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第176話:航空技術者はオープンボルトのベルト給弾式機関銃を効率運用に基づいて否定する

「発射器についてご説明する前に、皆様には改めて資料をお渡ししたいと思います」


 そう述べた後で若手の技研所属の技師に合図して資料を配布させ、しばし時を待つ。

 全員に配布が終わり、彼らが少しずつ資料に目を向け始めたあたりで再び俺は口を開いた。


「お手元の資料は王立国家が此度の戦の直近までに収集した、戦没者や負傷兵の死傷原因についてまとめられたものを翻訳したものです。ご覧の通り、ユーグの主戦場における死傷の7割近くが破片創によるものとなっております。サモエドからの資料も付属しておりますが、銃撃戦を中心としたサモエドですら、双方の死傷原因の半分は爆発物等による破片による破片創が大半であり、銃創によるものではないわけです」

「我が軍も似たような統計情報は帝政時代のヤクチアとの戦で収集できている。だからこそ甲号擲弾銃といった一連の装備を開発したわけだが」


 自軍も出遅れてないとばかりに説明を遮った将校は擲弾筒分隊を統括する指揮官の一人であった。

 どうも気に障る言動だったらしい。


 しかしいちいち目くじらを立ててはいられない。

 重要な情報がそこには隠されているのだ。

 

「そうですね。だとして、我々は先の戦争である統計情報に着目していませんでした。最も重要な情報は赤く周囲を囲いましたが、ご覧いただけますか?」

「直近における兵士一人の殺傷に必要となる銃弾の平均必要弾数……だと?」

「ええ。何発と書かれていますか」

「いち……じゅう……ひゃく……2万だと!?」


 先程、やや不快感を表明して感情的になった将校は驚きを隠せない。


 そう、もし仮に我が軍の各種統計データをある程度頭の中に入れていた場合、帝政時代のヤクチアとの1度目の戦闘、並びに1度目の大戦と比較した時の使用量の平均が5倍にも跳ね上がっていることが理解できるからだ。


 工業力の劣る我が国、我らが陸軍にとってその数字は絶対に無視出来ないものであった。

 恐らく、2万という数字だけでも皇国の弾薬生産量から逆算できるなら相当な負担となっていることを想像できるはず。


 どちらの面から2万という数字に驚嘆したかは不明だが、少なくても無理解で驚いているわけではない様子である。


「そうです。統計学が発達している王立国家では、小銃及び機関銃部隊を中心とした主戦場においてこれまでと比較して信じられないほどの弾薬消費量具合となっていることを素直に報告書としてまとめています。これは平均なので、戦場によってはもっと消費量が多い事になりますが……他方で、戦場別で見た統計情報をご覧いただけますと、一部の戦場が極めて少ない事にお気づきですか」

「6000という記載があるが、これは一体どういう差なのだ」

「迫撃砲とリー・エンフィールド用の手榴弾投射装置……そしてPIATなどを装備した重装歩兵部隊を重点的に投入している地域です。この地域では補給が滞りがちな事から、機関銃の配備が微小です。代わりに迫撃砲と手榴弾を中心とした部隊編成が行われた結果、そのような数値に至りました。しかし重要なのは6000という数よりも……」

「消費した総合的な出費か。同規模の戦場でありながら迫撃砲と手榴弾を併用している部隊の方が、一見して1発あたりにかかる経済的負担が大きいにも関わらず、最終的な負担は少ないと」

「そうです。今回、技研はこれらの推移から本機関小銃の運用にあたり、機関銃部隊との併用あるいは本機関銃のみに頼り切って第三帝国やヤクチアとの歩兵戦闘を行った場合の弾薬消費量を、総力戦研究所の研究員に算出させました。その数は……およそ4万です」

