
どちらかといえば、本機構は本来の未来における田植機に採用されたものであり……
あっちを流用するというよりかは、あっちが流用するというのが正しいのだが。
なお駆動力を制御するのは後輪だけ。
これも本来の未来における田植機がそうであるように、泥の中を進む田植機においては操舵に影響が及ぶので前輪側の駆動力はカットしないように後輪側だけにする。
前輪に装備されているのは一般的なディファレンシャルギアだけ。
結果、一連の機構は乗用型耕運機と同一のものがそのまま組み込まれる予定だ。
つまり本機は片手操作が可能で、片手さえあれば田植えを出来ることになる。
正直、足を器用に使えるなら腕もいらない。
目標性能を達成した場合、戦場で何もかも失ってしまったかもしれない傷痍軍人が、田植え作業だけでも100人分の労働力を発揮できる事になる。
15分以内なら本当に100人分……百人力なんだこいつは。
後は設計通り作るのみ。
三種の農機の中ではなんだかんだ今一番完成に近いのがこいつではあるものの……植付装置の再現は一軸正逆転式ロータリーなんかよりよほど難しい。
工作精度も必要だ。
国産で挑む乗用型耕運機と共用する油圧装置についても心配ではあるが……やらなきゃ始まらない。
今は農業に工業の力を回す。
その分のリターンは来る。
来させる……必ず。
◇
「――随分と人が来てますね……そこまで反響は無いと思っていたのに」
「農地委員会が周知活動をがんばってくれたおかげです。それに、こっちでは軍の印象はそこまで悪くないんですよ。共存関係にありますからね。その軍が地元の農耕のために一肌脱ぐっていうんですから、当然です」
「そうだったんですか……」
農林省の職員の話には戸惑いを隠せない。
陸軍と住民との仲が良いだと……資料に記述されていた話は本当だったのか。
どうも沖縄戦のイメージのせいで、現地住民と軍の関係性というのは良くないものだと思っていた。
だが、記録資料では確かに「ある時期を過ぎるまで、地域住民と陸軍との関係性はむしろ非常に良好な部類であった」――とは書かれていたが……
恐らくこっちに派遣された軍人は常日頃、島の住民の労働を手伝ったりなどしているのだろう。
だから、今回の話も前向きに捉えてくれたのか。
実際見てみないとわからないものである。
皇歴2602年1月26日。
この日、本土本州では雪が降り積もるような寒さな状況の中、ある場所にいる俺は半袖の状態で佇んでいた。
ある場所とは、皇国で最も早い田植えが行われ、かつ二期作すらも行われていた沖縄は石垣島である。
完成したばかりの農機のテストを行うには、まさにうってつけの環境であった。
とにかく早く試したかったからである。
まだ生産ラインすらまともに構築されておらず、三種それぞれ2500台程度しか製造できていないが……少なくとも形にはなったためにそれぞれ10台ほどを島に持ち込んだのである。
驚くことに石垣島の平得飛行場は拡張されていた。
どうやら陸軍及び海軍は現状において多少は余裕があるらしく、ブルドーザーなどの重機をレンドリースできることも相まって各地の基地整備に勤しんでいるらしい。
1200mしかなかったはずの平得飛行場は2000mにまで拡張されていたのである。
おかげで大型機の乗り入れも可能となっており、この日のために立川から百式輸送機でもって農機と共に訪れることが出来たのである。
前日に移動したとはいえ、本来なら3日から4日はかかってたであろう旅路が半日たらずで済んだことは非常に喜ばしいことである。
離島防衛や中継地点強化のために各地にて深山が離着陸可能なよう滑走路の拡張を行っている海軍に感謝しないといけないようだ。
ハワイに向かう際に立ち寄った八丈島を思い出すな……あちらも2100mに拡張していて離着陸可能となっていた。
まさか完全な成功作かどうかわからぬ深山が意外なところで影響を与えているとは……裏を返せば海軍にとって深山は性能はさておき重要戦力の一角を担うということなのだろうか。
本来の未来においては深山のために空港拡張なんて殆ど実例がなかったことを考えると、戦略爆撃機として評価はされてはいるとみていいだろう。
それはともかくとして、デモンストレーションにしては随分な人だかりである。