「4万……」

「うそだろ……」


 俺の言葉に参加者は動揺を隠せなかった。


 この数字はあくまで機関銃と機関小銃に頼り切った場合の数字。

 我々には迫撃砲その他の優秀な武装があるため、実際には2万少々といった所であろうが……


 インパクトのある数字を出しておきたかったので、あえて極端な数値を算出してもらった。

 結果としては思った通りの反応を見ることが出来た。


「馬鹿な。機関小銃の狙撃能力は諸元から逆算した場合、従来の機関銃を大幅に上回っているはずだ。だのに何故」

「もちろんこれは機関銃並びに機関小銃に頼り切った数字ですから、ある意味では正確とは言えません。しかし、十分な迫撃砲と榴弾を発射できる武装がなければ、とてもではないですが弾薬消費に供給が追いつかないのは事実です。だからこそ、新型機関小銃に榴弾発射器は必要不可欠。私はむしろこの発射器を装備させることで軽機関銃部隊の撤廃と、機関小銃部隊への統一を行うべきとすら考えています」

「併用で何発にまで落とせるんだ」

「総力研が出した数値では、およそ5000~7000程度。多くても1万……機関小銃は単射と全自動射撃を1つの銃で切り替えられますが、こういった機能も併用しての数字です」

「費用的な差は?」

「4万発から逆算した場合、1戦場で必要となる弾薬のコストは輸送費も合わせるとおよそ1/10です」

「……他に選択などなさそうな数字だな」


 当然資料には燃料などから全て算出した輸送費の内訳が記述してある。


 内容にはスエズが占領された場合までも含めて計算された結果が詳細に記されているわけだが、スエズが落とされた場合の費用は更に跳ね上がるわけであり……


 とてもではないが皇国の経済力で戦闘継続が可能な数字ではなかった。


 そもそも我が国はそのために携帯式の迫撃砲などを考案したのだ。

 早い段階からソレが最適解だということは理解していた。


 「機関銃」に対する考え方だって、我が軍は大戦中の段階で最適解を見出しつつあったのだ。


 誰よりも早く気づき、誰よりも早く挑戦した。

 西側が気づいたのは我々よりも相当分に出遅れてからの事。


 ……本来の未来における、俺がやり直す直前の皇歴でいう2665年。


 王立国家は今後の陸戦に関するある方針を打ち出しつつ、とある"機関銃"を欠陥品として結論付ける。


 つい20年前までは「傑作」と謳われ、その後ずっと名機とまで持ち上げられたソレの名は……MINIMI。


 連合王国がFN MAGを大幅に発展、軽量化とともに小型化させて世に送り出した機関銃である。


 こいつの元を辿るとBARにたどり着く。

 JARにも相当な影響を及ぼしている、ジャンル分けが難しいブローニングの傑作機関銃だ。


 連合王国では戦前の時点でBARの性能を高く評価した上で、こいつの最大の弱点である銃身交換が可能な改良を含めた、もはや別物とも言えるBARベースの新たな機関銃の開発を行った。


 それこそがFN Dと呼ばれるもので、銃身交換だけでなく銃身交換を容易とするキャリングハンドルや、ピストルグリップの追加、そしてBARの弱点であった照準器などを大幅に改良した原型が殆ど残っていないような代物であった。


 こいつはハッキリ言って将来の機関銃を考えた場合は当時最も先進的でありながら傑作と言える程のものであったのだが……


 構造においてBAR譲りの削り出し加工を多用していたことで生産性が低く、使用弾薬が7.92x57mmという第三帝国の主力小銃弾仕様であったことなどから鹵獲を恐れられたことで軍は導入に消極的となってしまい、殆ど活躍せず量産もされずに終わってしまう。


 だが、戦後においてなんだかんだ戦中に少数運用を行っていて本銃の性能の高さを理解していた軍などを中心に再び注目を集め……


 まずは7.62✕51mm弾仕様へと改め、さらにスチールプレス構造部位を大幅に増やしたFN Modele DA1を登場させて軍の主力機関銃へと採用すると共に、戦後手に入れた第三帝国の技術を大幅にフィードバックしたさらなる機関銃の開発を開始。


 そしてMG34やMG42の貴重な技術情報を最大限にフィードバックした誕生したものこそ、かの有名なMINIMIなのであった。


 当初7.62✕51仕様として開発されていたMINIMIは、紆余曲折を経て5.56mm仕様へと設計変更を余儀なくされるが……元が7.62mm仕様であったため耐久性は十分。


 その使い勝手と耐久性、重量のバランスの良さは傑作機関銃として西側から迎えられるには十分であり、NUPもM60など自国が開発していた直系の機関銃を捨ててまで本銃を採用するほど。


 以降、登場から20年以上もの間、戦場の前線で酷使される日々が続いて戦場カメラマンによって度々その姿が捉えられていた存在を……驚くべきことに王立国家は「戦略的欠陥品」として結論付けるのである。


 西側にとっては突然の事であった。


 その根拠は、戦場における「統計学」を含めた各種検証に基づくある確たるデータによるもの。

 王立国家は冷静だったのだ。


 今、俺の頭の中には本来の未来における王立国家が出していた、とある数字が深く刻まれている。


 9万7500発。


 密林でのNUPと東亜社会主義共和国との戦いが5万5000発程だったのに、そこから四半世紀で倍近くにまで膨れ上がった、敵兵1名を殺傷するために必要な弾丸数の平均数値である。


 各種光学・電子機器の発達。

 火力支援などを駆使して電撃戦を越えた、より精密となった三次元戦闘。


 これらが揃っている時代にも関わらず、消費量は増加の一途を辿り……


 戦争にかかる費用を大幅に押し上げているのは運用コストが高額な最新鋭兵器よりも……弾薬となっていた。


 こと歩兵戦闘における戦闘コストの上昇はわずか20年前後で10倍単位で上昇しており、先進主要国といえども、経済力からその状況の負担に耐えかねた王立国家は……


 21世紀に入った直後において、その原因を探ろうとするのだ。


 当時、NUPなどがA-COGといった最新鋭光学機器を開発して導入しはじめ、主要突撃銃の命中率が思った以上に低い事などが判明してきた時期であったのだが……


 それら最新鋭光学機器を積極的に運用していたNUPも独自に検証を開始しており、最終的に戦場でありのままの現実を見せつけられ、威力と命中率の双方から5.56mmに疑念が生じる契機ともなっていたりする。(正確には5.56mmの命中問題は弾丸ではなく銃本体であるが、この時点では気づいていなかった)


 このような機運が生じていた中で、王立国家は自国のL85の命中率がM16やM4と比較して思った以上に高い事を実感し、さらにL85における弾薬消費量がM4などのM16ファミリーを使用する他国と比較して3割近くもの低い数値であった事などをデータ収集により確認することが出来た。


 加えて、L85が弾薬消費量増加の主原因でない事を突き止め、その時点でのNUPですら気づいていない真実に到達してしまう。


 主力のL85だけであれば多くて2万5000発程度であった中、9万という数字に押し上げる呪いの装備が自軍に存在したことに。

 

 その呪われた装備品こそ、命中率向上や命中向上のための改良案を検討することを目的の1つに、最新鋭光学照準器だけでなく試験用の計測器まで付けて戦場での命中率を徹底的にテストしていたMINIMIそのものだったのである。