野次馬などではない。
集まっている者の着衣から見ても明らかに農家の方であることが見て取れる。
保守的な皇国人は農機に対して抵抗感を持っていそうな感じがしていたが、どうやら石垣島は違うらしい。
皆真剣な眼差しで完成した田植機を見守っている。
もしかすると耕運機の影響なのかもしれない。
俺は今回のデモンストレーションにて初めて石垣島を訪れたが、耕運機は早い段階で完成してこちらに事前に送り込まれていた。
代かき作業の評価試験などを行うためだ。
一連のデモンストレーションは全て新型農機で行うことになっている。
耕運機はすでに全国各地へ派遣されて試験が開始されてすらいたが、最も早い段階で持ち込まれたのが、ここ石垣島である。
もちろん、今日の日のためだ。
確かに、今回島の住民を説得して万が一収量が前年を下回った場合は政府が全額保証するのと引き換えに、島全体の全ての水田を農機で作業を行うこととなったわけだが……(加えてそうであった場合は一期のみ機械化し、二期作目は元に戻す予定だったんだが)
今日はあくまで田植機のデモンストレーション。
本番は明後日からで、あくまで作動テストだけの予定で別に見学なんてそこまで必要じゃなかったのに……
どうせ本番になったらまた説明しながら作業を行う予定だったんだが……待ちきれなかったんだろうか。
まあそれだけ期待されているということなのだろう。
……それにしても彼らは何を話しているんだ?
皇国語らしきフレーズが稀に出るが全く何を喋っているのかわからない。
日常会話が全く聞き取れない。
当時の本土所属で派遣されてきた軍の者達はどうやって意思疎通をはかっていたんだ……
生まれてこの方、沖縄を訪れたことはなかったが……とても新鮮な気分だ。
方言というか、もはや別の言語にすら感じるぞ。
「それでは、田植機の試験を開始したいと思います。皆様。本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます。ではまずはじめに――」
心の中で「えっ?」――という言葉がほとばしる。
デモンストレーション開始の折、司会の農林省職員は標準語で話し始めたからだ。
だが、周囲の様子を伺う限り聞き取れている様子だ。
そういう事だったのか……
「――えー本日はあくまで作動試験と、本田植機……我々農林省では一式統制型田植機3型……あるいは統制農機3号などと呼称しておりますが、こちらの操作説明は省かせていただけたらと思います。なにはともあれ動く姿をみたいでしょうから。皆様には今日まで大切に育てていただいた育苗箱を運ぶ作業を手伝っていただけたらと思います」
「――――――たるぅ――?」
「ああ、作業従事者は私ではなく陸軍の方ですよ」
……待て、この若い農林省職員は石垣島の住民の方々の言葉がわかるのか。
もしかしてこの場でわからないのは俺だけか……
ま、まあいい。
大したことじゃない。
重要なのは田植機とそれを見て彼らがどう受け取るかだ。
だから今日の日のために軍に頼んである人物を派遣してもらった。
「――それでは北神中尉、よろしくお願い申し上げます」
「はっ!」
人だかりの向こうより、シャキシャキとした動作でもって歩んでくる人影が1つ。
その姿を見た住民たちは驚きを隠せなかった。
そう、彼には左腕がない。
それだけでなく左足も義足。
膝から下を失っている。
とある戦場にて地雷に接触してしまったためだ。
つまり彼は傷痍軍人である。
そんな彼を本土から呼び出した理由は他でもない。
これから百人分の働きを田植機によって示すことが出来ることを証明するためだ。
農耕は五体満足でないと出来ないなど誰が決めた。
そんなのは今日の日で終わらせる。
どんな者であっても出来る時代に変えるのだ。
農機によって。
最初の言葉を掛けた時の北神中尉の姿は今でも忘れられない。
「是非ッ!」――といって立ち上がり、右手を差し出してきた姿は、己が後ろ向きに生きてなどいないことを強く感じさせた。
あれこれ理由を伺わず、辛気臭い言葉1つ述べずに協力していただける姿勢はとにかく誇らしく感じた。
もし自分が同じような状況に陥っても果たして同じようでいられるだろうか。
恐らくいられない。
だからこそ、皆にも知ってほしい。
どんな状況でも前向きに生きる人間に、技術者は何をしてあげられるのか。
そして技術は、何を人に施すことができるのかを。
◇
「――それでは、これより作業を開始します。中佐、計測を頼みますよ」
田植機に乗り込んだ北神中尉は、座席に座り込んで配置につく。
その上でこちらに顔を向け、こちらのタイミングで作業を開始するが、それに合わせて欲しいと懇願してきていた。
俺は握り込んだストップウォッチの感覚を確かめながら、周囲に向けて確認を促す。
「任せてください。……他の方も準備はいいですね?」
「大丈夫です」
「はい!」
ストップウォッチを握り込んだ手に僅かながら力が入る。
手の震えを抑えようとしてのことであった。
緊張じゃない……武者震いだ。
この日のために調整したロータリーは、計算上は13分以内に作業を終了出来るはずだった。
そこに期待して胸を膨らませているのである。
水田の広さは一反。
13分以内で十分作業が可能な広さであった。
「では! 行きます! ゴオ!」
中尉の掛け声に合わせ、ストップウォッチを作動させる。
チカチカチカという針が動く僅かな振動が手に伝わってきていた。
「速いッ! 動くのは初めてみましたが……これほどとは!」
農林省の若い職員が思わず感想を漏らすほど、完成した田植機は軽快だった。
水田をものともせずに走破し、その後ろには苗が植え込まれていく。
高速ロータリー式田植機は、時代を30年縮めて見事にその性能を遺憾なく発揮していた。
「良かった……これで……」
これで、工業生産力が大きく落ちることを防ぐ事ができる。
より最小限の人員で、最大限の力でもって、食糧不足に喘ぐ自国の状況を改善させることが出来る。
戦で本土の国民が餓死するなんて……させるものか。
あんなのは二度とゴメンだ。
それでいて、あの時の100%を大きく超える生産力も欲しい。
でなきゃ求める結果は出せない。
そのためには、これまで日陰者扱いされてきた人にだって助けを求める。
それを可能とする機械があるからこそ、出来ることなんだ。
「惜しいなあ……もっと数があれば全国的に」
農林省所属の若い職員は田植機の性能に感嘆しつつも、現状での台数不足を嘆く独り言をつぶやく。
確かに数は足りない。
だが……
「いや、やりますよ。上から何も聞かされてないのかもしれませんけども、本省ではすでに計画が進んでいて、育苗箱を用いた育苗を各地で大規模に行っています」
「え? 何をするんですか?」
「植える時期は全ての地域が一律ではありません。ですから運ぶんです。田植機を。何しろこの作業が終わったらアレは他に何もすることが無い機械で、二期作が無い地域は来年まで置物になりますから。だから、運んで別の地域で使うんです」
本当はオプションやらアタッチメントで他の作業にも使えるようにすることは出来なくもないのだが……残念ながらそこまで高性能に仕上がってはいないのである。
「なんと……」
「名付けてローラー作戦です。トラックその他を用いて迅速に運び込み、農機での作業を認めていただいた農家を中心に機械化農業でもって稲作を行います。今回持ち込んだ10台も例外ではありません。来年以降は正規に販売しますし、石垣島の方々は様々な面でご尽力、ご協力いただいたので来年以降に必要分を無償提供しますが、今回の10台はこの後は他の沖縄地方の島での田植えなどに回します」
「そうだったんですか。それで大量に育苗箱ばかり生産されていたんですね。来年用にしては多すぎるなと思っていましたよ」
「上手く行くかは出たとこ勝負ってところですけどね……」
正直、運送のための連携がどこまで上手く行くかはわからない。
ただ、少ない台数を活用するには、これしか方法がなかった。
各地で作業を行い、相応の収量が確保できれば……来年以降は各地から渇望されて出回り、農業機械化が促進されるはずだ。
農林省もそう考えてこの計画を打ち立てたのだろう。
何しろ提案はあっちがしてきたことなんだ。
相当な入れ込みようだ。
「今年の春には機械化農業を標準化することを目的とした"機械化農業促進法"も制定されますし、これからですよ。新たに発足したばかりの"国土交通省"と共に各地の用水路や農道の整備も行いませんと、効率が悪いですしね。地区整備の話も進んでいるそうです」