 ベルト給弾式。

 機関銃としては軽量でありながら、何万発だって撃ち続けられる耐久性。

 その性能でもって戦場の要となり、分隊支援火器として前線の兵士の生存力を大幅にあげることが出来る。


 一体誰がそんなことを述べて西側全体がその盲信を崇拝していたのかはわからなかったが……


 紅茶のパワーによって目覚めた王立国家は、それが完全なる嘘であることを突き止めてしまったのだ。


 これまで、MINIMIの有効射程は600mあり、600mの範囲内で敵兵に複数弾命中させて身動きを止める素晴らしき機関銃だとされていた。


 開発並びに製造メーカーは弾道特性から800mを限界射程としていたが、どこからか湧いた600mという数字はいつの間にか独り歩きしていた。


 この話はNUPも信じ切っており、当たらないのは「機関銃手の射撃能力がヘボだったから」――などとされていた。


 しかし実際にはMINIMIの有効射程はわずか250m。

 有効射程が500m~550mあるとされる自国産のL85の半分しか無かったのである。


 それこそが運用時において現場から常日頃唱えられていた違和感の正体だったのである。

 思った具合に敵を制圧出来ない。

 その原因こそ、主兵装と実に2倍もある有効射程差にあった。


 要因はいくつかあったものの、その1つとしてはオープンボルトにある。


 オープンボルト式では装弾しながら次の弾丸を撃つため、どんなに可動構造を煮詰めてもクローズド式より発射までの間により大きなタイムラグが生じる。


 一瞬なれども引き金を引いてから装弾されるタイムラグがある事から、そのタイミングのズレを意識せずに引き金を引いてしまうと適切でないタイミングで発射され、初弾を外すことになる。(MINIMIの射撃の様子を見てもらえばわかるが、引き金を引いて初弾が発射されるまで0.3秒もの時間のズレがある)


 一般的にクローズド式とは狙いの付け方と引き金のタイミングは異なるものであり、慣れないと極めて扱いづらい。


 そもそも重量の大きいボルトが前進しながらバレル内に銃弾を装填しつつ射撃へと移行するため、その慣性運動によって生じる運動エネルギーそのものが照準を狂わせてすらいた。


 おまけに射撃直前に装弾することでバレルに不必要な振動を与えており、この外的要因によるバレルの振動によって初弾を中心に命中率は大幅に悪化。


 こと初弾の命中率の低さはアサルトライフルと比較したら尋常なものではなく、フリーフローティングバレルの採用により、初弾の命中率が西側のアサルトライフルにおいて最高峰との呼び声もあるL85と比較して天と地ほどの差があった。


 この初弾を外しやすいという特性が特に厄介で、この時、多くの場合において射撃手は次弾で照準補正を試みようとするのだが……


 照準補正という行動そのものを阻害するような慣性力を射撃直前に装弾するボルトが発生させるので、正確な照準補正は困難を極める。


 基本的にこの手の機関銃の運用は、命中率を伴わない弾幕を張ることだけを目的とした面制圧射撃だけが主ではない。


 2~3発を指切りでバースト射撃してある程度の正確性をもって射撃するのが一般的。


 NUPも俺がやり直す直前においては海兵隊などが「制圧射撃とは射撃数と精度の双方に依存しており、ただ撃てばいいというものではない」――などと報告書を出してMINIMIに変わる新型小銃の計画を立ち上げたように、元来制圧射撃には精度というものが求められるのである。


 ちなみにその報告書では"制圧射撃時における発砲音というのは、従来まで敵を萎縮させる戦術的優位性というものがあるとされてきたが、そんな事は無かったぜ!"――という、ただの連射そのものに意味など全く無いという貴重な情報も添えられている。


 命の危険を知らせる迫撃砲の爆発音などならまだしも、マシンガンの音というのはどうやら慣れてしまうものらしい。


 俺の予想じゃ、この報告書以降、王立国家の発表と併せて機関銃もサプレッサー装備を念頭に入れた運用が基本となっていくんだろうなと思う。


 音に意味がないなら、むしろサプレッサーの副次効果の方がよほど大きいと言えるからだ。


 つまり、当たらない発砲というのは真の無駄撃ち以外のなにものでもないという事であるし、バースト射撃においては、初弾を命中させていって2発目も3発目も当てていこうと画策しての射撃を行っているわけだから……初弾を外しやすいというのは致命的なわけだ。


 どんどんどんどん外していって……無駄に弾を消耗するのである。


 2発目と3発目に対する照準補正というのは、本来は反動によって生じた照準の狂いを是正するために行うものであって、初弾を外した際への対応としての意味合いは無いといって過言ではない。


 だがMINIMIはそれを強いるのだ。

 

 ゆえに一連の検証結果から言わせれば、射撃手がヘボなのではなく射撃手をヘボにさせる欠陥構造とも言うべき機構の採用によって命中率が大幅に低下しており、射撃手ではなく銃そのものに問題があったという事だ。


 もっとも、射撃手に全く問題が無いかというとそうでもなかった。


 命中率の低さにはオープンボルトとクローズド式の照準方法の使い分けが出来ない兵士が非常に多かった事も原因の1つではあったのだ。


 これは、オープンボルト式がまだ相応にあった頃に歩兵として実戦経験を積み、ブレンガンなどを通して狙いの付け方の違いを知っていて実践でき、かつ教えることも出来た大戦上がりの世代が現役の頃に正しく継承が行われていなかったため。


 すでに彼らは引退の身であり、その頃において現役の機関銃手は機関銃手といっても基本的に標準武装としているのはクローズド式が当たり前なアサルトライフルなど。


 すでにMINIMI以外でオープンボルト式の銃など王立国家にはなく、オープンボルト式の照準方法の差を習わなかった彼らはどの武装においても他のクローズド式のものと変わらぬ方法で狙いをつける癖がついてしまっていたのである。 


 それらを加味したって、冷静になってみれば有効射程600mなんてどう考えてもありえない。


 フリーフローティングバレルを採用し、5.56mmを最も遠くに安定して高い精度で飛ばせるL85よりも、銃身長が30mmも短いMINIMIがゴテゴテとキャリングハンドルやハンドガードを付けた状態でどうしてL85の有効射程の550mより50mも長い600mもあるんだ。


 とんだ幻想にすがっていたと言わざるを得ない。

 誕生してからというものの、MINIMIは20年の間に80ヵ国以上の西側の国家で採用されていたというが……


 王立国家が正気に還るまで、西側諸国の誰一人として気づかなかったなどと……笑えない話だ。


 ちなみに一連の検証の際、王立国家は自国ライセンス品で精度が低いからだと言われる事を避けるために純正のものも併用し、さらにNUPのものも調達して使用してみたりしたのだが……命中精度は横ばいだったという。


 特に連合王国のメーカーにはこの時、最も高精度なものを要求して要求通りのものを受け取っているため、ほぼ正確な数字であった。


 後にNUPも追証を経て王立国家が正しい事を追認する事になるわけだが……


 MINIMIの工業製品としてのカタログ性能については、作動安定性、耐久性等については機関銃として理想的な性能を持つものの……


 軍用として見た場合においては、命中や運用コスト面から落第点どころではなく、本当の意味で"戦略的欠陥兵器"だったのである。


 この王立国家の検証結果を発端として広がった衝撃は西側の戦略方針を大きく転換する契機となり……


 西側がいわゆるヘビーアサルト(歩兵用自動小銃)……あるいは分隊支援火器とも呼ばれる新型小銃及び機関銃の開発に大きく舵を切る要因となるわけだが……


 東側に属していたとも言える俺からすれば「認識が半世紀は遅れている」と思わざるを得なかった。


 そんな事、皇国陸軍は知ってた。

 そして、最大の宿敵であるヤクチアもな。


 当時、ヤクチアが主力とする機関銃はRPDの後継機として採用されたRPKだったわけだが、どちらも弾を無駄遣いしがちなベルト給弾式などではない。


 命中率を意識した運用を目指すための箱型弾倉だ。


 すでにMINIMIが誕生した頃には正式採用軽機関銃としてRPDを置き換えていたRPKにおいては、オープンボルト式ですら無い。


 ヤクチアは、この時点でオープンボルトのベルト給弾式機関銃という存在が、極めて非合理で、極めて限定的な条件でしか効果を発揮しない事ぐらい知っていた。


 オープンボルト式が致命的なほど命中率が低い事も。


 別にかつて皇国と呼ばれた地が教えたわけじゃない。


 幾重にも重ねた戦場での経験から何が合理的かを見定めたヤクチアは、皇国陸軍と同じ答えに戦後から10年程度で辿り着き、ベルト給弾式機関銃の運用を限定的とした。


 ヤクチアはそれ以上に、俺がやり直す直前あたりの頃に西側も気づく重大な戦術的不利性とも言うべきものにも気づいている。


 それは、銃手のもつ武装の形状が明らかに異なるベルト給弾式の機関銃というのは、それを扱う機関銃手は撃ち続けなければならない事と併せ、戦場では必然的に集中的に狙われやすくなっており……