「変わりますね。この国の農耕が」
「ええ。本当の意味で新時代への突入ですよ」
国造りとは土作り。
皇国に伝わる神話において、この国は土から生まれたという。
その土から多くのモノが生まれ、今に至るわけだが……
土から得るものは果たして未来を変えてくれるのか……
◇
「――お! そろそろ終わりますよ。みなさん大丈夫ですか?」
「ええ!」
「最後に停止して、植付装置を持ち上げたらストップウォッチを止めるんですね?」
「そうです。タイミングを間違えないでください!」
作業開始から10分経過。
その僅か10分の間にすでに9割近くの区画が植えられた苗で満たされていた。
田植機に積み込まれた苗箱にはまだ余裕があり、補充する必要性はない。
このまま戻ってくれば作業終了である。
その時間が13分位内ならば、全ての目標は達成。
1台と1.5人で1日最大3町という、従来の常識を根底から覆す稲作の革命を引き起こすことが可能となったことを意味する。
流石に緊張で手に汗が滲んできた。
この日のために多くの人間が13分以内のために調整を続けてきたんだ。
なんとしてでも達成したい。
11分……12分……
緊張の中、時計の針は進んでいく。
そしてついにその時は訪れた。
「今ですッ!」
中尉が車両を完全停止させて植付装置を持ち上げた瞬間を見逃さずにストップウォッチを停止させる。
あまりの緊張に止めた瞬間から5秒ほどストップウォッチの時間を直視できなかったが、ゆっくりと目を見開いて経過時間を確認した。
すると――
「12分27秒!! 皆さんは?」
「こっちは12分29秒!」
「自分は技官と同じ27秒です!」
「私のは12分28秒を差しています!」
俺を含めた計測者達のストップウォッチは、1台たりとも13分を越えていなかった。
今まさに、未来を大きく塗り替えた史上初の国産ロータリー式高速田植機が完成したのである。
「いよぉおしッ!!!! よし、よしッ!!!」
あまりの嬉しさで、周囲の者たちと共に感動を噛みしめる興奮した自分の姿がそこにあった。
この時の俺は知らない。
後に大量に実った稲穂の刈り取りが、その茎のあまりの強靭さに困難を極め……
翌年に合わせてバインダーを新規開発せざるを得なくなることを。
何度も鋸鎌が破損し、それでもその圧倒的収量は喜びをもって迎えられたものの……重労働に起因した腰痛を患う者が続出してしまうのだった。
かくして皇国には「稲作三種の神器」として田植機、耕運機、バインダーが出揃う事になる。
後にその三種の神器は、田植機、耕運機、コンバインとして進化してこの国に定着するのであった。
黎明期の乗用型田植機PL400
(本編と似た各種レバー配置やリコイルスターター、スイングアーム式のチェーンドライブの後輪)
https://youtu.be/Z6MvuSUfvF0
マット式のロータリー機構の動き(スロー&通常速度)
https://www.youtube.com/watch?v=B9Eyeqdqu1o
https://www.youtube.com/watch?v=t7_gtegV-8E&t=319s
ポット式のロータリー機構の動き
https://www.youtube.com/watch?v=Hu07e6Moaa4
信濃が目指していた車両の参考動画
https://www.youtube.com/watch?v=KqWC-zWwczU
https://www.youtube.com/watch?v=AlMDaos_eFQ
https://www.youtube.com/watch?v=5r30fxTkgW8
目立たないが、実はそこいらの軽スポーツよりもすごかったホンダのZ(信濃が説明していた660ccの車両)
(MR+後部5リンクリジットリアサスペンション装備とかいう足回りはフレーム構造を除けばジムニーより凄かったマイナー車両)
https://www.honda.co.jp/auto-archive/z/2002/SP/drive.html
参考走行動画
https://www.youtube.com/watch?v=Z9vGIz2LTg0