 射撃に移行する前の段階から敵側の狙撃手などから集中的に狙われ、極めて被弾率が高く部隊運用に支障が出やすいというものだった。


 2度目の戦では部隊長とそうでない者をわかりやすくヘルメットの色分けなどで分けた事から狙撃手に狙われる事となったが、それを2度目の戦の間に改めた所……


 今度はわかりやすい銃の形状で最も危険となる機関銃手が狙われる事となり、機関銃手の死亡率は他の歩兵の実に8.5倍にも達していた事をそれまでの戦場での経験から戦訓として得る事になるのである。


 ヤクチアがSVDやRPKをあえてAKと似せているのは偶然などではない。


 一瞬での判断が出来ないようあえて外観を似せることで、敵の判断を鈍らせて隙を生じさせるのと同時に、一部の兵科において集中的に狙われて作戦行動に支障が及ばないようにしようとしたのだ。


 西側陣営がこれに気づくのはヤクチアに出遅れること実に30年以上も過ぎた後の事だったが……ベルト給弾式というのはその形状そのものが敵の攻撃を誘引する呪いを抱えていたのである。


 この事に早くから気づいていた人間は実は西側にもいなくはない。


 あのM16を生み出したストーナーは密林の戦闘で得たデータから、M63を作り、システマウェポンこそが最も戦場に適した武器だと主張した。


 だが、彼はシステマウェポンという存在を煮詰めすぎてパーツ点数が極めて多い武器としてしまったため、武器自体の耐久性の低さも合わさって残念ながらその思想は受け入れられなかった。


 しかし、俺の予想じゃ西側もきっと俺がいなくなった後にヤクチアと同じような方法で、既存のアサルトライフルに最小限のパーツ変更で分隊支援火器やマークスマンライフルと同様の使い方が出来うるモデルを追加していく事だろう。


 王立国家はL85を分隊支援火器とマークスマンライフルとして併用できるL85 LSWというものを早い段階からバリエーションとして用意していたが、あの思想こそ正しいのだ。


 事実を知るまでの西側は、彼らはまともに運用できるような耐久性のあるベルト給弾式の機関銃を作れなかったのだ……などとのたまいていたのだが……


 冷静に考えてAKの時点でそこいらの機関銃以上の耐久性があるにも関わらず、その結論の出し方はあまりにもお粗末である。


 知ってただけだ。

 意味の無さというのを。


 ゲームではなく1度しかない現実世界の人生において、ばら撒かれる弾丸の嵐の中を勇敢に突っ切るなんて事は、二度目の大戦中において自国で行使してみて無駄死にを重ねるだけなことぐらい知っていた。


 実際の戦場では、遠方より聞こえるマシンガンの連射音に対し、弾丸が地面や障害物などが付近に命中した着弾音が絶え間なく響き続ける環境下ならば、安全な場所に移動するだけ。


 移動できないような限定的な空間では大きな効果を発揮するが、そんなケースは滅多に無い。


 安全圏など無いほどに広範囲に広がった戦場で突撃を余儀なくされるような時代もとうに終わっており、仮にMINIMIが大戦中に存在したら対ヤクチアなどで大きな成果を出したかもしれないし、実際にMG34やMG42がその立場を担ったが……


 多くの死傷者を出して単独で戦闘継続可能な体力を失ったヤクチアは、早い段階からその死を無駄にしないために戦略方針を転換し、より現代的な戦闘方法を模索するようになる。


 「Ураааааааа!」――などといって、なぜか小銃を天高く掲げたまま拳を振り上げた状態で突撃していったような兵士に対して適切な教育を施し、より少ない弾数で、より効率的に目標を達成できるように……

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